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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻10号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[8] 原著

超広角光干渉断層計により評価可能な網膜下隆起病変を呈した小児MPO-ANCA陽性強膜炎の1例

著者: 陶山宏 ,   髙橋良彰 ,   朱さゆり ,   平野隆雄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1213 - P.1219

要約 目的:網膜下隆起病変を呈した小児のミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)陽性強膜炎において,超広角光干渉断層計(OCT)での治療経過評価が有用であった1例を経験したので報告する。

症例:12歳,女児。左眼瞼腫脹,眼痛,結膜充血を主訴に近医を受診した。ベタメタゾン0.1%点眼およびレボフロキサシン1.5%点眼を処方されたが症状は改善せず,1か月後に前医に紹介され受診した。頭蓋内を含め精査されたが異常所見はなく,治療抵抗性なため全身疾患に伴う強膜炎を疑い信州大学医学部附属病院(以下,当院)に紹介され受診となった。視力は右(1.5),左(1.2),眼圧は右13mmHg,左15mmHgであった。強膜炎以外に前房内炎症,硝子体混濁,網膜滲出斑や出血などを認めなかった。眼底検査,眼底写真にて網膜下隆起病変が確認された。血液検査にてMPO-ANCA陽性であり,当院小児科にてMPO-ANCA陽性強膜炎と診断されプレドニゾロン(PSL)1mg/kg内服で治療を開始した。PSL投与後自覚症状の改善を認め,Xephilio OCT-S1の超広角OCTカラーマップでも網膜下隆起病変の著明な縮小が確認された。PSLを1年かけて漸減終了し,治療開始から2年後の現在再発なく経過している。

結論:小児のMPO-ANCA陽性強膜炎の1例を経験した。小児のMPO-ANCA陽性強膜炎の治療経過報告は少ないが,難治性強膜炎では鑑別疾患に入れる必要がある。本症例では網膜下隆起病変を認めた。超広角OCTは非侵襲的かつ簡便な検査であり,経時的に同じ部位の撮像ができるため,治療経過の評価に有効であったと考えられる。

運転外来における視野障害患者のドライビングシミュレータ事故と視線の動きの関連

著者: 深野佑佳 ,   國松志保 ,   平賀拓也 ,   岩坂笑満菜 ,   黒田有里 ,   桑名潤平 ,   椚順子 ,   伊藤誠 ,   溝田淳 ,   井上賢治

ページ範囲:P.1220 - P.1226

要約 目的:視野障害患者に,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(DS)を施行し,水平方向の視線のばらつきに影響する因子について検討した。

対象と方法:運転外来を受診した165例(平均年齢60.9±14.6歳)に対し,運転調査(1週間あたりの運転時間,運転目的,過去5年間の事故歴の有無),視力検査,ハンフリー視野検査,認知機能検査,DSを施行した。DS時の視線の動きは,据え置き型眼球運動計測装置(Tobii Pro X3-120,Tobii Pro Nano)にて測定し,5分間の全走行中の指標の水平x/垂直y座標の標準偏差(視線水平/垂直SD)から「視線のばらつき」を求めた。視線解析の信頼性が50%以上であった146名(平均年齢60.6±14.2歳)を対象に,視線のばらつきを,四分位数を用いて,視線のばらつきが大きかった上位群37例とばらつきが少なかった下位群37例に分類し,両群を比較検討した。

結果:DS事故数は,視線のばらつきが大きい上位群は,0.8±1.0件と,下位群(3.0±2.6件)よりも有意に少なかった(p<0.0001)。また,下位群は,上位群と比較して,視野障害度に差はないものの,年齢が高く(p<0.0001),女性が多く(p=0.005),認知機能が低く(p=0.009),視力不良眼の視力が悪かった(p=0.019)。上位群は,「視線の動きを止めないようにしている」「危険を予測している」など,運転時に注意をしている症例が多かった。

