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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻4号

2024年04月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[2] 特別講演

持続可能な網膜再生医療を目指して

著者: 髙橋政代

ページ範囲:P.407 - P.416

 iPS細胞を用いた網膜再生医療は,2013年の加齢黄斑変性に対する自家網膜色素上皮細胞移植臨床研究に始まり,2017年のHLAをマッチさせ拒絶反応を抑えた他家網膜色素上皮移植で安全性を確認したのち,現在は効果を確認するフェーズに入っている。さらに視細胞を含む神経網膜シート移植も2020年に臨床試験開始となり一定の安全性が確認された。こうして網膜の再生医療は,加齢黄斑変性や網膜色素変性のような網膜外層が変性する疾患群に対する効果判定から治療への準備が進みつつある。本稿では再生医療成功の鍵を探る。

原著

ハプティクスを毛様溝に確実に縫着した眼内レンズ毛様溝縫着術の術後長期経過

著者: 杉浦毅 ,   﨑元暢 ,   田中義和 ,   井上康

ページ範囲:P.437 - P.445

要約 目的:ハプティクスが毛様溝に確実に固定された眼内レンズ(IOL)毛様溝縫着術の術後長期経過を,過去のIOL縫着術の長期経過報告との比較を交えて報告する。

対象と方法:エンドスコープを用いてハプティクスが毛様溝に確実に固定されたことを術中確認したIOL毛様溝縫着術において,術後1〜14年6か月(平均56か月)観察した146眼を対象とした。この手術を必要とした理由(A),術後10年までの矯正視力経過(B)と最終観察視力(C),術後屈折誤差(D),前房深度(E),術後合併症(F)を検討した。

結果:Aは,白内障術後のIOL偏位が最も多く38.4%,次いで白内障手術合併症のためIOL非挿入27.4%であった。Bは術後8年まで術前より有意に良好で,CはlogMAR 0.15で過去の報告より良好であった。Dは−0.71±0.75D(平均±標準偏差)と近視化を認めた。Fは,術後硝子体出血24.0%,縫着糸の露出19.2%,瞳孔偏位18.5%,虹彩捕獲6.2%,縫着糸の断裂とIOL偏位は0%(過去の報告では,6〜28%)であった。硝子体出血は術後1か月以内に全例消退した。瞳孔偏位例の平均視力は,全例でのそれと有意差はなかった。

結論:本術式では,術後長期に良好な視力とIOLの安定的な固定が得られ,ハプティクスの毛様溝への正しい固定の重要性が示唆された。

米沢市立病院で治療を行った視神経炎17症例の検討

著者: 髙宮美智子 ,   佐久間大輔 ,   山口万里奈 ,   國方彦志 ,   中澤徹

ページ範囲:P.447 - P.451

要約 目的:米沢市立病院で治療を行った視神経炎の検討。

対象と方法:2012〜2021年の9年間に経験した視神経炎,17例20眼について診療録をもとに検討した。

結果:年齢は14〜77歳(平均年齢53.1歳)。性別は男性9例,女性8例。原疾患不明が8例(8眼),原疾患のあるものは,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質抗体陽性1例(1眼),抗アクアポリン4抗体陽性2例(3眼),多発血管炎性肉芽腫症1例(1眼),妊娠高血圧症1例(1眼),IgG4症候群に合併したもの1例(1眼),糖尿病1例(2眼),慢性炎症性脱髄性多発神経炎1例(1眼),Vogt・小柳・原田病1例(2眼)であった。発症から治療開始までの期間は1〜60日で平均10.4日,治療はステロイドパルス療法を1〜3クール行った。慢性炎症性多発性脱髄性多発神経炎の患者は,ステロイドで効果がみられず,免疫グロブリン療法を行った。視力が改善したものは,15例(18眼),不変が2例(2眼)であった。

結論:視神経炎に対しステロイドパルス療法は有効であるが,症例によっては免疫グロブリン療法が必要な患者であると思われた。

Functional Vision Score中心暗点ルールの調整におけるAmerican Medical Associationクラスへの影響

著者: 鶴岡三惠子 ,   平塚義宗 ,   井上賢治

ページ範囲:P.452 - P.457

要約 目的:American Medical Association(以下,AMA)では,Functional Vision Score(以下,FVS)で視機能障害をAMAクラス分類する際に,FVSの追加ルールである中心暗点ルールで視力と視野障害の重複を避ける補正を行っている。この補正の程度を調査した。

