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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻3号

2024年03月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[1] 原著

歯科医師における多焦点眼内レンズ挿入後の視機能

著者: 中村邦彦 ,   小原絵美 ,   太田友香 ,   南慶一郎 ,   ビッセン宮島弘子 ,   高野正行 ,   古澤成博 ,   四ツ谷護

ページ範囲:P.311 - P.317

要約 目的:多焦点眼内レンズ(IOL)が挿入された歯科医師の術後視機能,特に歯科診療時の見え方を,単焦点IOLが挿入された歯科医師の結果と比較する。

対象と方法:当院にて両眼に白内障手術が施行された歯科医師にアンケートを送付して本研究に同意と回答の得られた症例を対象とした。調査内容は,歯科診療において,歯冠や歯の欠損を修復する補綴,歯を保存し機能させることを目的とする保存,齲歯や歯周病の治療を除く顎口腔領域の外科系処置をする口腔外科の3分野に分け,それぞれの分野で代表的な3項目,計9項目における見え方と,日常生活における遠方・中間・近方の見え方とした。それぞれの状況で眼鏡使用頻度を使用なし1・ときどき使用2・常用3,見え方を全く問題なし1・ときどき問題あり2・問題あり3にスコア化して検討した。

結果:該当する44例に郵送し34例(回答率77.3%)(多焦点IOL:17例,単焦点IOL:17例)から同意および回答が得られた。両群の遠方矯正視力に有意差はなく(マン・ホイットニーのU検定p=0.680),多焦点群の近方視力は裸眼0.96,遠方矯正下0.97で良好であった。診療の9項目中7項目で多焦点群の眼鏡依存度が低く有意に関連があり,見え方は有意差がなかった。日常生活は全距離で多焦点群の眼鏡依存度が低く有意に関連があり,近方視で単焦点群の見え方が良好で有意に関連があった(χ2検定p<0.05)。

結論:多焦点IOL挿入は歯科診療に支障なく,眼鏡依存度を低下させることが示唆された。

片眼視神経炎の13年後に僚眼に発症した抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の1例

著者: 林孝彰 ,   飯田由佳 ,   高津宏樹 ,   増田直仁 ,   丹野有道

ページ範囲:P.318 - P.326

要約 目的:左眼は視神経炎により光覚を失い,13年後に右眼に発症した抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎に対し,急性期治療後の早期に抗IL-6受容体抗体薬(サトラリズマブ)を導入した症例を報告する。

症例:41歳女性が右視力低下を自覚し,発症第8病日に受診した。

所見:視力は右(1.2),左光覚なし,右視野検査でⅠ/3e視標の中心暗点と下方沈下を認めた。MRIで右視神経の高信号を認めたが,脳脊髄に異常所見は検出されなかった。抗AQP4抗体陽性が判明し右抗AQP4抗体陽性視神経炎と診断後,ステロイドパルス療法後に単純血漿交換を2回施行した。直後に汎発性帯状疱疹を発症し,アシクロビル点滴治療を行った。右視野は正常となり,後療法を継続しながら第69病日からサトラリズマブを導入した。第207病日現在,右視力は(1.5)を維持し,再発や副作用なく経過している。

結論:左眼は抗AQP4抗体陽性視神経炎による光覚消失が示唆された。本症例においては,急性期治療からシームレスにサトラリズマブを導入した。サトラリズマブの再発予防効果については,さらなる検討が必要である。

未治療2型糖尿病に発症した両眼性抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎にサトラリズマブを導入した1例

著者: 小山睦美 ,   林孝彰 ,   福永直子 ,   飯田由佳 ,   徳久照朗 ,   高津宏樹 ,   大本周作 ,   丹野有道 ,   中野匡

ページ範囲:P.327 - P.335

要約 目的:未治療2型糖尿病(DM)に発症した両眼性抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎に対して,抗IL-6受容体抗体薬(サトラリズマブ)を導入した症例を報告する。

症例:43歳男性が急激な左視力低下を主訴に受診した。右視力(1.5),左視力光覚なし,頭部MRIで左視神経の高信号に加え,血清抗AQP4抗体陽性から左抗AQP4抗体陽性視神経炎と診断した。脳脊髄病変はみられなかった。2型DMが見つかり,内科併診のうえ,ステロイドパルスおよび血漿浄化療法を行い,左視力(0.09)となったが,通院を自己中断した。初診から約36か月後,右抗AQP4抗体陽性視神経炎を発症し,右視力(0.06)となり,血漿浄化療法により右(1.5)まで回復した。プレドニゾロン内服に併用してサトラリズマブを導入した。導入後13か月経過し,視力は右(1.5),左(0.1)を維持し,再発を認めていない。

