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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻8号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[6] 原著

濾過胞感染に対する硝子体手術の臨床的特徴と術後経過

著者: 井原茉那美 ,   皆川友憲 ,   円谷康佑 ,   佐藤信之 ,   柳田智彦 ,   笠原正行 ,   庄司信行

ページ範囲:P.981 - P.986

要約 目的:感染が硝子体内にまで及んだ濾過胞感染ステージⅢの診断で硝子体手術を行った症例の臨床的特徴と術後経過を報告する。

対象:2018年4月1日〜2022年2月28日の期間,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の濾過胞感染ステージⅢに対して北里大学病院で硝子体手術を施行した12例14眼。

方法:濾過胞感染発症までの期間,感染の自覚症状発現から硝子体手術までの期間,硝子体手術の合併症,細菌培養結果,感染前後でのlogMARおよび眼圧の推移,硝子体術後に追加した緑内障手術・処置を調べた。

結果:線維柱帯切除術から感染発症までの期間は平均4.7年,感染の自覚症状発現から硝子体手術までの期間は平均2.2日,硝子体手術の合併症はなく,細菌培養陽性であった6眼中3眼(50.0%)からStreptococcus属が検出された。logMARは感染前0.59±0.76と比較し,感染時は1.47±0.52(p=0.005)へ低下し,最終時点で感染前よりlogMAR 0.2以上悪化した症例は6眼(42.9%)で,うち2眼が失明した。眼圧は,感染前8.5±2.1mmHg,術後1か月14.0±5.4mmHg(p=0.002)と,術後3か月11.7±3.6mmHg(p=0.006)で上昇した。硝子体手術後に追加の緑内障手術・処置を行ったのは5眼(35.7%)であった。

結論:硝子体手術により濾過胞感染は沈静化したが,約4割は視力が悪化した。約4割の症例で追加の緑内障手術・処置が必要となった。

松江赤十字病院における11年間の感染性角膜炎の報告

著者: 藤原悦子 ,   池田欣史 ,   松岡陽太郎

ページ範囲:P.987 - P.994

要約 目的:松江赤十字病院(当院)眼科における感染性角膜炎の動向を報告する。

対象:2011年1月〜2021年12月の11年間に当院で加療したウイルス性角膜炎を除外した感染性角膜炎患者106例107眼で平均年齢57.9±24.1歳。

結果:全106例中56例(52.8%)で起炎菌が検出され,分離菌全73株のうちグラム陽性球菌39.3%,グラム陰性桿菌21.4%,真菌3.6%,その他35.7%であった。年齢分布は20〜30代と70代にピークを認める2峰性であったが70代のピークが高かった。20代のコンタクトレンズ使用率が92.3%と高率であった。患者背景としては,糖尿病23例,外傷16例が多かった。治療薬はニューキノロン系と第三世代セフェム系の点眼薬,カルバペネム系の点滴を多く使用していた。

結論:当院の感染性角膜炎は起炎菌としてはグラム陽性球菌が多く,またグラム陰性桿菌ではモラクセラ属が緑膿菌を上回り全身疾患を有する高齢の患者が多いことを反映していると思われた。

梅毒性ぶどう膜炎診療の適正化に向けた院内連携の試み

著者: 天内清 ,   得居俊介 ,   戸所大輔 ,   柳澤邦雄 ,   宮久保朋子 ,   木村孝穂 ,   村上正己 ,   徳江豊 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.995 - P.1000

要約 目的:梅毒性ぶどう膜炎の診断に伴い,活動性梅毒が見つかる場合がある。群馬大学医学部附属病院(当院)では,2019年以降感染制御部および検査部と眼部梅毒診療に関する院内連携を開始し,梅毒の診断後に必要な事項をバンドル化したのでその内容を示す。また,バンドルに沿い過去の症例を後ろ向きに検討する。

