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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻11号

2024年10月発行

雑誌目次

増刊号 6年前の常識は現在の非常識!—AI時代へ向かう今日の眼科医へ

序文 フリーアクセス

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.5 - P.5

 2011年および2018年に「○年前の常識は現在の非常識」と銘打った増刊号を企画した.その目的は,診断や治療法の変化が著しく速い眼科領域において,短時間にその変化を理解して眼科知識をアップデートしてもらうことであった.対象はすでに一定の知識を得た中堅眼科医であり,日々の臨床や管理業務で十分に学習時間が取れない医師を助けることができればと考えていた.この試みは好評を博し,多くの方に購読していただいた.そこで今回,同じ目的で「6年前の常識は現在の非常識!—AI時代に向かう今日の眼科医へ」というタイトルで新たに企画することとした.

 さて,この間にも眼科医の情報取得方法について大きな変化があった.まず,情報収集のリソースが大幅に変化したことが挙げられる.動画を用いた手術法の学習は当たり前になり,情報取得方法もインターネットを通じたものが主流になった.しかし,そのことについて大きな懸念がある.

Ⅰ.屈折・ロービジョン

3歳児健診への屈折検査導入

著者: 南雲幹

ページ範囲:P.10 - P.13

ここが変わった!

以前の常識

・屈折検査を導入している自治体はごく一部に限られていた.

・視力検査の結果のみで異常と判定するには限界があり,弱視の見逃しも少なくなかった.

現在の常識

・全国の約8割の自治体で屈折検査が導入されている.

・健診で屈折検査を導入することにより弱視の発見率が向上している.

ロービジョンケアの進歩

著者: 斉之平真弓

ページ範囲:P.14 - P.20

ここが変わった!

以前の常識

・スマートフォンやタブレットのアプリケーションで文字情報を取得できても,写真や画像の詳細情報までは得られない.

・スマートフォンなどに掲載されている音声アシスタントは不正確な回答も多く,視覚障害者の日常生活に活用できない.

・重度視覚障害者の単独歩行は,歩行訓練士から視覚障害者安全つえ(白杖)の訓練を受けないと難しい.

・音声読書器は重くて持ち運びができず,操作も複雑である.

現在の常識

・人工知能(AI)の画像解析機能により,写真だけでなくさまざまな画像からテキストへの瞬時変換が可能になり,視覚障害者でも写真や画像の詳細情報が得られるようになった.

・Copilot(Microsoft社)などのAIアシスタントはあらゆる質問に正確に回答でき,自動音声で読み上げてくれるため,視覚障害者の日常生活に十分に活用できる.

・靴に装着する振動デバイスにより,歩行をサポートするナビゲーションシステムが登場し,重度視覚障害者でも単独歩行が可能になった.

・眼鏡に直接装着できるAI型支援機器(メガネ装着型音声読書器)は,タッチやジェスチャーにより文章の読み上げ・人物の判別ができるようになった.

Ⅱ.デジタル眼科学

人工知能と網膜診断

著者: 髙橋秀徳

ページ範囲:P.22 - P.26

ここが変わった!

以前の常識

・人工知能(AI)の画像識別能はヒトを上回っていたが,画像診断AIは研究だけの話であった.

・疾患の有無のみを推論するAIがほとんどで,判断根拠も示せなかった.

・画像や文章の生成AIは発明されたばかりであった.

現在の常識

・認可された網膜画像診断AIが各国で販売されている.

・複数の情報から判断するAIが発展し,ブラックボックスも解消されつつある.

・カルテ記載を自動生成するAIが実用化された.

眼科とビッグデータ

著者: 三宅正裕

ページ範囲:P.27 - P.30

ここが変わった!

以前の常識

・AIモデルを作るには大量のデータが必要であった.

・ビッグデータの解析にはプログラミングが必須であった.

・データ収集がキモとなっていた.

現在の常識

・基盤モデル(foundation model)の活用により,少ないデータでもAIモデル作成が可能である.

・大規模言語モデルがプログラムを書いてくれる.

・公共データの充実により,容易に大規模データにアクセス可能となった.

眼アレルギーに対するAI診断の可能性

著者: 宮﨑大

ページ範囲:P.31 - P.34

ここが変わった!

以前の常識

・医療画像や所見の判断は医師が行うことが必須であり,診断や治療方針を立案するのも医師であった.

現在の常識

・医療画像や所見を判断するツールの開発が進んでいる.こうしたツールを介し,診断や治療方針の立案において,医師,コメディカルの情報共有が可能となる.

・さらに,医療情報は患者自身も共有するべきものへと変化していく可能性がある.

角膜疾患に対するAI診断

著者: 滝陽輔 ,   山口剛史

ページ範囲:P.35 - P.39

ここが変わった!

以前の常識

・角膜疾患に対するAI診断は,前眼部OCTや生体共焦点顕微鏡などを用いたものが多かった.

・細隙灯顕微鏡画像を用いたAI診断が研究されるようになってきていた.

・診断の可否は医療機器に依存していた.

現在の常識

・前眼部写真だけで感染性角膜炎や瘢痕,腫瘍などの分類ができる.

・スマートフォンで撮った写真でも角膜疾患を分類することができる.

・スマートフォンで動画を撮りながらリアルタイムで角膜疾患の分類を確認できる.

緑内障スクリーニング,発症・進行予測

著者: 朝岡亮

ページ範囲:P.40 - P.45

ここが変わった!

以前の常識

・緑内障を眼底写真からAIでスクリーニングする方法の開発が始まっていた.

・緑内障の発症を眼底写真からAIで予測する方法の開発は報告が限られていた.

・古典的なAI(線形回帰など)で緑内障性視野障害進行を予測する方法は臨床応用されていた.

現在の常識

・緑内障を眼底写真からAIでスクリーニングする方法の開発が世界中から数多く報告されている.

・緑内障の発症を眼底写真からAIで予測する方法も報告されてきている.

・近代的なAIで緑内障性視野障害進行を予測する方法も開発され,臨床で用いられている.また,それを応用した高速視野測定プログラムが国産の視野計に搭載された.

Ⅲ.近視

近視実態調査

著者: 川崎良

ページ範囲:P.48 - P.52

ここが変わった!

