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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻13号

2024年12月発行

雑誌目次

特集 生活習慣と眼の病気のビミョーな関係。

企画にあたって フリーアクセス

著者: 羽入田明子

ページ範囲:P.1465 - P.1465

 昨今,われわれの生活習慣は急速に変化しています。特に,デジタルデバイスの普及,長時間の近業作業,運動不足,そして食生活の欧米化は,人類の健康に深刻な影響を及ぼしています。2013年に「Lancet」誌で発表された世界疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)による推計では,感染症や非衛生的な飲料水による健康リスクを上回り,生活環境要因の変化が健康寿命の短縮や死亡率上昇に寄与していることが示唆されました。

 こうした生活習慣の変化は,眼の健康にも多面的な影響を与えていることが指摘されています。近年,人工知能(AI)技術の進展により眼を通じて全身の健康状態を予測する「oculomics」研究が注目を集めており,今後さらにライフスタイル変容による影響の解明が期待されています。

プロバイオティクスとドライアイ

著者: 猪俣武範

ページ範囲:P.1466 - P.1471

●マイクロバイオームとは,人間の体内および体表に生息する細菌,ウイルス,真菌,原生動物といった微生物群とその遺伝情報の総称である。

●ドライアイの発症や重症化において,腸内や眼表面の健康なマイクロバイオームの多様性が低下し,特定の病原性細菌の増加がみられるディスバイオシスとの関連が示唆される。

●ドライアイに対する腸内や眼表面のマイクロバイオームに対するプロバイオティクスを用いた免疫制御によるドライアイの症状改善の可能性がある。

食習慣から考える老視・白内障予防

著者: 久保江理

ページ範囲:P.1472 - P.1476

●老視・白内障は,酸化ストレス,糖化ストレス,炎症が3大要因。

●抗酸化物質の摂取と糖化ストレスの回避が老視・白内障予防にとって重要。

●抗酸化・抗糖化・抗炎症を意識した食習慣(野菜,果物,魚の摂取)が白内障予防に効果的。

喫煙と加齢黄斑変性・ぶどう膜炎

著者: 齋藤翔子 ,   岡田アナベル あやめ

ページ範囲:P.1477 - P.1482

●たばこの煙は約4,000種類以上の化合物からなり,多くの活性酸素が含まれる。

●喫煙による加齢黄斑変性の発症リスクは約4倍である。

●喫煙によるぶどう膜炎発症のオッズ比は約2.2である。

血圧・脈拍管理と原発開放緑内障

著者: 清田直樹 ,   山口知暁 ,   中澤徹

ページ範囲:P.1483 - P.1488

●血圧と眼圧は連動しており,高血圧は眼圧管理の観点からも有害である。

●一方で高血圧,低血圧,大きな血圧変動いずれも眼血流に悪影響をきたし,緑内障性神経変性のリスクになりうる。

●頻脈・徐脈いずれも眼血流障害との関連が報告されている。

屋外活動と落屑緑内障

著者: 羽入田明子

ページ範囲:P.1489 - P.1494

●落屑症候群・落屑緑内障は,続発開放隅角緑内障の主要な原因で治療抵抗性のため,修正可能なリスク因子の同定・予防策の確立が喫緊の課題である。

●落屑症候群・落屑緑内障は,LOXL1CACNA1A変異といった遺伝要因や,食生活習慣,地理的要因,気候,嗜好品などの環境要因が複雑に発症に寄与する多因子疾患である。

●欧米人を対象とした長期の大規模疫学研究から,環境要因として太陽光(紫外線)曝露(特に,雪面や水面からの反射光)の増加が落屑症候群・落屑緑内障のリスクとなり,サングラスの着用はリスクを低減する可能性が示唆された。

脂肪酸摂取と網膜疾患

著者: 佐々木真理子

ページ範囲:P.1495 - P.1503

●脂肪酸は網膜の重要な構成要素であり,必須脂肪酸は体内で合成されないため,食事からの摂取が必要である。

●n-3系多価不飽和脂肪酸や,それを豊富に含む青魚や地中海食では網膜疾患の予防効果が報告されている。

●欧米人と遺伝的背景や生活習慣が異なる日本人では,脂肪酸摂取による網膜疾患への効果も異なる可能性がある。

身体活動・運動と糖尿病網膜症

著者: 川崎良

ページ範囲:P.1504 - P.1510

●重症の糖尿病網膜症患者においては,病状によっては運動を制限することが望ましいと判断されることがあり,その場合には一定期間運動を制限する必要がある。

●適度な身体活動・運動を行うことによって糖尿病網膜症の発症リスクが抑えられることが複数の研究で確認されている。

●今後はどのような運動をどの程度行うことが推奨されるか注視していく必要がある。また身体活動・運動を簡便かつ正確に評価する方法の確立,そして,身体活動・運動を促す個人への動機づけ支援と環境への配慮などが必要である。

