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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻4号

2023年04月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[2] 特別講演

緑内障眼における前房隅角の病態診断と治療介入

著者: 久保田敏昭

ページ範囲:P.415 - P.429

 原発緑内障の3臨床病型において線維柱帯の未熟性は連続しており,原発先天緑内障,若年開放隅角緑内障,原発開放隅角緑内障の順に未熟性が低下して,より高齢になって緑内障が発症する。続発緑内障のうち血管新生緑内障,落屑緑内障の病態について解説する。古典的な隅角部位の手術である線維柱帯切除術は,いまでも進行期の緑内障眼には必要であり,その多数例での成績も大事な情報である。Minimally invasive glaucoma surgeryは結膜への低侵襲性で注目され,なかでも眼内アプローチ流出路手術は,緑内障早期に行える手術の位置を確立したといえる。また同じような立ち位置でselective laser trabeculoplastyも最近注目されている。

原著

胎児超音波検査により出生前診断した無眼球症の3例

著者: 熊谷築 ,   浅野みづ季 ,   大野智子 ,   渕野恭子 ,   松村望 ,   水木信久

ページ範囲:P.457 - P.462

要約 目的:胎児超音波検査の進歩により,近年胎児眼球の超音波診断の精度が高まっている。今回,胎児超音波検査により出生前診断した無眼球症の3例を経験したので報告する。

症例:患児3例(男児2例,女児1例),両眼2例,片眼1例,平均胎児超音波施行週数は25±4週,平均出生週数は37週4±4日。外表奇形を2例(いずれも口唇口蓋裂),眼窩内囊胞を2例で認めた。

経過:3例ともに妊娠後期の超音波検査で無眼球を指摘され,臨床的無眼球症と出生前診断した。このうち2例に眼窩内囊胞を認めた。1例に遺伝子変異(TFAP2A遺伝子変異,鰓眼顔症候群)を認めた。今回,出生前に診断がついていたことで,出生前から疾患についての保護者への説明を行い,出生後に備えて検査,治療のプランを作成して対応した。3例とも,出生後早期より眼窩の発育を促すための拡張義眼の装用を開始できた。

結論:胎児超音波検査で,小眼球症,無眼球症を出生前から診断できたことにより,出生後の治療プランを策定し,早期から拡張義眼などの治療が可能であった。

東京大学医学部附属病院眼科における2019〜2021年のぶどう膜炎初診患者の臨床統計

著者: 林健太郎 ,   田中理恵 ,   竹渓友佳子 ,   伊沢英知 ,   南貴紘 ,   小前恵子 ,   中原久恵 ,   冲永貴美子 ,   高本光子 ,   蕪城俊克

ページ範囲:P.463 - P.470

要約 目的:東京大学医学部附属病院(以下,当院)における2019〜2021年のぶどう膜炎初診患者の統計調査。

対象と方法:上記期間に当院を初診したぶどう膜炎患者520例を対象とした。診療録をもとに,年齢,性別,罹患眼,解剖学的病変部位,診断名などについて検討を行った。過去の当院の統計結果,全国疫学調査の結果と比較した。

結果:初診時平均年齢54.1±20.0歳,男性223例(42.9%),女性297例(57.1%)であった。両眼性307例(59.0%),片眼性213例(41.0%)であった。前部ぶどう膜炎206例(39.6%),中間部ぶどう膜炎16例(3.1%),後部ぶどう膜炎74例(14.2%),汎ぶどう膜炎224例(43.1%)であった。診断がついた症例は353例(67.9%)であり,サルコイドーシス51例(9.8%),ヘルペス性虹彩炎37例(7.1%),急性前部ぶどう膜炎36例(6.9%),眼内悪性リンパ腫34例(6.5%),Vogt-小柳-原田病24例(4.6%),ベーチェット病23例(4.4%),の順であった。抗腫瘍薬関連の薬剤性ぶどう膜炎を8例(1.5%)に認めた。

