icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻9号

2023年09月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

角膜穿孔を生じたビタミンA欠乏による角膜軟化症の1例

著者: 奥田聖瞳 ,   原和之 ,   吉鷹真理子 ,   寺田佳子

ページ範囲:P.1125 - P.1128

要約 目的:自閉スペクトラム症に伴う摂食障害によるビタミンA欠乏が原因の角膜軟化症・角膜穿孔の症例を経験したので報告する。

症例:13歳,男児。両眼の結膜充血,眼をよく擦るため近医で抗菌薬や副腎皮質ステロイドなどの点眼・軟膏治療を受けたが改善しなかった。同時期より栄養不良を疑われており,精査のため広島市民病院を紹介された。発達障害により視力検査は測定不能であった。両眼角膜上皮障害と右眼角膜穿孔を認め,採血でビタミンAは5IU/dL未満(基準値:27.2〜102.7),レチノール結合蛋白は0.3mg/dL(基準値2.7〜6.0)であり,右眼ビタミンA欠乏性角膜軟化症と診断した。点眼・軟膏は右眼のみ継続とし,ビタミン剤の全身投与を開始したところ角膜上皮障害は改善した。ビタミン剤の全身投与開始1か月後,血中レチノール結合蛋白は3.4mg/dLに改善した。しかし,左眼に角膜潰瘍を発症したため点眼・軟膏を投与したところ,発症1か月後には改善した。

結論:角膜軟化症は日本国内では非常に稀であるが,偏食や摂食障害により発症する可能性がある。進行すると不可逆的な視機能障害をきたすため注意が必要である。

低加入度数分節型眼内レンズ挿入後の視力不良例にNd-YAGレーザーによる前囊放射状切開が奏効した1例

著者: 小野恭子 ,   細川満人 ,   岡野内俊雄

ページ範囲:P.1129 - P.1133

要約 目的:低加入度数分節型眼内レンズ(IOL)のレンティス コンフォート®挿入後の視力不良例において,前囊収縮を認め,Nd-YAGレーザーによる放射状の前囊切開を行い,視力が改善した1例を経験したので報告する。

症例:81歳,女性。2021年に白内障手術目的で当院を紹介され受診した。両眼とも−3.0Dの軽度近視であり,強度の乱視や高次収差はなかった。白内障以外の眼疾患は認めなかった。IOLは両眼ともレンティス コンフォート®を選択して挿入した。術後1週の視力は右0.9(1.0),左0.6(0.7p),術後2カ月の視力は右1.5p(矯正不能),左0.6(0.7)と,左眼は裸眼・矯正視力ともに不良であった。散瞳検査で左眼のみに明らかな前囊収縮を認めた。前眼部光干渉断層計(CASIA® 2:TOMEY)でIOL偏心量の指標であるdecentration値が右0.14mm,左0.27mmと,左眼でやや高値を示したものの正常範囲であった。前囊収縮による眼内収差の増大が視力不良の一因の可能性を考え,Nd-YAGレーザーで放射状に前囊切開したところ,1週後の左視力は1.0(1.2)に改善し,decentration値は0.20mmとなった。10か月後の左視力は(1.0),decentration値は0.16mmであった。

結論:レンティス コンフォート®挿入眼における術後視力不良症例において前囊収縮を認める場合には,Nd-YAGレーザーによる前囊放射状切開を行うことで眼内収差が軽減され,視力の向上が期待できる可能性がある。

COVID-19陽性の裂孔原性網膜剝離3例に対する手術経験

著者: 熊崎茜 ,   星山健 ,   富原竜次 ,   北原潤也 ,   家里康弘 ,   平野隆雄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1134 - P.1141

要約 目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下では,治療だけではなく,医療従事者への感染予防を行ったうえで診療体制を維持することも求められる。今回,術前にCOVID-19陽性が確認された裂孔原性網膜剝離(RRD)手術症例を3例経験したので報告する。