対象と方法:2019年1月から4年間に井上眼科病院で視覚の身体障害者手帳申請を希望した137症例を対象とした。診療録より性別,年齢,原因疾患,および視野を後ろ向きに調査した。中心暗点ルールの適応は,ゴールドマン視野で中心10度以内にⅢ/4eイソプターで視野障害を認める症例とした。FVSの中心暗点ルールの有無によるAMAクラス判定の違い,原因疾患による影響について多変量解析を用いて検討した。

結果:ゴールドマン視野で中心10度以内にⅢ/4eイソプターで視野障害を認める症例は109例(79.6%)であった。性別は男性56例,平均年齢は64歳であった。原因疾患は,緑内障54例,視神経疾患21例,黄斑疾患15例,網膜色素変性13例,その他6例であった。中心暗点ルールによるFVSの差は0〜25点であった。中心暗点ルールの適応により約30%の症例がAMA classで約1段階軽度に補正された。中心暗点ルールの適応によるAMA class補正の有無と,年齢,性別,原因疾患との間には有意な関連はなかった。

結論:FVSでは中心暗点ルールの適応により約30%の症例でAMAクラス分類を約1段階軽度に調整していた。AMA class補正の有無と,年齢,性別,原因疾患に有意な関連はなかった。

眼内レンズ強膜内固定術後レンズ傾斜・偏心に関する検討

著者: 佐々木栞菜 ,   新田文彦 ,   小山内亜紀 ,   國方彦志 ,   中澤徹

ページ範囲:P.458 - P.463

要約 目的:眼内レンズ(IOL)強膜内固定術において,使用IOL別に固定位置(傾斜・偏心)を含めた臨床経過を比較検討する。

対象と方法:2020年3月〜2023年3月に東北大学病院眼科にて同一術者によりNX-70S(エタニティーファインナチェラル,光学径7.0mm),もしくはPN6AS(アバンシィプリセット,光学径6.0mm)を用いて強膜内固定術を行い,経過を3か月以上観察できた患者45例50眼を対象とした。IOLの傾斜・偏心および目標屈折度と術後1週間程度での屈折度の誤差,術後合併症を後向きに検討した。

結果:50眼の内訳はNX-70S群が11例,PN6AS群が39例であり,術後レンズ傾斜角度はそれぞれ7.73±4.99度,7.99±4.59度(p=0.75),偏心は0.58±0.29mm,0.59±0.33mm(p=0.53)であり,2群間に有意差はなかった。また術後屈折誤差についてもNX-70S群で0.78±0.55D,PN6AS群で0.64±0.52Dであり有意差はなかった(p=0.17)。術後合併症として高眼圧(7/50件:14%),硝子体出血(4/50件:8%),虹彩捕獲があり(2/50:4%)を認め(いずれも2群間に有意差なし),虹彩捕獲1例のみ再手術を要した。

結論:IOL強膜内固定術において,光学径の異なるIOL間でもレンズ傾斜・偏心,また術後の屈折誤差において有意差はなかった。

西葛西・井上眼科病院における白内障手術併用iStent inject® Wの短期成績

著者: 宮本昌典 ,   戸塚清人 ,   國松志保 ,   石田恭子 ,   溝田淳 ,   井上賢治

ページ範囲:P.465 - P.472

要約 目的:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject® W)の術後成績について検討する。

対象と方法:2021年4月〜2023年5月に西葛西・井上眼科病院で白内障手術併用iStent inject® W挿入術を施行され,3か月以上経過観察できた連続症例(iStent群)16例24眼(71.9±4.2歳)と,白内障単独手術を施行された緑内障眼(単独群)15例26眼(71.8±5.6歳)を対象とし,視力(logMAR),眼圧,薬剤スコア,合併症について後ろ向きに検討した。

結果:術翌日の視力はiStent群,単独群で両群間に差はみられず,術後2週間までに観察期間中における最大視力に達した割合もiStent群88%(21眼),単独群85%(22眼)と有意差はなかった。術前,術後1,3か月の平均眼圧と(下降率)はiStent群で18.3±3.2mmHg,16.9±2.7mmHg,15.6±2.4mmHg(14.7%)(p=0.0002),単独群で13.5±2.3mmHg,13.4±2.9mmHg,12.5±1.7mmHg(7.4%)(p=0.0035)であり,両群とも術前と比べて術後3か月で有意に下降し,さらにiStent群は単独群と比べても有意な眼圧下降を認めた(p=0.036)。薬剤スコアはiStent群で2.0±1.8,0.42±0.98,0.58±1.0,単独群で1.3±1.2,1.4±1.0,1.3±1.0で,iStent群において,すべての時期で有意に減少した。術後の一過性眼圧上昇(≧30mmHg)をiStent群に4眼,単独群に1眼認め,両群間に有意差はなかった。ニボーを形成するような前房出血を生じた例はなかった。