結論:2016〜2018年の当院の統計結果と比較し,原因疾患の傾向はほぼ同じであった。全国疫学調査と比較し,当院では眼内悪性リンパ腫が多い結果であった。抗腫瘍薬関連の薬剤性ぶどう膜炎症例が増加しており,今後も増加が予想される。

入院患者への点眼手技指導および点眼薬使用状況調査

著者: 谷𠮷オリエ ,   長井太郎 ,   向井光一朗 ,   福島亘希 ,   筒井順一郎

ページ範囲:P.471 - P.476

要約 目的:当院では在院中も点眼を適切に継続するため,全入院患者を対象に点眼手技指導を行っている。今回,入院患者の点眼薬使用状況および点眼手技について一定の評価を行えたので報告する。

対象と方法:対象は2021年10月〜2022年7月に入院時に点眼薬使用していた308人のうち,点眼手技指導が実施可能であった237人(平均年齢79.0±9.9歳)。理解面(①点眼目的,②点眼回数)と実技面(③開瞼状況,④非接触点眼,⑤滴下量)の5項目は独自の評価基準で点数化し,併せて入院中の点眼薬管理者を調査した。

結果:点眼薬は平均1.9剤使用されており,ドライアイ・角膜治療点眼薬,緑内障治療点眼薬の頻度が高かった。5項目のうち点数が高かったのが「点眼回数」で,低かったのは「非接触点眼」であった。理解面より実技面が不良で,全項目良好は26.6%であった。性別や点眼本数と関連はなく,年齢が高くなると点数が低くなった。緑内障治療点眼薬使用者は他薬使用者より点数が良好であった。滴下失敗例は下方ずれが多かった。入院中に自己管理していたうち6%は医療者管理が必要な状況であった。

結論:入院患者で適切な点眼が行えていたと判断したのは約1/4にしかすぎなかった。点眼指導により入院中の点眼の環境を整えることができ,正しい点眼手技を学ぶよい機会になる。

ポリープ状脈絡膜血管症に対する抗VEGF薬併用光線力学的療法後2年の治療成績

著者: 山本夏帆 ,   塩瀬聡美 ,   納富昭司 ,   福田洋輔 ,   橋本左和子 ,   中武俊二 ,   狩野久美子 ,   秋山雅人 ,   石川桂二郎 ,   園田康平

ページ範囲:P.477 - P.483

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬併用光線力学的療法(PDT)後2年における治療成績の検討。

対象と方法:対象は2017年8月〜2019年8月に九州大学病院眼科で未治療PCVに初回からPDTと抗VEGF薬導入期3回投与(1クール)を施行し,2年以上経過観察できた20例20眼。眼底写真での新たな出血,光干渉断層計で確認された滲出性変化,および蛍光眼底造影でのポリープを認めたものを再発と定義した。治療前患者背景,治療前病巣径(GLD),治療前,1,2年後の視力,中心窩網膜厚(CRT),中心窩脈絡膜厚(CCT),dry fovea率,2年間の治療回数,再発率について,診療録をもとに後ろ向きに検討した。

結果:治療前平均logMAR視力(0.23)は,1年後0.12,2年後0.14と改善し,治療前CRT(333.3±21.2μm),CCT(264.6±17.8μm)は,1年後(CRT 231.9±10.7μm,CCT 220.3±17.0μm),2年後(CRT 237.7±9.56μm,CCT 234.9±18.4μm)に減少していた(p<0.05)。1年後80%,2年後70%でdry foveaが得られていた。1年目の抗VEGF薬投与回数は導入期の3回を含めて平均4.65回±0.47回/年,2年目1.9回±0.60回/年であった。2年後の視力不良との関連因子を検討したところ,治療前視力不良,治療前GLDが大きいこと,と有意に関連があった。15例(75%)が再発し,そのうち40%が1年未満に再発していた。それらの早期再発症例の治療前平均CCT(234.9μm)は,1年以上後で再発した症例の平均CCT(314.3μm)に比べ有意に薄くなっていた。