以前の常識

・全国的な学童近視の実態はよくわかっていない.

・都市圏では近視が多い.

・近視は個人レベルで対応すべきものである.

現在の常識

・文部科学省は全国的な学童近視の実態調査に乗り出した.

・都市圏に加え,地方都市でも近視の多い地域が存在する.

・近視の増加に歯止めをかけるには,個人レベルだけでなく,地域や社会レベルも考える必要があるだろう.

学童近視に対する視環境対策

著者: 松村沙衣子

ページ範囲:P.53 - P.58

ここが変わった!

以前の常識

・アジア先進諸国での学童近視の有病率が顕著であり,未就学児での近視は稀である.

・学童近視のリスクとなる近業とは,主に紙を使った近距離の読み書きのことである.

・学童近視の管理は視環境の改善のみでは難しい.

現在の常識

・コロナ禍の影響で,世界中で近視発症の低年齢化や進行速度の増大が懸念される.

・未就学児においても近視有病率が増加しており,介入が必要である.

・新しい電子機器,特に視距離が近いスマートフォンが近視のリスクになる.

・海外では学校への介入により,近視の管理に成功した例もある.

低濃度アトロピン治療

著者: 稗田牧

ページ範囲:P.59 - P.62

ここが変わった!

以前の常識

・学童の近視は眼鏡を処方したら治癒と考えてよい.

・アトロピン点眼は小児の調節麻痺下屈折検査に使用する.

現在の常識

・近視の進行予防が失明を防ぐ.

・低濃度アトロピン点眼は近視進行予防のエビデンスがある.

・未承認薬剤なので副作用に注意し,医師の裁量で使用する.

オルソケラトロジー

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.63 - P.67

ここが変わった!

以前の常識

・初期費用が高額である.

・学童への処方は禁忌である.

・長期経過は不明である.

・オルソケラトロジーは単独治療のみで,他の治療法との併用はしない.

・感染性角膜炎が多い.

・適応度数は−4Dまでである.

・トーリックレンズがあることはあまり知られていない.

現在の常識

・定額制プランが普及し金銭的なハードルが低下した.

・学童への処方が主体である.

・治療継続により近視進行抑制効果は長期に維持できる.

・低濃度アトロピン点眼との併用療法が実践できる.

・感染性角膜炎の発症率は低下した.

・適応度数が拡大傾向にある.

・トーリックレンズが普及した.

多焦点ソフトコンタクトレンズ

著者: 二宮さゆり

ページ範囲:P.68 - P.74

ここが変わった!

以前の常識

・学童近視の進行はどうしようもない.

・コンタクトレンズ処方は中学生から.

・多焦点ソフトコンタクトレンズは老視者向けのもの.

現在の常識

・学童近視の進行は抑制できる.

・近視進行抑制目的のコンタクトレンズは,小学生に処方すべし!

・多焦点ソフトコンタクトレンズは世代を問わない治療手段である.

小児の近視に対するレッドライト治療

著者: 五十嵐多恵

ページ範囲:P.75 - P.79

ここが変わった!

以前の常識

・小児期の近視の進行は進行性で不可逆的である.

・ヒトでは一度伸びた眼軸長は元には戻らない.

現在の常識

・レッドライト治療で小児の近視の進行が停止し,近視度数が軽減する.

・レッドライト治療では眼軸長の短縮が生じる.

特殊眼鏡(DIMSレンズ)

著者: 長谷部聡

ページ範囲:P.80 - P.84

ここが変わった!

以前の常識

・眼鏡による近視進行抑制効果は,統計的に有意だが,臨床的には不十分であった.

・治療機序は,網膜後方へのデフォーカスを取り除くことであった.

現在の常識

・臨床的治療として有用な抑制効果が得られている.

・治療機序は,網膜前方へ第2のフォーカスを組み込むことである.

・世界3大レンズメーカーはすべて,defocus incorporated multiple segments(DIMS)レンズの市販を開始した.

Ⅳ.白内障

眼内レンズ強膜内固定

著者: 橋爪公平

ページ範囲:P.86 - P.89

ここが変わった!

以前の常識

・Zinn小帯脆弱例に水晶体囊拡張リング(CTR)を併用して眼内レンズ(IOL)を挿入するとIOL脱臼が生じなさそう.

・CTRを挿入した場合,その後に万が一IOLが落下したときに取るのが大変そう.

・白内障手術でIOLを挿入できなかった場合,後日あらためてIOL毛様溝縫着術を行わなければならず,大変そう.

現在の常識

・CTRを併用してIOLを挿入することができても,何年か経過するとIOLの脱臼や落下が生じる症例がある.

・CTRを入れた症例で水晶体囊ごと眼内に落下した場合でも,摘出することはあまり困難ではない.

・強膜内固定術により,IOLの固定が簡単かつ短時間でできるようになった.白内障手術のトラブル時でも,準備さえできていれば問題なく固定できる.

多焦点眼内レンズ

著者: 荒井宏幸

ページ範囲:P.90 - P.95

ここが変わった!

以前の常識

・多焦点眼内レンズ(IOL)ではハロー,グレアなどの光視現象を起こすため,適応は限定的であった.

・多焦点IOLは眼鏡なしの生活を目標とする手技であった.

・2焦点IOLは加入度数の違いにより使い分けていた.

現在の常識

・ハロー,グレアなどの異常光視現象を起こしにくい焦点深度拡張(EDoF)型レンズもある.

・多焦点IOL手術後でも,必要なら眼鏡をかけるスタイルを目標としてもよい.

・3焦点レンズ,または連続焦点レンズが基本的な選択肢である.

眼内レンズ度数計算式

著者: 須藤史子

ページ範囲:P.97 - P.100

ここが変わった!

以前の常識

・光学式バイオメトリーの技術革新により,2014年には従来のswept source-OCT(SS-OCT)からFourier domain-OCT(FD-OCT)が搭載になり,測定値の信頼性および測定率の向上,測定項目の増加が可能になったため,眼内レンズ(IOL)度数計算には必須のものになった.

・一方で,計算式は測定方法の進化に遅れ,30年以上前に開発されたSRK/T式が優勢であったため,異常眼軸長や角膜形状異常などの屈折ずれしやすい症例は依然として残り,IOL度数処方時には,過去の実績による臨床的勘に頼るしかなかった.

