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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻5号

2023年05月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[3] 原著

白内障手術待機中に視力低下の増悪を自覚し術後に悪性リンパ腫による眼窩先端症候群が判明した1例

著者: 今居一輝 ,   住岡孝吉 ,   髙田幸尚 ,   石川伸之 ,   岩元竜太 ,   村田晋一 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.593 - P.599

要約 目的:白内障手術待機中に視力低下の増悪を自覚し,白内障手術後にびまん性大細胞性B細胞リンパ腫による眼窩先端症候群が判明した1例を経験したので報告する。

症例:79歳,男性。右眼の視力低下を自覚して前医を受診。右(0.8)。白内障の診断で手術予約されていた。手術待機中にさらに視力が低下し(0.5)となり再診したが,予定通り白内障手術を施行された。手術翌日の診察で(0.07),術後炎症は軽微,右眼の眼球突出と全方向への眼球運動障害を認めた。頭部CT検査で副鼻腔内に充満する粘膜病変と右視神経腫大を認め,耳鼻科との連携を含めた治療目的で和歌山県立医科大学附属病院眼科を紹介され受診となった。動的量的視野検査で右眼は鼻側周辺部に島状の視野が残存するのみであった。副鼻腔粘膜生検の結果からびまん性大細胞性B細胞リンパ腫による眼窩先端症候群と診断され,両側肺門部に転移性病変も認めたため,化学療法(R-CHOP療法6コース)を施行された。経過は良好で右眼の最終視力は(0.1),視野,眼球運動の障害の改善を認めた。

結論:白内障手術待機中に急激な視力低下をきたした際には,白内障の再評価や他疾患の合併を検討する必要がある。

乳頭ピット黄斑症候群に併発した全層黄斑円孔に対し硝子体手術および網膜光凝固術を施行した1例

著者: 杉浦楓 ,   石本敦子 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.600 - P.605

要約 目的:乳頭ピット黄斑症候群に併発した黄斑円孔に対して硝子体手術および網膜光凝固術(PC)を施行した症例を報告する。

症例:79歳,男性。近医にて左眼黄斑円孔と診断され,当院を紹介され受診となった。左眼矯正視力は0.1で,眼底には乳頭小窩と乳頭から黄斑部にかけての網膜分離と全層黄斑円孔を認めた。以上から,黄斑円孔を伴った乳頭ピット黄斑症候群と診断し,白内障手術併用硝子体手術を施行した。手術では,後部硝子体剝離の作成および人工的に剝離を行った内境界膜(ILM)を黄斑円孔と乳頭ピットに充塡し,ガスタンポナーデを施行した。術後,黄斑円孔は中心窩網膜上縁で閉鎖するも外層黄斑円孔と網膜分離は残存した。術2か月後と4か月後に視神経乳頭耳側縁にPCを施行し,網膜分離は軽減したが,黄斑円孔は再発した。その2か月後に黄斑円孔は自然閉鎖し,矯正視力は0.3となった。

