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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

特集 先端医療を先取りしよう—日本にはない海外の医療

企画にあたって

著者: 西口康二

ページ範囲:P.159 - P.159

 私は眼科医2年目の1999年に米国ボストンに留学し,現地の眼科スタッフとの交流を通して米国の眼科診療の質の高さを身をもって経験する貴重な機会を得ました。そのとき感じた日本と米国の数ある違いのなかでも,専門診療の細分化とEvidence-Based Medicineの厳格な運用が特に印象的でした。これは,医局を運営する身となった今も診療の基本方針としてとても大事にしています。しかし,私が留学で最も感銘を受けたのが,医師と基礎研究者が緊密に連携し,革新的な先端医療を生み出すためにトランスレーショナルリサーチが活発に行われていることでした。

 それから20年が経ち,このような取り組みはさまざまな分野で臨床応用という形で昇華され,アカデミア発の革新的な医薬品は,わが国を含め世界中の眼科診療に大きな影響を与えるに至っています。一方で,患者数が少ない比較的ニッチな分野の製品や治療薬の一部に関しては,展開地域が限定的だったり世界展開が遅延したりします。しかし,患者にとって真に有益なものは輸入され,臨床研究という形でオフラベルで使用されていることも耳にします。

人工視覚の現状

著者: 森本壮

ページ範囲:P.160 - P.167

●網膜刺激型人工網膜の医療への標準化はすでに達成されている。

●脳刺激型人工視覚は現在研究開発が進み,臨床応用が始まっている。

●今後,わが国で網膜刺激型人工網膜の企業主導治験が予定されており,将来的にはわが国でも人工網膜の治療が可能となる見込みである。

神経麻痺性角膜症に対する神経成長因子点眼液

著者: 上野盛夫

ページ範囲:P.168 - P.173

●神経麻痺性角膜症は三叉神経障害により角膜恒常性破綻の悪循環に陥る疾患で,遷延性上皮欠損や潰瘍を生じる。

●わが国での神経麻痺性角膜症の標準治療は角膜の自然治癒をサポートする治療法で,三叉神経機能不全を改善する治療法は実用化されていない。

●欧米では神経成長因子を含有する点眼液Oxervate®が上市され,難治性神経麻痺性角膜症に対する第一選択薬になりつつある。

オズルデックス

著者: 足利健太 ,   中尾新太郎

ページ範囲:P.174 - P.177

●オズルデックス(Ozurdex®)はデキサメタゾンを主成分とした眼内インプラントで注射によって硝子体内に留置され,最大6か月間デキサメタゾンを徐放する。

●同インプラントは欧米にて糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症,非感染性ぶどう膜炎に適応となっている。

●副作用は眼圧上昇の頻度が最も高く,多くの場合点眼によるコントロールが必要となる。

人工虹彩

著者: 根岸一乃

ページ範囲:P.178 - P.183

●人工虹彩は,虹彩の欠損を原因とする重篤な視機能障害やグレア障害のある患者,あるいは整容改善を必要とする患者に用いられる。

●人工虹彩つき眼内レンズ(AI-IOL),人工虹彩付き囊内リング(CTR-based PID),カスタム人工虹彩(costomized AI)の3種類に大別される。

●人工虹彩による視機能が改善が報告される一方で,術後合併症としては緑内障,角膜内皮障害,ぶどう膜炎,虹彩損傷,虹彩後癒着,網膜剝離などが報告されている。多数例の長期予後の報告はない。