現在の常識

・乱視矯正IOLや多焦点IOLの機能発揮には術後屈折誤差予測の精度が直結するため,より高い精度が求められることから,近年数多くのIOL度数計算式が新たに登場している.

・あらゆる眼軸長や前眼部解剖眼にも良好な成績が得られるとして,光学式バイオメトリーにも搭載可能なBarrett Universal Ⅱ(BU Ⅱ)式や,人工知能(AI)を利用したビッグデータ解析による算出方法のHill-RBFが注目されている.

・角膜形状異常眼の代表であるLASIK術後眼や円錐角膜眼専用の計算式も登場し,AIのさらなる進化とともに,IOL度数計算式のアップデートが必須の状況である.

Ⅴ.結膜・角膜

アレルギー性疾患への生物学的製剤の導入と眼への影響

著者: 庄司純

ページ範囲:P.102 - P.105

ここが変わった!

以前の常識

・アレルギー炎症は,2型ヘルパーT細胞(Th2)が誘導に関与する好酸球炎症である.

・アレルギー疾患は,抗アレルギー薬と副腎皮質ステロイド薬を使って治療する.

・巨大乳頭を伴う春季カタルやアトピー性角結膜炎には,タクロリムスなどの免疫抑制点眼薬が有用である.

現在の常識

・アレルギー炎症は2型炎症とも呼ばれ,Th2と自然リンパ球グループ2(ILC2)とが誘導に関与する好酸球炎症である.

・中等症〜重症のアレルギー疾患は,アレルギー炎症に関連する分子を標的とした生物学的製剤で治療する.

・免疫抑制点眼薬による治療に抵抗する巨大乳頭のなかには,生物学的製剤のオマリズマブやデュピルマブが有効な症例がある.

性感染症とアデノウイルス結膜炎

著者: 川村朋子

ページ範囲:P.106 - P.110

ここが変わった!

以前の常識

・アデノウイルス結膜炎に有効な点眼薬がなかった.

・アデノウイルス結膜炎は,眼⇔眼の伝播で感染すると考えられていた.

現在の常識

・眼表面の殺菌消毒用点眼薬としてヨウ素・ポリビニルアルコール点眼液が販売された.

・アデノウイルスによる尿道炎が性感染症の1つとして広く知られるようになった.

・眼⇔眼の伝播以外に,眼⇔咽頭や,眼⇔性器への感染の可能性が示唆されるようになった.

・手指を介した感染予防の生活指導に加え,性行為を介する感染予防の指導も眼科医が行う必要がある.

重症眼表面疾患に対する再生医療を用いた外科治療

著者: 福戸敦彦 ,   近間泰一郎

ページ範囲:P.111 - P.114

ここが変わった!

以前の常識

・重症の角膜上皮幹細胞疲弊症に対する外科治療は,他家もしくは自家角膜輪部移植が行われた.

・他家角膜輪部移植では拒絶反応が,自家角膜輪部移植では採取眼への侵襲が問題となっていた.

現在の常識

・自家培養角膜上皮細胞シートや自家培養口腔粘膜上皮細胞シートが再生医療等製品として承認され,移植が行われている.

・iPS細胞由来上皮細胞シート移植の臨床研究も開始されている.

Special Lecture

ドライアイ診療ガイドライン

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.115 - P.117

ガイドライン作成の特色

 2019年に発表された「ドライアイ診療ガイドライン」1)の特色は,「エビデンスに基づいたガイドライン」を作るためにMinds形式に沿った作成を行ったことにある(https://minds.jcqhc.or.jp).その特徴の1つは,診療上の重要課題(クリニカルクエスチョン:CQ)を決めて,それに対する推奨を提示する形式をとっていることであり,そのCQに対してエビデンスのある回答を得るために,徹底した文献検索(システマティックレビュー)を行った.文献検索にあたっては,エビデンス重視の立場から,原則としてrandomized clinical trial(RCT)に基づくものを取り上げることとした.推奨の作成にあたっては,自覚症状,涙液安定性,角結膜上皮障害,副作用・合併症の4項目を評価基準に定めた.また評価にあたっては,治療法が保険収載されているかなど,患者負担やわが国で承認されているかなどの面も考慮された.

アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン

著者: 宮﨑大

ページ範囲:P.118 - P.119

ガイドラインの改訂と新たな疾患の定義

 「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」は,第3版が2021年に公開された.第2版は2010年の公開である.ほぼ10年近くの間に,疾患概念の変化,新たな治療薬として免疫抑制薬の登場,また,新たな疫学的調査が行われたという経緯がある.さらに,診療ガイドラインの記載形式としてMinds形式が推奨されるようになった.よって,本ガイドラインもMinds形式によりエビデンスを収集し記載を行うため,編集方針が大幅に変更された.

 まず今回の改訂においては,アレルギー性結膜疾患はⅠ型アレルギー反応を主体とした結膜の炎症性疾患であり,抗原により惹起される自覚症状・他覚所見を伴うものと定義された.これまでアレルギー性結膜疾患の疾患概念として,Ⅰ型炎症によるものとされてきた.しかし,T細胞を代表とする獲得免疫系により惹起されるⅠ型炎症と異なり,自然免疫系もアレルギー性炎症を惹起するうえで重要であることが明らかになってきている.自然免疫系は,直接的にアレルゲン特異性を付与するわけでないが,間接的にアレルゲン特異性を誘導する.端的にいえば,アレルギー体質と要約できよう.

感染性角膜炎診療ガイドライン

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.120 - P.122

はじめに

 「感染性角膜炎診療ガイドライン」は,2006年に第1版が日眼会誌に掲載され,さらに2013年に改訂されたが,現在のガイドラインのようなevidence-basedのものではなく,日本の専門家の意見を統合したeminence-based(experience-based)のもので,ガイドラインというよりも教科書的な色彩の濃いものであった.しかし,クリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)を設けて文献を集め,エビデンスレベルを評価するMindsの方法でガイドラインを策定することが求められるようなったため,それに則り大幅に改訂した第3版を2023年10月に日眼会誌に掲載した.

 本稿では,そこに掲載された7つのCQについて述べ,私見もまじえて解説する.