症例1:21歳,男性。各種眼科検査と診察が終了した後にCOVID-19陽性が判明。担当医を含む複数名が濃厚接触者となった。手術部とは事前にゾーニングなどの術中感染対策を検討していたため,同日中に全身麻酔下で網膜復位術を施行。

症例2:58歳,女性。他院からCOVID-19陽性RRDのため手術依頼あり。院内感染対策室,呼吸器内科と連携し,翌日当院へ転院搬送。来院時より十分な感染対策を行い,局所麻酔下で硝子体手術を施行。濃厚接触者は発生しなかった。

症例3:28歳,女性。数か月前から視機能低下を自覚。網膜下索状物を伴うRRDで,全身麻酔下での網膜復位術を後日予定するも,同居家族からCOVID-19に感染。隔離期間終了後に網膜復位術を全身麻酔下で施行。全例で医療従事者への感染は確認されず,術後良好な経過が得られた。

結論:COVID-19流行下ではRRD患者がCOVID-19陽性である可能性を念頭に置き,術前から医療従事者が感染対策を行い,各部署と連携して適切な時期に手術加療を行うことが重要である。

瞳孔記録計が診断と治療効果の観察に有用であった抗MOG抗体陽性の小児視神経周囲炎の1例

著者: 名和賢斗 ,   平井宏昌 ,   西智 ,   萬代恵美 ,   榊原崇文 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.1142 - P.1146

要約 目的:瞳孔記録計による評価が有用であった小児の抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体陽性視神経周囲炎の症例を報告する。

症例:左眼の急激な暗黒感,視力低下を呈した8歳の女児。矯正視力は右1.2,左50cm手動弁で,左相対的瞳孔求心路障害(RAPD)陽性であった。中心フリッカ値(CFF)は右45Hz,左測定不能であった。検眼鏡的に眼底および視神経に明らかな異常所見はなかった。瞳孔記録計(RAPDx®)にて,左眼のRAPD amplitude scoreは5.12と高値を示した。頭部MRIでは脂肪抑制画像で左視神経周囲炎を示唆する左視神経周囲の高信号を認めたが,視神経に異常信号はなかった。T2強調画像にて右側頭葉白質,右後頭葉白質と脊髄中心管の灰白質に高信号を認めた。抗MOG抗体は血清・髄液ともに陽性であった。左視神経周囲炎,右側頭葉・後頭葉白質病変,脊髄病変を有する抗MOG抗体関連疾患と診断し,ステロイドパルス療法を施行した。

結果:第15病日には左矯正視力0.6,CFF 20Hz,RAPD amplitude score 0.42と視機能の改善を認めた。ステロイド内服を継続し,第115病日に左矯正視力1.5,CFF 50Hz,RAPD amplitude score 0.2まで改善した。

結論:小児の視神経周囲炎において,瞳孔記録計は診断だけでなく治療経過の指標にも有用であった。

Qスイッチアレキサンドライトレーザーによる黄斑円孔に対し硝子体手術を施行した1例

著者: 木村優 ,   阿部謙太郎 ,   橋本りゅう也 ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.1147 - P.1151

要約 目的:アレキサンドライトレーザーによる外傷性黄斑円孔に対して硝子体手術を施行し,視機能改善を認めた症例を報告する。

症例:40歳,女性。職業は美容クリニックの看護師。アレキサンドライトレーザーを清掃中に右眼に誤照射し,直後より霧視を自覚した。前医を受診し,硝子体出血を認めたためプレドニゾロン内服が開始となり,精査加療目的に受傷14日目に当科を受診した。初診時の右眼の視力は(0.3)で,光干渉断層計では横径545μm,縦径198μmの黄斑円孔と黄斑円孔耳側に白斑を認めた。自然閉鎖を期待したが,視力と黄斑円孔のサイズに改善を認めなかったため,受傷42日目に水晶体再建術併用硝子体手術を行った。内境界膜(ILM)を剝離し,ILM翻転法により黄斑円孔を被覆し,硝子体腔を20%SF6ガスで置換した。

