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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻7号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[5] 原著

不明熱と硝子体混濁を契機に確定診断に至った感染性心内膜炎の1例

著者: 若山典子 ,   髙田幸尚 ,   住岡孝吉 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.856 - P.861

要約 目的:問診と眼底所見より初診時に感染性心内膜炎を疑い,確定診断および治療によって良好な経過を得た1例を経験したため報告する。

症例:66歳,男性。2020年12月より38℃台の発熱が持続し,2021年6月X日に近医内科にてリウマチ性多発筋痛症と診断され,ステロイド治療を開始したが改善しなかった。6月X+1日から両視力低下を自覚し,6月X+12日に近医眼科より精査加療目的で和歌山県立医科大学附属病院を紹介されて受診となった。初診時の視力は右0.06(矯正不能),左0.1(矯正不能)。両眼の前房内炎症細胞は認めなかったが,両眼の硝子体混濁とRoth斑を認めたため,同日精査加療目的で入院となった。造影CTにて脾梗塞,右下腿の脂肪織濃度上昇,直腸炎の所見を認め,血液培養検査からStaphylococcus hominisが検出された。入院3日後に当院循環器内科での経食道心エコー検査にて大動脈弁に疣贅の付着と大動脈弁閉鎖不全を認め,感染性心内膜炎と診断された。抗菌薬治療および大動脈弁置換術にて解熱,硝子体混濁の軽減,Roth斑の消失を認めた。入院71日後の矯正視力は右0.5,左0.8と改善し,9月X日退院となった。

結論:初診時に内因性眼内炎の可能性を強く疑い,全身精査を行うことで感染性心内膜炎の確定診断に至った。眼科初診時に不明熱,硝子体混濁,Roth斑を認める際には,他科と連携し,原因検索を行う必要がある。

全エクソーム解析で診断された常染色体潜性ベストロフィノパチーの女児の1例

著者: 佐々木貴優 ,   溝渕圭 ,   林孝彰 ,   村山耕一郎 ,   篠田啓

ページ範囲:P.863 - P.869

要約 目的:常染色体潜性(劣性)ベストロフィノパチー(ARB)は,常染色体顕性(優性)遺伝を呈するBest病の病因遺伝子と同じBEST1遺伝子の変異を原因とし,多様な臨床所見を呈する遺伝性網膜疾患である。今回筆者らは複合ヘテロ接合変異をもつ若年のARBの症例を経験したので報告する。

症例:13歳,女児。母方の家族歴ではみられなかったが,父方の家族歴は詳細不明であった。両親に眼疾患はなかった。1年前より左霧視を自覚し近医を受診したところ,Best病の疑いで当院を紹介され受診となった。矯正視力は右1.5,左0.5,両眼の黄斑部の黄白色網膜下沈着物,漿液性網膜剝離を認め,眼底自発蛍光では黄斑部から下方に及ぶ過蛍光を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査にて両眼の黄斑部に組織染を認めたが,明らかな蛍光漏出を認めなかった。網膜電図は振幅低下を認めなかったが,眼球電図でL/D比の低下とlight peakの消失を認めた。ARBを鑑別に挙げ,確定診断の目的で全エクソームを施行し,BEST1遺伝子(NM_004183.4)に複合ヘテロ接合変異(p.A195Vとp.R255W)を認めた。

考按:BEST1遺伝子に複合ヘテロ接合変異を有するARBの1例を経験した。この変異は,本邦では以前に報告がある変異であるが,若年者では初めて認められた変異である。

急激な視野異常進行がみられた緑内障眼に合併した視神経乳頭周囲網膜分離症の4例

著者: 楯日出雄 ,   梅基沙弥 ,   大滝千智 ,   青柳明李 ,   植田芳樹

ページ範囲:P.870 - P.878

要約 目的:緑内障眼に合併する視神経乳頭周囲網膜分離症(PRS)は,乳頭付近の構造異常や脆弱性がその病態に関連するとされているが,PRS発症後の視野進行に関して一定の見解が得られていない。今回,PRS発症後に急激な視野異常進行がみられた4例について報告する。