再生医療製品

著者: 大家義則 ,   西田幸二

ページ範囲:P.123 - P.125

再生医療製品とは何か

 再生医療製品とは,日本再生医療学会による定義では,ヒトまたは動物の生きた細胞や組織を培養などの加工を施し作製されたもので,体の構造・機能の再建・修復・形成や疾病の治療・予防,遺伝子治療を目的として使用されるものである.金属などの材料でできた製品よりもヒトの体に馴染みやすいなどの理由から,医薬品や医療機器のように用いることができる.しかしながら,再生医療製品を医療に用いることを目的として世に出すためには,医薬品や医療機器と同じように,非臨床試験(動物実験など),臨床研究,治験,厚生労働省での審査,承認・販売といった順序で,製品の有効性と安全性について調べていく必要がある.

 わが国において承認されている眼科領域の再生医療製品として,ネピック®〔ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート〕,オキュラル®〔ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート〕,サクラシー®〔ヒト羊膜基質使用ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート〕,ビズノバ®〔培養ヒト角膜内皮細胞〕の4品目が挙げられる.前3者は角膜上皮幹細胞疲弊症に対して適応されるものであり,ビズノバ®は水疱性角膜症が適応症である.このなかでもネピック®およびオキュラル®については,筆者らが開発を進めた製品であるので本稿で述べたい.

Ⅵ.緑内障

隅角検査の進歩

著者: 小島祥

ページ範囲:P.128 - P.131

ここが変わった!

以前の常識

・隅角鏡検査所見を共有するのは難しい.

・超音波生体顕微鏡(UBM)は,仰臥位でアイカップを装着し水浸性に観察する侵襲のある検査である.

・前眼部光干渉断層計(OCT)は,角膜や前房を評価する検査である.

現在の常識

・隅角鏡検査は必須の検査だが,前眼部画像検査も活用しながら診療する.

・ゴニオスコープで隅角所見の自動撮影,保存ができる.

・UBMはアイカップなしで座位でも行える検査である.

・前眼部OCTは隅角全周の定量的評価ができる検査である.

緑内障視神経症におけるOCTの特徴的所見

著者: 秋山果穂

ページ範囲:P.132 - P.136

ここが変わった!

以前の常識

・OCTによる緑内障視神経症の評価は網膜神経線維層厚によるものが主であった.

・OCT angiography(OCTA)は主に網膜循環疾患の評価に用いられていた.

現在の常識

・SD-OCTからSS-OCTへと進化し,より深部の視神経構造の観察が可能になった.

・緑内障診療においてもOCTAが活用されるようになった.

原発閉塞隅角病の分類

著者: 松尾将人

ページ範囲:P.137 - P.142

ここが変わった!

以前の常識

・原発閉塞隅角緑内障,原発閉塞隅角症,および原発閉塞隅角症疑い,さらに急性原発閉塞隅角緑内障や急性原発閉塞隅角症など,原発閉塞隅角緑内障とその前駆病変のすべてを総称して,従来はprimary angle closure(PAC)と呼称されていた.

・原発閉塞隅角症および原発閉塞隅角緑内障に対する標準治療はレーザー周辺虹彩切開術と薬物治療であり,第一選択治療としての透明水晶体摘出の有効性を示した証拠はなかった.

・急性原発閉塞隅角症罹患眼またはその僚眼を除いた他の隅角閉塞疾患に対する予防的レーザー周辺虹彩切開術を推奨する証拠は不十分であるにもかかわらず広く施行されていた.

現在の常識

・原発閉塞隅角緑内障とその前駆病変のすべてを包含する呼称として,新たに原発閉塞隅角病(PACD)という用語が定義された.

・原発閉塞隅角緑内障および原発閉塞隅角症に対する第一選択治療として「水晶体再建術を施行すること」が強く推奨される.

・原発閉塞隅角症疑いに対する治療介入にあたっては個々の症例によるリスク評価が必要であり,すべて「一律には治療介入を行わないこと」が弱く推奨される.

・ただし,急性原発閉塞隅角症や原発閉塞隅角緑内障に進行するリスクが高い原発閉塞隅角症疑い,特に急性原発閉塞隅角症発症眼の僚眼に対しては治療を「実施すること」が強く推奨される.

OCTを用いた前視野緑内障の診断

著者: 須田謙史

ページ範囲:P.143 - P.147

ここが変わった!

以前の常識

・光干渉断層計(OCT)は緑内障診断(特に早期において)にも必須の「補助」診断機器である.

・乳頭周囲のみならず黄斑部解析も重要と考えられている.

現在の常識

・OCTは緑内障診断で最も「一般的」なツールの1つとなり,黄斑部解析による診断も広く受け入れられるようになった.

・乳頭部の血流やグリア組織などが新たなバイオマーカーとして注目されている.

小児緑内障の分類

著者: 石川慎一郎

ページ範囲:P.148 - P.152

ここが変わった!

以前の常識

・小児の緑内障は隅角形成異常に起因する発達緑内障と分類し,その他の原因による小児の緑内障は明確に分類しない.

現在の常識

・小児期に発症した病態に起因する緑内障を「小児緑内障」とし,「発達緑内障」という用語は用いない.

・実際の臨床現場で使用しやすいことを念頭に,6つの分類に緑内障疑いを加えた7つの小児緑内障の分類に変更がなされた.

・小児緑内障は要因により原発と続発にまずは分類され,さらに細分化して分類する.

正しい点眼薬のさし方

著者: 中野絵梨

ページ範囲:P.153 - P.156

ここが変わった!

以前の常識

・患者の眼圧が高ければ,まずは点眼薬の変更や追加による治療強化を検討していた.

・複数の眼圧下降薬を長期投与してから緑内障手術に至ることはやむをえなかった.

・点眼開始時に喘息や心疾患の既往歴を聴取するが,その後は患者からの申告がない限り,全身疾患の有無や体調の変化を確認することはなかった.

現在の常識

・まずは正しく点眼できているかを確認する.特に治療開始時の介入でアドヒアランスの向上を目指す.配合剤の種類が増加し,ボトル3本で5剤の投与が可能となった.

・緑内障手術成績と点眼薬の関連が懸念されており,手術を見据えた点眼薬処方が求められるようになった.