結果:黄斑円孔は閉鎖し,術後12か月間で視力は(0.8)まで改善した。歪視はMチャート上,垂直方向は0.5から0.2,水平方向は0.8から0.5まで改善した。

結論:Qスイッチアレキサンドライトレーザーによる外傷性黄斑円孔では,水晶体再建術併用硝子体手術とILM翻転法により視機能が回復する可能性が考えられた。

軽度の衝撃で金属片が深部脈絡膜下にまで到達した眼内異物の1例

著者: 松本大蔵 ,   新井悠介 ,   月井里香 ,   長岡広祐 ,   坂本晋一 ,   髙橋秀徳 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.1152 - P.1156

要約 目的:軽度の衝撃で脈絡膜深部まで金属片が刺入した眼内異物の1例を経験したので報告する。

症例:21歳,男性。倉庫内で右眼を何かに軽くぶつけたが,大事とは感じず医療機関を受診しなかった。しかし,軽度の眼痛が持続するため翌日に前医を受診した。眼底に白色病変と網膜前出血を認め,頭部CTで眼内異物が疑われ当科へ紹介され受診となった。初診時の右視力は(0.9)で,眼圧は右16mmHg,左17mmHgで左右差はなかった。右眼は浅前房と結膜浮腫を認め,角膜7時方向に裂創を認めるもSeidel試験は陰性であった。眼底は上方アーケード血管近傍に網膜下白色病変と9時方向に後極から周辺部にかけて網膜前および網膜下出血を認めたが,明らかな異物はなかった。頭部CTで高吸収の眼内異物を疑う所見を認め,当日緊急手術を行った。硝子体手術で網膜前出血を取り除くと,鋸状縁から白色病巣へ向けて網脈絡膜が断裂していた。同部位と白色病変内を探索したが異物は発見できず,シリコーンオイルに置換し終了とした。しかし,術後の頭部CTで眼内異物を疑う所見が残存しているため,術後1か月に再手術を行った。白色病変の脈絡膜深部まで慎重に探索したところ,茶褐色の異物を認めた。摘出した異物は,長径3mmの円柱状の金属片であった。

結論:軽度の衝撃でも後極の脈絡膜深部まで異物が刺入する可能性があり,慎重な異物探索が必要である。

春季カタル様病変を呈したIgG4関連眼疾患の1例

著者: 池田史子 ,   大島喜八 ,   中里洋一 ,   山﨑郁郎

ページ範囲:P.1157 - P.1164

要約 目的:眼瞼腫瘤を生じたIgG4関連眼疾患の1症例の報告。

症例:52歳男性が,抗アレルギー点眼薬で結膜炎が改善せず受診。両側上下眼瞼結膜は充血し,春季カタル様の石垣状増殖組織があった。結膜の塗抹顕鏡で好酸球と好中球を検出し,増殖組織の病理検査では慢性結膜炎で,春季カタルに矛盾のない結果であった。免疫抑制薬とステロイドの点眼薬を追加し,結膜炎は改善した。その後,両側下眼瞼結膜の肥厚と眼瞼腫瘤を生じて再診した。点眼薬再開後も両側下眼瞼の腫瘤は改善せず,右下眼瞼の腫瘤の一部を摘出し,病理組織検査を行った。病理所見と高IgG4血症からIgG4関連眼疾患と確定診断した。ステロイド内服投与にて眼瞼腫瘤は消失した。以前採取した石垣状の眼瞼結膜増殖組織を再検査したところ,病理組織学的にIgG4関連眼疾患の診断基準を満たしていた。

結論:若年症例ではない春季カタル様の結膜増殖組織では,IgG4関連眼疾患の可能性がある。

ビタミンA欠乏症による夜盲の治療後にinterdigitation zoneの伸長がみられた1例

著者: 野坂光司 ,   冨田遼

ページ範囲:P.1165 - P.1169

要約 目的:ビタミンA欠乏による夜盲に対する治療後に,症状・網膜電図(ERG)波形の改善とともにinterdigitation zone(IZ)の伸長がみられた1例の報告。