結論:通院アドヒアランスの低下が懸念される抗AQP4抗体陽性視神経炎症例に対する再発予防に対し,自己皮下注射可能なサトラリズマブは考慮されるべき薬剤と考えられた。その投与時期については,さらなる検討が必要である。

AFG3L2遺伝子の病的バリアントによる両眼視神経萎縮(OPA12)の1例

著者: 西川典子 ,   蒔田芳男 ,   青木大芽 ,   柳久美子 ,   要匡

ページ範囲:P.337 - P.342

要約 目的:全エクソーム解析(WES)により遺伝性視神経症の診断が確定した家族歴のない両側視神経萎縮の1例を報告する。

症例:12歳,女児。幼児期から健診で視力不良を指摘され,複数の眼科を受診するも原因不明とされた。視力低下を自覚し近医を受診,視神経乳頭の耳側蒼白を指摘され紹介受診となった。

所見:初診時の矯正視力は右0.2,左0.2,眼圧は正常,前眼部,中間透光体に異常はなく,眼底検査で両眼の視神経乳頭蒼白,光干渉断層計で網膜内層厚の菲薄化を認めた。全身的既往歴はなく,頭部MRIで視神経障害の原因となる異常を認めなかった。家族歴はないが,臨床所見から常染色体顕性遺伝性視神経萎縮が疑われた。原因検索のための遺伝子解析の希望があり,未診断疾患イニシアチブ(IRUD)に参加し,患児と両親のトリオによるWESを施行した。絞り込み解析の結果,AFG3L2遺伝子にc.1402C>T(p.Arg468Cys)の病的バリアントをヘテロ接合性に認め,このバリアントは新生変異であった。

結論:家族歴のない視神経萎縮症例に対するWESは,原因解明のために有用であった。今後,遺伝子解析と臨床像を組み合わせた症例を蓄積することにより,遺伝子診断と遺伝相談,予後評価さらには遺伝子治療の進歩に役立つと考えられる。

緑内障患者の健康管理とサプリメント摂取状況に関する調査

著者: 田中孟 ,   宮前美智 ,   青木美寿々 ,   中畑奏 ,   福田唯依 ,   阿部英樹 ,   濱口明子 ,   福島実花 ,   井上千鶴 ,   井上智美 ,   武蔵国弘

ページ範囲:P.347 - P.352

要約 目的:緑内障の治療に対して,運動,禁煙,サプリメント摂取が有益な影響をもたらすことが報告されている。今回,緑内障患者の健康管理,およびサプリメント摂取状況ならびに,医師からのサプリメント紹介希望の有無について調査を行った。

対象と方法:2021年11月〜2022年3月に当院を受診し,緑内障の視野検査時にアンケートを取っていた患者を対象とし,対象者のカルテから後ろ向きにデータを調査した。

結果:検討対象症例数393名。平均年齢68歳。健康管理で取り組んでいることが1つ以上あると回答したのは331名(84.2%)で,「運動」が多かった。現在サプリメントを摂取しているのは145名(36.9%)で,その情報源は「家族・知人」「雑誌・広告」「テレビ」の順で多かった。医師からのサプリメント紹介は142名(37.3%)が希望した。

結論:今回の調査で,健康管理のために運動などを取り組んでいる患者は約8割で,サプリメント摂取率は4割であった。また,4割程度の患者が医師からのサプリメントの紹介を希望していた。

アフリベルセプト治療抵抗の加齢黄斑変性に対する抗VEGF薬療法

著者: 滝井文隆 ,   木村衣里 ,   馬場良 ,   柳田紘生 ,   根本怜 ,   上田俊一郎 ,   中川迅 ,   三浦雅博

ページ範囲:P.353 - P.360

要約 目的:アフリベルセプト治療抵抗の加齢黄斑変性に対するファリシマブおよびブロルシズマブの治療効果を検討する。

対象と方法:アフリベルセプト硝子体注射を2回連続実施したにもかかわらず,改善が得られなかった加齢黄斑変性15例15眼を対象とした。アフリベルセプト硝子体注射の8週間後にファリシマブ硝子体注射を実施した。ファリシマブ硝子体注射から8週間後に明らかな治療効果が得られなかった症例には,ブロルシズマブ硝子体注射を実施し,注射から8週間後に効果を判定した。