結論:黄斑円孔を伴う乳頭ピット黄斑症候群に対して,ILM移植併用硝子体手術と乳頭耳側縁へのPCの併用が有用と考えられた。

転移性眼内炎の罹患から1か月後に僚眼の壊死性ヘルペス網膜炎を発症した1例

著者: 青山大洋 ,   牛田宏昭 ,   長田麗 ,   松浦聡之

ページ範囲:P.607 - P.612

要約 目的:転移性眼内炎に罹患した1か月後に僚眼の壊死性ヘルペス網膜炎を発症した1例を経験したので報告する。

症例:75歳,男性。膀胱癌に対する化学療法中に薬剤性肝炎を発症し,プレドニゾロン40mg/日を内服中であった。後腹膜膿瘍で入院加療中,左眼の視力低下を認め,眼科に紹介となった。左眼に前房蓄膿と硝子体混濁を認め,後腹膜膿瘍よりKlebsiella pneumoniaeが検出されたことから転移性眼内炎を疑い,硝子体切除術を施行し,硝子体培養から同種の菌が検出された。1か月後,右眼の視力低下を訴え,右眼周辺部に顆粒状の黄白色病変を認めた。数日で病変は黄斑部と視神経乳頭部を除く全網膜に拡大した。発症の1か月前に帯状疱疹の治療を受けていたことから壊死性ヘルペス網膜炎を疑いアシクロビルとベタメタゾン,アシクロビル耐性の可能性を考慮しガンシクロビルの点滴と,ホスカルネットの硝子体内投与を開始した。前房水PCR検査の結果,水痘帯状疱疹ウイルスが検出された。治療開始後,病変は徐々に消退したが病変が出現した網膜は全層にわたり壊死した。最終視力は右(0.1),左手動弁/30cmとなった。

結論:免疫能が低下している患者では,異なる重篤な感染性ぶどう膜炎を併発しうるため,常に複数の鑑別診断を念頭に置くべきである。

上強膜炎を初発症状としてCogan症候群と診断された1例

著者: 上田はるか ,   松木考顕 ,   渡辺健 ,   秋山邦彦 ,   野田徹

ページ範囲:P.613 - P.617

要約 目的:上強膜炎を初発症状としてCogan症候群の診断に至った症例を報告する。

症例:60歳台,男性

所見と経過:2か月前から両眼充血をきたし,ステロイド点眼で軽快しないため紹介され受診。両眼性の上強膜炎,軽度の虹彩炎と視神経乳頭の発赤および腫脹を認め,角膜に異常所見はみられなかった。眼外症状として頭痛と肩こり,耳鳴りを伴っていた。蛍光眼底造影検査では血管炎の所見はなく,乳頭からの軽度蛍光漏出がみられた。視力,中心フリッカ値,ゴールドマン動的視野は正常範囲内であり,視神経症は明らかでなかった。血液検査では,炎症反応(赤沈:118mm/時,C反応性蛋白:15.5mg/dL)が高値であったが,各種自己抗体検査は陰性であった。PET/CT撮影にて上行大動脈と腹部大動脈に集積があり,左感音性難聴が判明したことから,Cogan症候群の診断に至った。ステロイド大量投与(プレドニゾロン1mg/kg/日から漸減)および点眼にて,眼および全身症状は軽快し,現在はトシリズマブ皮下注射を導入し寛解維持が得られている。

結論:Cogan症候群は,典型的には前庭聴覚症状や眼症状に加え,全身性血管炎を伴う。眼所見は角膜実質炎が典型的であるが,本症例のように角膜実質炎を伴わない充血や虹彩炎のみの場合もある。前庭聴覚症状および全身性血管炎を伴う難治性の充血やぶどう膜炎の鑑別として,念頭に置く必要がある。

前眼部光干渉断層計を使用した白内障水晶体の核観察に関する試み

著者: 馬嶋清如 ,   市川慶 ,   酒井幸弘 ,   加藤幸仁 ,   田中芳樹 ,   市川玲子 ,   玉置明野 ,   市川一夫

ページ範囲:P.619 - P.625

要約 目的:白内障水晶体核の所見をもとに,核硬度に関するグループ分けを行うこと。

対象と方法:術前に前眼部光干渉断層計(ANTERION®:Heidelberg Engineering社)を使用し撮影した281眼で,全例水晶体再建術を受けている。画像を編集フィルターで処理し,水晶体核の中心間層(A)を観察した。そして,症例により元画像を3〜5階調に分け,各階調における核の陰影領域も観察した。次に,各症例の再建術中に測定した超音波累積使用エネルギー(C値)を検索し,核所見と核硬度を反映するC値との関係を検討した。