対象と方法:当院眼科で2019年1月〜2022年4月に梅毒性ぶどう膜炎と診断された8例を対象とし,症例の情報を診療録から後ろ向きに検討した。

結果:梅毒診療バンドルとして,院内連携により,血清反応による活動性の証明,病原体の証明,他部位病変の診察,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)スクリーニング,神経梅毒の鑑別,5類感染症発生届の提出,治療方針の感染制御部への相談の有無の7項目を確認する体制を構築した。対象の内訳は男性6例,女性2例,年齢は29〜73歳(中央値51歳)であった。8例中7例が活動性梅毒で5例に前房水PCR検査を施行した。5例は皮膚科を受診し,1例にバラ疹の既往があった。2例がHIV陽性であり血液内科へ紹介した。全例に脳脊髄液検査を行い4例が神経梅毒と診断された。活動性梅毒症例は全例7日以内に5類感染症発生届を提出し,ベンジルペニシリンカリウム点滴またはアモキシシリン内服を行った。陳旧性梅毒症例は点眼治療のみを行った。

結論:臨床検査専門医および感染症専門医との院内連携により,梅毒性ぶどう膜炎に対して正確な診断,適切な治療を行うことができた。

低加入度数分節型眼内レンズ5症例と単焦点眼内レンズ5症例の満足度比較

著者: 菊地有希久 ,   前原紘基 ,   菅野俊雄 ,   森隆史 ,   向井亮 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.1001 - P.1006

要約 目的:低加入度数分節型眼内レンズ(LC群)もしくは単焦点眼内レンズ(単焦点群)を移植された患者の裸眼での距離別満足度を比較する。

対象と方法:対象は術後等価球面度数−0.50Dを想定し,両眼白内障に対し両眼に同じ種類の眼内レンズ移植を行い,両眼ともに術後遠方裸眼視力0.7以上となった症例(平均年齢77.2±7.6歳),LC群5例10眼,単焦点群5例10眼である。白内障手術は2週間の間隔で行い,2眼目の治療1週間後時点の距離別満足度および総合満足度を,非常に満足,満足,普通,不満,非常に不満のなかから回答してもらうアンケート形式で調査した。

結果:術後裸眼遠方視力(logMAR)の平均はLC群0.07±0.07,単焦点群0.04±0.12であり,両群間に差はなかった(p=0.85)。術後等価球面度数の分布は,−1.00D以下がLC群9眼,単焦点群3眼,−1.00D超え−0.50D以下がLC群0眼,単焦点群4眼,−0.50D超え0D以下がLC群1眼,単焦点群3眼であった。「非常に満足」と「満足」の合計は,遠方においてLC群と単焦点群ともに5/5(100%),中間距離においてLC群5/5(100%),単焦点群3/5(60%),近方においてLC群4/5(80%),単焦点群1/5(20%)であった。

結論:両眼同一の度数設定で同種の眼内レンズを移植する場合は,低加入度数分節型眼内レンズを選択すると遠方から近方まで術後満足度が高くなる可能性がある。

Purpureocillium lilacinumによる真菌性角膜炎にボリコナゾール点眼とピマリシン点眼の併用が著効した1例

著者: 沢田敦 ,   辻中大生 ,   山口尚希 ,   上田哲生 ,   田代将人 ,   泉川公一 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 目的:Purpureocillium lilacinumは土壌や大気中などに存在する腐生真菌であり,角膜炎の起因としてはきわめて稀である。今回,P. lilacinumを起因とする真菌性角膜炎で,ボリコナゾール点眼単独治療では抵抗性であったがピマリシン点眼併用が著効した1例を報告する。

症例:70歳台,男性。X−2日に草刈りを行った。その翌日夜より右眼痛と視力低下を自覚した。X日に前医を受診し,右矯正視力は0.15と低下し,細菌性角膜炎を疑われたため同日奈良県立医科大学附属病院眼科に紹介され受診した。

所見:初診時,右眼角膜中央部に円形混濁および角膜後面沈着物を認めた。細菌性角膜炎を疑い角膜擦過培養提出後,レボフロキサシン点眼,ジベカシン硫酸塩点眼で治療を開始。しかし,X+6日には前房蓄膿が出現し,X+10日に真菌感染の可能性も考えボリコナゾール点眼を開始した。X+13日には前房蓄膿が増悪したため,X+17日にホスフルコナゾール点滴を追加したが,角膜炎や前房蓄膿の改善は認められず,さらにX+25日にはピマリシン点眼を追加した。ピマリシン点眼追加後,前房蓄膿は著明に改善し,角膜炎も消炎傾向となった。X+27日には角膜擦過培養からP. lilacinumが同定された。その後も炎症の改善を認め,X+31日に前房蓄膿は消失しX+37日に退院となった。その後,現在まで角膜炎の悪化は認めていない。