結論:PCVに対するPDT併用抗VEGF薬治療は2年後の視力,網膜形態を改善したが,症例により再発し,追加治療が必要となることが示唆された。治療前CCTが薄いと再発までの期間が短い傾向があった。

水晶体囊拡張リング併用眼内レンズ挿入眼に発症した急性隅角閉塞の2例

著者: 横溝真由美 ,   伴紀充 ,   内田敦郎 ,   藤岡俊平 ,   栗原俊英 ,   篠田肇 ,   根岸一乃

ページ範囲:P.485 - P.490

要約 背景:水晶体囊拡張リング(CTR)挿入の合併症として隅角閉塞が生じたという報告は少ない。今回,CTR併用眼内レンズ(IOL)挿入眼に急性隅角閉塞を発症した症例を2例経験したので報告する。

症例1:患者は58歳,男性。来院半年前に前医で両眼CTR併用白内障手術を施行されている。右視力低下,高眼圧を認め,慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介され受診した。初診時矯正視力は右0.03,右眼圧46.3mmHgで,IOL偏位と全周性の隅角閉塞を認めた。CTRとIOLの複合体(CTR-IOL)を摘出し,硝子体切除術およびIOL強膜内固定術を施行したところ,術後の眼圧と視力は改善した。

症例2:患者は72歳,女性。来院3年前に前医で両眼CTR併用白内障手術を施行されている。右視力低下を認め,当院を紹介され受診した。右裸眼視力は0.4,眼圧は66mmHgで,IOLの下方偏位とこれに伴う上方の隅角閉塞を認めた。眼圧下降薬点眼,1%アトロピン点眼で保存的加療を行うも眼圧は高値を継続したため,CTR-IOLを摘出し,硝子体切除術,IOL強膜内固定術を施行したところ,術後の眼圧と視力は改善した。

結論:CTR挿入後の中長期合併症として急性隅角閉塞が生じる可能性がある。治療としてCTR-IOL摘出,硝子体手術,IOL強膜内固定術が有効であった。

白内障手術後に近見作業困難を呈した強度・病的近視患者へのロービジョンケアの1例

著者: 山田明子 ,   堀寛爾 ,   松井孝子 ,   亀山尚美 ,   清水朋美

ページ範囲:P.491 - P.498

要約 目的:白内障手術後の屈折値変化により近見作業困難を呈した強度・病的近視患者に対するロービジョンケアについての報告。

症例:80代,男性。強度・病的近視。裸眼での接近視で読み書きをする習慣があった。他院での白内障手術後,術前に裸眼での接近視や拡大鏡(24D)の併用で可能であった読み書きに困難を訴え,国立障害者リハビリテーションセンター病院を受診した。術前の矯正視力は左右ともに0.01,術後は右0.04左0.03であった。屈折値は等価球面値で,術前右−20.00D,左−18.25Dから術後 右−0.75D,左−0.375Dへ変化し,術前のように接近視が可能な眼鏡の処方を強く希望された。強度近視で得られていた最大視認力をハイパワープラスレンズ眼鏡で再現するためには高加入が必要であったが,高加入では作業距離が短く,書字困難と読書時の疲労を示した。そこで,高拡大が可能な拡大読書器を紹介したが,接近視の希望が強く,選定に難渋した。複数回の試行で両眼+11.25Dのハイパワープラスレンズ眼鏡を処方し,近見作業困難が改善した。この症例から,白内障手術後に視力の大幅な改善が困難な強度・病的近視症例では,術後屈折値が正視付近となると,接近視ができないという視環境の変化から見えにくさを訴えることが示された。また,強度近視で得られていた最大視認力を,術後に眼鏡によって再現するには限界があることがわかった。