結果:Aが観察不可:38眼(グループ0,以下はグループの数値のみ示す),横行するAが観察可:54眼(1),中央部のみAが観察可:97眼(2),Aが不明瞭:33眼(3),Aが観察不可:48眼(4)に分かれ,(4)は3階調で陰影が観察不可のa:33眼と,3階調から陰影領域が観察可のb:15眼に分かれた。また(1)と(2)間を除けば,数値が大きいほどC値は有意に大きく,4bは4aより有意に大きかった。なお,残りの11眼は,グループ分け不可であった。

結論:今回の方法で核硬度を4グループに分けることができた。そして,この情報は白内障術者にとって有用になりうると考えた。

前眼部光干渉断層計で経過を追うことができた白内障術後に生じた悪性緑内障の1例

著者: 堤野晃宏 ,   永井遼司 ,   吉田章子 ,   三河章子

ページ範囲:P.626 - P.632

要約 目的:前眼部光干渉断層計(OCT)で経過を追うことができた白内障術後に緩徐に進行した悪性緑内障1例の報告。

症例:86歳の女性。両眼に閉塞隅角緑内障の既往があり,近医で点眼加療されていた。白内障手術目的で神戸市立西神戸医療センター眼科を紹介され受診した。初診時眼圧は右18mmHg,左12mmHgで,両眼ともにVan Herick法でPAC/CT=1/5の狭隅角を認めた。両眼白内障手術を施行し,浅前房と狭隅角は改善した。保存的加療で経過は落ち着いているため,近医へ紹介となった。手術から約3年後に左眼圧は上昇しはじめ,25〜30mmHg程度の高眼圧が持続するため,当科へ再紹介となった。当科終診時と比較して左浅前房,隅角閉塞の進行を認めた。保存的に経過観察していたが,状態は徐々に悪化したため,左瞳孔ブロックの関与を疑い,左周辺部虹彩切除術を施行した。その後も眼圧は上昇を認め,浅前房と狭隅角が進行したことから,左悪性緑内障の診断に至り,前部硝子体切除術と後囊切開の拡大を施行した。術後眼圧は左11mmHgまで低下し,右眼に比較すると浅前房であるが,術前より改善を得て合併症なく経過している。

結論:悪性緑内障のなかには術後緩徐に進行する例が存在する。前眼部OCTで前房深度や隅角形状の変化を評価することは治療方針の決定に有用であった。

卵円孔開存が原因と考えられた若年性網膜中心動脈閉塞症の1例

著者: 石橋慧一 ,   木崎順一郎 ,   和田悦洋 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.633 - P.638

要約 緒言:網膜中心動脈閉塞症(CRAO)は,血栓や塞栓により,網膜動脈が閉塞することで網膜の循環障害をきたす疾患である。卵円孔開存(PFO)は成人の2〜3割にみられるとされており,通常は症状なく経過するが,脳梗塞を発症する場合もある。これを奇異性脳塞栓症という。今回筆者らは,PFOに合併したCRAOの1例を経験したので報告する。

症例:30歳,女性。もともとの矯正視力は両眼とも1.2であった。突然の左眼の視力低下を自覚し,翌日,昭和大学病院附属東病院を紹介され受診した。矯正視力は右1.2,左は手動弁であった。左眼の視野は中心下方にわずかに残存するのみであった。網膜内層は白色浮腫状でcherry red spotを認めた。蛍光眼底造影で網膜中心動脈の充塡遅延を認め,CRAOと診断した。同日よりウロキナーゼ点滴静注,副腎皮質ステロイド点滴静注,星状神経節ブロック,高圧酸素療法を施行し,2か月後に左眼矯正視力0.15まで改善した。原因検索にて,血管炎や内頸動脈狭窄を認める所見はなかったが,脳MRIにて微小な虚血巣が散在しており,経胸壁および経食道エコーにてPFOを認め,これが原因の可能性が考えられた。PFOに対してはリバーロキサバン内服を開始し,初診から3か月後に閉鎖術を行った。