症例:41歳,男性。多発性骨髄腫に対する化学療法中に夜盲を発症し眼科を受診した。初診時視力は右(1.0),左(1.0),ERGでは杆体応答はほぼ消失していた。光干渉断層計(OCT)では両眼にIZの不明瞭化がみられ,縦方向のBスキャン画像から確認されるIZ長は右1,172μm,左1,542μmであった。血清中のビタミンAは64IU/dL(基準値:97〜316IU/dL)と基準値以下であったことから,ビタミンA欠乏症による夜盲と診断し,ビタミンA製剤5,000単位の内服を開始した。治療開始1か月後には自覚症状は改善し,ERGでは杆体応答の改善がみられた。OCTではIZが明瞭化し,IZ長は右2,112μm,左2,586μmと伸長がみられた。治療開始3か月後には血清ビタミンAは302IU/dLとなり,IZ長は右2,839μm,左2,534μmと改善を維持していた。

結論:OCTでのIZの観察が,ビタミンA欠乏症の治療における指標となる可能性が示唆された。

診断に苦慮した悪性黒色腫関連網膜症の1例

著者: 中川直哉 ,   田中公二 ,   小野江元 ,   森隆三郎 ,   中静裕之

ページ範囲:P.1171 - P.1177

要約 目的:悪性黒色腫関連網膜症(MAR)の本邦での報告は稀である。今回,経過中に片眼の陰性b波が両眼の陰性b波に変化した症例を経験したので報告する。

症例:58歳,男性。1週間前より右眼の霧視,夜間の羞明,光視症を主訴に近医を受診。原因精査目的に当院を紹介され受診となった。既往歴はなし。初診時の矯正視力は両眼1.0,細隙灯顕微鏡検査では異常所見はなく,眼底も検眼鏡では異常を認められなかった。

所見:蛍光眼底造影検査では症状に関係する明らかな異常所見は認めず,動的視野検査においては右眼にマリオット盲点の拡大がみられた。電気学的検査では,多局所網膜電図(ERG)では症状のある右眼ではなく左眼に振幅低下がみられ,全視野ERGでは右眼に陰性b波がみられた。症状を説明できる所見が得られなかったため,改めて本人に病歴聴取を行ったところ寛解状態である足底部悪性黒色腫の既往があることがわかった。皮膚科に再精査を依頼したところ,悪性黒色腫の肺転移が見つかり,臨床的にMARと診断した。その後,経過中に右眼のみに生じていた陰性b波が左眼にも生じた。

結論:悪性黒色腫の病歴聴取ができなかった場合でも,ERGにて片眼の陰性b波を認めた際には,MARを鑑別する必要がある。

ブラッドパッチ治療によって改善した交通外傷後の調節麻痺の1例

著者: 土野圭 ,   禅野誠 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1178 - P.1183

要約 目的:交通外傷後に複視・調節麻痺を主訴に受診し脳脊髄液漏出症と診断され,ブラッドパッチ治療を実施し,症状が改善した症例を経験した。

症例:14歳の女児が自転車で走行中に乗用車と衝突し,ボンネットに跳ね上げられ受傷した。頭部CTで異常を認めず経過観察となっていたが,受傷約1週間後から立体感の異常,ぼやけ,複視,頭頸部痛,めまい,聴覚異常,頭痛を自覚し,精査加療のため当院を紹介され受診となった。

所見:初診時,両眼矯正視力は右1.2,左1.2であり,前眼部・中間透光体・眼底に明らかな異常は認められなかった。アコモドメーターで調節緊張と調節力の低下を認めた。両眼単一注視野検査では上方視での複視を認めた。眼窩下壁骨折はCT画像上認めなかったものの,上方複視症状からwhite-eyed blowout fractureが疑われ,受傷54日目に右眼窩下壁骨折整復術を施行し複視は改善した。その後,脳脊髄液漏出症が判明し,受傷142日目にブラッドパッチ治療を実施した。ブラッドパッチ治療から1か月後の再診時には調節麻痺が改善し,不定愁訴も改善していた。

結論:交通外傷による眼外傷や頭部外傷後に複視や調節麻痺,その他の不定愁訴を訴えるものの原因がはっきりしない場合,脳脊髄液漏出症の可能性も念頭に置き精査する必要がある。