症例:当院で両眼緑内障にて経過観察中の4例(すべて女性)に片眼のPRSを認めた。症例の内訳は,平均年齢63歳,平均屈折値−0.37D,平均眼軸長24.2mm,PRS発症後の平均観察期間33.5か月,視力1.0以上であった。PRSの局在は,全例乳頭耳下側の網膜神経線維層欠損に一致した網膜内層と外層分離を認め,黄斑剝離は伴っていなかった。PRS発症前・発症時・発症後の平均眼圧は,それぞれ12.4mmHg・13.2mmHg・12.7mmHgであった。PRS発症前後の視野結果は,発症直近の平均MD・PSD・VFI・患側に対応する上半TDは,それぞれ−4.41dB・7.82dB・90.7%・−3.31dB,発症後最終受診時は−6.07dB・10.05dB・76.0%・−9.15dBであり,全例で視野進行を認めた。また,PRS発症前の平均PSD slopeが0.66dBに対し発症後2.25dBであり,局所視野進行が示唆され,中心視野進行を全例に認めた。一方,同時期の経過期間中に僚眼の視野進行はみられなかった。

考按:緑内障眼に合併するPRS症例は,明らかに視野進行がみられる症例が存在する。特に乳頭黄斑線維束にPRSを生じた場合,急激な中心視野進行を伴う症例があり,早めの治療アプローチを考慮する必要性が考えられた。

急激に悪化した転移性脈絡膜腫瘍を伴う遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌症候群の1例

著者: 三須恵太 ,   原雄時 ,   西村智治 ,   藤井晶子 ,   佐藤泰樹 ,   小野裕子 ,   長嶋洋治 ,   井上泰之 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.879 - P.884

要約 目的:遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌症候群(HLRCC)は腎細胞癌,皮膚および子宮の平滑筋腫を特徴とする稀な疾患である。今回筆者らは,急激に悪化した転移性脈絡膜腫瘍を伴うHLRCCの1例を経験したので報告する。

症例:51歳,女性。左眼の視野異常を認め,当科を初診。視力,眼圧および前眼部中間透光体に特記事項なく,左眼の乳頭鼻側に約10mm大の橙赤色の脈絡膜隆起とその周囲の漿液性網膜剝離を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影では,脈絡膜隆起に造影剤は流入せず,網膜剝離部の点状過蛍光を認めた。頭部MRIのT2強調画像で高信号を示す約11mm大の楕円型病変を認めた。フマル酸ヒドラターゼ欠損腎細胞癌および子宮筋腫の既往があり,PET-CT検査では卵巣腫瘍,骨盤内腫瘤を認めた。子宮全摘が施行され,過去の腎細胞癌と病理組織が一致し,脈絡膜腫瘍もHLRCCの転移性病変と判断した。漿液性網膜剝離に対しベバシズマブ硝子体注射を試みたが無効であり,放射線も眼痛と嘔気により1回で中止。その後,腫瘍細胞の硝子体播種と硝子体出血により光覚を喪失した。まもなく,右眼にも黄斑耳側の転移性脈絡膜腫瘍を認め,放射線および化学療法が継続されるも,脈絡膜腫瘍および網膜下液の増大は抑制できなかった。

結論:本症例の経過から,HLRCCに伴った転移性脈絡膜腫瘍の眼科的な予後はきわめて不良と考えられた。

網膜振盪部に限局的に生じた網膜全層浮腫に一致して視野障害を呈した1例

著者: 上野隼也 ,   河野剛也 ,   平山公美子 ,   山本学 ,   田町知子 ,   小池伸子 ,   平林倫子 ,   本田茂

ページ範囲:P.885 - P.891

要約 目的:網膜振盪は鈍的外傷後に一過性にみられる網膜混濁で,多くは視機能障害を残すことなく軽快する。今回,網膜振盪部に限局性の網膜全層浮腫を生じ,この部位に一致した視野障害を残した1例を報告する。

症例:18歳,男性。2015年にソフトボールによる右眼打撲後,翌日に当科初診。

所見:右視力(1.5),右眼圧14mmHg,右眼は毛様充血,前房出血,隅角後退を認めた。眼底は耳上側後極部から周辺部に網膜混濁病巣がみられ,斑状出血,軽度硝子体出血を認めた。光干渉断層計(OCT)では網膜混濁部にてellipsoid zoneの不整が描出されたが,網膜内層は保たれていた。網膜静脈第一分枝部の耳側に,限局性の漿液性網膜剝離,網膜外層・内層全体の高反射(全層浮腫)および,硝子体細胞,後部硝子体剝離を認めた。眼底自発蛍光では同部位の耳側に弧状の線状低蛍光がみられた。視野検査では全層浮腫部に一致して比較暗点を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影では網膜混濁部の蛍光漏出はみられなかった。2週間後には網膜混濁は消失,OCTで全層浮腫部に一致して網膜の菲薄化を認め,比較暗点は2年後も残存した。