結論:視野障害患者では,運転時の視線の動きが事故と関連しているかもしれず,安全運転指導にあたり留意すべきである。

小児の涙道閉塞診療におけるCTの検討

著者: 平田三知花 ,   筒井紗季 ,   秋山雅人 ,   舩津治彦 ,   関瑛子 ,   藤井裕也 ,   山名佳奈子 ,   田邉美香 ,   吉川洋 ,   園田康平

ページ範囲:P.1227 - P.1232

要約 目的:小児の涙道閉塞に対して術前に施行した涙道造影CTの検討。

対象と方法:2020年4月〜2023年2月に九州大学病院で涙道内視鏡下で涙管チューブ挿入術を試みた小児のうち術前にCTを施行した27例(32側)を対象に,解剖学的構造,涙道造影の可否,骨性異常の有無について検討した。

結果:平均年齢(±標準偏差)は3.8±2.9歳,男児が14例(51.9%)であった。チューブ挿入術の成功率は93.8%(30/32側)であった。CTより軸位断での患側の鼻涙管の最小内腔径平均は3.0×4.1mm,矢状断での鼻涙管長平均は21.6±3.3mmであった。造影方法は点眼法が19例,注入法が4例であった。患側で造影できたのは点眼法,注入法ともに約50%と同程度だった。涙道閉塞の原因は,先天性鼻涙管閉塞24側(75.0%),後天性4側(12.5%),骨性異常3側(9.4%),鼻性1側(3.1%)であった。

結論:CTは術前に鼻性や骨性異常などの解剖学的情報を得られる有用な評価方法であるが,被曝のリスクを考慮し,個々の症例で慎重に必要性を検討する必要がある。

典型的検眼鏡的視神経所見を欠いたレーベル遺伝性視神経症の1例

著者: 塚本まどな ,   飯島康仁 ,   竹内正樹 ,   對馬崚 ,   塚本安彩寿 ,   立石守 ,   山田教弘 ,   壷内鉄郎 ,   水木信久

ページ範囲:P.1233 - P.1239

要約 目的:典型的な眼底所見に乏しく,診断に苦慮したレーベル遺伝性視神経症(LHON)の1例を経験したので報告する。

症例:48歳の男性が左眼の急速な視力低下を自覚し前医を受診した。前医の検査では明確な原因は特定されなかったが,その後右眼の視力も低下したため横浜市立大学附属病院(当院)を紹介され受診した。患者の家族歴に眼疾患はなく,また患者は30年近い喫煙歴を有していた。

所見:当院初診時の検査では,両眼で限界フリッカ値が低下していることが確認された。しかしながら,対光反応に異常はなく,眼底検査,血液検査,頭部MRI検査でも異常はなかった。造影剤アレルギーのため,蛍光眼底造影検査は行うことができなかった。臨床経過から視神経症の可能性が疑われたためLHON遺伝子検査を施行したところ,ミトコンドリアDNA14484番の変異が検出されLHONの診断が確定した。

結論:LHONは通常,急性期に視神経の検眼鏡的異常所見を呈することが一般的であるが,本症例では急性期から一貫してそのような異常所見はなかった。このような場合でも,中年男性で両側の視力低下が認められる場合はLHONを考慮すべきであると考えられた。

ステロイドパルス施行後に眼窩内膿瘍と細菌性眼内炎が明らかになった1例

著者: 磯本翔吾 ,   宮城清弦 ,   河野良太 ,   原田史織 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1241 - P.1245

要約 目的:眼窩内膿瘍と細菌性眼内炎を併発した1例の報告。

症例:37歳,生来健康な男性。右眼疼痛で近医を受診し,ぶどう膜炎の診断でステロイド内服を開始されるも,改善なく近医総合病院を紹介された。眼瞼腫脹,前房蓄膿・フィブリン析出,眼窩CTで外眼筋炎症を認め特発性眼窩炎症の診断でステロイドパルス3クールが施行されたが,その後も炎症増悪があり,長崎大学病院眼科を紹介され受診した。初診時の右視力は光覚弁,著明な前房内フィブリン析出,Bモードエコーで硝子体腔の蜂巣状所見,眼窩MRIで強膜菲薄化と同部に接した腫瘤形成を認め,強膜穿孔が疑われた。強力な免疫抑制下での増悪であったため感染性疾患を疑い,診断的治療として腫瘤部の試験切開を施行した。結膜を切開し眼球赤道部に進むと黄白色腫瘤を認め,被膜を切開すると大量の排膿を認めた。膿瘍を洗浄すると漿液の排出を認めたが,周囲組織の癒着が強く強膜穿孔部の同定は困難であった。培養で肺炎球菌が検出され,眼窩内膿瘍および細菌性眼内炎と診断した。抗菌薬の全身投与により感染制御を図るも経過中に光覚を消失し,根治的治療として眼球摘出術を施行した。