デジタルデバイス視聴と近視

著者: 五十嵐多恵

ページ範囲:P.1511 - P.1517

●近視有病率・発症と近業には関連があると推察されるが,近業が近視の進行に与える影響に関しては明確な関連は確立していない。

●従来の紙やペンでの書字や,タブレット・スマートフォンなどの小型デジタルデバイスの使用時は,小さな画面を短い視距離で見続けるため,近視リスクが高い。

●乳幼児期や学童期におけるデジタルデバイスの使用時間や,種類,使用方法に関しては,国や関連学会が年齢に応じて明確に示し,保護者が適切に管理していく必要がある。

分岐鎖アミノ酸と網膜色素変性

著者: 池田華子

ページ範囲:P.1519 - P.1523

●必須アミノ酸である分岐鎖アミノ酸(BCAA)は細胞内エネルギー産生を増強し細胞死を抑制する。

●BCAAは網膜色素変性モデルマウスにおいて病気の進行を抑制する。

●網膜色素変性患者を対象とした医師主導治験でBCAAによる有意な進行抑制効果は証明できなかった。

今月の話題

アトピー性皮膚炎患者におけるデュピルマブ関連結膜炎

著者: 庄司純 ,   安達瑠美

ページ範囲:P.1457 - P.1464

 デュピルマブ関連結膜炎は,アトピー性皮膚炎に対するデュピルマブ抗体療法中に発症する高度の球結膜充血を特徴とする結膜炎である。眼科医は,皮膚科との診療連携と治療介入により適切に結膜炎をコントロールすることが求められる。

連載 Clinical Challenge・57

小細胞肺癌の加療中に急激な両眼性の視力低下をきたした1例

著者: 船津諒 ,   寺﨑寛人

ページ範囲:P.1452 - P.1455

症例

患者:86歳,男性

主訴:両視力低下

既往歴:陳旧性脳梗塞,腎癌(73歳:左腎摘出術),前立腺癌(85歳:放射線療法・ホルモン療法),小細胞肺癌(化学療法中)

現病歴:呼吸器内科にて小細胞肺癌に対し,カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブの化学療法を受けていた。治療開始後,肺癌は縮小傾向であったが,4コース目の加療中(治療開始から4か月後)に両眼の視力低下を自覚した。その約2週間後に両眼の急な視力低下を自覚し,近医眼科を受診したところ,視力は右指数弁(矯正不能),左指数弁(矯正不能)であった。視力低下の原因が不明であり,同日に当科へ紹介となった。

臨床報告

片眼性の視神経・眼球運動障害で発症したFisher症候群の1例

著者: 孫偉英 ,   古瀬尚 ,   三戸裕美 ,   藤井聖子 ,   八井田真理 ,   長谷部聡

ページ範囲:P.1525 - P.1529

要約 目的:片眼性視神経障害を示すFisher症候群(FS)の報告は稀である。片眼性の急性視力低下と眼球運動障害で発症したFSの1例を経験したので報告する。

症例:78歳,男性。複視を主訴に近医眼科を受診した。左眼の上転・下転・外転障害を伴った内斜視を認め,ビタミン剤内服で経過観察となった。再診時,左矯正視力は前回の0.8から0.1まで急激に低下,左瞳孔散大・眼瞼下垂を呈したため,当日に川崎医科大学総合医療センターに紹介され受診となった。

所見:初診時,上記以外に前眼部・中間透光体・眼底に異常所見はなかった。頭部造影MRIでは左眼窩先端部付近にやや高信号や造影効果を認め,眼窩先端部症候群が疑われた。初診後5日目に瞳孔散大・眼瞼下垂は両眼性となり,両アキレス腱反射がやや減弱していた。19日目に抗GQ1b抗体陽性が判明し,FSの確定診断に至った。経過観察の結果,発症後約3か月ですべての症状がほぼ消失した。

結論:視神経・眼球運動障害は片眼性であっても,FSの診断を除外することはできない。瞳孔散大や眼瞼下垂などの随伴症状の変化を注意深く観察し,必要に応じて抗GQ1b抗体を検査し,適切に診断すべきである。

裂孔原性網膜剝離に対するシリコーンオイルとヘビーシリコーンオイルタンポナーデの治療成績と合併症の比較検討

著者: 三宅頌己 ,   船津諒 ,   寺﨑寛人 ,   三原直久 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1530 - P.1537

要約 目的:裂孔原性網膜剝離(RRD)に対するシリコーンオイル(SO)とヘビーシリコーンオイル(HSO)の治療成績と合併症を比較した。

方法:RRDに対しSOまたはHSOを使用した連続症例を後ろ向きに調査した。主評価項目は合併症発生率と追加治療の割合,副次評価項目は合併症発生と他因子の関連,術後視力,解剖学的復位,術後眼圧とした。合併症ごとに,関連因子について検討した。