結論:網膜振盪部に限局性の網膜全層浮腫を生じ,同部位に一致して視野障害を呈した1例を経験した。鈍的眼球打撲後に視野障害を生じる原因の1つとして網膜全層浮腫があり,multimodal imagingは病状の把握に有用であった。

上皮型ヘルペス角膜炎症例の実質型ないし内皮型への移行に関する検討

著者: 塩谷雅 ,   川村朋子 ,   原田一宏 ,   内尾英一

ページ範囲:P.892 - P.897

要約 目的:上皮型ヘルペス角膜炎が実質型ないし内皮型へ移行する際の,臨床的背景の関連について検討したので報告する。

対象と方法:2019年1月〜2021年3月に福岡大学病院眼科を受診し,上皮型ヘルペス角膜炎と診断された症例55例55眼について,実質型ないし内皮型へ移行した症例(移行群)と,上皮型のみで寛解した症例(寛解群)に分け,性差,年齢,経過観察期間,ヘルペス角膜炎の既往,角膜移植の既往,発症時ステロイド点眼・内服の使用,糖尿病・アトピー性皮膚炎の既往について差がないか,診療録を用いて後ろ向きに検討した。

結果:寛解群は41例41眼(男性23例,女性18例),平均(±標準偏差)年齢66.1±19.0歳,移行群は14例14眼(男性9例,女性5例),平均年齢62.6±16.2歳であった。両群に差は認めなかった。平均経過観察期間は,寛解群は542.9±394.7日,移行群では291.3±309.2日と寛解群で有意に長かった(p<0.05)。ヘルペス角膜炎の既往は寛解群41眼中11眼(27%),移行群14眼中10眼(71%)と移行群に有意に多く(p<0.01),平均既往回数も寛解群で0.73回,移行群で2.57回と移行群で有意に多かった(p<0.01)。角膜移植の既往は寛解群41眼中19眼(46%),移行群14眼中1眼(7%)と寛解群に有意に多かった(p<0.01)。発症時ステロイド点眼・内服,糖尿病・アトピー性皮膚炎の既往について両群に有意差は認めなかった。

結論:ヘルペス角膜炎の既往が複数回ある症例では,上皮型,実質型,内皮型のどの病型でも再発する可能性があり,角膜移植既往症例では上皮型の再発に終始し,実質型もしくは内皮型への移行が生じにくいことが示唆された。

Hill-RBF式Ver. 3におけるVer. 2や他計算式との白内障術後屈折誤差精度の検討

著者: 都村豊弘 ,   篠原圭治 ,   曽我部由香

ページ範囲:P.898 - P.905

要約 目的:眼内レンズ(IOL)度数計算式であるHill-RBF式Ver. 3が2020年12月に公開された。そこで,術後屈折誤差精度についてVer. 2や他計算式と比較した。

対象と方法:対象は,Ver. 2は2018年10月〜2020年4月に当院にて白内障手術を施行した200例344眼,他計算式との比較では2020年5月〜2022年2月に同様に施行した258例434眼。IOLはNS-60YG(SZ-1:ニデック)を使用。角膜曲率半径,眼軸長測定と前房深度などの生体計測はIOLMaster 500(カールツァイスメディテック)で測定。IOL定数はUser Group for Laser Interference Biometry(ULIB)値を用い,Hill-RBF式(HI群),SRK/T式(S群),Haigis式(HA群)に使用。Barrett Universal Ⅱ式(BUⅡ式)(B群)はA定数よりlens factorを算出し使用した。同じIOL度数における予測屈折値を各式で算出。術後1か月に他覚屈折値をもとに自覚屈折値を算出し,それぞれの予測屈折値と比較した。