結果:ファリシマブ硝子体注射によって15眼中1眼(7%)で所見の改善を認めた。ブロルシズマブ硝子体に切り替えた結果,14眼中10眼(71%)で改善を認めた。ファリシマブ硝子体注射後(15眼)の平均中心網膜厚はファリシマブ硝子体注射前と比較して有意差を認めなかった(p=0.71)。ブロルシズマブ硝子体注射後(14眼)の平均中心網膜厚はブロルシズマブ硝子体注射前と比較して有意に減少していた(p=0.003)。

結論:アフリベルセプト治療抵抗の加齢黄斑変性に対し,ブロルシズマブはファリシマブと比較して効果が高いことが示唆された。

急性骨髄性白血病の髄外腫瘤により眼窩先端症候群を呈した1例

著者: 渡邊愛子 ,   園部智章 ,   本田茂

ページ範囲:P.361 - P.365

要約 目的:急性骨髄性白血病(AML)の経過中に,髄外腫瘤による眼窩先端症候群を生じた1例を経験した。AMLの髄外腫瘤による眼窩先端症候群は稀であるため報告する。

症例:70代,女性。既往にAML(FAB分類M0),関節リウマチがある。右視力低下,右眼痛,右眼外転障害を認めたため,当科紹介となった。頭部MRIにて明らかな異常所見は指摘されなかった。経過中に右眼視力増悪,右中心フリッカー値低下,右眼瞼下垂,右眼全方向の眼球運動障害が出現したため,診断目的にFDG-PET/CTを施行。右眼窩先端部に集積亢進を認め,AMLの髄外腫瘤による眼窩先端症候群と考えられた。全身状態を鑑み,ステロイドハーフパルス療法を試行したところ,視力や中心フリッカー値,右眼痛の症状は改善した。その後2か月間は症状の再燃を認めず経過したため,当科終診となった。

結論:髄外腫瘤が原因の眼窩先端症候群でも,感染などのリスクが除外されればステロイドパルス療法が有効な場合がある。AMLが既往にある場合には鑑別として考慮する必要がある。

心因性視覚障害による調節障害に対して近用眼鏡,被写界深度延長眼鏡が有効であった15歳女子の1例

著者: 松浦一貴 ,   寺坂祐樹 ,   今岡慎弥 ,   宮島泰史

ページ範囲:P.366 - P.370

要約 目的:心因性視覚障害による調節障害に対して近用眼鏡,被写界深度延長(EDOF)眼鏡が有効であった1例を報告する。

症例:15歳,女性。主訴は羞明,近見時の不快感。遠方視力は右1.2(矯正不能),左0.7(1.2×cyl−0.50D 180°),近方視力は右0.6(1.0+1.00D),左0.4(1.0+1.50D),動的量的視野は正常。他覚的屈折値は調節麻痺剤の使用の前後で著明な差なし。眼位,瞳孔反応に異常なし。輻湊も可能であった。その他の眼科一般検査に異常なし。9歳の頃には心因性視覚障害として大学病院眼科に通院していた。当時の視力は右(0.04),左(0.04)。求心性視野狭窄を認めた。現在,進学校での勉強,友達関係もスムースとはいえない。ケラトメータによる調節値は右3.32D,左3.64Dであり,40歳台の値であった。心因性視覚障害による調節障害と診断し,近用眼鏡(加入度は+1.25D)を処方した。外斜視はなく輻湊が良好であるためプリズムは加入していない。さらに,遠方〜中間距離の視機能改善のためにEDOF眼鏡を追加処方した。現在,日常生活にはEDOF眼鏡,学習などの作業時には近用眼鏡と使い分けている。

考按:本症例は幼少時に心因性視覚障害と診断されている。この児なりの成長によって,視力,視野は改善したが調節機能の低下は残存し,高校生になって近見作業の時間や負担が増加することで不自由が強くなった。心因性視覚障害が調節障害をきたすことはあまり周知されていないが,積極的に検査を行い解決策を提案することでquality of lifeの改善を得た。

ソフトコンタクトレンズにおける周辺部厚の位相差顕微鏡による計測

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   明尾慶一郎 ,   大森美香 ,   飛田恵子 ,   加藤帝子