結論:術後もロービジョンとなる可能性のある強度・病的近視症例の白内障手術では,術前の最大視認力を考慮した近視を残した術後屈折値の選択が必要なことが示唆された。

乳癌治療薬タモキシフェン内服後に発症し自然閉鎖した黄斑円孔の1例

著者: 寺島まり絵 ,   池上靖子 ,   寺田裕紀子 ,   山本裕樹 ,   福田祥子 ,   高尾博子 ,   野田拓也 ,   沼賀二郎

ページ範囲:P.499 - P.504

要約 目的:タモキシフェン内服後に発症し自然閉鎖した黄斑円孔の1症例の報告。

症例:50歳,女性。45歳時に左乳癌に罹患し,手術と化学療法の後に4年半タモキシフェン20mg/日,総量約32.5gを内服した。50歳時に治療関連急性混合性白血病を発症した。造血幹細胞移植前の眼科検診では異常所見はなかった。初回受診の8か月後に左視力低下と歪視を自覚し,再度眼科を受診した。矯正視力は右1.5,左0.1で,光干渉断層計にて左眼に内境界膜の架橋を伴う黄斑円孔を認めた。タモキシフェン内服は終了していたが同薬剤による内因性の黄斑円孔の可能性を考え,手術はせず経過観察とした。1か月後から徐々に黄斑円孔の閉鎖と視力の回復を認め,24か月後には囊胞とellipsoid zoneの途絶は残存したが黄斑円孔は閉鎖し,矯正視力も左0.8まで回復した。

結論:タモキシフェンによると考えられる黄斑円孔は,本症例のように内境界膜の架橋構造が残る場合,硝子体手術をせずにタモキシフェンの休薬で長期間かけて自然閉鎖する可能性がある。

シリコーンオイルによる視力障害を認めた急性網膜壊死の1例

著者: 朝比奈裕美 ,   大内亜由美 ,   森田修 ,   眞下圭太郎 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.505 - P.511

要約 目的:シリコーンオイル(SO)留置眼において,その毒性により突如として中心視力が低下する症例が報告されている。今回,急性網膜壊死(ARN)に対して硝子体手術およびSOタンポナーデを施行した後に,SOによる網膜毒性の可能性を疑う中心視力の低下を呈した症例を経験したので報告する。

症例:28歳,男性。右ぶどう膜炎の診断で当院へ紹介され受診した。

所見:初診時視力は右(0.2),左(1.5),右眼は前房内炎症所見と毛様充血,および硝子体混濁と網膜周辺部に著明な白色滲出斑を認めた。内因性眼内炎またはARNと考え,同日硝子体手術を施行したが網膜壊死部より多発裂孔が形成されたため,SOタンポナーデを行い終了とした。前房水ポリメラーゼ連鎖反応検査にて単純ヘルペスウイルス1型-DNAが陽性でありARNと診断した。術後アシクロビルおよびプレドニゾロンの全身投与を行い,炎症および眼底所見は改善し,術後2か月には右視力(0.8)まで改善した。しかし,術後4か月目に急激な右視力低下を訴え,右眼中心暗点を認め視力は(0.09)へ低下した。光干渉断層計にて,右眼傍中心窩の神経線維層,神経節細胞層,内網状層の著明な菲薄化を認めた。術後6か月でSO抜去を行うも視力の改善を認めなかった。

結論:SOによる網膜毒性は直接的,間接的機序が考えられ,頻度は低いが不可逆的となる可能性があり注意が必要である。

30年後に網膜の変性の進行がみられたSAG遺伝子変異を有する小口病の1例

著者: 水野文博 ,   鳥居薫子 ,   遠藤智己 ,   才津浩智 ,   倉田健太郎 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.513 - P.518

要約 目的:小口病は常染色体劣性(潜性)の遺伝性網膜疾患で,広義の先天停在性夜盲に分類される。今回,筆者らは小児期に夜盲を契機に小口病と診断され,およそ30年後に網膜の変性が進行して視機能の悪化がみられた症例を経験したので報告する。