結果:術後1か月における屈折値誤差平均値(絶対値平均値)は,Ver. 2との比較ではVer. 2は0.18±0.45(0.39±0.29)D,Ver. 3は0.22±0.46(0.41±0.30)Dで有意差はなかった(平均値p=0.293;t検定,絶対値平均値p=0.516;Mann-WhitneyのU検定)。他計算式との比較ではHI群0.14±0.49D(0.41±0.31D),S群−0.05±0.49D(0.39±0.31D),HA群0.004±0.43D(0.34±0.26D),B群0.16±0.47D(0.39±0.30D)となり,平均値,絶対値平均値ともに有意差があった(平均値p<0.001;one-way ANOVA,絶対値平均値p=0.006;Kruskal-Wallis検定)。また,±0.25D(±0.5D)以内に入った割合はHI群35.5%(67.1%),S群40.6%(71.9%),HA群44.9%(78.3%),B群39.6%(69.6%)となり,各群間で有意差があった(±0.25D以内p=0.005,±0.5D以内p<0.001;CochranのQ検定)。

結論:Ver. 3に進化したHill-RBF式はVer. 2とは有意差がなかった。他計算式との比較では,絶対値平均値でS群とB群との間に有意差がなかったことから,度数計算式として術後屈折誤差の少ない有用な式であることが示唆された。ただ,現状では度数設定範囲に制限があるなど,さらなる改良が必要と思われた。

眼窩内壁骨折整復術直後に視力障害をきたした1例

著者: 野口魁斗 ,   高木勇貴 ,   穂積健太 ,   田邊吉彦 ,   小島隆司

ページ範囲:P.907 - P.912

要約 目的:眼窩内壁骨折整復術中に外傷性視神経症をきたしたと考えられる症例を経験したため報告する。

症例:79歳,男性。転倒外傷による左眼窩内側壁骨折治療のため形成外科を受診。CT上,外眼筋や軟部組織の嵌頓は認めないが,外転制限および複視を認め,1週間以上改善がみられず,手術適応となった。術前の矯正視力(小数視力)は1.0であった。術直後より視力障害を訴え,精査のためCTが施行されたが血腫などは認めなかった。プレートによる視神経の圧迫が原因と疑われ,プレート抜去が施行された。その後も視力が改善しなかったため,当科紹介となった。診察時の所見は左眼光覚−,直接対光反射−,間接対光反射+,相対的瞳孔求心路障害陽性,前眼部や眼底に特記すべき所見はなかった。造影MRI上明らかな視神経の断裂は認めなかったが,辺縁が不整な部位があり,医原性の外傷性視神経症を疑いステロイドパルスを1クール施行した。その後は保存的加療の方針となり,術後6か月時点で矯正視力は0.2まで改善している。

結論:眼窩骨折術後に眼窩コンパートメント症候群のため視力障害をきたした症例報告はあるが,それ以外の原因で術直後に視力障害をきたす症例は非常に稀である。術直後に視力障害をきたしたとする症例報告2例ではプレート抜去などの眼窩内減圧により視力は改善したとされている。本報告では視力障害の発覚後早期にプレートの抜去が施行されたが,視力改善が乏しく,術中に視神経が直接損傷されていたと考えられた。

局所麻酔下において鼻内視鏡下で先天涙囊瘤を治癒できた症例

著者: 山内悠也 ,   澤明子 ,   竹谷太 ,   宮崎千歌

ページ範囲:P.913 - P.916

要約 目的:先天涙囊瘤を受診当日に局所麻酔下で診断と治療を行った症例を経験したので報告する。

症例:内眼角部に暗青色の腫瘤を認め,先天涙囊瘤を疑った生後2日〜2か月の女児4症例。鼻内視鏡観察下で,下鼻道に脱出する瘤を認めたため先天涙囊瘤と診断した。0.1%エピネフリン,2%キシロカインを用いて,鼻粘膜の麻酔・収縮を行った。麦粒鉗子を用いて,鼻内視鏡観察下で経鼻的造瘻術を施行した。瘤内から粘液性の液体の排出を認め,速やかに内眼角部の腫瘤は改善した。周術期に患児の異常を認めなかった。

結果:先天涙囊瘤に対し,局所麻酔下で鼻内視鏡を用いて確定診断および手術が行えた。

結論:先天涙囊瘤は,鼻内視鏡で下鼻道にある瘤を認めることが可能であれば局所麻酔下で治療可能な疾患である。

アフリベルセプト抵抗性滲出型加齢黄斑変性に対するブロルシズマブスイッチの1年成績

著者: 伊達悠斗 ,   鎌尾浩行 ,   光井江里佳 ,   後藤克聡 ,   荒木俊介 ,   水川憲一 ,   三木淳司 ,   桐生純一

ページ範囲:P.917 - P.922

要約 目的:4週ごとのアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)で滲出性変化が残存する滲出型加齢黄斑変性(nAMD)患者に対して,ブロルシズマブ硝子体内投与(IVBr)へ切り替えを行った1年成績を検討した。