結論:ステロイド投与後に眼窩内膿瘍と細菌性眼内炎の進行を認めた症例を経験した。本症例では発症初期からステロイド内服が開始されており感染徴候がマスクされ診断の遅れにつながった可能性がある。ステロイドを使用するにあたり感染症の十分な鑑別が必要である。

白内障術後に発症した浸潤型副鼻腔真菌症による鼻性視神経症の1例

著者: 加藤大智 ,   横山康太 ,   禅野誠 ,   和田清花 ,   土野圭 ,   藤澤邦見

ページ範囲:P.1246 - P.1251

要約 目的:白内障術後の経過観察中であったため,浸潤型副鼻腔真菌症による鼻性視神経症と比較的早期に診断・加療され,視力予後良好であった1例を経験したため報告する。

症例:当科で右水晶体再建術を施行された89歳の男性。

所見:白内障術後7日より右視力低下を自覚し,術後9日の診察で右最高矯正視力(0.07)と術直後と比べ低下していた。細隙灯検査では明らかな異常所見はなく,動的視野検査で右中心〜上耳側視野障害,限界フリッカ値(CFF)の低下を認めた。画像検査では左副鼻腔炎,右の篩骨洞骨破壊所見を認めたため,耳鼻咽喉科にて副鼻腔手術を施行された。術中右視神経管の中枢側に骨融解様所見を認め,病理検査で左副鼻腔真菌塊様肉芽組織からAspergillus fumigatusが検出された。以上から左副鼻腔真菌症に伴う右浸潤型副鼻腔真菌症による鼻性視神経症と診断され,副鼻腔手術当日からアムホテリシンBで加療された。術後6か月までの経過観察で右視力は(1.2),視野,CFFも改善し,経過良好であった。

結論:浸潤型副鼻腔真菌症による鼻性視神経症により1〜2週間程度で急激な視機能障害をきたしたが,早期治療により良好な視機能改善を得ることができた症例を経験した。

小眼球を伴わないuveal effusion syndromeに対し硝子体手術を施行し網膜復位が得られた1例

著者: 佐坂開人 ,   石原健太郎 ,   中島浩士 ,   森本裕子 ,   井上亮 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.1253 - P.1258

要約 目的:小眼球を伴わないuveal effusion syndrome(UES)に対し硝子体手術単独で網膜復位が得られた1例を経験したので報告する。

症例:72歳,女性。1週間前より右視力低下を自覚し,大阪ろうさい病院初診時の視力は右0.07(矯正不能)であった。隅角形成不全に伴う緑内障に対し2年前に両眼に線維柱帯切除術を施行されていた。右後眼部は黄斑剝離を伴う下方の可動性に富む胞状網膜剝離と鼻側には脈絡膜剝離を認め,裂孔は確認できなかったため,小眼球を伴わないUESと診断し,硝子体手術を施行した。緑内障があり,結膜を温存するために強膜開窓術は併施しなかった。術後網膜復位が確認され,その後1年以上滲出液の再貯留を認めておらず,最終視力は右(0.6)であった。

結論:強膜開窓術の施行がためらわれるような真性小眼球を伴わないUESに対しては,初回治療として硝子体手術のみを施行することも選択肢の1つとなりうる。

強膜内固定(山根式フランジ法)後に眼内レンズの支持部が結膜から露出し眼内炎を生じた1例

著者: 柚木貢 ,   木全正嗣 ,   水口忠 ,   堀口正之 ,   伊藤逸毅

ページ範囲:P.1259 - P.1264

要約 目的:眼内レンズ(IOL)強膜内固定術の術後合併症として,IOL支持部の眼外露出による眼内炎が報告されているが,その数は少ない。今回筆者らはIOL支持部が結膜上に露出し,眼内炎に至った1例を経験したので報告する。