結果:SO群が58例60眼〔平均年齢 58.6歳,女性 13眼(21.7%)〕,HSO群は19例19眼〔平均年齢 59.0歳,女性 7眼(36.8%)〕。網膜復位率は,SO群で58眼(96.7%),HSO群で19眼(100.0%),オイル摘出以外の再手術はSO群9眼(15.0%),HSO群2眼(10.5%)で有意差がなかった。術後オイル前房脱出は,術後の水晶体囊の状態と関連していた。調整オッズ比は,水晶体囊なし群が120.09(95%信頼区間:3.28〜30206.65,p=0.007)であった。

結論:SO群とHSO群で術後の合併症,網膜復位率,視力,術後眼圧に差はない。術後のオイル前房脱出はオイルの種類ではなく,水晶体囊の状態と関連していた。

ラニビズマブバイオシミラーと従来薬の硝子体内注射に要する時間の比較

著者: 米満大智 ,   寺﨑寛人 ,   船津諒 ,   三原直久 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1538 - P.1543

要約 目的:アフリベルセプトとラニビズマブの硝子体内注射にかかる時間と,新薬であるラニビズマブバイオシミラー(BS)の硝子体内注射にかかる時間とを比較した。特に研修医と網膜疾患を専門とする医師(専門医)の間で比較し,眼科医の経験が処置時間に及ぼす影響を検討した。

対象と方法:鹿児島大学病院で硝子体内注射を受けた滲出型加齢黄斑変性または糖尿病黄斑浮腫の患者を対象とした後ろ向き研究。処置時間は,注射のためのドレープ設置から除去までの時間とし,マン・ホイットニーのU検定を用いて研修医と専門医の間で比較した。注射に関連した重篤な合併症については,カルテ記録を調査した。さらに,医師の経験年数が処置時間に及ぼす影響をスピアマンの順位相関係数を用いて検証した。

結果:研修医,専門医ともにすべての薬剤間で処置時間に有意な差はなかった。研修医はラニビズマブBS(p=0.025),ラニビズマブ(p=0.0013),アフリベルセプト(p=0.00091)注射時の処置時間が専門医より有意に長かった。処置時間と治療経験との間には統計学的に有意な負の相関があった(p<0.001,r=−0.56)。試験期間中,どの患者にも重篤な合併症はなかった。

結論:ラニビズマブBSの硝子体内注射の処置時間は従来の薬剤と変わらない。研修医は専門医よりも処置時間が長いが安全に硝子体内注射を行うことができる。

Book Review

《視能学エキスパート》ロービジョンケア フリーアクセス

著者: 白根雅子

ページ範囲:P.1524 - P.1524

 ロービジョンケアは,眼科医療の力が及ばず視覚障害を背負った患者さんが,保持する能力を最大限に活用して充実した社会生活を営むためにある。患者さんは視力を失う過程で必ず眼科で治療を受けている。眼科医,視能訓練士をはじめ,看護師,社会福祉士,その他すべてのメディカルスタッフには,患者さんの視機能や心理,身体の状況に応じた適切な対応が求められる。

 本書では,ロービジョンケアのスタートとして,視力,視野,コントラスト感度,光順応,眼球運動,色覚といった残存視機能を評価し,その結果に基づいて年齢や生活背景に合った視覚補助具を選定する流れが詳細に解説されている。また,患者さんが希望する仕事や社会活動を遂行するために,保有視機能はもとより,聴覚,触覚などの他の能力も加味した読書能力を評価し,目的に応じた読書訓練を行う手順がわかりやすく記述されており,一読すると視覚リハビリを習得できる。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1448 - P.1449

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1450 - P.1450

アンケート用紙

ページ範囲:P.1552 - P.1552

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1553 - P.1553

あとがき フリーアクセス

著者: 蕪城俊克

ページ範囲:P.1554 - P.1554

 生活習慣がさまざまな全身疾患のリスク因子となっていることは自明の事実である。高血圧・高血糖・脂質代謝異常と内臓脂肪の組み合わせにより,心臓病や脳卒中の発症リスクを増加させることは,「メタボリックシンドローム」の名で広く知られている。高血圧・高血糖・脂質代謝異常は食生活や運動量などの生活習慣と深く関連するため,医師は患者に対してこれらの改善を促すことが求められる。

 一方,眼科領域においても生活習慣がさまざまな眼科疾患の発症リスクに関連していると考えられ,何となくのイメージや耳学問で聞いた話を多くの先生はもっている。しかし,それらがどの程度のエビデンスがあるのかを知らないために自信がもてず,患者さんへの説明に困ることもあるのではないかと思われる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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