対象と方法:川崎医科大学附属病院にて2020年7月〜2022年6月にIVA 4週ごと投与後に滲出性変化を認めるnAMDに対してIVBrへ切り替えた症例を対象とした。評価は最高矯正視力,中心網膜厚,滲出性変化,投与回数,投与間隔について行った。

結果:対象は11例11眼(平均年齢77.1±7.3歳,男性7眼,女性4眼)で,1人の患者は初回投与4週後に眼内炎症を発症したため治療中断となった。平均最高矯正視力(logMAR)と中心網膜厚はベースライン0.34±0.26と266.8±39.3μm,4か月目0.33±0.29と220.8±55.8μm,8か月目0.25±0.33と224.9±61.1μm,12か月目0.22±0.31と224.9±61.1μmで,平均最高矯正視力はどの時点も有意差を認めなかったが,中心網膜厚はどの時点も有意に減少した(それぞれp=0.03,p=0.03,p=0.04)。1年間の平均総治療回数は6.9±0.3回,1年後の投与間隔は8.6±1.3週であった。

結論:4週ごとのIVAで滲出性変化の残存するnAMD患者に対してIVBrへ切り替えることで,滲出性変化が消失する可能性がある。

自然瞳孔での眼球生体計測値による調節麻痺下等価球面屈折値の推測

著者: 加藤裕花 ,   成田真帆 ,   森隆史 ,   松野希望 ,   則川晃希 ,   笠井彩香 ,   新田美和 ,   齋藤章子 ,   橋本禎子 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.923 - P.928

要約 目的:筆者らは,これまで光学的生体測定装置により計測した非調節麻痺下の眼軸長(AL)と平均角膜曲率半径(ROC)から調節麻痺下等価球面屈折値(cSE)を推測する推定式を報告してきた。本研究では,前房深度(ACD)や水晶体厚(LT)を加え,予測精度向上を目指し検討を行った。

対象と方法:対象は,1%アトロピン点眼液1日2回7日間による調節麻痺下屈折検査を行った器質的眼疾患を有さない3〜4歳児48例96眼である。調節麻痺の前後にIOLマスター® 700で眼球形態検査とTONOREF®ⅡでcSEの計測を行った。調節麻痺前のAL,ROC,ACD,LTの逆数を説明変数,cSEを目的変数とし,ステップワイズ重回帰分析を行った。また,解析から得られた推定式による等価球面屈折値の推測値(eSE)とcSEとの差を検討した。

結果:ステップワイズ法ではAL,ROC,ACDの3項目が採択された。AL,ROC,ACDでの推定式は,eSE=1200.50/AL−317.97/ROC−8.89/ACD−8.88(R2=0.93)であった。この式によるcSEとの誤差は0.5D未満55%,1.0D未満86%であった。比較のため,今回のデータセットを用いて既報に基づきAL,ROCに月齢(M)を加えた推定式を作成し,式はeSE=1147.42/AL−303.33/ROC−34.03/M−10.35(R2=0.92)となった。誤差は0.5D未満48%,1.0D未満85%であり,今回作成した推測式でより精度が高いと考えられた。

結論:自然瞳孔でのALとROCに加え,ACDをパラメータに加えることで,推定式の精度は向上した。

定期的な眼科診察によるTS-1®投与患者の涙道閉塞予防

著者: 中田愛 ,   澤明子 ,   田中万理 ,   増田有寿 ,   緒方真麻 ,   茶木俊光 ,   山内悠也 ,   長谷川麻里子 ,   廣瀬美央 ,   竹谷太 ,   宮崎千歌

ページ範囲:P.929 - P.933

要約 目的:経口抗癌薬TS-1®は涙道障害を引き起こすことが報告されている。今回,兵庫県立尼崎総合医療センター眼科(当科)におけるTS-1®内服開始後の涙道障害進行について検討した。

対象と方法:2021年5月〜2022年3月に,他科にTS-1®処方時の眼科紹介を依頼し当科初診となった50例99側を対象として,6週間ごとに経過観察を行い,涙道障害の特徴を検討した。