結論:若年者のCRAOの症例は卵円孔開存も一因となりうるため,それを念頭に置いて検索する必要があると考える。

白内障手術後に再発したⅡ型uveal effusion syndromeの1例

著者: 岩山直樹 ,   竹内正樹 ,   河野慈 ,   澁谷悦子 ,   蓮見由紀子 ,   石原麻美 ,   山田教弘 ,   水木信久

ページ範囲:P.639 - P.643

要約 目的:白内障手術後に再発したⅡ型uveal effusion syndrome(UES)の1例を経験したので報告する。

症例:59歳,男性。1週間前から左眼視力低下を自覚した。前眼部,中間透光体に特記事項はなく,左眼後眼部は全周性で胞状の体位変換で容易に可動する非裂孔原性網膜剝離および下方優位の脈絡膜剝離を認めた。網膜光干渉断層検査,超音波断層検査,蛍光眼底造影検査(FA/IA)が施行された。非小眼球で強膜肥厚を認め,Ⅱ型UESと診断され,25Gトロカールによる脈絡膜下液の排液と硝子体切除術が行われ網脈絡膜復位を得た。術16か月後に左眼白内障手術を施行し,術中術後は経過良好であったが,白内障手術1か月後,再度左眼視力低下を自覚し,初発時と同様の所見を認めUES再発と診断された。再びトロカールによる排液と硝子体手術が追加施行され,網脈絡膜復位を得た。その後9か月間再発は認めていない。

結論:本症例は,脈絡膜下液の排液と硝子体切除術がUESの治療,再発後の治療として有効であり,白内障手術はⅡ型UESの再発のきっかけになることも示した。

2006〜2020年の15年間における主要眼科学雑誌掲載論文の著者に占める女性割合の国際格差

著者: 丹沢慶一 ,   大野司能女 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.644 - P.653

要約 目的:2006〜2020年に米国および英国発行の主要な眼科学雑誌に掲載された論文について,発出国別に著者の性別の不均衡の特徴を調査した。

方法:PubMedを利用してOphthalmology,JAMA Ophthalmology,American Journal of Ophthalmology,およびBritish Journal of Ophthalmologyに掲載された論文を調査した。著者の性別は名前識別ソフトとインターネット検索で判定した。

結果:本研究の対象となった論文は14,797件で,そのうち女性の筆頭著者と最終著者の論文の割合はそれぞれ36.2%と25.5%であった。女性著者の占める割合は,経年的有意に上昇する傾向を示した。米国発出の論文の筆頭著者に占める女性の割合を基準にすると,オーストラリア,インド,シンガポールなどでは女性筆頭著者の割合が有意に高かった。イタリア,日本などは有意に低くかった。英国,ドイツ,フランスなどでは米国と同程度であった。

結論:眼科分野の論文著者の男女不均衡は,論文発出国によって程度が異なることが明らかとなった。

ヒト血清点眼におけるリゾチーム遺伝子発現の定量

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   明尾慶一郎 ,   飛田恵子 ,   加藤帝子 ,   大森美香

ページ範囲:P.655 - P.661

要約 目的:細菌の細胞壁多糖類を加水分解して,溶菌作用を有する酵素であるリゾチーム遺伝子(Lyz)の発現量についてリアルタイムpolymerase chain reaction(PCR)によりヒト血清点眼において定量を試みた結果の報告。

対象と方法:定量のためLyzのcDNAは増殖された大腸菌のプラスミドから10×107のコピーを得た。希釈倍率は1,4,16,256,1,024倍とした。ヒト血清は原液,4倍希釈,レボフロキサシン点眼液(Le)を添加したものからRNAを抽出し,逆転写を行った。微量分光光度計により,RNA,DNA量を測り,cDNA,プライマー,MyGo-greenを混合し,Lyz発現をMyGoリアルタイムPCRにより定量的に解析した。