JCHOりつりん病院における眼瞼下垂症術前スクリーニング検査の検討

著者: 坊岡阿紀 ,   平場真優 ,   上枝舜治 ,   山田武叶 ,   鈴間潔 ,   藤村貴志

ページ範囲:P.1185 - P.1189

要約 目的:JCHOりつりん病院では眼瞼下垂症の術前検査として抗アセチルコリン受容体抗体検査と甲状腺機能検査を行っている。今回,筆者らは過去の検査結果を検討し,その必要性と重要性について考察したので報告する。

対象と方法:調査期間は2008年1月1日〜2022年2月18日。対象は眼瞼下垂を主訴に当院に来院し,抗アセチルコリン受容体抗体と甲状腺機能(TSH,FT3,FT4)の両方のスクリーニング検査を受けた患者とした。対象者は947人であった。

結果:抗アセチルコリン受容体抗体の陽性者は38人(4.0%)であり,重症筋無力症の治療のみで眼瞼下垂が軽快したのは18人であった。うち1人は胸腺腫を認め,胸腺腫摘出術後に眼瞼下垂は軽快した。甲状腺ホルモン値に異常があったのは81人(8.6%)であった。原疾患治療のみで眼瞼下垂が軽快したのは1人であった。この症例は橋本病による原発性甲状腺機能低下症と診断され,甲状腺ホルモン補充療法開始後に眼瞼下垂は軽快した。

結論:件数は少ないものの重症筋無力症や甲状腺疾患の早期発見だけでなく,適応のない手術を回避することができた。眼瞼下垂症の術前に同検査を行うことは有用と考えた。

急性閉塞隅角症におけるチン小帯障害症例の臨床的特徴

著者: 武市有希也 ,   田邉晶代 ,   廣田吉満 ,   玉垣瑛 ,   山川百李子 ,   宮原晋介

ページ範囲:P.1191 - P.1196

要約 目的:急性閉塞隅角症におけるチン小帯障害の臨床的特徴について検討する。

対象と方法:2017年1月〜2022年1月に当科を受診した急性閉塞隅角症31例36眼を対象とした後ろ向き観察研究。初期薬物治療後,一期または二期的に白内障手術を行った34眼について,術中毛様体小帯障害の程度と,眼内レンズ(IOL)の固定方法に応じてチン小帯障害高リスク群(18眼)と低リスク群(16眼)に分類し,背景因子および術前の超音波生体顕微鏡または前眼部光干渉断層計による隅角所見,中央前房深度(ACD),眼軸長について比較検討した。

結果:術中チン小帯障害を認めたものは34眼中27眼,うち12眼がIOL縫着に至った。毛様体小帯断裂の最好発部は耳側であった。チン小帯障害高リスク群の18眼中8眼で,外傷歴,落屑症候群,隅角所見の部位差のいずれかを認めていた。また発作解除前の状態では,高リスク群では低リスク群に比較してACDは有意に浅く(1.21mm vs 1.46mm),僚眼とのACD差(1.05mm vs 0.33mm)および眼軸長(23.8mm vs 22.2mm)に有意差を認めた。

結論:急性閉塞隅角症眼においては,チン小帯障害の可能性を念頭に置いて治療にあたる必要がある。チン小帯断裂を示唆する所見として,高度の浅前房,僚眼とのACD差,眼軸長の評価が有用と考えられる。

緑内障に対する経強膜的マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-TSCPC)の術後成績

著者: 楠田将一朗 ,   平井鮎奈 ,   權守真奈 ,   沼尾舞 ,   石塚匡彦 ,   忍田栄紀 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1197 - P.1202

要約 目的:経強膜的マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-TSCPC)を緑内障患者に施行し,その術後成績を報告する。

対象と方法:対象はMP-TSCPCを施行し術後6か月以上経過観察ができた45例50眼(67.5±13.4歳)で,原因疾患は原発開放隅角緑内障(38眼),落屑緑内障(5眼),血管新生緑内障(3眼),続発緑内障(3眼)および高眼圧症(1眼)であった。術前後の眼圧,視力,点眼・内服スコアならびに合併症についてレトロスペクティブに調査した。