・点眼薬の超長期使用が増えており,治療継続中に禁忌や慎重投与にあたる疾患が発症する可能性があるため,定期的に全身疾患や体調を確認する必要がある.

緑内障点眼薬アップデート

著者: 生杉謙吾

ページ範囲:P.157 - P.160

ここが変わった!

以前の常識

・1999年にキサラタン点眼液が発売されて以降,緑内障治療薬の選択では「プロスタグランジン関連薬」が最も使用されている1)

現在の常識

・プロスタグランジン関連薬は,第一選択薬として引き続き使用されているが,名称はプロスタノイド受容体関連薬であるFP受容体作動薬(FP作動薬)に変更されている.

・FP作動薬に加え,β遮断薬や2018年新たに販売されたEP2受容体作動薬(EP2作動薬)も第一選択となりうる.

・新たに3種の配合点眼薬が追加発売されており,それらの特徴を理解し適切に使い分けることが今まで以上に求められている.

低侵襲緑内障手術ラインナップ

著者: 村上祐介

ページ範囲:P.163 - P.166

ここが変わった!

以前の常識

・中期〜後期の緑内障患者が手術対象.

・結膜を大きく切開.

・入院期間が長く,視力回復にも時間がかかる.

現在の常識

・MIGSによって早期介入が可能.

・小さな角膜創から眼内操作.

・術後早期に社会復帰が可能.

・濾過手術にも低侵襲の選択肢がある.

現代のレーザー線維柱帯形成術

著者: 杉本宏一郎

ページ範囲:P.167 - P.171

ここが変わった!

以前の常識

・レーザー線維柱帯形成術は最大用量の薬物治療が効かない患者に対して行う,観血的手術前の治療である.

現在の常識

・選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は緑内障治療の第一,第二選択として認知されるようになってきた.

・マイクロパルスレーザー線維柱帯形成術(MLT)や,パターンスキャンレーザーを使用した選択的レーザー線維柱帯形成術(PSLT)など新しいレーザー治療が出てきている.

ロングチューブシャント手術の適応

著者: 三浦悠作

ページ範囲:P.172 - P.175

ここが変わった!

以前の常識

・ロングチューブシャント手術は,複数回のトラベクレクトミーが無効であった症例が適応であり,緑内障手術の最終手段としての立ち位置にある.

現在の常識

・初回のトラベクレクトミーが無効であった場合の次の一手としてロングチューブシャント手術が適応となりうる.

・トラベクレクトミー術後の処置(laser suture lysisやneedling,眼球マッサージなど)や定期的な通院などが困難であり,適切な濾過胞の管理が難しいと考えられる症例にも適応となる.

Special Lecture

プロスタノイド受容体作動薬の副作用

著者: 坂田礼

ページ範囲:P.177 - P.179

はじめに

 緑内障におけるエビデンスに基づいた治療法は眼圧下降治療のみであり,その具体的な方法としては薬物,レーザー,手術のうちから選択することになるが,病型によって治療方針が異なる.患者数が最も多い原発開放隅角緑内障の場合,薬物(点眼薬)から開始するのが一般的である.「緑内障診療ガイドライン(第5版)」において第一選択薬としての使用が推奨され,点眼治療の核となっているのはプロスタノイドFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)である1).もしくは,同じプロスタノイド受容体作動薬の1つであり,FP作動薬と非劣性の眼圧下降効果を示した選択的EP2受容体作動薬(以下,EP2作動薬)を選択することも可能となっている.

 FP作動薬は本邦で使用が開始されてから20年以上が経過しており,効果はもとよりさまざまな副作用が報告されている.端的にいえば,病型を選ばずに使用可能で,眼圧下降効果が強く,点眼アドヒアランスを維持しやすい,かつ忍容性が高い薬剤,である.しかしここ最近は,プロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin associated periorbitopathy:PAP)という概念(表1)が広まり,特に眼圧測定や手術成績に影響する負の側面がクローズアップされている2).EP2作動薬は2018年に上市され,長期の安全性や眼圧下降効果についての知見が集積されている.「6年前」にはなかったEP2作動薬と,従来のFP作動薬の副作用について振り返る.

生活習慣と緑内障のリスク因子

著者: 羽入田明子

ページ範囲:P.180 - P.183

はじめに

 緑内障は高眼圧を筆頭に,さまざまなリスク因子が複雑に発症に寄与する多因子疾患と考えられている.特に,日本人では正常眼圧緑内障が9割を占めるため,眼圧以外の要素である眼循環障害や酸化ストレスなどの影響も注目されている.本稿では,眼虚血や酸化ストレスと密接な関与が示唆される生活習慣について,緑内障の発症・進行予防の観点から議論する.

Ⅶ.ぶどう膜

免疫チェックポイント阻害薬によるぶどう膜炎

著者: 松宮亘

ページ範囲:P.186 - P.189

ここが変わった!

以前の常識

・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は初期の段階では主にCTLA-4阻害薬とPD-1阻害薬に限定されており,これらの薬剤は主に単独で使用されていた.

・眼の免疫関連有害事象(irAE)におけるぶどう膜炎の重症度は,炎症の主座により分類されていた.

現在の常識

・現在,CTLA-4阻害薬とPD-1阻害薬に加えてPD-L1阻害薬も広く使用されている.さらにこれらの異なるICIを組み合わせる治療法が開発されている.また,ICIと化学療法,分子標的療法,放射線療法など他の癌治療との組み合わせが一般的になっている.

・眼のirAEにおけるぶどう膜炎のGradeは,炎症の主座だけでなく炎症の重症度に基づいても評価・分類されるようになった.

・治療の中断や再開に関するエビデンスに基づいたガイドラインが,国内外で整備されている.

COVID-19関連ぶどう膜炎

著者: 武田篤信

ページ範囲:P.190 - P.193

ここが変わった!

以前の常識

・なし.

現在の常識

・COVID-19を契機にぶどう膜炎が新規に発症する,あるいは再燃することがある.

・COVID-19ワクチン接種後でなくてもフォークト・小柳・原田病様のぶどう膜炎が発症する可能性がある.

・副腎皮質ステロイド治療など免疫抑制療法が有効である.

ワクチンの副作用によるぶどう膜炎

著者: 長谷川英一

ページ範囲:P.194 - P.197

ここが変わった!