結果:LyzのcDNAコピー数(q)に対する検量線はCq(増殖曲線がthreshold lineと交差するときのcycle数)=−2.62 log10(q)+37.27,r2=0.999であった。また,Tm値(二本鎖DNAの50%が一本鎖に解離するときの温度)はコントロールとヒト血清との間で有意差はなく,ヒト血清の原液は420.4±172.6コピー/mLという量であった。RNAのみ原液は4倍希釈より有意に多く,DNA,Lyz発現量では原液,4倍希釈,Leを添加したものの間で有意差を認めなかった。

結論:Lyz発現量はヒト血清点眼と原液との間で有意差はなく,定量化の応用範囲を広げられる可能性があると思われた。

初診患者のアイフレイル調査

著者: 井上賢治 ,   天野史郎 ,   徳田芳浩 ,   塩川美菜子 ,   方倉聖基

ページ範囲:P.662 - P.668

要約 目的:視機能の衰えを意味するアイフレイルが提唱された。初診患者のアイフレイル状況を検討した。

方法:井上眼科病院を受診した初診患者で,アイフレイル自己チェック10項目を実施した5,513例を対象とした。チェック数,各項目のチェックを,男女別,年齢別(39歳以下,40〜69歳,70歳以上)に比較した。

結果:チェック数は男性(2,250例)2.7±2.2個が女性(3,263例)3.1±2.2個に比べて有意に少なかった。男性は,①疲れやすい56.0%,⑤眼鏡をかけてもよく見えない37.6%,女性は,①疲れやすい66.4%,③新聞や本を長時間見ない44.9%の順でチェックが多かった。年齢別では,39歳以下(1,273例)1.7±1.7個,40〜69歳(3,040例)3.1±2.1個,70歳以上(1,200例)3.9±2.3個で年齢とともに有意に増加していた。39歳以下では,①疲れやすい51.0%,⑥まぶしい29.0%,40〜69歳では,①疲れやすい66.5%,③新聞や本を長時間見ない43.3%,70歳以上では,①疲れやすい62.8%,⑤眼鏡をかけてもよく見えない60.0%の順でチェックした人が多かった。

結論:アイフレイル症状は女性に多く,年齢とともに増加していた。チェック項目は男女,年齢に多少の違いがあった。

化膿性脊椎炎治療中に視力低下をきたしたリネゾリドによる視神経症の1例

著者: 今関雅也 ,   井田洋輔 ,   梅津新矢 ,   渡部恵 ,   柘野友里 ,   日景史人 ,   大黒浩

ページ範囲:P.669 - P.675

要約 目的:多剤耐性ブドウ球菌による化膿性脊椎炎に対して,リネゾリド(LZD)長期投与中に視神経症を認めた症例を経験したため報告する。

症例:59歳,男性。他院にて腰椎椎間板ヘルニアの手術施行後,化膿性脊椎炎を発症し,20XX年9月より当院整形外科へ紹介となった。同年10月に化膿性脊椎炎に対し,創部洗浄およびインプラント除去手術が施行され,術中の検体から多剤耐性ブドウ球菌であるStaphylococcus capitis subsp. ureolyticusが検出された。術後4病日からLZD(1,200mg/日)投与が開始となった。LZD投与約4か月後に両眼の視力低下,霧視を自覚し20XX+1年2月に当科紹介となった。初診時の視力は右0.01(矯正不能),左0.02(0.04),対光反射は正常,相対的瞳孔求心路障害は陰性,前眼部,中間透光体,眼底に特記すべき異常所見はなかった。光干渉断層計では両眼,特に右眼において乳頭周囲網膜神経線維層の肥厚を認めた。ゴールドマン動的視野計では両眼に視野狭窄を認めた。頭部MRIは明らかな異常所見を認めなかった。視神経炎を示唆する所見もなく,LZDによる視神経症を疑い,LZD内服を中止とした。LZD内服中止1か月後の視力は右(0.09),左(0.7)と改善し,LZD中止から10か月後には右(0.5),左(1.25)まで回復し,ゴールドマン動的視野計で初診時に認めた視野狭窄も改善した。