症例:60歳,男性。他院でX−3年10月に山根式フランジ法にて右IOL強膜内固定術を施行された。X−2年1月IOL支持部が結膜上に露出したため強膜内に再埋没されたが,同年5月には再露出していた。その後,通院を自己中断した。X年1月右眼痛にて近医を受診し,右眼内炎疑いで藤田医科大学病院(当院)を紹介され受診となった。当院初診時,右矯正視力は0.01,眼圧は29mmHgであった。IOL支持部は6時方向の結膜上に露出し前房蓄膿を認め,眼底は透見不良であった。同日硝子体切除術とIOL摘出術,抗菌薬硝子体内注射を実施した。摘出したIOL支持部には白色沈着物を認め,前房水からはStreptococcus pseudopneumoniaeが検出された。その後,抗菌薬の全身投与と3度の硝子体内注射を実施し,炎症は鎮静化した。術後3か月時点では,右矯正視力0.2,眼圧20mmHgで感染徴候はなかった。術後6か月時点でハードコンタクトレンズによる矯正を行い,右矯正視力は0.6まで改善した。

結論:本症例では山根式フランジ法の術後にIOL支持部が露出し,再埋没術が行われるも再露出により眼内炎が生じた。同様の報告は,術後3か月で支持部露出を伴わない1例,術後6か月で支持部露出を伴う1例がある。今症例は術後2年以上経過するも,支持部露出が下方であったため,また既往に糖尿病があり透析中であったため感染リスクが高かったと考えられた。支持部を露出させない工夫や露出した際の対応について習熟しておく必要がある。

全身性濾胞性リンパ腫に関連した両側眼瞼結節性腫瘤

著者: 綾はるか ,   佐々木香る ,   石本敦子 ,   野田百合 ,   山本優一 ,   盛秀嗣 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1265 - P.1271

要約 目的:全身性濾胞性リンパ腫に関連して特異な眼瞼の結節性腫瘤を呈した1例を報告する。

症例:70歳,女性。全身の難治性結節性痒疹で皮膚科にてx−4年よりシクロスポリンA(CyA)内服投与の既往をもつ。x年に両上下眼瞼縁全幅に結節性腫瘤がみられ関西医科大学附属病院(当院)眼科に紹介された。病変部生検で限局的なCD20(+)bcl-2(−)の反応性リンパ球増殖と診断され,いったん当院皮膚科でのCyA内服再開とともにタクロリムス点眼を開始するも改善しなかった。x+1年に左耳前部および前額部に皮下硬結と腫瘤を認め,それぞれの病理生検において組織診断および染色体検査でいずれも濾胞性リンパ腫(grade 2)と診断された。当院血液腫瘍内科でリツキシマブ単独治療開始後,両上下眼瞼部腫瘤は2か月で著明に改善した。

結論:本症例でみられた結節性眼瞼縁腫瘤は,濾胞性リンパ腫に関連した腫瘍であった可能性がある。濾胞性リンパ腫は通常,結膜円蓋部や球結膜に好発するが,眼瞼縁にも関連した病変が生じる可能性が示唆される。

単純ヘルペス脳炎後の急性網膜壊死の治療寛解3年後に僚眼発症した単純ヘルペスウイルスによる急性網膜壊死

著者: 白彩香 ,   西尾侑祐 ,   川原稔己 ,   須賀亮太 ,   田内睦大 ,   鈴木恵理 ,   仲野裕一郎 ,   堀純子

ページ範囲:P.1273 - P.1278

要約 目的:単純ヘルペスウイルス(HSV)脳炎治療後に急性網膜壊死(ARN)を発症し,治療寛解の3年後に僚眼に重篤な閉塞性血管炎を伴うHSV-ARNを生じた1例を経験したので報告する。