以前の常識

・ワクチン接種に関連してぶどう膜炎の発症が報告されている.

・B型肝炎ウイルスワクチン,ヒトパピローマウイルスワクチン,インフルエンザワクチンなどの報告が多い.

現在の常識

・mRNAワクチンであるCOVID-19ワクチンでも接種後にぶどう膜炎の発症が報告されている.

・前部ぶどう膜炎やフォークト・小柳・原田病の報告が多い.

梅毒性ぶどう膜炎

著者: 岩橋千春

ページ範囲:P.198 - P.201

ここが変わった!

以前の常識

・毎年ほぼ一定数の梅毒新規患者の報告がある.

現在の常識

・梅毒新規患者は年々増加している.

・2019年にぶどう膜炎診療ガイドラインが作成された.

・2019年に感染症法の届け出基準と届出票が改正された.

・性感染症ガイドラインが2020年に改訂された.

アダリムマブによる難治性ぶどう膜炎治療のアップデート

著者: 竹内大

ページ範囲:P.202 - P.207

ここが変わった!

以前の常識

・2007年にぶどう膜炎治療に抗腫瘍壊死因子(TNF)製剤であるインフリキシマブが認可されたが,その適応は難治性ベーチェット病(BD)ぶどう膜炎に限られていた.

・そのため,1990年代からのBD以外の難治性非感染性ぶどう膜炎治療の中心は,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬であった.

現在の常識

・2016年に同じく抗TNF製剤であるアダリムマブが難治性ぶどう膜炎の治療に認可され,広く用いられている.

・既存の治療に抵抗性なぶどう膜炎においても眼炎症の寛解,副腎皮質ステロイドの漸減中止,視機能の改善が得られるようになった.

Ⅷ.網膜

抗VEGF薬の新しい展開

著者: 安川力

ページ範囲:P.210 - P.215

ここが変わった!

以前の常識

・薬剤①:ラニビズマブとアフリベルセプトのみ

・薬剤②:先行バイオ医薬品のみ

・投与レジメン:必要に応じて(PRN),2か月に1回(bimonthly),treat and extend(TAE)

・適応:新生血管型加齢黄斑変性,近視性脈絡膜新生血管,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫

現在の常識

・薬剤①:ブロルシズマブ,ファリシマブが登場

・薬剤②:バイオシミラーが登場

・投与レジメン:レスキュー付き3〜4か月ごと投与

・適応:血管新生緑内障,未熟児網膜症

遺伝性網膜ジストロフィと遺伝子診断

著者: 前田亜希子

ページ範囲:P.216 - P.219

ここが変わった!

以前の常識

・遺伝性網膜ジストロフィは治療できなかった.

・遺伝子解析は研究でしか行われていなかった.

現在の常識

・RPE65関連網膜症に遺伝子治療ができるようになった.

RPE65遺伝子治療には遺伝学的検査(遺伝子検査)による適否判定が必要になる.

・遺伝性網膜ジストロフィの治療開発が進んでいる.

遺伝子治療

著者: 池田康博

ページ範囲:P.220 - P.226

ここが変わった!

以前の常識

・遺伝子治療は次世代の治療と考えられていた.

・保険適用になるとは考えられていなかった.

・対象となる疾患は,遺伝性網膜ジストロフィのような難治性疾患と考えられていた.

現在の常識

RPE65関連網膜症に対する遺伝子治療が保険適用となった.

・加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫に対する治験も実施されている.

・遺伝子治療が標準治療として認められるようになりつつある.

糖尿病網膜症

著者: 大内亜由美 ,   中尾新太郎

ページ範囲:P.227 - P.231

ここが変わった!

以前の常識

・糖尿病網膜症は,Early Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)に基づく7方向の眼底写真,および蛍光眼底造影検査で認める細小血管の異常所見により病期分類されてきた.

・蛍光眼底造影検査による細小血管異常や虚血の描出では,層別の解析はできず定性的であった.

・糖尿病黄斑浮腫に対する薬物治療はステロイドを中心としたものであった.

・増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術は難易度,侵襲が高く,術後合併症が問題であった.

現在の常識

・糖尿病網膜症の病態において,神経血管グリアユニットの障害が重要であることが明らかとなった.

・血管病変に加えて,神経病変に伴う視機能も複合的に評価可能な,新たな糖尿病網膜症の分類が求められている.

・OCT,OCTA,超広角走査型レーザー検眼鏡などの眼底イメージングの発展により,定量的診断技術,治療効果の評価や予後予測の精度が向上してきている.

・糖尿病網膜症に対するAI診断および予後予測の精度が向上しており,実臨床への応用が期待されている.

・予防および早期介入の重視,内科および眼科薬物療法の進歩,レーザー治療や硝子体手術の低侵襲化などから,糖尿病網膜症による視覚障害者は減少傾向である.

・糖尿病黄斑浮腫治療に用いるVEGF阻害薬は選択肢が広がり,個別化治療の考えが進んできている.

・一方で,VEGF阻害薬抵抗性の糖尿病黄斑浮腫,糖尿病黄斑虚血,糖尿病神経障害の治療は現在の代表的なアンメッドニーズである.

Pachychoroid(パキコロイド)

著者: 松本英孝

ページ範囲:P.232 - P.239

ここが変わった!

以前の常識

・脈絡膜外層血管の拡張を伴う脈絡膜肥厚をpachychoroidと呼ぶが,病態は解明されていなかった.

・Pachychoroidがアジア人の加齢黄斑変性の発症に関与する可能性が示唆されていた.

現在の常識

・Pachychoroidの病態には渦静脈のうっ滞が関与する.

・日本人の新生血管型加齢黄斑変性の約50%はpachychoroidを合併している.

・Pachychoroid関連疾患の治療として光線力学的療法の有効性が報告されている.


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2029年10月).

Wet AMD

著者: 山本有貴 ,   五味文

ページ範囲:P.240 - P.245

ここが変わった!

以前の常識

・脈絡膜新生血管(CNV)は,網膜色素上皮(RPE)下に存在する場合をtype 1 CNV,RPE上に存在する場合をtype 2 CNVに分類する.