結果:経過観察期間中に全体の24.2%に涙道障害進行が認められ,16.2%が涙道内視鏡下チューブ挿入術適応となった。進行あり群となし群を比較したところ,性別,年齢,角膜障害出現の有無,初診時シルマー値,初診時涙液メニスカス高に有意差は認められなかったが,初診時に通水時逆流や涙点障害を認めたものは,その後有意に進行が認められた。進行ありと判断した際,涙液メニスカス高は初診時より有意に高くなっていたが,流涙症状が出現したのは全体の半数のみであった。

結論:TS-1®投与患者は,流涙症状などの自覚症状がなくとも眼科を定期受診することが望まれる。

今月の話題

新型コロナウイルス感染症流行下における糖尿病網膜症診療への影響

著者: 廣澤邦彦 ,   猪俣武範

ページ範囲:P.826 - P.831

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,本邦では2020年1月に国内初の感染者が報告され,同年4月には緊急事態宣言が発令された。この緊急事態宣言による糖尿病網膜症の定期受診の中断による症状の悪化が懸念されている。本稿では,新型コロナウイルス感染症感染拡大における糖尿病網膜症診療への影響について述べる。

連載 Clinical Challenge・40

新生児の角膜混濁

著者: 加山結万 ,   山口剛史

ページ範囲:P.823 - P.825

症例

患者:生後28日

症状(主訴):なし

現病歴:在胎36週,2,046g,正常経腟分娩で出生。出生直後に右眼の角膜混濁を認めていた(図1)。低出生体重児,代謝性アシドーシス,高尿酸血症,未熟児貧血のためNICUに入院し,右角膜混濁については新生児科にてTORCH症候群の精査を行ったが有意な所見はなかった。全身状態良好であったため日齢23で退院した。右角膜混濁について精査のため眼科に紹介され受診した。

既往歴:周産期切迫早産,低出生体重児。小児科で全身疾患なし

家族歴:なし

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・34

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—病的近視のロービジョンケア

著者: 新井千賀子

ページ範囲:P.834 - P.838

◆ロービジョンケアが必要になるまでの患者の長い経過に共感し,重度化への対応を見越したロービジョンケアを実施する必要がある。

◆強度近視の場合,使用している眼鏡の矯正状態(完全矯正されていることは少ない)により光学エイドの倍率が変化することに留意した視覚補助具の選定が必要になる。

◆視野障害の状態と視力低下の組み合わせのバリエーションが他の疾患より複雑であり,さまざまなケアのパターンを知っておく必要がある。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・9

涙点・涙小管閉塞

著者: 藤本雅大

ページ範囲:P.840 - P.843

●涙点を評価するために涙点開口度分類を把握する。

●日本における涙小管閉塞の重症度分類として,矢部・鈴木分類が知られている。

●総涙小管閉塞には近位部線維性閉塞と,遠位部膜性閉塞がある。

臨床報告

ルアー釣り針による眼外傷の1例

著者: 大塚貴瑛 ,   横山勝彦 ,   石部智也 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.844 - P.848

要約 目的:ルアーフィッシング用の釣り針が角膜を穿孔し,虹彩根部まで損傷が及ぶ症例を経験したので報告する。

症例:49歳,男性がルアー釣り針による左眼の穿孔性眼外傷で受診された。初診時視力は左手動弁で,釣り針の先端は角膜を穿孔し,隅角に達していた。外来顕微鏡にてcut-out法により,釣り針を摘出し,その後手術室で角膜縫合と抗菌薬入り緩衝塩類溶液で前房内洗浄を行った。術後,外傷性白内障や他の重篤な眼合併症はみられず,術後6か月で視力は(1.5)に回復した。

結論:釣り針における眼外傷では,適切な摘出方法と摘出までの迅速さが重要である。本症例は,釣り針の迅速な摘出と二期的な手術治療により良好な治療経過が得られた。

感染性心内膜炎に合併した内因性細菌性眼内炎の2例

著者: 磯野寛 ,   井上裕治 ,   水野嘉信 ,   渡邊恵美子 ,   溝田淳

ページ範囲:P.849 - P.855

要約 目的:本邦において感染性心内膜炎に合併する内因性細菌性眼内炎は稀であるが,今回2例経験したので報告する。

症例:2例とも感染性心内膜炎と診断され,血液培養からB群溶連菌Streptococcus agalactiaeが検出された。

症例1:53歳,女性。初診時の視力は右光覚なし,左手動弁。右眼に前房蓄膿を認め,眼底透見不能。左眼に前房炎症があり,眼底は滲出性変化を強く認めた。両眼内因性細菌性眼内炎と診断した。まず心臓弁置換術が施行され,12日後に両眼硝子体手術および超音波水晶体乳化吸引術を施行した。術後,硝子体混濁は軽減したが,その後再燃した。右眼に1回,左眼に3回硝子体手術を行ったが,右眼は網膜全剝離となり光覚弁,左眼は一部のみ網膜復位し手動弁となった。