遺伝子治療

著者: 藤波(横川)優 ,   ,   ,   ,   藤波芳

ページ範囲:P.184 - P.189

●遺伝性網膜ジストロフィは先進国における主要な失明原因の1つであり,近年先鋭的な治療アプローチの発展が目覚ましい。

●遺伝子治療は遺伝子補充・編集・導入に分類され,個別化医療の代表格として発展を遂げている。

●わが国においてもRPE65網膜症の治療薬としてルクスターナ®注が初めて保険適用となった。

AI眼底カメラ

著者: 髙橋秀徳

ページ範囲:P.190 - P.194

●眼底写真の診断AIは医療全体のなかで常に先端を行っている。

●緑内障・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性の診断が基本機能である。

●光干渉断層像(OCT)用のAIも販売されてきた。

網膜変性に対する遺伝学的検査

著者: 林孝彰

ページ範囲:P.196 - P.206

●網膜変性の原因は多岐にわたるため,次世代シークエンサを用いた網羅的遺伝子解析が,国内外で実施されている。

●網羅的遺伝子解析には,遺伝子パネル検査,全エクソーム解析,全ゲノム解析がある。主として,欧米では商業ベースで,国内では研究として実施されている。

●国内で遺伝子補充治療薬が認可されたことから,網膜変性疾患に対する網羅的遺伝子解析実施が必須となりつつある。それに先立ち,遺伝性網膜ジストロフィにおける遺伝学的検査のガイドラインが発表されている。

ヘビーシリコーンオイル

著者: 吉永就正

ページ範囲:P.207 - P.211

●ヘビーシリコーンオイル(HSO)は,比重が水より重く調整されたシリコーンオイル(SO)で,腹臥位が難しい症例や下方の網膜剝離に有用である。

●HSOの使用方法はSOと大きな違いはないが注意すべき点がある。

●SO使用時と比較しHSOを使用したことに起因する特別な合併症は今のところみられていない。

調節眼内レンズ

著者: 鈴木久晴

ページ範囲:P.212 - P.215

●調節眼内レンズ(IOL)の主流は2枚タイプが多い。

●焦点深度曲線は多焦点IOLとは異なりなだらかである。

●調節IOLは現状では世界でもあまり一般的でなく治験のレベルである。

新しい緑内障手術デバイス

著者: 盛崇太朗

ページ範囲:P.216 - P.220

●従来のMIGSはシュレム管手術と呼ばれ,これらはcutting(マイクロフックやトラベクトーム,カフークデュアルブレード),stent(iStentやHydrus Microstent)やdilation(iTrackやOMNI Surgical System)に分類される。

●近年,MIGSはシュレム管手術だけでなく,房水を結膜下(MIBS)や上脈絡膜腔に流出促進するデバイスも登場している。

●チューブシャント手術は現在でもアーメド緑内障バルブとバルベルト緑内障インプラントが基本だが,改良された製品も登場しており,また磁力で術後に濾過量を調整できる機器もある。

今月の話題

再生医療に関するオンライン診療

著者: 髙橋政代 ,   仲泊聡 ,   畠中可奈

ページ範囲:P.153 - P.158

 眼科はオンライン診療に適した科の1つである。COVID-19の流行に伴い時限的に解禁されたオンライン診療初診が恒久的に可能となった。わが国ではかかりつけ医が主体であるが,世界では遠隔診療はすでに広く行われており,診療のオンライン化の流れは今後ますます強くなっていくであろう。再生医療というわが国の強みを生かすため,高度専門医療のためのオンライン診療体制を整えたので紹介する。

連載 Clinical Challenge・47

活動期炎症眼の緑内障治療

著者: 森和彦

ページ範囲:P.148 - P.152

症例

患者:50歳台,男性

現病歴:201X年1月頃,両眼の結膜充血と眼瞼周囲に発赤が出現したため,近医にて抗菌薬と抗アレルギー薬を処方。4月,巨大乳頭形成と眼脂を認め,春季カタル疑い。7月,虹彩炎と角膜後面沈着物が出現,上皮剝離,眼圧上昇(30mmHg)を認めたため,ヘルペス虹彩炎が疑われた。9月,角膜輪部疲弊疑いと眼圧コントロール不良にて紹介受診となった。

家族歴・既往歴:特記すべきことなし・誘因なし

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・15

先天涙囊瘤(先天涙囊ヘルニア)