症例:36歳,男性。視力低下を指摘され6歳時に近医眼科を受診した。右遠視性不同視弱視と,網膜周辺部に金箔様反射を指摘された。夜盲の自覚もあり,同年浜松医科大学附属病院を紹介され受診した。矯正視力は,右0.2,左0.9で,視野に異常はなく,網膜電図で陰性型波形を認め,水尾・中村現象が陽性であったことから小口病と診断した。弱視治療によって12歳時には矯正視力は右0.4,左1.5まで改善したが,その後は通院を自己中断していた。36歳時に視力低下を訴え受診した。矯正視力は,右0.6,左1.0。眼底には金箔様反射に加えて網膜色素上皮の萎縮がみられ,光干渉断層計ではellipsoid zoneの消失と外顆粒層の菲薄化がみられた。視野検査にて輪状暗点が観察され,網膜電図では杆体反応の消失に加え錐体反応の減弱がみられた。遺伝子検査にて,SAG遺伝子にc.926delをホモ接合体で認めた。

結論:小口病では本症例のように視機能の悪化や網膜の変性を伴った症例が散見される。進行性の小口病の予後は不明な点が多く,症例の蓄積が必要であると同時に,小口病患者を診療する際には進行する可能性があることを念頭に置いたカウンセリングが必要である。

ニボルマブ投与中に視神経乳頭腫脹および漿液性網膜剝離がみられた1例

著者: 長久保翔子 ,   長谷川泰司 ,   梯瑞葉 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.519 - P.526

要約 目的:ニボルマブ投与中に視神経乳頭腫脹,漿液性網膜剝離がみられた1例を経験したので報告する。

症例:74歳,男性。左眼の歪視を自覚し東京女子医科大学病院眼科を受診した。食道悪性黒色腫(多発肝転移,肺転移)に対し9か月前からニボルマブ治療が行われていた。初診時視力は右(1.2),左(0.5)で,左眼には顕著な視神経乳頭腫脹と視神経乳頭から黄斑部に広がる漿液性網膜剝離(SRD)がみられた。右眼にもSRDがみられたが,光干渉断層計でわずかに検出される非常に丈の低いものであった。蛍光眼底造影検査では両眼の視神経乳頭からの蛍光漏出がみられ,特に左眼で顕著であった。ニボルマブによる免疫反応亢進によるぶどう膜炎と考え,左眼にトリアムシノロンアセトニド硝子体内注射を施行したところ,左眼の視神経乳頭腫脹およびSRDは改善し,3か月後には左眼視力(0.8)となった。

結論:ニボルマブは,高い腫瘍抑制効果がある一方で眼内炎症を引き起こす可能性がある。眼内炎症に対しては副腎皮質ステロイドの局所投与が有効であった。

シェーグレン症候群を背景に眼窩MALTリンパ腫が対側眼窩に再発した1例

著者: 荒川あかり ,   松永寛美 ,   久力権 ,   小島康孝 ,   大月寛郎

ページ範囲:P.527 - P.532

要約 目的:シェーグレン症候群を背景にもつ粘膜関連濾胞辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)が,僚眼窩に再発した症例を経験したので報告する。

症例:78歳,女性。約2年前にIgG陽性,κ鎖にクローナリティをもつ左眼窩MALTリンパ腫に対して放射線治療を施行され寛解を得ていた。今回,半年前からの複視症状を主訴に焼津市立総合病院眼科を受診した。

所見:矯正視力は左右ともに1.0,右眼に約15°の外斜視と外転制限,ヘルテル眼球突出計で右18mm,左16mmと右眼の突出を認めた。画像所見で右眼窩内腫瘤があり生検を施行した。病理組織所見上,初発病変と同様のMALTリンパ腫と診断し,放射線治療で改善した。また,治療前から存在したドライアイを精査したところシェーグレン症候群と診断された。

結論:MALTリンパ腫は,感染症や自己免疫疾患などの慢性炎症と関係しているといわれている。また,シェーグレン症候群の患者は健常者と比較して悪性リンパ腫の発症リスクが高いとの報告がある。MALTリンパ腫は背景疾患の検索と時間的・空間的な経過観察が必要である。