ページ範囲:P.372 - P.378

要約 目的:ソフトコンタクトレンズ(SCL)の厚みについては中心厚の計測データが一般に添付文書に記載されている。しかしながら,周辺部の厚みも強度や装用感の観点から検討の必要がある。位相差顕微鏡は異なる屈折率をもつ物質を透過した際に生ずる位相差を応用した顕微鏡であり,透明な対象の観察のために一般に広く普及している。今回,SCLの周辺部を観察するため,位相差顕微鏡を用いて周辺部厚の計測を試みた。

対象と方法:径60mmのペトリ皿内の生理食塩液に周辺部が対物レンズ側になるようにSCLを浮かべ,対物レンズ10倍と2000万画素の顕微鏡カメラで周辺部が鮮明となるまで位相差顕微鏡により接写した。SCLには−3, −7.5, −12 diopterの1日,2週間用のSCL〔AQUALOX®(AQ):Bausch & Lomb, ACUVUE OASYS®(OA):Johnson & Johnson〕,ソフトウェアとして画像解析にはSigmaScan®,統計学的解析にはSigmaStat®を用いた。

結果:t検定,2元配置分散分析の結果,周辺部厚は度数,装用期間にかかわらずAQがOAより有意に薄く,2週間用OAでは多変量解析の結果,近視度数に従い,有意に薄くなる傾向があった。

結論:SCLの種類により周辺部厚にも相違があることが判明し,今後,装用感や耐久性についても検討を加える必要があると考えられた。

白内障手術によるアイフレイル自己チェックの改善効果

著者: 井上賢治 ,   砂川広海 ,   徳田芳浩 ,   塩川美菜子 ,   天野史郎

ページ範囲:P.380 - P.385

要約 目的:視機能の衰えを意味するアイフレイルが提唱されている。今回,白内障手術によるアイフレイル状況の改善を検討した。

方法:1か月以内に両眼白内障手術を施行した症例を対象とした。症例は48例,平均年齢は74.4±6.9歳であった。手術前と手術3か月後に10項目のアイフレイル自己チェックを施行し,手術前後の結果を比較した。チェック数2個以上がアイフレイルの可能性があると定義されている。

結果:チェック数は術前4.1±2.0個に比べて,術後1.2±1.5個に有意に減少した(p<0.0001)。術前にチェックが多かった項目は,⑥まぶしく感じやすい38例,⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった36例,③新聞や本を長時間見ることが少なくなった30例であった。10項目中9項目で術後にチェック数は有意に減少した(p<0.05)。術後にチェック数が減少した項目は,⑤眼鏡をかけてもよく見えないと感じることが多くなった29例,⑥まぶしく感じやすい24例などであった。チェック数が2個以上の症例は,術前42例が術後14例に有意に減少した(p<0.0001)。

結論:白内障手術によりアイフレイル状況は改善した。白内障手術は患者のquality of life改善に寄与している。

今月の話題

—何が変わったのか?—ロービジョンケア・アップデート

著者: 石子智士

ページ範囲:P.279 - P.285

 近年,ロービジョンケアに対する概念が変化し,ケアの導入を考えている眼科医も始めやすいシステムが構築されてきている。また,技術革新によってさまざまな視覚障害に対する補助具が使われるようになり,それらの情報入手は重要である。本稿では,最近のロービジョンケアの概念とその実際に関してアップデートする。

連載 Clinical Challenge・48

片眼の軽度隅角形成異常を伴う若年開放隅角緑内障の症例

著者: 松尾将人

ページ範囲:P.274 - P.278

症例

患者:18歳,男性

主訴:右視野障害

既往歴:アトピー性皮膚炎,そのほか先天眼形成異常・先天全身疾患なし

家族歴:父,父の母の兄弟が緑内障治療中

現病歴:8か月前から右眼の見えづらさを自覚し,3か月前に近医を受診した。右眼圧42mmHgであり,視神経乳頭陥凹拡大を伴う後期緑内障性視野障害を認めたため,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液,ブリンゾラミド懸濁性点眼液,リパスジル塩酸塩水和物点眼にて治療を開始した。眼圧調整目的で当院を紹介され受診した。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・16

流涙症をきたす鼻・副鼻腔疾患

著者: 竹林宏記

ページ範囲:P.286 - P.291

●流涙症をきたす慢性涙囊炎の原因には鼻・副鼻腔疾患が含まれる。

●鼻・副鼻腔の治療歴の問診が重要である。

●涙器に関して侵襲のある治療(涙囊鼻腔吻合術:DCR)を行うときには,涙器周囲の病変の有無をCTなどでの精査が必要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年3月)。