結論:LZDの長期投与に関しては,視機能の変化に注意して経過観察する必要があり,視神経症が発症した場合は早期に中止することで視力回復が期待できる。

今月の話題

先天鼻涙管閉塞診療ガイドラインの読み方,活かし方

著者: 松村望

ページ範囲:P.560 - P.566

 2022年11月に先天鼻涙管閉塞診療ガイドラインが発行され,Minds(EBM普及推進事業)の診療ガイドラインとして収載された。外科的治療の手法や時期などに議論のある疾患であるが,エビデンスに基づき,益と害のバランスを勘案し,最適と考えられる推奨を提示したガイドラインであり,その内容を理解しておきたい。

連載 Clinical Challenge・38

傍中心暗点とマリオット盲点の拡大を認め視神経疾患の疑いで紹介となった症例

著者: 藤井紀光 ,   山城健児

ページ範囲:P.556 - P.559

症例

患者:24歳,女性

主訴:左眼の視力低下

既往歴:なし

現病歴:2〜3週間前からの左眼の霧視を自覚し,症状が増悪したため前医を受診した。左眼は視力が(0.1)と低下しており,傍中心暗点とマリオット盲点の拡大を認めた。対光反応および限界フリッカ値(critical flicker frequency:CFF)に異常はなかった。前眼部,中間透光体,眼底に明らかな異常はなく,視神経疾患の精査のため当科に紹介となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・32

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—病的近視の斜視

著者: 佐藤美保

ページ範囲:P.567 - P.571

◆病的近視に合併する内斜視で最も重症なものは,強度近視性固定内斜視である。

◆強度近視性固定内斜視ほど重篤ではないが,強度近視性内斜視患者が増加し,複視の訴えが増えている。

◆適切な時期に斜視治療を行うことで,視機能の保持およびQOLの向上が可能である。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・7

涙道検査 鼻内視鏡検査

著者: 澤明子

ページ範囲:P.572 - P.576

●流涙・眼脂の診察に,鼻腔の観察を要する場合がある。

●涙囊鼻腔吻合術鼻内法の手術成績が向上し,内視鏡下鼻内手術の機会が増えている。

●安全な手技のためには涙道周辺の解剖を理解することが不可欠である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年5月)。

臨床報告

広義原発開放隅角緑内障における治療別の眼圧変化と角膜ヒステリシス変化

著者: 丹羽弘高 ,   新田耕治 ,   佐々木充 ,   杉山和久

ページ範囲:P.582 - P.588

要約 目的:広義原発開放隅角緑内障(POAG)で点眼・レーザー・手術など治療の種類により角膜ヒステリシス(CH)の変化に違いがあるか検討した。

対象と方法:対象は2016年9月〜2021年6月の間に当院にて眼圧下降治療を施行した広義POAG患者。治療は点眼,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),iStent挿入術+水晶体再建術(iStent),Ex-PRESS濾過手術(Ex-PRESS)から選択した。各群の治療前・治療6か月後の眼圧とCHを測定し,眼圧とCHの変化量,変化率,変化率の相関を解析した。

結果:対象は152例152眼(点眼39眼,SLT 40眼,iStent 31眼,Ex-PRESS 42眼)。4群比較にて眼圧変化量,CH変化量はそれぞれ有意差(p<0.001)を認め,いずれもEx-PRESS群で最も変化量が大きかった。Ex-PRESS群・点眼群で眼圧変化率とCH変化率はそれぞれ有意な負の相関を認めた(p=0.037,p=0.002)。

結論:広義POAGに4種の緑内障治療を施行した結果,眼圧下降やCH増加は治療の種類により異なり,特にEx-PRESS濾過手術でCHがより増加する可能性がある。

臨床ノート

特徴的顔貌はないが遠見複視によりsagging eye syndromeを疑った1例

著者: 高橋京一

ページ範囲:P.589 - P.591

緒言

 軽微な複視を訴える高齢者は少なくないが,精査を希望しない場合,原因不明のまま眼鏡などで対処する場合が多いと思われる。近年,眼窩結合組織であるプリーの加齢現象で複視が生じる疾患があることが発見され,2009年にsagging eye syndrome(以下,SES)と命名された1,2)。アジアからの報告が少ないため,わが国では眼科医を含め認知度が低い疾患であったが,近年マスコミでこの疾患が扱われたことで一気に認知度が向上し,SESの可能性を疑い受診する患者が増えている。