視神経管狭窄を伴う点状軟骨異形成症の1例

著者: 早川史織 ,   野々部典枝 ,   西口康二

ページ範囲:P.533 - P.536

要約 目的:両側視神経管狭窄を伴う点状軟骨異形成症の1例の報告。

症例:生後6か月の男児。生後から視線が合わず,追視をしないことを主訴に前医を受診し,両眼の視神経乳頭蒼白を指摘され精査のため名古屋大学医学部附属病院を紹介され受診した。

所見:初診時,両眼ともに対光反射は弱く,眼振がみられた。両側の視神経乳頭は蒼白であったが,眼圧は正常範囲で角膜径の拡大はなかった。頭部CTにて両側の視神経管狭窄と頸椎の骨形成異常,脊柱管狭窄がみられ,全身検査の結果,臨床的にX連鎖性劣性末節骨短縮型点状軟骨異形成症と診断された。視覚誘発電位は両側で著しい振幅の低下がみられ,光覚は確認できなかった。

結論:これまで視神経管狭窄を伴う点状軟骨異形成症について述べられた報告はなく,本疾患における視神経萎縮には,視神経管狭窄が関係している可能性がある。

連載 Clinical Challenge・37

5年前から徐々に進む上下斜視の1例

著者: 國見敬子 ,   後関利明

ページ範囲:P.410 - P.413

症例

患者:76歳,女性

主訴:上下複視

既往歴・家族歴:特記事項なし

全身所見:特記事項なし

現病歴:5年前から上下複視を自覚していたが,徐々に悪化してきたため眼科を受診した。複視の自覚については日内変動などの変化は感じていなかった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・31

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—後部ぶどう腫—超広角OCT

著者: 中尾紀子

ページ範囲:P.430 - P.433

◆超広角光干渉断層計(UWF-OCT)は後部ぶどう腫の全体像を捉えることが可能であり,診断に有用である。

◆UWF-OCTにより後部ぶどう腫に関する新たな知見が得られた。

◆UWF-OCTにより後部ぶどう腫と関連する合併症に関する知見も得られ,今後の研究の進展が期待される。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・6

涙道検査 涙道内視鏡検査

著者: 杉本学

ページ範囲:P.434 - P.440

●疼痛コントロールについては,麻酔後5分間程度待つことで検査の際の疼痛を緩和することができる。

●涙点拡張においては,涙道内視鏡がスムーズに通過できる大きさを確保する。

●涙道内の観察の際には,涙道内の混濁液・出血の洗浄を行うことで視認性を確保する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年4月)。

臨床報告

急性期網膜中心動脈閉塞症の発症時間別の光干渉断層像所見

著者: 森絵里 ,   市川良和 ,   西尾真以 ,   藤本太一 ,   小宮有子 ,   今村裕

ページ範囲:P.445 - P.450

要約 目的:網膜中心動脈閉塞症(CRAO)の摘出眼球の病理所見では,網膜内層の浮腫と内顆粒層(INL)の菲薄化が示されている。今回急性期CRAO患者で,異なる発症時間での光干渉断層像(OCT)所見による網膜構造の変化を調べた。

対象と方法:対象は急性期CRAO患者9名9眼。平均年齢は71.2歳,女性5名。発症からOCT撮像時間は5分〜72時間(中央値7時間)。中心窩網膜厚(CFT),中心窩から上方,下方,鼻側,耳側500μmの網膜厚,および4方向のINL厚をOCTで測定し,平均値を健眼と比較した。

結果:網膜内層の高輝度化は全症例で確認された。CFTは患眼と健眼で有意差はなかった。中心窩から500μmの網膜厚は全症例で有意に健眼より肥厚した(406μm vs 230μm,t検定,p=0.017)。全症例のINL厚の平均値は有意に健眼より薄かった(14.9μm vs 33.1μm,t検定,p=0.003)。

結論:急性期CRAOではまず網膜内層の高輝度化と浮腫がみられ,その後INLの菲薄化がみられる。INLの菲薄化は急性期CRAOの内層の虚血を示す,重要な画像上のバイオマーカーである。