結論:P. lilacinumを原因とする真菌性角膜炎を経験した。ボリコナゾール点眼単剤では治療抵抗性であったが,ピマリシン点眼を併用したのち著明に症状改善を認めた。

オミデネパグイソプロピル点眼で角膜乱視度数および角膜高次収差が変化した兄妹例

著者: 植木麻理 ,   柴田真帆 ,   豊川紀子 ,   黒田真一郎

ページ範囲:P.1012 - P.1016

要約 緒言:オミデネパグイソプロピル(OMDI)点眼で角膜乱視度数,角膜高次収差が変化した兄妹例を経験したので報告する。

症例1:22歳,男性。目のかすみを主訴に受診した。視力は両眼(1.2),眼圧は右26mmHg,左28mmHgであった。右眼にOMDI点眼を開始したところ,視力低下を自覚した。右眼圧は11mmHgで,視力は(1.2)であったが,角膜乱視度数が−0.25Dから−1.0Dと増強,角膜高次収差も大きくなっていた。左眼にOMDI点眼開始後,右眼と同様の変化を認め,両眼とも角膜厚が増大していた。

症例2:19歳,女性(症例1の妹)。眼鏡処方を希望して受診した。視力は右(1.5),左(1.2),眼圧は右28mmHg,左30mmHgであった。両眼にOMDI点眼を開始。1か月後,眼圧は両眼とも12mmHgと下降したが,角膜乱視度数は増強,角膜高次収差も大きくなった。充血にて点眼自己中止し再診した。眼圧は再上昇し,角膜乱視度数や角膜高次収差は軽減していたが残存していた。角膜厚は増大していた。

結論:OMDIによる著明な眼圧下降と角膜乱視度数や角膜高次収差,角膜厚が変化した兄妹例を経験した。OMDI点眼開始後の見えにくさに角膜肥厚による角膜乱視や角膜高次収差の変化が関与している可能性がある。

オオスズメバチによる角膜刺傷の1例

著者: 寺本謙典 ,   畑真由美 ,   河越龍方

ページ範囲:P.1017 - P.1023

要約 目的:オスズメバチによる角膜刺傷の1例を経験したので報告する。

症例:80歳,男性。2021年9月下旬左眼角膜をオオスズメバチに刺され,近医を受診し同日聖マリアンナ医科大学病院眼科を紹介され受診した。初診時の左視力は光覚弁であった。左眼の角膜混濁が強く,散瞳不良,眼底透見不可であった。受傷10時間後に前房洗浄を施行した。術後,抗菌薬とステロイドの点滴および点眼にて加療した。術後角膜混濁が遷延し,デスメ膜皺襞と角膜上皮欠損が出現した。前房内炎症が増悪し,硝子体混濁が出現したため,受傷5日後水晶体および硝子体同時手術を施行した。これまで確認できなかった前囊損傷を認めた。術中所見で眼底に明らかな異常はなかった。

 受傷後4か月の時点で,角膜上皮および内皮障害,高眼圧が遷延しており,点眼で加療している。今後,角膜移植や濾過手術が必要になる可能性がある。

結論:オオスズメバチの毒素は強力であり,一般的に予後が悪いことが知られている。刺された深さ,注入された毒液量,治療までの時間などが関係していると考えられる。

 本症例では刺傷後早期より積極的な治療を行ったにもかかわらず予後は悪かった。早期より手術などを行うことに加え,トリアムシノロンアセトニドの硝子体注射やステロイドパルス療法など別の治療法が必要になると考えられる。

先天網膜分離症に血管新生緑内障を続発した症例

著者: 池田満里 ,   椎原秀樹 ,   藤原和樹 ,   田中実 ,   山下高明 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1025 - P.1029