症例:68歳,女性。2020年5月にHSV脳炎の治療歴があった。2020年10月に左視力低下を主訴に日本医科大学多摩永山病院(当院)を受診した。前房水ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でHSVが検出され左眼HSV-ARNと診断した。アシクロビルとプレドニゾロンの全身投与および網膜剝離予防目的で硝子体茎離断術,強膜輪状締結術,シリコーンオイル留置を行い,その後は再燃なく経過していた。2023年4月に右眼の飛蚊症を主訴に当院を受診した。初診時視力は右(0.6),左(0.2)であった。右前房炎症と出血斑の散在,蛍光眼底造影検査でびまん性血管漏出と閉塞性血管炎を認めた。前房水PCR検査でHSVが検出され右眼HSV-ARNと診断した。左眼には再発は認めなかった。アシクロビル全身投与が反応不良であり,ホスカルネットとバラシクロビル投与に変更したが効果不十分であった。ビダラビンとバラシクロビル投与に切り替えたところ,速やかに滲出病変が消退した。第64病日に網膜分離の拡大を認め,水晶体再建術,硝子体茎離断術,強膜輪状締結術,シリコーンオイル留置を行った。右眼の最終視力は光覚弁となった。左眼には再発は認めず矯正視力0.2を維持している。

結論:HSV脳炎とHSV-ARNの寛解から3年後に,僚眼に重篤な閉塞性網膜血管炎を伴う急性網膜壊死を生じた。後発眼でより重篤に進行することがあるため,アシクロビル耐性を念頭に置いた薬剤選択が必要である。

眼瞼帯状疱疹にぶどう膜炎・髄膜炎を併発した1例

著者: 大坂萌乃 ,   木崎順一郎 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1279 - P.1284

要約 目的:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による眼瞼炎に髄膜炎およびぶどう膜炎が続発した1例を経験したので報告する。

症例:55歳,女性。水痘・口唇ヘルペスの既往があり,関節リウマチの治療でメトトレキサートおよびウパダシチニブ内服中であった。右側頭部の鈍痛を自覚し,8日後に右上眼瞼の腫脹と右顔面・口腔内の痺れと感覚麻痺を生じた。増悪傾向のため10日目に昭和大学病院附属東病院眼科を紹介され受診した。初診時矯正視力は両眼1.2であった。右上眼瞼は腫脹・皮下出血を認めたが眼内に炎症所見はなかった。蜂窩織炎を疑い,同日からセファゾリン1g/日の投与を開始したが効果は乏しく,薬剤投与開始から3日目に髄液検査を施行したところ,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でVZVが検出された。また,MRIでは右眼瞼,外直筋,涙腺,海綿静脈洞に造影効果を認め,これらの部位にVZVによる炎症が波及したと判断した。同日よりアシクロビル1,500mg/日の投与を開始し,自覚症状および右上眼瞼の腫脹は改善傾向にあったが,薬剤投与開始の2日後に硝子体混濁を伴う眼炎症所見を認め,前房水PCR検査においてVZV特異的DNAが検出された。抗炎症目的にプレドニゾロン内服30mg/日も併用し,初診時から18日で前房内炎症および硝子体混濁も消退した。