アルベンダゾールとステロイドが著効した眼トキソカラ症の1例

著者: 堀川寛明 ,   井上裕治 ,   水野嘉信 ,   渡邊恵美子 ,   溝田淳

ページ範囲:P.451 - P.456

要約 目的:アルベンタゾールおよびステロイドが著効した眼トキソカラ症の1例を報告する。

症例:34歳,男性。1か月前からの右眼視野欠損を主訴に近医を受診した。右眼に硝子体混濁,漿液性網膜剝離,下方アーケード血管の網膜下に1.3乳頭径大の白色隆起認め,帝京大学医学部附属病院に紹介され受診した。当院受診時の矯正視力は右0.7。白色隆起から中心窩に向かって漿液性網膜剝離を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では早期から病変部からの蛍光漏出および組織染,加えて広範に静脈血管壁の過蛍光を認めた。血液検査では,CRP軽度上昇およびIgE高値を認めたが,好酸球増多は認めなかった。ウェスタンブロッティング試験にて眼トキソカラ症と診断した。診断後,アルベンダゾールおよびステロイド内服を開始した。白色隆起病変は線維化し,滲出性変化が改善した。右眼視力は治療開始2か月後には矯正視力1.0と改善した。

結論:アルベンダゾールおよびステロイド内服治療が著効した眼トキソカラ症を経験した。

今月の表紙

傍視神経乳頭血管腫

著者: 水澤剛 ,   黒坂大次郎

ページ範囲:P.441 - P.441

 症例は57歳,男性。4年前に健康診断で左眼の視神経乳頭近傍の腫瘤を指摘され,近医を受診し,左眼傍視神経乳頭血管腫の診断のもと経過観察されていた。4年後の健康診断で腫瘤の増大を指摘され,また,近医の視野検査において視野欠損を認めたため当院へ紹介となった。初診時視力は左右ともに(1.5)であった。初診時の超音波Bモード検査で視神経乳頭上に直径約2.8mm,高さ約2.5mmの腫瘤が確認でき,OCT検査でも視神経乳頭上の隆起性病変を認めた。近医からのこれまでの眼底写真と比較しても,腫瘤の明らかな増大が確認され,腫瘤の性状を検索するため,眼底写真,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(以下FA)を施行した。写真はそのときのものである。

 撮影は,眼底カメラコーワVX-20α(興和社)を用いた。腫瘤への造影剤流入の様子を確認するため,視神経乳頭鼻側と黄斑部が一枚に納まるよう撮影した。また,腫瘤の性状を確認するため,眼底写真とFAともに腫瘤頂点にピントを合わせ,FAでは早期像から約2秒間隔で造影剤の流入の様子に注意しながら撮影を行った。

海外留学 不安とFUN・第87回

ボストン留学記・1

著者: 成松俊雄

ページ範囲:P.442 - P.443

 私は2020年1月より,慶應義塾大学医学部眼科学教室から米国マサチューセッツ州ボストン市のマサチューセッツ眼科耳鼻科病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary;MEEI)へと研究留学をさせていただいています。

Book Review

有水晶体眼内レンズ手術 動画付

著者: ビッセン宮島弘子

ページ範囲:P.484 - P.484

 有水晶体眼内レンズは,眼科医のみでなく一般の方にも認知されるようになり,近年,その手術件数は増え続けている。本書は『有水晶体眼内レンズ手術』と題されているが,実際には,数あるレンズのなかで最も普及し,国内承認を得ているImplantable collamer lens:ICL(アイ・シー・エル)挿入に関する内容である。