要約 血管新生緑内障を続発した先天網膜分離症の症例を経験したので報告する。

症例:症例は46歳,男性。幼少期に先天網膜分離症と診断され,不定期に眼科を受診していた。右眼の視力低下を主訴に近医を受診し,右眼圧が高値であったため鹿児島大学病院眼科を紹介され受診した。初診時視力は右光覚弁,左(0.09),眼圧は右62mmHg,左9mmHgであった。右眼は虹彩新生血管を認め,隅角は全周で虹彩後癒着を認めた。眼底検査では右眼は後極を中心に広範囲で網脈絡膜萎縮を認めたが,網膜出血はなかった。光干渉断層計では,右眼の後極部は網脈絡膜萎縮の状態で網膜分離は認めなかった。左眼はアーケード血管を超える広範囲の後極部に網膜分離を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影では右眼は広範囲の無血管領域と乳頭外網膜新生血管を認めた。左眼には無血管領域はなかった。網膜電図ではb波の減弱を認め,陰性型の異常があった。頭部MRIでは右内頸動脈および眼動脈の狭窄はなかった。以上より先天網膜分離症に合併した,右眼血管新生緑内障と診断した。すでに視力が光覚弁となっており,疼痛の訴えもなかったために治療は行わずに経過観察の方針となり,その後,右眼の光覚は失われたが病態に変化はない。

結論:先天網膜分離症は血管新生緑内障を発症することがある。網膜分離が虚血の原因となりえるが,虚血網膜では網膜分離が消失し,網脈絡膜萎縮の状態になることがあり,鑑別には注意を要する。

囊胞様腔内フィブリノゲン塊摘出術が奏効した黄斑部毛細血管拡張症1型

著者: 髙田実乃梨 ,   永田竜朗 ,   古泉英貴 ,   近藤寛之

ページ範囲:P.1030 - P.1036

要約 目的:黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)1型は特発性に黄斑部網膜の毛細血管拡張を呈する疾患で,片眼性が多く,中心窩耳側の毛細血管拡張,毛細血管瘤による滲出性病変が特徴である。治療は血管瘤に対する直接光凝固や抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の局所注射などが行われているが確立されていない。今回MacTel 1型の遷延性囊胞様黄斑浮腫に対して囊胞様腔内フィブリノゲン塊摘出術(以下,囊胞摘出術)が奏効した症例を報告する。

症例:67歳,女性。左眼視力低下のためにX−2年5月産業医科大学病院を紹介され受診した。初診時の視力は右(1.2),左(0.15)であった。眼底は右眼には異常なく,左眼は硬性白斑を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影は両眼とも黄斑部の毛細血管拡張と蛍光漏出を認め,左眼には毛細血管瘤があった。光干渉断層計では両眼とも網膜外層には萎縮所見はなく,左眼に囊胞様黄斑浮腫があった。光干渉血管断層撮影では両眼とも黄斑部の深層毛細血管の密度が著明に減少していた。以上より,両眼の黄斑部血管密度の減少を伴うMacTel 1型と診断した。左眼は黄斑浮腫が持続したため,抗VEGF薬硝子体内注射を5回行ったが,再発を繰り返し視力が(0.1)に低下したため,X年6月に硝子体手術を行った。内境界膜剝離に加え,黄斑部囊胞に対して27G注射針で囊胞摘出術を行った。

結果:術後約3年が経過し黄斑浮腫は消失し,左視力は(0.15)であった。

結論:囊胞摘出術は糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症による黄斑囊胞で有効とされているが,MacTel 1型でも有効である症例がある。

アフリベルセプト硝子体内注射後に再発がみられた無菌性眼内炎の1例

著者: 岡本真由 ,   山本学 ,   居明香 ,   平山公美子 ,   三澤宣彦 ,   河野剛也 ,   本田茂

ページ範囲:P.1037 - P.1042

要約 目的:アフリベルセプト硝子体内注射(IVA)後に再発性の眼内炎を生じた網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の1例を経験したので報告する。

症例:83歳,女性。既往歴に罹病歴30年の糖尿病と,リウマチ性多発筋痛症(プレドニゾロン内服)がある。左眼のCRVOに伴う黄斑浮腫(ME)に対し,前医でトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射を2回,IVAを3回施行されていた。MEの再発が繰り返されるため,大阪公立大学医学部附属病院眼科(当科)を紹介され受診した。