結果:20眼(40%)では術後6か月以内に眼圧コントロール不良のため追加手術を施行し(追加群),30眼(60%)では追加手術を行わなかった(非追加群)。非追加群の術前,術後1週,1,3および6か月の眼圧は,それぞれ20.3±4.3,13.4±4.6,15.5±4.6,16.9±4.1および18.2±6.0mmHgであり,術前に比較して術後1か月および3か月で眼圧が有意に低下した(p<0.05)。視力,点眼・内服スコアは術後に変化しなかった。追加群では非追加群に比較して術前眼圧が高く(p<0.0005),緑内障手術の既往が多かった(p<0.005)。術後合併症として,瞳孔の軽度散大を41眼(82%)に認めたが,術後6か月でほぼ消失した。

結論:MP-TSCPCによって約半数の症例で眼圧下降が得られた。しかし,その眼圧下降効果は短期間であった。術前の眼圧と緑内障手術歴は適応症例を選択するうえで,重要な基準となる可能性がある。

白内障手術後の眼精疲労に対する0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼の治療効果

著者: 桑原直杜 ,   貝田智子 ,   徳永忠俊 ,   川守田拓志 ,   神谷和孝 ,   宮田和典

ページ範囲:P.1203 - P.1208

要約 目的:白内障術後の眼内レンズ(IOL)挿入眼で眼精疲労を自覚する症例をしばしば経験する。有水晶体眼では調節安静位の屈折値の変動(調節微動)が大きい眼精疲労に対して,0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼が有効であることが報告されている。今回,白内障手術後の眼精疲労に対する0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼治療の効果を後ろ向きに検討した。

対象と方法:白内障手術後に長期間持続する,原因が特定できない眼精疲労を自覚し,調節微動が大きい患者を対象とした。調節微動はアコモレフSpeedy-“i”(ライト製作所)を用いて高周波成分(HFC)の出現頻度を測定した。治療は0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼を両眼就寝前1回点眼とした。点眼開始日および評価判定日に,調節微動と,問診による眼精疲労の自覚症状の評価を行った。

結果:症例は6例(男性3例,女性3例)11眼,平均年齢は68.8±5.4歳で,IOLは単焦点を4眼,多焦点を7眼(2焦点2眼,3焦点5眼)に挿入した。点眼開始日は白内障手術後平均6.8±3.0か月,評価判定日は点眼開始後平均1.7±1.2か月であった。点眼開始日に全眼で高値HFCを認め,評価判定日に全眼で高値HFCの減少を認めた。自覚症状の改善があったのは6例中4例(67%)であり,すべて多焦点IOLであった。

結論:白内障手術後のIOL挿入眼の眼精疲労は,0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼で改善する可能性がある。

白内障・硝子体手術同時施行例における術後屈折誤差の検討

著者: 友寄英士 ,   藤澤邦見 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1209 - P.1213

要約 目的:白内障・硝子体同時手術における屈折誤差を調査する。さまざまな眼底疾患を含めた調査を行い,眼底疾患別の屈折誤差の傾向を検討する。

対象と方法:2020年4月〜2021年3月の間に昭和大学病院附属東病院で行った,白内障・硝子体手術同時施行例のなかで,術後半年の矯正視力0.5以上ある症例を対象とする。症例の内訳は裂孔原性網膜剝離(RRD)55眼(黄斑非剝離31眼,黄斑剝離24眼),網膜前膜(ERM)47眼,硝子体出血(VH)23眼,黄斑円孔(MH)14眼の計139眼であった。術後1か月後の屈折誤差をレトロスペクティブに検討した。