症例2:76歳,女性。初診時の視力は右光覚弁,左指数弁。右眼の前房中にフィブリンを認め,眼底透見不能。左眼の前房は清明で,眼底にしみ状出血を認めた。両眼内因性細菌性眼内炎と診断した。まず心臓弁置換術が施行され,9日後に右眼は眼球内容除去術,左眼は硝子体手術および超音波水晶体乳化吸引術を施行した。術後,左眼網膜の出血は消退し,眼内炎の再燃は認めなかった。左眼矯正視力は0.9に回復した。

結論:細菌性眼内炎は早急な治療を要するが,内因性の場合は全身の治療が優先され治療が遅れることがある。硝子体手術を施行しても,視力保持がきわめて困難であることがある。

今月の表紙

虹彩囊腫

著者: 片倉博子 ,   髙橋次郎 ,   黒坂大次郎

ページ範囲:P.833 - P.833

 症例は24歳,男性。約6年前から左眼の虹彩の瞳孔縁に隆起性病変を認め,近医にて経過観察を行っていた。その後,瞳孔縁の病変が増大し多発するようになり,左眼の見えづらさを自覚するようになったため,当院を紹介され受診となった。初診時の視力は右(1.2×−4.75D()cyl−0.50D 115°),左(1.2×−4.50D()cyl−0.50D 75°),眼圧は右16mmHg,左15mmHg。細隙灯顕微鏡検査で左眼の瞳孔縁上下方に,表面が平滑で均一な色調の囊腫状病変を認めた。多発性虹彩囊腫の臨床診断のもと,2%キシロカイン®のテノン囊下麻酔を行い,粘弾性物質を前房内に注入し,2時と11時方向の角膜に作成したサイドポートから前囊鑷子と八重式虹彩剪刀を挿入し,囊腫を根部から可及的に切除した。

 本撮影には,トプコン社製スリットランプSL-D7にニコン社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。囊腫は瞳孔縁に多発し,部位により病変の隆起の程度に差があったため,全体の状態を把握しやすくするように倍率10倍,スリット幅15mmで撮影を行った。

Book Review

今日の眼疾患治療指針 第4版

著者: 平形明人

ページ範囲:P.906 - P.906

 本書は,眼科診療に携わる医師が日常診療に座右の書として備えるべき一冊としてお薦めしたい本である。

 医学書院は『今日の治療指針』を毎年改訂しているが,これの眼科版として本書の初版が2000年に上梓された。発刊時の編集者である故田野保雄先生,故樋田哲夫先生の「眼科日常診療において座右の書となり得る実用書」をめざす意図は,今回の第4版にも大いに反映されている。

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目次

ページ範囲:P.818 - P.819

欧文目次

ページ範囲:P.820 - P.821

第41回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.832 - P.832

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.935 - P.937

アンケート用紙

ページ範囲:P.942 - P.942

次号予告

ページ範囲:P.943 - P.943

あとがき

著者: 黒坂大次郎

ページ範囲:P.944 - P.944

 2023年のゴールデンウィーク(GW)明けとともに新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行され(インフルエンザと同様の分類),マスク着用は個人の判断となった。GW中は各地で人がにぎわい,海外からの観光客も,中国からの方を除き,よく見かけるようになった。私のいる盛岡は,米国のニューヨーク・タイムズ紙により「2023年に行くべき世界の52か所」に選出され,その影響なのか特に多くの方を見かけた。

 今後は学会の現地参加も増えていくと思われる。思えばこの3年間は様々な制約があり,学会発表をオンラインで行ったことがあっても,実際に多くの方の前でリアルに発表した経験がない専門研修医が多くなってしまった。もう何回もリアルに学会に参加し,発表した身には,オンラインは新鮮で,スライドなども会場で見るより見やすく,飛ばしたりもできるので便利であった。だが,実際にリアルに学会に参加すると,学会場までの移動は時間的にも経済的にも負担が大きいものの,やはりオンラインとは違う良さがあることに気がつく。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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