著者: 松村望

ページ範囲:P.221 - P.224

●先天鼻涙管閉塞の一亜型。出生時より内眼角の内下方の涙囊部に暗青色の腫瘤性病変を認める。

●鼻涙管下端の開口部の閉塞と内総涙点の機能的閉塞が同時に起こることによって,涙道内に貯留物が溜まり,大きく拡張する。

●しばしば自然治癒するが,急性涙囊炎や蜂窩織炎を起こしやすい。外科的治療を行う際は,プロービングあるいは鼻腔内から鼻内囊胞を切開(排膿)する造瘻術が有用である。

●両側性の場合は呼吸障害に注意する。

臨床報告

濾過胞感染による眼内炎が契機となった交感性眼炎の1例

著者: 小林大航 ,   竹山明日香 ,   八木文彦 ,   石田政弘 ,   石田恭子

ページ範囲:P.225 - P.230

要約 目的:濾過胞感染による眼内炎と,それに対する硝子体手術に起因すると思われる交感性眼炎を経験したので報告する。

症例:65歳,男性。東邦大学医療センター大橋病院にて,両眼原発開放隅角緑内障に対し両眼線維柱帯切除術を施行した。左眼術後15か月で左眼疼痛と充血を自覚し受診した。矯正視力は右0.8,左 手動弁,左眼の強い前房内炎症がみられ硝子体混濁のため眼底透見不能,鼻上濾過胞に白色菌塊を認めた。濾過胞感染による眼内炎の診断で硝子体手術,シリコーンオイル注入,バンコマイシン・セフタジジム硝子体内注射を行うも光覚弁となった。硝子体手術後1か月,右眼の急激な視力低下を自覚し,矯正視力は右0.04,前房内炎症と漿液性網膜剝離,周辺部脈絡膜剝離を認めた。光干渉断層計にて著明な脈絡膜肥厚,フルオレセイン蛍光眼底造影検査にて視神経乳頭の過蛍光と蛍光漏出,脈絡膜剝離に一致する蛍光色素貯留,インドシアニングリーン蛍光造影検査にて脈絡膜血管からの漏出を認めた。右眼所見と先行する術後眼内炎の既往から交感性眼炎と診断し,ステロイドパルス療法を計3クール行い漿液性網膜剝離は消退した。ステロイド加療開始後11か月,脈絡膜肥厚は改善し視力は右(0.8),左 光覚なしとなった。

結論:濾過胞感染による眼内炎後の交感性眼炎を経験した。術後眼内炎によるぶどう膜への炎症の波及,硝子体手術やシリコーンオイルなどによる複合的な作用で発症したと思われる。

急性リンパ性白血病治療中に続発性高トリグリセリド血症による網膜脂血症をきたした1例

著者: 木村友哉 ,   岡戸聡志

ページ範囲:P.231 - P.238

要約 目的:急性リンパ性白血病治療中に,治療薬であるL-アスパラギナーゼとプレドニゾロンによる続発性脂質異常症を発症し,網膜脂血症をきたした1例を報告する。

症例:既往歴のない20歳,男性。右視力低下を主訴に近医眼科を受診し,右眼の中心窩を含む両眼の網膜出血とロス斑,血液検査における著明な白血球増多を指摘され,名古屋大学医学部附属病院の血液内科へ紹介となった。急性リンパ性白血病と診断され,ALL202-Uレジメンによる化学療法が開始された。

所見:化学療法開始約1か月後に,自覚症状を伴わない両眼の網膜血管の広範な乳白色化を生じた。光干渉断層計において網膜血管は高輝度を呈し,蛍光眼底造影では明らかな異常はなかった。血液検査において著明な高トリグリセリド血症を呈しており,網膜脂血症と診断した。高脂血症治療薬により血中トリグリセリドは速やかに正常化し,網膜血管の色調も正常に復した。その後の治療経過において網膜血管の乳白色化が再発することはなかった。

結論:比較的稀と考えられる,急性リンパ性白血病の治療中に発症した網膜脂血症の1例を経験した。本症例は,右眼の中心窩における網膜出血による視力低下を伴っていたことから眼科の受診に至ったが,網膜脂血症自体は一般的に無症状であり,診断されていない潜在的な症例が一定数存在すると考えられる。

Ocular response analyzerを用いた線維柱帯切除術と線維柱帯切開術前後におけるcorneal hysteresisの変化の検討

著者: 渡邊和華 ,   山下翔太 ,   坂井博明 ,   藤川尭之 ,   藤澤公彦

ページ範囲:P.239 - P.243

要約 目的:線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の術前後の角膜可塑性(CH)の変化を比較検討する。