臨床報告

初発から16年後にSAPHO症候群と診断された再燃を繰り返した上強膜炎の1例

著者: 川上秀昭 ,   犬塚将之 ,   望月清文

ページ範囲:P.292 - P.297

要約 目的:上強膜炎の初発から16年後にSAPHO症候群と診断された1例の報告。

症例:51歳,女性。主訴は右眼の眼痛,充血。既往歴は慢性扁桃炎,結節性紅斑,掌蹠膿疱症などであった。左眼前眼部および両眼内に異常はなく,右眼上強膜炎の診断にてステロイドの点眼と内服で治癒した。10年後に再び右眼上強膜炎で当科を受診し,これ以降に上強膜炎は右眼7回,左眼7回みられた。治療は毎回ステロイドの点眼と内服,時に眼注射を行い,症状は数週ほどで軽快した。上強膜炎初発から16年目の健診時CTにて胸骨および脊椎の硬化・肥厚や多発関節炎を指摘され,総合内科にて慢性扁桃炎,掌蹠膿疱症,前胸部病変,脊椎炎などよりSAPHO症候群と診断された。

結論:原因不明で再燃を繰り返す上強膜炎では,鑑別疾患にSAPHO症候群も考慮すべきである。

両視神経周囲炎の治療経過中に致死性の髄膜炎を生じた1例

著者: 石濱慈子 ,   春名優甫 ,   二瓶亜樹 ,   本田聡 ,   壷井秀企 ,   上野洋祐 ,   本田茂

ページ範囲:P.298 - P.302

要約 目的:両視神経周囲炎に対するステロイドパルス療法中に致死性の髄膜炎を生じた1例の報告。

症例:74歳,男性。既往に急性骨髄性白血病および急性心筋梗塞があった。1か月前からの急激な両眼視力低下を認め,当科を紹介され受診した。

結果:両眼特発性視神経炎と診断し,ステロイドパルス療法施行後に再発を認め,合計4コース施行した。再発時,上記既往以外にB型肝炎既感染および潜在性肺結核症があることが判明していた。ステロイドパルス療法4コース目終了から算定して第4病日より全身状態が急変した。結核性髄膜炎または細菌性髄膜炎を疑い,抗菌薬治療を開始するも第6病日に死亡した。

結論:ステロイドパルス療法はきわめて有用な治療法であるが,施行回数が増すほど致死的なものを含む合併症の危険性が高まるため,適応を慎重に判断し,施行する際は早急に他科と連携できるような準備を整えるべきである。

COVID-19ワクチン接種後に急性びまん性点状表層角膜炎を呈した1例

著者: 城戸龍樹 ,   河内さゆり ,   大熊真一 ,   菊地正晃 ,   吉岡恵理子 ,   山西茂喜 ,   山口昌彦

ページ範囲:P.303 - P.308

要約 目的:COVID-19に対するワクチン接種後にぶどう膜炎,角膜移植後拒絶反応,網膜静脈閉塞症などさまざまな眼副反応を生じることが報告されている。今回,COVID-19 mRNAワクチン〔コミナティ(以下,コロナワクチン)〕接種後に急性発症したと考えられるびまん性点状表層角膜炎の1例を経験したので報告する。

症例:24歳,女性。2週間使い捨てソフトコンタクトレンズ常用者で,コロナワクチン1回目接種7時間後より両眼の視力低下・眼痛を自覚,翌々日の近医受診時に視力は右(0.7p),左(0.4p)と低下を認め,びまん性点状表層角膜症としてヒアルロン酸ナトリウム0.1%,ジクアホソルナトリウム点眼を開始するも改善せず,発症6日目に当院を紹介され受診となった。当院初診時の視力は右(1.0p),左(0.4),両眼にびまん性点状表層角膜炎と角膜浮腫を認め,前眼部OCTにて中心角膜厚は右549μm,左584μmと肥厚しており,また角膜形状異常による不整乱視を認めた。非感染性の角膜炎と診断し,フルオロメトロン0.1%点眼に変更した。治療開始から1か月後には点状表層角膜炎は消失し,視力は両眼ともに(1.2)まで改善,中心角膜厚の肥厚,角膜形状異常も改善した。