・蛍光眼底造影検査で分類される場合もあり,早期に境界鮮明な過蛍光所見として描出され,その後,旺盛な蛍光漏出をきたすものをclassic CNV,造影早期には不鮮明で徐々に境界不明瞭な過蛍光所見をきたすものをoccult CNVと分類する.

・type 1はoccult CNV,type 2はclassic CNVとほぼ同義である.

現在の常識

・2020年頃より国際的に,“黄斑新生血管(MNV)”と呼ぶことが多くなった.

・MNVの詳細な分類については,occult CNVとtype 1 CNVをtype 1 MNV,classic CNVとtype 2 CNVをtype 2 MNV,混在する場合はmixed type 1 and type 2 MNVと呼ぶようになっている.

Dry AMD

著者: 大石明生

ページ範囲:P.246 - P.249

ここが変わった!

以前の常識

・萎縮型加齢黄斑変性には治療法がなく,病変が拡大するのをみているしかなかった.

・高齢者でドルーゼンを伴う萎縮性病変があれば加齢黄斑変性とされた.

現在の常識

・欧米で補体阻害薬が地図状萎縮の進行を遅らせる薬剤として承認され,使われている.

・ドルーゼンを伴う網膜ジストロフィも少なくない.

網膜剝離

著者: 馬場隆之

ページ範囲:P.250 - P.253

ここが変わった!

以前の常識

・萎縮円孔からの網膜剝離は若年者に多いとされていた.

・黄斑剝離してしまったら,1週間内程度を目安に手術が行われた.

・網膜剝離の治療は強膜バックリング,硝子体手術が行われていた.

・硝子体手術後はとにかく伏臥位が大事とされていた.

現在の常識

・萎縮円孔からの網膜剝離は全年齢に分布している.

・黄斑剝離の症状を自覚してから3日以内の手術が望ましい.

・網膜剝離の治療には気体網膜復位術も選択肢に入る.

・術後は仰臥位のほうが復位率が良いという報告もある.

網膜移植

著者: 北畑将平 ,   門之園一明

ページ範囲:P.254 - P.257

ここが変わった!

以前の常識

・網膜移植は,実験レベルでは行われていたが,ヒト網膜への実用化は不可能とされていた.

現在の常識

・自家網膜移植は,巨大黄斑円孔に対して実用可能であり,視機能の向上に貢献しうる.

・培養色素上皮細胞移植,および視細胞移植は臨床研究段階であり,今後の臨床応用が注目されている.

術中OCTの活用

著者: 井上真

ページ範囲:P.258 - P.263

ここが変わった!

以前の常識

・術中OCTは市販されたばかりの段階であった.

現在の常識

・術中OCTに6年間で大きな変更はないが,OCT画像は改善されている.これはソフトウエアの改良と画像の加算回数が増加したことによる.

・革新的な改良はないが,術中OCTを使用した手術の応用が広がっている.

・術中OCTがなくても手術はできるが,ナビゲーションとして使用することで手術の精度を向上させられる.

新しいOCTによる網膜診療

著者: 鄭雅心 ,   丸子一朗

ページ範囲:P.264 - P.271

ここが変わった!

以前の常識

・光干渉断層計(OCT)は登場以来,網膜診療には欠かせない検査機器である.

・従来のOCTは撮影の範囲および波長に制限が存在した.

現在の常識

・OCTはより広角,より高解像度の時代へと進化している.

・偏光感受型OCTの開発により,従来のOCT画像にさらなる情報(組織特性)を付加することが可能となりつつある.

OCT angiography

著者: 加登本伸

ページ範囲:P.272 - P.280

ここが変わった!

以前の常識

・光干渉断層血管撮影(OCTA)の単回撮影の画角は狭かった.

・OCTAの画質(特に広角)は悪かった.

現在の常識

・後極だけでなく中間周辺部までカバーできる画角のOCTAが登場した.

・アベレージング機能,人工知能を用いたデノイズ機能で画質は飛躍的に向上した.

AO-SLOの可能性

著者: 石川桂二郎

ページ範囲:P.281 - P.286

ここが変わった!

以前の常識

・眼底写真やOCTでは,眼組織の細胞レベルの観察はできなかった.

・補償光学(AO)技術を用いて得られた画像の解析手法は確立されていなかった.

現在の常識

・AO-SLOやAO-OCTを用いることで,眼組織の細胞レベルの形態観察が可能となった.

・AO技術で得られた画像の自動解析システムが確立された.

Special Lecture

糖尿病網膜症診療ガイドライン

著者: 村田敏規

ページ範囲:P.288 - P.289

はじめに

 糖尿病網膜症は患者数が多く,すべての眼科医が日常的に診療しているので,従来は,極論すれば眼科医の数だけ糖尿病網膜症診療ガイドラインが存在している状況が続いてきた.もちろん日本を縦断するコンセンサスも存在しているが,いわゆる研修した施設,研修した時代などにより,細部では多様すぎる独自性がみられる場合があった.これに対し,日本全体で統一した診察方法を目指した,日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会による「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」1)が公開されているので,日本眼科学会のウェブサイトでご覧いただきたい.そのなかで最も推奨したいのがclinically significant macular edema(CSME)という概念である.従来は「臨床的に重要な浮腫」と直訳されて,その意味が不明瞭なことからわが国では普及しなかった概念だが,欧米では日常的に外来診療で使用される言葉である.今回のガイドラインでは,意訳して「視力をおびやかす浮腫」とした.

Ⅸ.外眼部・神経眼科・腫瘍など

新しいマクロライド点眼薬による眼感染症治療の変化—眼瞼炎治療について

著者: 﨑元暢

ページ範囲:P.292 - P.296

ここが変わった!

以前の常識

・眼瞼炎治療は眼瞼清拭,温罨法,抗菌薬内服,副腎皮質ステロイド薬点眼などを組み合わせて行うとされ,実臨床ではフルオロキノロン系抗菌薬点眼・眼軟膏さらに副腎皮質ステロイド薬点眼・眼軟膏が長期投与されることも多かった.

・そもそも眼瞼炎がクローズアップされることが少なかった.

・抗菌薬点眼や眼軟膏の眼瞼内移行はよくないとされていた.

現在の常識

・マクロライド系点眼薬の臨床導入によって短期間で眼瞼炎の所見・症状を軽減させることが可能になった.