 今回,2年前からときどき複視を感じていたが,テレビ報道からSESを自ら疑い当院を受診し,SESの診断に至った症例を経験したので報告する。

海外留学 不安とFUN・第88回

ボストン留学記・2

著者: 成松俊雄

ページ範囲:P.578 - P.579

留学への道のり

 私は医局入局と同時に大学院へ入学し,修了後に眼科研修,そして専門医資格を取得してから留学,という少々遠回りした経歴となっています。年齢の点と通常の流れと異なる点がとても不安に感じられていましたが,実際当地に赴いたところ奇しくも同年代の日本人の先生方が多くいらしており,この点は〔高齢化(?)の是非は別として〕個人的にはとても安心できました。ただし,私のようなパターンだと各種研究費の申請に際し年齢などの制限を超えてしまうことがネックとなりますので,留学を意識される方はその辺りを事前に確認しておかれることをお薦めします。

 留学そのものは希望していましたが,遠回りなキャリアゆえの事情もあり,行き先に贅沢をいえる立場ではありませんでした。しかし,院生時代にご指導・ご助言をいただいていた小沢洋子先生(現藤田医科大学先端医療センター臨床教授)ならびに石田 晋先生(現北海道大学眼科主任教授)のお二人がともにハーバード大学への留学経験をおもちで,こちらの事情をご存じだったことや,日本人研究者が複数在籍していた(研究を通じての私の友人や知人も在籍していました)ことなどから,現研究室をお薦めいただきました。おかげで院生時代から大きく変わらず網膜疾患が主な研究テーマという研究室に在籍することができ,大変ありがたく思っています。

今月の表紙

乳化シリコーンオイルによる逆前房蓄膿

著者: 安蘇谷浩乃 ,   髙橋次郎 ,   稲谷大

ページ範囲:P.581 - P.581

 症例は63歳,男性。以前に右眼の裂孔原性網膜剝離,硝子体出血に対して,水晶体再建術(眼内レンズ挿入なし)を含む硝子体手術を行い,シリコーンオイルを留置した。その後網膜は復位し,経過観察を行っていたが,術4年後頃から細隙灯顕微鏡検査にて前房内上方に,乳化したシリコーンオイルが原因と考えられる逆前房蓄膿所見が認められるようになった。視力は右30cm眼前指数弁,左(1.2×−2.25D()cyl−0.75D 15°),眼圧は右37mmHg,左18mmHg。シリコーンオイルの抜去を検討したが,外科的治療を希望しなかったため,点眼による眼圧下降治療を行いながら経過観察を行った。

 今回の撮影には,トプコン社製スリットランプSL-D7にニコン社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。撮影には拡散板を使用し,倍率10倍,スリット幅約20mm,背景照明ありの条件とした。乳化シリコーンオイルの詳細を描出できるように,耳側方向からスリット光を当て,ハレーションを起こさないよう光量を調節しながら撮影した。

Book Review

今日の眼疾患治療指針 第4版

著者: 小椋祐一郎

ページ範囲:P.592 - P.592

 『今日の治療指針』の眼科版として定評のある『今日の眼疾患治療指針』が第3版から第4版に改訂された。半数以上の項目で新たな執筆者を採用されたとのことで,非常にUp to dateな改訂となっている。執筆者は,各分野において現在第一線で臨床に携わっている,わが国のエキスパートが名を連ねる。