結論:今回,典型的な皮膚所見がなかったことが診断・治療の遅れの一因であった。早期に鑑別診断を行い,治療をすれば炎症が眼内に波及しなかった可能性がある。

日本医科大学多摩永山病院眼科における5年間の内眼炎患者の統計的観察

著者: 須賀亮太 ,   川原稔己 ,   白彩香 ,   田内睦大 ,   鈴木恵里 ,   西尾侑祐 ,   仲野裕一郎 ,   堀純子

ページ範囲:P.1285 - P.1291

要約 目的:日本医科大学多摩永山病院(以下,当院)の5年間の内眼炎患者の統計的観察および既報との比較。

対象と方法:2018年4月〜2023年3月に当院眼炎症外来を初診した内眼炎患者621例(男性248例,女性373例)を後方視的に診療録の観察研究を行った。

結果:初診時年齢は55.7±19.5歳。男性248例(39.9%),女性373例(60.1%)。強膜炎151例(24.3%),サルコイドーシス60例(9.7%),Vogt-小柳-原田病32例(5.2%),ヘルペス性角膜ぶどう膜炎32例(5.2%),ベーチェット病24例(3.9%),急性前部ぶどう膜炎22例(3.5%)の順に多く,31.2%は疾患カテゴリー分類不能であった。続発緑内障は238例(38.3%)で,そのうちステロイド緑内障は52例(21.8%)であった。生物学的製剤使用は43例(6.9%)で,そのうちアダリムマブ使用は27例(62.8%)であった。全国多施設眼炎症疾患統計(JJO 2021)と疾患頻度上位6疾患の内訳は一致していたが,本研究は強膜炎が最多であることが異なっていた。筆者らの既報(日眼会誌2015)と比べても,強膜炎が17.0%から24.3%に増え,続発緑内障の発生率も本研究が高かった。

結論:当院では他報告と比べて強膜炎が多く,続発緑内障の併発率も高かった。全体で生物学的製剤使用は7%弱であった。

レンティス コンフォート®を用いた老視矯正と多焦点IOLの比較

著者: 松岡貴大 ,   小澤由季 ,   水野文博

ページ範囲:P.1293 - P.1301

要約 目的:老視矯正の方法の1つであるモノビジョン(MV)法の効果を評価するため,レンティス コンフォート®(LC)を用いたMV法と多焦点眼内レンズ(IOL)アルコンTM アクリソフTM IQ PanOptixTMの比較検討を行った。

対象と方法:2023年3〜4月に静岡赤十字病院で白内障治療を受けた症例のなかから,MV法またはアルコンTM アクリソフTM IQ PanOptixTMのいずれかを希望された症例で,術後1か月まで経過を追うことができた症例を対象とした。LCを両眼に挿入した15例30眼(LMV群)と,アルコンTM アクリソフTM IQ PanOptixTMを両眼に挿入した10例20眼(PO群)の視力(500cm,70cm,40cm),立体視,コントラスト感度,眼鏡装用率を比較検討した。

結果:LMV群とPO群の間で両眼開放下非矯正視力(500cm,70cm,40cm)に有意差はなく,両群ともに良好な視機能を獲得した。コントラスト感度はLMV群のほうが高く,30cm立体視はPO群のほうが小さい結果となり,これらの項目において両群間に有意差があった。術後に眼鏡装用を必要とした症例は,LMV群で1例,PO群で2例であり,両群間に有意差はなかった。

結論:LCによるMV法は,PO群と同程度の術後視機能が期待できることが示された。本法は優れたコントラスト感度と遠方から近方までの良好な視力を獲得する可能性があり,今後の研究でさらなる評価が求められる。

今月の話題

網膜中心動脈閉塞症とカルパイン阻害薬の臨床試験

著者: 國方彦志 ,   津田聡 ,   中澤徹

ページ範囲:P.1187 - P.1192

 網膜中心動脈閉塞症(CRAO)は重篤な視機能障害につながる予後不良の急性眼科疾患であるが,依然として有効な治療法は確立されていない。今回,CRAOをはじめとする網膜動脈閉塞症に関して基本的病態や一般的治療を中心に解説し,さらに現在進行中であるカルパイン阻害薬(SJP-0008)の第Ⅲ相試験「網膜中心動脈閉塞症患者を対象とした多施設共同無作為化二重遮蔽プラセボ対照並行群間比較試験」を紹介する。

連載 Clinical Challenge・55

周辺部角膜上皮欠損を伴う角膜炎の症例

著者: 滝陽輔

ページ範囲:P.1182 - P.1185

症例

患者:77歳,女性

主訴:左視力低下

既往歴:糖尿病,高血圧,高脂血症

家族歴:特記事項なし

現病歴:コンタクトレンズ(CL)の装用で左異物感を生じたため,前医を受診した。左ヘルペス角膜炎の診断で,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(サンベタゾン®眼耳鼻科用液0.1%)1日5回点眼,レボフロキサシン1日5回点眼,アシクロビル(ゾビラックス®眼軟膏3%)1日5回塗布により改善した。1か月後に左虹彩炎と角膜潰瘍を指摘され,サンベタゾン®眼耳鼻科用液0.1% 1日5回点眼,レボフロキサシン1日5回点眼,ゾビラックス®眼軟膏3% 1日2回塗布を処方された。その後,短時間のCL装用は許可されていたため2日間使用した。2週間後に左眼の霧視,充血,疼痛が悪化したため当院紹介となった。点眼は当院受診の3日前から,軟膏は1週間前から中止していた。