所見と経過:初診時の左矯正視力は0.2,漿液性網膜剝離を伴うMEおよび網膜出血を認め,MEに対してIVAの継続投与を計画した。当科で10回目のIVA当日より視力低下を自覚し,注射5日後の再診時には左矯正視力は0.02と低下し,微塵様角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜白濁を認めた。感染性眼内炎を疑い同日硝子体手術を施行し,抗菌薬の点眼および静脈内投与を行い,術後炎症は速やかに消退した。硝子体培養結果は陰性であった。3か月後にMEの再発がみられたためIVAを再度施行したところ,2日後に同様の炎症所見を呈したため,硝子体手術と抗菌薬の点眼と静脈内投与を行い,術後炎症は速やかに消失した。硝子体培養結果は陰性で,3か月後の左矯正視力は0.1であった。

結論:硝子体注射後の再発性眼内炎の1例を経験した。いずれも硝子体培養は陰性でIVA後に再発を繰り返したことからアフリベルセプトに対する自己免疫的機序が関係していると思われた。

視神経炎が疑われその鑑別にen face OCTが有用であった傍中心窩急性中間層黄斑症の1例

著者: 後藤克聡 ,   三木淳司 ,   鎌尾浩行 ,   増田有寿 ,   水川憲一 ,   荒木俊介 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1043 - P.1052

要約 目的:傍中心窩急性中間層黄斑症(PAMM)は傍中心窩に網膜の白濁をきたし,急性の視野障害を伴う疾患である。今回,視神経炎が疑われたPAMMの1例を経験したので報告する。

症例:74歳,男性。1週間前から左眼の急激な霧視と視野障害を自覚し近医を受診,左眼視神経炎疑いで川崎医科大学附属病院を紹介され受診した。視力は,右(1.5),左(0.9),眼圧は,右12mmHg,左10mmHg,限界フリッカ値(CFF)は,右40Hz,左28Hzであった。相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は左陽性で,RAPDの定量的評価が可能なRAPDx®によるRAPD振幅は1.33(log units)であった。眼底では,左眼の視神経乳頭耳側に軟性白斑,中心窩周囲の網膜白濁がみられた。左眼光干渉断層計(OCT)では内顆粒層の高輝度所見が多発的にみられた。2日後,左視力は(0.4)と低下し,ゴールドマン視野では中心および傍中心暗点をきたした。左眼en face OCTでは,表層と深層に斑状の高反射所見が明瞭に観察された。以上の結果,左眼PAMMと診断した。en face OCTの高反射所見は経時的に消失し,6週後には左視力は(0.9),RAPD振幅0.03,CFFは39Hzと視機能も改善した。

結論:PAMM単独発症では,RAPD陽性やCFF低下を伴い視神経炎に類似した所見をきたすことがあり,その鑑別および経過観察にはRAPDx®とen face OCTが有用である。

視力1.0の近視性黄斑分離に対して硝子体手術を施行した2例

著者: 廣畑俊哉 ,   上甲武志 ,   川口秀樹 ,   北畑真美 ,   鳥山浩二 ,   平野澄江 ,   児玉俊夫

ページ範囲:P.1053 - P.1060

要約 目的:近視性黄斑分離に対する内境界膜剝離を併用しない硝子体手術の術後経過を報告する。

対象と方法:症例1は64歳,女性。右眼の変視を主訴に松山赤十字病院(当院)を受診した。右視力は(1.0)であった。光干渉断層計にて中心窩剝離を伴う黄斑分離と外層円孔を認めた。中心窩網膜厚は468μmであった。症例2は47歳,男性。右眼の変視を主訴に当院を受診した。右視力は(1.0)であった。光干渉断層計にて中心窩剝離を伴う黄斑分離と外層円孔を認めた。中心窩網膜厚は444μmであった。2例とも硝子体手術を施行し,後極部の硝子体皮質を血管アーケードの領域まで完全に除去した。内境界膜剝離は施行しなかった。

結果:症例1は術後10日で黄斑分離と中心窩剝離が消失した。術後4か月で網膜分離の軽度再発を認めたが,術後12か月時点で視力(1.0)を維持しており,中心窩網膜厚は141μmと改善した。症例2は術後6日で黄斑分離がほぼ消失し,術後7か月で中心窩剝離もほぼ消失した。術後25か月時点まで再発はなく,視力(1.0)を維持しており,中心窩網膜厚は161μmと改善した。2例とも術中術後合併症はなかった。