 さて,このICLは,編集の労をとられた清水公也先生の地道な臨床例の積み重ねに加え,一般眼科医が思いつかない独自のアイディアによって,今日の普及に至ったと思う。白内障手術時の無水晶体眼に用いる眼内レンズは,前房型,虹彩把持型,後房型と複数のデザインが登場し,最終的に残ったのが後房型である。有水晶体眼に挿入する眼内レンズも同様のデザインで開発されたが,水晶体を温存した有水晶体の状態で挿入するため,水晶体への影響,すなわち白内障の併発が懸念された。その水晶体に最も近い位置に挿入する後房型のICLであるが,清水先生が巻頭言で述べられているように,レンズの中央に貫通孔を設けるという奇想天外なアイディアで,術後の房水循環不全による白内障の軽減を実現させた。そして,もう1名の編集者である神谷和孝先生らとともに,基礎実験に加え,臨床例を国内外の学会で報告かつ論文化し,ICLの安全性と有効性を世界中の眼科医に納得させるまでに至った。

今日の眼疾患治療指針 第4版

著者: 寺﨑浩子

ページ範囲:P.512 - P.512

 本書は医書の超ベストセラーである医学書院出版の『今日の治療指針』の眼科版であり,専門性の高い眼科の分野に特化して明日の臨床に役立つように,2000年に初版が刊行された。以来眼科医のバイブル,あるいは一冊は欲しい眼科の診療分野での疑問をすぐに解決できる他科の先生のバイブルとして使われてきた。眼科医はもちろんのこと,他科の先生にとっては診療中,あるいは明日の診療のために今必要な事項を調べることが必要となる。本書は,(1)眼科全般の分野を網羅した662にわたる項目,(2)平易な文章で図が多く,ビジュアルで具体的,(3)最新の情報が載せられている,(4)執筆者がその分野の第一人者である,(5)索引が英語,日本語とも充実している,などの特長があり,座右におかれる一冊としてはこれ以外にない。内容が詰まっている割にはハンディなA5サイズのままである。

 このたび,第3版が出てから早い改訂となったが,進歩が著しい眼科領域に追従するためである。第4版では大幅に改訂がなされ,さらなる変貌を遂げた。まずは,執筆者にactiveな臨床眼科医が選ばれていること。その数は310余名に上っている。専門分野の眼科医を検索するための辞書としても用いられるかもしれないほどである。次に,カラーを用いた写真や,機器のメーカーが明示されていることで,読む・見る人に使いやすくなっていることである。さらに,近年抗VEGF薬や緑内障治療薬などが登場し,眼科薬物療法が新しい展開を示していることを受け,第2章の治療総論に「薬物治療」が新設されている。おそらく出版の直前まで改変を行ったと思われ,超最新の情報を載せている。

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目次

ページ範囲:P.406 - P.407

欧文目次

ページ範囲:P.408 - P.409

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.537 - P.540

アンケート用紙

ページ範囲:P.546 - P.546

次号予告

ページ範囲:P.547 - P.547

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.548 - P.548

 今月号の「あとがき」を,マレーシアクアラルンプールで開催されているアジア太平洋眼科学会(APAO)の宿泊先で執筆しています。コロナパンデミック後に参加した初めての国際会議になりました。私がAPAOに初めて参加したのは,2009年のインドネシアバリ島でのシンポジウム発表でした。この15年近くの間に大きく変化したのは,アジア諸国からの研究発表のレベルがめちゃくちゃ上がったということです。すでに,アジアのトップ大学からの発表内容は日本やアメリカの地方大学からの発表が太刀打ちできないレベルになっています。クアラルンプールも高層ビルが立ち並び,物価も昔みたいに日本の1/10みたいなバカ安ではなくなってしまっていて,すでに福井県と同じくらいです。

 「日本のプレゼンスが落ちた」と嘆く先生もいらっしゃいますが,私はちょっと違うのかなって思います。アジア諸国が経済成長して豊かになって研究する余裕ができたということだと思います。アジア諸国は戦前,欧米列強の植民地で,戦後独立した後も貧しい時代が続きました。今のアジア諸国の研究レベルの高さは,先人たちが目指していた豊かなアジアがようやく実現できたということではないでしょうか? 学問の世界なのだから,日本の眼科医が教えてやるみたいなマウントの取り合いよりも,これからは日本人もアジアの一員として,研究成果を対等に発表し合う国際学会として参加できればと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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