臨床報告

糖尿病黄斑浮腫に対するfaricimab硝子体内注射後に発症した両眼の黄斑虚血を伴う眼内炎症の1例

著者: 中山真央 ,   田中公二 ,   小野江元 ,   宮田佳佑 ,   北岡麻衣 ,   森隆三郎 ,   中静裕之

ページ範囲:P.1193 - P.1200

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対するfaricimab硝子体内注射後に黄斑虚血を伴う眼内炎症が両眼に生じた1例を経験したので報告する。

症例:60歳,女性。糖尿病網膜症の精査目的で日本大学病院を受診した。初診時視力は右(0.6),左(0.8),両眼に囊胞様黄斑浮腫を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影では両眼に広範囲の無灌流領域を認めたため汎網膜光凝固術を施行した。2か月後,両眼黄斑浮腫に対して,右眼にfaricimab硝子体内注射(IVF)を行い,7日後左眼にもIVFを行った。左眼注射後翌日に両眼霧視が出現し,視力は右(0.08),左(0.1)となり,両眼前房内セルフレア値の上昇,黄斑周囲に白濁病変の出現,ゴールドマン視野計では両眼に中心暗点を認めた。黄斑部網膜血管造影の充盈欠損を認めたため,IVF後眼内炎症による黄斑虚血と考え,副腎皮質ステロイドの眼局所投与で加療を開始した。7か月後,炎症所見は改善したが中心暗点は残存した。

結論:糖尿病黄斑浮腫に対するfaricimab硝子体内注射後,両眼に黄斑虚血を伴う眼内炎症の1例を経験した。Faricimabは他の抗血管内皮増殖因子薬と同様に網膜血管閉塞を伴う眼内炎症が生じる可能性がある。

「臨床眼科」と「日本眼科学会雑誌」の原著論文著者におけるジェンダー格差の長期推移

著者: 丹沢慶一 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.1201 - P.1211

要約 目的:「臨床眼科」(臨眼)と「日本眼科学会雑誌」(日眼)に掲載された原著論文の筆頭著者と最終著者において,女性が占める割合の長期的推移を調べた。加えて,論文著者のジェンダーに関する要因を分析した。

対象と方法:臨眼と日眼に過去60年間(1961〜2020年)に掲載された原著論文を対象とした。文献情報は『医中誌Web』を用いて収集した。論文の筆頭著者と最終著者の性別は,著者らの経験的知識に基づいて判定した。

結果:筆頭著者に女性が占める割合について,60年間の平均は,臨眼で26.4%,日眼で17.1%であった。最終著者は,臨眼で12.7%,日眼で12.6%であった。長期的推移をみると,両誌に共通して,筆頭著者に占める女性の割合は経時的に上昇した。他方,最終著者に占める女性の割合は長期的には低下傾向を示した。直近の10年間(2011〜2020年)でみると,筆頭著者に女性が占める割合は臨眼で39.3%,日眼で31.7%あった。最終著者では臨眼で10.3%,日眼で12.1%であった。

結語:臨眼と日眼に掲載された原著論文の筆頭著者と最終著者に占める女性の割合は,長期にわたって男性の割合よりも著しく低い。ただし,最近10年間に限ると,筆頭著者に占める女性の割合は上昇して,ジェンダー格差が着実に縮小している。一方,最終著者に占める女性の割合については増加の傾向はない。