結論:発症早期の中心窩剝離を伴う近視性黄斑分離に対する内境界膜剝離を併用しない硝子体手術は合併症の少ない有用な術式である可能性がある。

網膜細動脈瘤破裂に伴う黄斑円孔が自然閉鎖した1症例

著者: 岡野夏海 ,   山本裕樹 ,   池上靖子 ,   福田祥子 ,   高尾博子 ,   沼賀二郎

ページ範囲:P.1061 - P.1066

要約 目的:網膜細動脈瘤(RAM)破裂に伴う黄斑円孔が自然閉鎖した1例を報告する。

症例:91歳,女性。1週間前からの両眼視力低下を主訴に他院を受診し,右眼に網膜下出血,左眼に硝子体出血を認めたため,8日後に東京都健康長寿医療センター眼科を紹介され受診となった。

所見:矯正視力は右0.08,左光覚なしであった。眼底は右眼に軽度の硝子体出血と黄斑部耳下側にRAMを認め,その周囲に軽度の内境界膜(ILM)下出血と網膜下出血を認めた。左眼は硝子体出血のため透見不良であった。光干渉断層計では右眼の黄斑部のILM下出血は吸収されており,硝子体側に凸状に剝離したILM,その下に黄斑円孔を認めた。既往歴は無治療の高血圧症のみであった。右眼は円孔径が小さく,黄斑円孔がILMに被覆される可能性があることから自然閉鎖を期待し経過観察とし,左眼は白内障および硝子体手術を施行したが,網膜動静脈の白線化と視神経萎縮を認め,術後も視力は光覚弁であった。受診後1か月の時点で右眼の円孔は閉鎖し,視力は矯正視力0.2に改善,その後白内障手術も施行し受診後5か月で0.5p(矯正不能)まで改善した。

結論:RAM破裂に伴う黄斑円孔は,自然閉鎖する可能性が示唆された。

Panton-Valentine leukocidin産生MRSAによる眼窩蜂窩織炎

著者: 多田羅祐介 ,   小木曽正博 ,   曽我部由香 ,   中野裕貴 ,   鈴間潔

ページ範囲:P.1067 - P.1072

要約 目的:眼窩蜂窩織炎は時に重篤な視機能障害を引き起こす急性化膿性炎症である。今回Panton-Valentine leukocidin(PVL)を産生するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による眼窩蜂窩織炎をわが国で初めて経験したため報告する。

症例:61歳,女性。右眼瞼腫脹,疼痛を主訴に香川大学医学部附属病院眼科へ紹介され受診した。初診時,右上眼瞼の高度の発赤腫脹,眼球結膜の充血と浮腫,眼球突出および眼球運動制限を認めた。また血液検査でC反応性蛋白および白血球の上昇,CTにて眼窩内炎症を疑う所見があり,眼窩蜂窩織炎として入院となった。眼脂培養にてPVLを産生するMRSAが検出されたため,抗MRSA薬およびカルバペネム系抗菌薬の点滴投与で加療したが反応は悪く,改善まで10日間を要した。

結論:PVLはMRSAが特徴的に産生する毒素で,白血球を特異的に障害し重症化しやすい。今回,PVL産生MRSAを起炎菌として健常者にもかかわらず重症化し,症状改善に時間を要した眼窩蜂窩織炎を経験した。難治な眼窩蜂窩織炎ではPVL産生菌の存在を念頭に置き,適切な抗菌薬の選択が必要である。

瞳孔不同を合併し動眼神経麻痺で発症した下垂体腫瘍の1症例

著者: 川口俊輔 ,   忍田栄紀 ,   鈴木利根 ,   鈴木謙介 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1073 - P.1078

要約 目的:下垂体腫瘍の臨床症状は視力・視野障害が多く,眼球運動障害で下垂体腫瘍が見つかることは稀である。以前筆者らは動眼神経麻痺で発症した下垂体腫瘍2症例を報告した。今回,新たな1症例を経験したので以前の症例との違いを含め報告する。

症例:患者は56歳,女性。複視を主訴に獨協医科大学埼玉医療センター(当院)眼科に紹介され初診となった。右眼の眼球運動障害,眼瞼下垂を認め,右眼瞳孔散大も認めた。矯正視力は両眼とも1.2で,視野検査では典型的両耳側半盲はなかった。右動眼神経麻痺と診断し,頭蓋内病変精査のため当院脳神経外科に紹介となり,同科施行のMRIで前後径29.8mm,幅27.3mm,高さ35.7mmの下垂体腫瘍を認めた。比較検討のため典型的両耳側半盲をきたした下垂体腫瘍8症例を対照とした。