対象と方法:線維柱帯切除術後3か月の59眼および線維柱帯切開術後3か月の28眼を対象とした。非接触式眼圧計であるocular response analyzer(ORA)を用いて,術前後のORA測定値の補正値(IOPcc),CHをそれぞれ後ろ向きに比較検討した。

結果:線維柱帯切除術後3か月でCHは有意に上昇した(p=0.0030)。また,IOPccが低下するほどCHが上昇する傾向があった。線維柱帯切開術後は有意なCHの上昇はなかった(p=0.88)。

結論:線維柱帯切除術後にCHは上昇していた。

シリコーンモールドを使用した網膜硝子体手術シミュレーター

著者: 永本崇 ,   窪野裕久 ,   福本隆基 ,   佐藤里櫻 ,   山下和哉 ,   川村真理 ,   鈴木浩太郎

ページ範囲:P.244 - P.250

要約 目的:筆者らが開発したシリコーンモールドを用いた網膜硝子体手術シミュレーターについて報告する。

対象と方法:①模擬眼として25mm径の球形シリコーンモールドを準備し,中央の穴をハサミで拡大した。②裏返して,底部にスプレーのりを塗布し,薄膜を作製した。③形を元に戻した後に,マネキンの眼窩にまち針で固定した。④実際の手術器具を用いて網膜硝子体手術練習を行った。網膜硝子体手術の経験が少ない術者がその有用性を質問票を用いて評価した。

結果:シミュレーターは比較的簡単に作製することができた。シリコーンモールドの形状と剛性は人眼と似通っており,スプレーのりの疑似膜は優れた膜剝離感覚を提供した。半透明性と有窓構造により優れた視認性が得られ,バックル手術や硝子体基底部圧迫操作の練習に有用であった。

結論:シリコーンモールドは安価で容易に入手できる模擬眼で,シンプルな形状に工夫を凝らすことで有用な手術シミュレーターとなる可能性がある。

ORTe EYENACによりアプラクロニジン1%点眼試験での瞳孔の記録を行った後天性Horner症候群の1例

著者: 阪本知瞭 ,   西脇弘一

ページ範囲:P.251 - P.256

要約 目的:ORTe EYENAC(以下,EYENAC)により,アプラクロニジン1%点眼試験での瞳孔変化の記録を行うことができた1例を経験したので報告する。

症例:87歳,女性。右視力低下にて天理よろづ相談所病院(当院)を受診し,初診時暗所での瞳孔不同(左>右)を認めた。初診時には明らかな眼底所見はなく,視力低下は白内障によるものと考えられた。再診時にアプラクロニジン点眼試験を施行し,その前後にEYENACにて瞳孔運動を記録した。

結果:EYENACにて瞳孔不同の逆転を認めた。一方,瞳孔運動に関してはアプラクロニジン点眼前後でも明らかな異常はなかった。アプラクロニジン点眼試験陽性と考え,頭頸部CTを撮影。右肺尖部に腫瘍性病変を認め,画像上神経鞘腫と考えられた。8年前に当院にて撮影されていたCTと比較しサイズの変化がないことから経過観察の方針とした。

結論:EYENACはHorner症候群におけるアプラクロニジン点眼試験前後の所見を記録し,定量的に評価することができ有用であった。

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目次

ページ範囲:P.144 - P.145

欧文目次

ページ範囲:P.146 - P.146

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.257 - P.261

アンケート用紙

ページ範囲:P.266 - P.266

次号予告

ページ範囲:P.267 - P.267

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.268 - P.268

 私は現役編集委員中で最も長い任期を務めさせていただいております。毎年12月になると,私があとがきを書くことが定例となっており,その度に執筆を通じて思いを綴っております。この長きにわたる経験を通じ,現在強く感じているのは,世界の最先端治療が飛躍的に進展している一方で,日本の医療が大きく遅れているという危機感です。

 その原因は複数考えられます。まず挙げられるのは,日本の経済力の低下により,高額な治療を実施する余裕がなくなったことです。例えば,数千万円かかる眼科遺伝子治療薬の登場に驚く向きもありますが,これが広く一般の疾患にも適用されつつある海外の現状を考えると事態はいっそう悪化すると思われます。公的な保険制度では十分に賄えない可能性もありえます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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