 検査総論,治療総論に始まり,部位・疾患別の各論が続く。「検査総論」では進歩が著しい最新のイメージング・画像診断を含め,内容がコンパクトにまとめられている。「治療総論」は,「処置」「薬物治療」「手術」「レーザー手術」の4項目から構成され,「薬物治療」では各種点眼薬,生物学的製剤などがわかりやすく記載されている。この2つの章を通読することにより,読者は短時間で眼科領域の検査・治療の最新知識を得ることができるであろう。各論は,「眼瞼疾患」に始まり,「ロービジョンケア」まで21の章(3〜23章)で構成されている。日常診療で遭遇すると考えられる眼疾患をほぼ網羅しており,初版の編集者がめざした「眼科日常診療において座右の書となり得る実用書」として,非常に重宝すると考えられる。カラー写真やシェーマも大幅に増えており,専門外の領域でもより読みやすく,調べやすくなっている。忙しい診療中に,短い時間で参照できるであろう。

有水晶体眼内レンズ手術 動画付

著者: 根岸一乃

ページ範囲:P.654 - P.654

 ICL(Visian ICL:STAAR Surgical社)は,1997年にCEマークを取得し,2010年2月に日本で初めて薬事承認を得た有水晶体眼内レンズで,現在ではおよそ70か国で使用されています。現在使用されている最新モデルは,清水公也教授が考案した光学部中心に極小の貫通孔のあるICL KS-AquaPORT®(2011年CEマーク取得,2014年に国内薬事承認)をベースにレンズ全体の大きさを変えずに有効光学径を拡大したEVO+Visian ICL®です。ICL KS-AquaPORT®のレンズは中央に0.36mmの貫通孔を開けたことにより,視機能への影響はなく,かつLI(レーザー虹彩切開術)やPI(周辺虹彩切除術)をせずとも,房水循環の維持を可能とし,従来型での問題であった術後合併症である白内障の発症を限りなく低減させました。この,日本発の画期的なアイデアがイノベーションを起こし,世界中に広まったことは,同じ日本人として非常に誇らしく,これを考案された清水先生にはあらためて敬仰します。

 さて,本書は本邦初のICL手術の教科書です。編集は,ICL KS-AquaPORT®の考案者である清水先生と,その下でともに長年にわたりICL手術に関するデータを世界に発信され,エビデンスを積み上げてこられた神谷和孝先生で,執筆者にはICLの臨床経験が豊富なエキスパートの先生方が名を連ねられています。

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目次

ページ範囲:P.552 - P.553

欧文目次

ページ範囲:P.554 - P.555

第41回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.580 - P.580

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.676 - P.679

アンケート用紙

ページ範囲:P.684 - P.684

次号予告

ページ範囲:P.685 - P.685

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.686 - P.686

 臨床眼科2023年5月号(77巻5号)をお届けいたします。本号も,76回日本臨床眼科学会での学会原著を中心にたくさんの素晴らしい論文,総説を皆様に読んでいただけると思います。「今月の話題」では,神奈川県立こども医療センターの松村望先生に「先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン」についてご執筆をいただきました。近年,ガイドラインの作成においては,以前のauthority-basedではなく,Minds形式に則ったevidence-basedの診療ガイドラインの作成が求められます。本解説では,2022年11月に発行された先天鼻涙管閉塞診療ガイドラインについて,実際にガイドライン作成に携わった松村先生が,その背景も含めてエッセンスをわかりやすく解説されています。皆様,流涙で困っている赤ちゃんが受診されても慌てないように,是非ともご一読ください。また,高知大学の藤井紀光先生と山城健児先生にご執筆いただいた「Clinical Challenge」も大変興味深い症例です。

 連載では,「国際スタンダードを理解しよう!近視診療の最前線」はなんと第32回目を迎えました。今回は「病的近視の斜視」というテーマで浜松医科大学の佐藤美保先生に病態および治療について詳しくご解説いただいております。第7回目を迎えた「涙器・涙道マンスリーレクチャー」は,尼崎総合医療センターの澤明子先生に鼻内視鏡検査についてご解説いただきました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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