結果:±0.5D未満の屈折誤差となった症例の割合は全体では54.6%,個別の疾患ではRRD50.9%,ERM68.0%,VH52.1%,MH35.7%であった。平均屈折誤差は全体では−0.48±0.68D,個別の疾患ではERM−0.30±0.60D,RRD−0.61±0.77D,VH−0.46±0.61D,MH−0.56±0.64Dであった。各群の精度,平均屈折誤差に有意差は認めなかった。RRDやMHといった液空気置換をする疾患としない疾患に分けた場合,液空気置換ありが82眼,なしが53眼であった。±0.5D未満の屈折誤差となった症例の割合は,ガスタンポナーデあり群が48.8%,なし群が64.9%であった。平均屈折誤差は,液空気置換あり群が−0.59±0.72D,なし群が−0.32±0.60Dであり,平均屈折誤差に関しては有意差を認めた。

結論:±0.5D未満の屈折誤差,平均屈折誤差で検討した場合,疾患ごとの比較で有意差を認めなかった。液空気置換の有無で検討した場合,液空気置換をした症例のほうがしなかった症例に比べて,有意に近視化した。

今月の話題

小児緑内障に対する外科的治療アップデート

著者: 結城賢弥

ページ範囲:P.1098 - P.1105

 小児緑内障に対しては原則,手術治療が第一選択となるとされている。近年,緑内障手術は多様化し,小児緑内障手術の基本である線維柱帯切開術でも選択肢が多様化している。また,濾過手術も同様である。本総説では,小児緑内障に対して多様化した緑内障手術の選択に関して筆者の経験を交えながら解説する。

臨床報告Selected

カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ®配合点眼液)の使用実態下における安全性と有効性—特定使用成績調査の最終解析結果報告

著者: 山本哲也 ,   真鍋寛 ,   鈴江京子 ,   冨島さやか ,   山重裕子

ページ範囲:P.1107 - P.1118

要約 目的:カルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を含有するミケルナ®配合点眼液(以下,本剤)を,緑内障または高眼圧症の患者に使用実態下で2年間長期投与した際の安全性と有効性を検討した。

対象と方法:全国66施設において,本剤が初めて投与された緑内障または高眼圧症の患者を対象として特定使用成績調査を実施した。2017年4月〜2021年3月に調査票が回収された317例のうち,312例を安全性解析対象,299例を有効性解析対象とした。投与継続率,副作用の発現状況,眼圧の推移,視野障害の悪化有無,視野検査結果および前眼部所見の推移について評価した。

結果:投与継続率は1年後が84.6%,2年後が77.0%で,良好であった。副作用は312例のうち56例(17.95%)に発現し,主なものは視野欠損および角膜障害が各13例,眼瞼炎が5例,眼瞼色素沈着,結膜充血および視野検査異常が各4例,点状角膜炎および霧視が各2例などであった。重篤な副作用に関して,本剤投与以外の要因が考えられないものとして血圧低下と期外収縮が同一症例でみられたが,投与中止により回復した。投与前の眼圧15.3±4.0mmHg(平均±標準偏差)に対して,2年後まで眼圧の下降傾向がみられ,24か月後の下降値は1.7±2.5mmHgで統計学的に有意であった(p<0.0001)。前眼部所見がみられた割合は投与前20.2%,最終評価時16.0%であり,本剤投与中に低下した。