今月の表紙

網膜色素変性患者の前房内水晶体脱臼

著者: 前原紘基 ,   西口康二

ページ範囲:P.1186 - P.1186

 症例は65歳,女性。数十年前から網膜色素変性のため眼科通院をしていたが,5〜6年前から光覚弁となったため,眼科通院を自己中断していた。また当科初診の2〜3日前に転倒し額を打っていた。

 当院初診日21時頃,左眼疼痛を自覚したため,近隣の救急外来を受診した。救急医により急性緑内障発作が疑われ,福島県立医科大学附属病院(以下,当院)に紹介され受診した。23時に当院に到着した際の所見は,両眼光覚弁,眼圧は右11mmHg,左45mmHgであり,左前房内に水晶体完全脱臼を認めた。もともと視力は光覚弁であり,かつ深夜帯のため,疼痛解除を目的とし,緊急で水晶体囊外摘出術+前部硝子体切除術を行った。翌朝には疼痛はなく,眼圧は左15mmHgであり,当初の目的は達成した。

Book Review

医学研究のための因果推論レクチャー

著者: 中山健夫

ページ範囲:P.1292 - P.1292

 本書の執筆者である井上浩輔先生,杉山雄大先生,後藤温先生の3先生は,人間・人間集団・社会を対象とするパブリックヘルス,ヘルスサービス,疫学の分野において,最も目覚ましい活躍をされている気鋭の医学研究者です。本書は,先生方自身の高いレベルでの研究成果に基づき,近年世界的に関心が高まっている因果推論の最前線の知見を入門から専門レベルまで解説された充実の一冊です。

 医学における因果推論は,古典的には単一病因説に始まり,多要因病因論から,1964年に米国公衆衛生総監(surgeon general)によって取りまとめられた「喫煙と健康」報告書の5基準(一致性,強固性,特異性,時間性,整合性),1965年に英国の統計学者Bradford Hillsによる9視点(関連の強さ,一貫性,特異性,時間的先行性,生物学的勾配,可能性,合理性,実験験的証拠,類推)が示され,その後,米国の疫学者Kenneth J. Rothmanがパイモデルを提案しました。近年では,利用可能な大規模データベースの充実と,ランダム化比較試験が困難な状況での観察研究の意義が見直される流れのなかで,解析手法の高度化とともに,因果推論の方法論が大きく発展しました。

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目次

ページ範囲:P.1178 - P.1179

欧文目次

ページ範囲:P.1180 - P.1181

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1212 - P.1212

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1302 - P.1305

アンケート用紙

ページ範囲:P.1308 - P.1308

次号予告

ページ範囲:P.1309 - P.1309

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1310 - P.1310

 10月号が出版される頃には,ずいぶんと気候も涼しくなってきているとは思いますが,あとがき執筆時点8月7日現在,外は猛暑でほんと死にそうです! ここ年々,夏の暑さが厳しくなってきているように思えます。研究職に長らく従事していると,データを見てみないと気がすまない性分になってしまっているので,この際,昔と今とでどのくらい気温が上昇しているのか,100年前と昨年の気温を気象庁のデータ用いて比較してみました。

 昨年2023年の福井県の年平均気温は16.2℃,年最高気温は37.9℃,最低気温が−4.4℃でした。100年前1923年の年平均気温は13.9℃,最高気温は37.7℃,最低気温が−9.7℃で,年平均気温が2℃上昇,最低気温が5℃上昇しています。どうりで最近は雪が積もらなくなったと皆が口にするのも納得してしまいます。ちなみに東京都は,2023年の年平均気温17.6℃,年最高気温37.7℃,最低気温−3.4℃,1923年の年平均気温14.2℃,年最高気温35.1℃,最低気温−6.6℃で,年平均気温が3℃上昇,最高気温が2℃上昇,最低気温が3℃上昇でやはり温暖化が確認できます。私が生まれる前は,東京でも最低気温が−5℃以下になることはよくあったようです。子供の頃,冬には水たまりが凍っているのを見かけましたが,最近では全く見かけなくなりました。もし興味のある方は,「過去の気象データ検索 気象庁」で検索すれば,ご自身がお住まいの地域の過去の気温や天気を調べることができるので試してみてください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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