結果:本症例と以前の症例は,動眼神経麻痺で発症の下垂体腫瘍という点では同じであるが,瞳孔不同を認めたのは本症例のみであった。以前の症例では,腫瘍の前後径と高さは対照が大きい傾向があり,左右の幅は本症例のほうが大きかった。本症例は3方向とも対照より大きい傾向にあり,右海綿静脈洞は側方のみならず上方からも圧迫を受けていた。

結論:下垂体腫瘍が側方に伸展拡大すると,同側の海綿静脈洞内で動眼神経を圧迫し,視力・視野異常ではなく眼球運動障害で発症することがある。瞳孔運動神経線維が動眼神経の上方に存在するため,本症例でみられた上方からの圧迫が瞳孔不同の原因と考えられた。

今月の話題

マイボーム腺機能不全診療ガイドラインのエッセンス

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.956 - P.960

 マイボーム腺機能不全(MGD)は多くの人のquality of lifeを低下させる臨床的に重要な疾患である。しかし,MGD診断の鍵となるマイボーム腺開口部およびその周囲の観察はなおざりにされている感が否めない。本稿では最近発表された「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」1)のエッセンスについて解説する。普段の前眼部診察にマイボーム腺開口部のある眼瞼縁の観察をルーチンとして加えていただき,MGDの診療にガイドラインを活用していただければ幸いである。

連載 Clinical Challenge・41

強膜バックルが露出し複視を生じている症例

著者: 寺崎寛人

ページ範囲:P.950 - P.954

症例

患者:30代,男性

既往歴:アトピー性皮膚炎。4年前に左眼の裂孔原性網膜剝離に対して網膜復位術(#287+#240 encircling)を実施。2年前から眼科通院を自己中断。

現病歴:2か月前から左眼の眼脂,充血,複視を自覚し近医を受診した。結膜炎の診断にて抗菌薬点眼を処方された。その1か月後,症状が改善しないため,別の眼科を受診し左眼強膜炎の診断にて鹿児島大学病院眼科(以下,当科)に受診を勧められたが放置した。症状が改善せず同眼科を再診したところ,左眼バックル感染が疑われ当科を紹介され受診した。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・10

涙小管炎

著者: 村田晶子

ページ範囲:P.962 - P.966

●中高年の女性に多い疾患である。

●涙点の形状変化や涙点付近の特徴的な所見がある。

●難治な慢性結膜炎は涙小管炎を疑う必要がある。

●菌石を完全に除去できれば,症状は速やかに改善する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年8月)。

臨床報告

多焦点眼内レンズ摘出交換によりコントラスト感度が改善した緑内障の1例

著者: 干川里絵 ,   飯田嘉彦 ,   飯島敬 ,   庄司信行

ページ範囲:P.967 - P.973

要約 目的:回折型多焦点眼内レンズ(IOL)摘出交換後に,コントラスト感度が改善した緑内障眼の1例を経験したので報告する。

症例:48歳,女性。両眼に原発開放隅角緑内障を認め,現在点眼治療中である。右眼の水晶体再建術,線維柱帯切開術を前医にて施行,回折型多焦点IOLを挿入しており初回手術後にYAGレーザーを施行していた。初回手術後の視力不良に対してセカンドオピニオン目的にて北里大学病院を受診した。前医での白内障手術前の視力は右0.04(0.7×−6.50D()cyl−0.50D 80°)で,当院初診時の視力は右遠方(0.15p×IOL)(0.6×−1.00D()cyl−2.00D 170°=IOL)であった。眼圧はゴールドマン眼圧計で右18mmHg。当院でのハンフリー視野計SITA Standard 24-2のmean deviation値は右眼−15.75dB,中心窩閾値は26dBであった。コントラスト感度は明らかに右眼が低下していた。右眼はスリーピースの回折型多焦点IOLが囊外固定されており,大きな後囊切開を認めた。IOLの摘出交換の方針となり右眼を単焦点IOLに交換した。IOL摘出交換後の矯正視力は0.7で,コントラスト感度も改善し,自覚的にも違和感は改善した。