結論:ワクチン接種との時間的因果関係から,コロナワクチン接種を契機に急性角膜炎を発症したと考えられた。ステロイド点眼にて改善し,コロナワクチン投与による眼局所での免疫応答が発症に関与している可能性が考えられた。

今月の表紙

黄斑円孔と囊胞様腔

著者: 山口純 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.309 - P.309

 症例は75歳,女性。2〜3日前から左眼の変視を自覚したため前医を受診。黄斑円孔の診断で手術目的のため当院へ紹介受診となる。当院初診時における左眼の所見は,矯正視力0.3,眼圧13mmHg,軽度白内障と黄斑円孔を生じていた。光干渉断層撮影でGass分類のステージ3と診断した。白内障・硝子体同時手術を行い,術後1か月の時点で黄斑円孔は閉鎖し,経過は良好であった。

 撮影にはトプコン社製DRI OCT Tritonを用いた。写真上段は,囊胞様腔の全体像を記録するために,スキャンパターン「3D黄斑(H)」で撮影したデータをen face表示したものである。網膜色素上皮層を基準面として深さ方向を調整し,円孔を中心に花冠状に広がる囊胞様腔が画像として大きく得られる位置で表示した。撮影時の注意点として,画像の乱れが起きないよう,患者に瞬目や固視について説明し,撮影の際は適宜声かけをした。下段のBスキャン画像は「5ラインクロス」で撮影したもので,後部硝子体膜や蓋の位置関係を記録するためにZ軸方向の調整を行った。

Book Review

診断力がアップする! OCT・OCTAパーフェクト読影法—正常・異常所見の読み方と目のつけどころ

著者: 池田康博

ページ範囲:P.345 - P.345

 近年,OCT(optical coherence tomography)ならびにOCTアンギオ(OCTA)は眼科の日常診療において,臨床的に多くの情報が得られる重要で必須の検査のひとつになっている。そのため,その検査所見を十分に理解し読み解くことは,網膜疾患を正確に診断し治療方針を構築する上で必要不可欠なスキルといえる。

 「網膜診療クローズアップ(メジカルビュー社)」をはじめとして,評判の高い網膜疾患に関する専門書をこれまで執筆してきた著者が,今回OCT/OCTAに関する専門書を執筆したと知らせを受け,興味津々に本書を手にした。これまでの専門書とは,切り口が違い,斬新な構成であることに感銘を受けた。網膜疾患だけでなく,緑内障についても解説されていることは本書の特徴のひとつだろう。

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目次

ページ範囲:P.270 - P.271

欧文目次

ページ範囲:P.272 - P.273

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.386 - P.391

アンケート用紙

ページ範囲:P.396 - P.396

次号予告

ページ範囲:P.397 - P.397

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.398 - P.398

 臨床眼科3月号をお届けします。「今月の話題」では,ロービジョンケアの最新の考え方に始まって,クイック・ロービジョンケアやスマートサイトなど一般眼科医に向けた実用的なケアのノウハウについて石子智士先生がまとめてくださっています。また,視覚障害に対する補助具に関しては,最新のデジタルデバイスを中心に紹介されています。さらに,ロービジョンケアが,価値観として定着しつつあるwell-beingを重視し,SNSやAIなどのテクノロジーを取り入れつつ,アップデートを続けているのがわかり,時代の流れを強く感じる内容になっています。それぞれの解説項目は要点が簡潔にまとめられており,診療などで忙しい先生方にとってはとてもありがたいレビューになっていると思います。

 涙器涙道の連載は,流涙症について特集しており,竹林宏記先生がご担当されています。Clinical Challengeは,松尾将人先生が,若年性の緑内障の症例について取り上げられています。「臨床報告」の3報はいずれも炎症性疾患に関するものです。それぞれ強膜,視神経,角膜と病気の主座が異なり,オーバーラップが少ないために3つの報告を通読することで,炎症性疾患の多面性を意識しつつ効率よく学習できます。また,本号から,第77回日本臨床眼科学会での原著論文の掲載が始まり,第1弾として10報が掲載されています。緑内障サプリメントの調査報告,白内障とアイフレイルを調べたものなど内容は非常にバラエティーに富んでいますが,歯科医師44名を対象にした多焦点レンズ手術後の眼鏡使用頻度などを調査した論文は一読の価値があります。同じ頭頸部の外科として眼科の仕事に通じるものがあるため,いずれ白内障手術を受ける側の身になるであろう皆様にも興味をもって読んでいただけるテーマだと確信しています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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