結論:本剤の2年間の長期投与において投与継続率が良好であり,安全性の面で臨床的に特に問題となる点はみられなかった。また,統計学的に有意な眼圧下降も確認された。

連載 Clinical Challenge・42

カラーソフトコンタクトレンズによる角膜障害

著者: 重安千花

ページ範囲:P.1095 - P.1097

症例

患者:32歳,女性

主訴:右眼の痛み

現病歴:以前より両眼の軽度の充血,違和感があった。ここ1週間程度,右眼の痛みが生じ,市販の点眼薬で改善しないため受診した。

既往歴:頻回交換型カラーソフトコンタクトレンズ(SCL)を使用している。

臨床報告

小児の特発性動眼神経麻痺の1例

著者: 平井真理子 ,   西脇弘一

ページ範囲:P.1119 - P.1124

要約 目的:小児の特発性動眼神経麻痺を経験したので報告する。

症例:患者は4歳,男児。起床時に複視を自覚し,近医を受診したところ外斜視を指摘され,精査目的に当院を紹介され受診した。

所見:視力は右(1.0),左(0.9)。左眼は散瞳固定で対光反射は消失しており,調節障害を認めた。右眼を固視眼とする外斜視を認めたが,明らかな眼球運動制限は確認できなかった。感冒症状などの前駆症状はなく,血液検査や画像検査では原因を特定できなかった。無治療で経過観察を行い,徐々に内転・下転障害と外・上斜視の増悪を認めたが,発症14日後より改善傾向を認めた。輻湊を除き眼球運動障害はほぼ消失したが,瞳孔径・対光反射の左右差や調節障害は残存し,羞明の後遺症を生じた。

結論:小児の特発性動眼神経麻痺は稀な疾患であり,確立した治療法はない。比較的予後が良いとの報告があるが,後遺症を残す症例もあり,治療・予後についてはさらなる検討を要する。

今月の表紙

水晶体亜脱臼

著者: 卯木伸介 ,   髙橋次郎 ,   稲谷大

ページ範囲:P.1106 - P.1106

 症例は30歳,女性。近医にて両眼の円錐角膜による視力低下を指摘され,精査目的で当院へ紹介され受診となった。眼外傷やアトピー性皮膚炎の既往はなかった。初診時視力は右0.05(0.9×−8.0D()cyl−5.0D 60°),左0.1(1.0×−5.5D()cyl−3.50D 165°),眼圧は右13mmHg,左16mmHg。細隙灯顕微鏡検査で,両眼の軽度の円錐角膜に加え,右眼の8〜1時部の水晶体赤道部にチン小帯断裂と,これに伴う水晶体亜脱臼所見が認められた。眼底には網膜剝離はみられなかった。視機能の改善目的から外科的治療が考えられたが,患者本人が妊娠中であったこと,水晶体亜脱臼の進行がなく硝子体脱出もみられず,矯正視力も保たれていることなどから,しばらく経過観察になった。

 今回の写真撮影には,トプコン社製スリットランプSL-D7にニコン社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。撮影は散瞳下で,倍率16倍,スリット長14mm,幅10mm,背景照明なしで行った。チン小帯付着部の水晶体赤道部付近にピントを合わせ,断裂したチン小帯部の状態を描写できるように,斜照明で耳側からスリット光を当て撮影した。

--------------------

目次

ページ範囲:P.1090 - P.1091

欧文目次

ページ範囲:P.1092 - P.1093

第41回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1184 - P.1184

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1214 - P.1217

アンケート用紙

ページ範囲:P.1222 - P.1222

次号予告

ページ範囲:P.1223 - P.1223

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.1224 - P.1224

 「臨床眼科」9月号の表紙写真は,水晶体亜脱臼症例の細隙灯写真です。撮影者はチン小帯付着部の水晶体赤道部にピントを合わせることで,チン小帯断裂の病態を見事に描出するのに成功しています。

 さて,本誌には,第76回日本臨床眼科学会講演集の7回目として学会原著15報の論文に加えて,「今月の話題」では名古屋大学の結城賢弥先生による「小児緑内障に対する外科的治療アップデート」が掲載されています。ご自身の経験を交えながら多くの関連論文をレビューしつつ,コンパクトに小児緑内障の診療についてまとめてあるので一読することをお勧めします。また,「臨床報告Selected」が2年ぶりに掲載され,海谷眼科の山本哲也先生らにより,ミケルナ®配合点眼液の,緑内障または高眼圧の患者にリアルワールドで2年間投与した際の安全性と有効性の調査結果が紹介されています。同配合点眼液はわが国オリジナルの点眼薬であり,世界的にも重要な知見が含まれている点で学術的な価値の高いお仕事です。さらに,佼成病院眼科/杏林大学眼科の重安千花先生からは,「Clinical Challenge」でソフトコンタクトレンズによる角膜合併症の教育的な症例が提示されていますし,好評の「イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー」では,京都府立医科大学の田中寛先生に後天性鼻涙管閉塞の実臨床について解説していただいております。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?