結論:回折型多焦点IOL摘出交換後にコントラスト感度の改善を認めた緑内障眼の症例を経験した。中心視野障害を有する眼に対する多焦点IOLの使用は視機能を著しく低下させる可能性がある。

角膜クロスリンキング治療の成績

著者: 柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   糸川貴之 ,   堀裕一

ページ範囲:P.974 - P.979

要約 目的:東邦大学医療センター大森病院(当院)における進行性円錐角膜に対するパルスモード併用高速経上皮角膜クロスリンキング治療の術後6か月の治療成績について検討する。

対象および方法:当院にて円錐角膜の進行が認められ,パルスモード併用高速経上皮角膜クロスリンキング治療施行後6か月以上経過した12例13眼を対象とした。術式は角膜上皮を剝離しない経上皮法とし,長波長紫外線を照射強度45mW/cm2,パルス照射を用いて照射時間5分20秒に設定した高速法とした。術前,術後1か月,3か月,6か月の矯正logMAR視力,等価球面度数,最大角膜屈折力,平均角膜屈折力,強主経線上角膜屈折力,最小角膜厚,角膜内皮細胞密度,有害事象についてレトロスペクティブに検討した。

結果:矯正logMAR視力は,術前0.31±0.53から術後6か月0.24±0.38と改善を認めたが有意差はなかった(p>0.05)。等価球面度数は,術前−4.26±4.72Dから術後6か月−3.89±3.89Dと有意な変化はなかった(p>0.05)。最大角膜屈折力は,術前61.07±13.32Dから術後6か月60.07±10.84D,平均角膜屈折力は,術前49.0±6.71Dから術後6か月48.95±6.59D,強主経線角膜屈折力は,術前51.81±8.94Dから術後6か月51.22±7.59Dと有意な変化はなく(p>0.05),円錐角膜の進行を認めなかった。また術後全期間において,角膜の菲薄化や角膜内皮細胞密度の減少は認めず,感染症や角膜びらんなどの重篤な合併症はなかった。

結論:パルスモード併用高速経上皮角膜クロスリンキング治療では術後6か月における重篤な合併症はなかった。

今月の表紙

色素性傍静脈網脈絡膜萎縮

著者: 久保保乃花 ,   林淳子 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.955 - P.955

 症例は65歳,男性。約25年前に網膜変性を指摘され,以降眼科を受診していなかったが,数年前より続く視力低下で当院を受診した。初診時の視力は右(0.2),左(0.15)であり,前眼部は白内障以外に特記事項なく,眼底には両眼の網膜静脈の走行に一致して骨小体様の黒色色素沈着ならびに網膜色素上皮の萎縮を認めた。また,両眼に黄斑上膜ならびに網膜浮腫,黄斑分離を認め,視力低下の原因と考えられた。鑑別のため,採血を施行するも梅毒や結核,サルコイドーシスなどの感染や炎症性疾患は否定的であり,網膜電図では桿体・錐体ともに振幅低下を認めた。視野検査では,萎縮部位に一致して視野欠損していた。以上から色素性傍静脈網脈絡膜萎縮と臨床的に診断した。網膜浮腫に対してアセタゾラミド内服およびブリンゾラミド点眼で,現在自覚症状は改善傾向にある。

 散瞳型眼底カメラは白内障の影響を大きく受けたため,本撮影には走査型超広角眼底撮影装置ZEISS CLARUS 700(Carl Zeiss社)を使用した。この写真は,正面と4象限の5枚の写真をモンタージュしている。正面撮影では中心にフォーカスを合わせ,周辺部撮影では中心よりも周辺にフォーカスを合わせて撮影することで,眼底の広範囲にフォーカスが合った写真となった。また,撮影後にはコントラストの編集などは行っていないが,病変部と網膜のコントラストが高く,印象深い写真となった。

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目次

ページ範囲:P.946 - P.947

欧文目次

ページ範囲:P.948 - P.949

第41回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.961 - P.961

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1079 - P.1081

アンケート用紙

ページ範囲:P.1086 - P.1086

次号予告

ページ範囲:P.1087 - P.1087

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 ポストコロナ時代の眼科の変化について考えていますが,雑誌編集という仕事に関していえば,ChatGPTによる生成型人工知能の影響が大きくなることは確実でしょう。ということで,ChatGPTを使って,本号のあとがきを作ってもらいました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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