・眼瞼炎治療が可能な点眼薬の登場で,多様な症状を訴える眼瞼炎症例への治療の道が開かれた.

・マクロライド系点眼は眼瞼内移行が良好であり,抗炎症作用や作用持続効果もある.

涙囊移動術(結膜涙囊吻合術)

著者: 嘉鳥信忠

ページ範囲:P.298 - P.302

ここが変わった!

以前の常識

・難治性涙小管閉塞のスタンダードな治療法は,Jones tubeを用いた結膜鼻腔吻合術である.

現在の常識

・Jones tubeなどのデバイスを用いない術式,涙囊移動術が存在する.

・涙囊移動術とは涙小管完全閉塞に対して結膜と涙囊を直接吻合する術式である.

・Jones法(ガラス製のJones tubeをデバイスとする結膜涙囊鼻腔吻合術)に比べると導涙効果は劣るが,術後管理は基本的に不要で,合併症がほぼないため患者満足度が高い.

神経眼科疾患における生物学的製剤

著者: 毛塚剛司

ページ範囲:P.303 - P.306

ここが変わった!

以前の常識

・視神経炎の治療にはステロイドパルス療法が行われ,ステロイド抵抗性の急性期には血液浄化療法が行われていた(保険適用外).

・ステロイド抵抗性の急性期視神経炎において,血液浄化療法ができない場合は免疫グロブリン大量静注療法が行われていた(保険適用外).

・難治性のアクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎の再発寛解期には,低用量のステロイドおよび免疫抑制薬内服が長期にわたり行われていた.ステロイドの副作用には都度対処してきた.

現在の常識

・ステロイド抵抗性の急性期視神経炎において,一部の免疫グロブリン大量静注療法が保険適用となり,血液浄化療法に先んじて使用できるようになった.

・難治性AQP4抗体陽性視神経炎の再発寛解期において,生物学的製剤が5剤認可された.補体C5に対するエクリズマブ,ラブリズマブ,インターロイキン6受容体に対するサトラリズマブ,B細胞に対するイネビリズマブ,リツキシマブである.このため,ステロイドおよび免疫抑制薬内服は減量もしくは中止できるようになった.

デジタルデバイスと内斜視

著者: 西川典子

ページ範囲:P.307 - P.311

ここが変わった!

以前の常識

・急性内斜視は稀な疾患である.

現在の常識

・急性内斜視(後天共同性内斜視)は増加しており,デジタルデバイスとの関連が注目されている.

・発症様式は,急性に加えて亜急性の発症が多い.

・一部の症例では,デジタルデバイスの使用制限や,適切な屈折矯正などの保存的治療で内斜視が改善する.

がん遺伝子パネル検査

著者: 秋山雅人

ページ範囲:P.312 - P.315

ここが変わった!

以前の常識

・悪性腫瘍の遺伝子検査は日本ではできない.

・眼部悪性腫瘍に有効な化学療法はほとんどない.

現在の常識

・2019年から,がんの遺伝子検査は保険診療の範疇で行うことが可能であり,化学療法を行う可能性がある眼部悪性腫瘍は適用となる.

・パネル検査の結果によっては,遺伝子異常に基づいた分子標的薬で治療を行えることがある.

Special Lecture

マイボーム腺機能不全診療ガイドライン

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.316 - P.318

はじめに

 マイボーム腺は瞼板内にある皮脂腺であり,その分泌物(meibum)は涙液の最表層の油層を形成して涙液の安定性に貢献する.マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)は,さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.またMGDからドライアイが引き起こされ,ドライアイによる諸症状も伴う.MGDは50歳以上の日本人の30〜50%が罹患し,臨床的に重要な疾患である.しかし,MGDの診療に関してこれまで十分な啓発がなされておらず,MGD診断の鍵となるマイボーム腺開口部およびその周囲の観察はなおざりにされてきた感が否めない.2023年2月および6月にMGDの診療をサポートする「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」の日本語版1)および英語版2)が発表された.本稿ではそのエッセンスについて述べる.

Minds形式先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン—適切な医療情報が誰でも無料で入手可能になった

著者: 佐々木次壽

ページ範囲:P.319 - P.322

はじめに

 先天鼻涙管閉塞(congenital nasolacrimal duct obstruction:CNLDO)は,鼻涙管下部の開口部が先天的に開塞している疾患であり1),新生児の6〜20%にみられ,自然治癒率が高い2).このためはじめは保存的治療で経過観察される.しかし,自然治癒しない場合は外科的治療(プロービング)が必要となる.

 さて6年前のCNLDOの常識とは何であろうか.プロービングの至適タイミングに関して議論となっており,涙道内視鏡も小児に対してはまだごく一部の施設でのみ行われるだけであった.CNLDOに総涙小管部のチェックバルブを合併した先天涙囊瘤(congenital dacryocystocele:CDC)は涙囊ヘルニアと呼ばれていた.またそれらの論点に関して系統的にレビューしたガイドラインもなかった.

 そこで上記の論点や課題を解決すべく,日本涙道・涙液学会がmedical information distribution service(Minds)形式の「先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン」3)(以下,GL)を2022年に作成した(表1).Minds形式共通の特徴は,予後に影響するような重要な課題であるクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)に関して,治療成績,合併症,費用対効果および保護者の満足度などに関し同質の文献を収集,各種バイアスを評価し,それぞれの益と害を不偏的に勘案〔系統的レビュー(systematic review:SR)〕してCQに答える形の推奨文をもつことである.GLでは,CNLDOの保存的治療オプション,プロービングのタイミング,涙道内視鏡の適応,プロービング不成功時の治療オプション,先天涙囊瘤の診療方針および近年の話題としてCNLDOと弱視リスクとの関連性4)などについてCQを作成してある.詳細はGL3)を参照いただきたい.

 GLは眼科医以外の医療従事者や患者の保護者にも理解しやすいよう作成され,無料で一般公開されている.またGL作成でみえる化された課題を解決する研究が追加され約5年ごとに更新される.保護者や小児科医などが,GLを読んでから眼科を受診するケースも今後増えるであろう.医師はGLを参考に医療施設の状況,医師の経験,患者や保護者の価値観などを考慮し,保護者と協働して診療を行っていただきたい.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.6 - P.8

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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