結論:白内障手術併用iStent inject® W挿入術は,白内障手術単独に比べて有意な眼圧下降と同等の早期視力改善を得られる安全で有用な手術である。

傾斜乳頭症候群に合併した黄斑円孔の1例

著者: 一迫星来 ,   山本裕樹 ,   半田忠良 ,   高尾博子 ,   大島博美 ,   善本三和子 ,   池上靖子 ,   沼賀二郎

ページ範囲:P.473 - P.478

要約 目的:傾斜乳頭症候群(TDS)に黄斑円孔(MH)を合併した症例を経験したので報告する。

症例:60歳,女性。視力低下を主訴に来院し,両眼白内障手術を施行後,術後矯正視力は右1.0であったが,左眼はTDSに伴う下方後部ぶどう腫,またその境界に黄斑を横切る帯状の網膜色素上皮萎縮を認め,矯正視力は0.4であった。術後2年半で左眼黄斑部に一過性の漿液性網膜下液(SRF)を認め,術後4年,左眼に特発性黄斑円孔stage Ⅲを発症し,視力は(0.3),さらにその7か月後MHはstage Ⅳへ進行し,視力が(0.15)と低下した。手術適応と考え,左眼硝子体茎離断術+内境界膜(ILM)翻転法+20% SF6ガス置換術を施行した。TDSに伴う下方後部ぶどう腫合併例であったため,ILM剝離はMHの上方のみにとどめ,剝離したILMを下方ぶどう腫側に翻転する術式を選択した。術後9日目にはMHの閉鎖が確認され,MH術後2か月で白内障手術直後の視力(0.4)にまで回復した。

結論:TDSに合併した特発性MHには,上方から下方へのILM翻転法が,円孔の閉鎖に有効である可能性が示唆された。

後発白内障治療後の黄斑円孔網膜剝離に残存水晶体囊移植と硝子体手術を行った1例

著者: 新田文彦 ,   國方彦志 ,   佐々木栞菜 ,   小山内亜紀 ,   中澤徹

ページ範囲:P.479 - P.484

要約 緒言:黄斑円孔網膜剝離に対する硝子体手術の際に,内境界膜や水晶体後囊を用いて円孔を被覆する報告がある。今回,過去に内境界膜剝離が行われ,さらに後発白内障に対し後囊切開が行われた黄斑円孔網膜剝離症例において,残存後囊を用いた硝子体手術により良好な結果を得たので報告する。

症例:66歳,女性。9年前にA病院において右黄斑前膜と白内障にて水晶体再建術,硝子体手術と,その後に近医にて後発白内障のため後囊切開が行われた既往があった。右眼の視力低下を自覚し,近医を経て東北大学病院に紹介となった。

所見:初診時,右矯正視力は30cm手動弁,眼軸長は27.13mmであった。眼内レンズが囊内固定され,後囊中央は3〜4mmほど切除されていた。眼底は全剝離で明らかな原因裂孔は不明であったが,硝子体手術を施行したところ,術中に黄斑円孔網膜剝離であることが明らかになった。また過去の黄斑前膜手術で黄斑近傍の内境界膜が広範囲に除去されていることも判明した。そのため,残存している後囊鼻側半分を切除し,黄斑直上にその切除片を留置し,ガス置換をして終術した。その後,黄斑円孔は閉鎖し網膜剝離も復位した。術後7か月現在,右矯正視力0.4,眼内レンズの振盪は認められず,前眼部光干渉断層計では偏位0.16mm,傾斜1.1度と明らかな異常はなかった。

結論:後囊切開後でも残存した後囊を一部切除し,その切除片で黄斑円孔の被覆は可能であった。短期的には眼内レンズの固定位置への影響もなかった。

網膜外層所見の変化を観察できた急性梅毒性後部脈絡網膜炎の1例

著者: 藤原あや ,   石戸岳仁 ,   長田頼河 ,   佐藤慧一 ,   水木信久

ページ範囲:P.485 - P.490

要約 目的:治療前に網膜外層所見の改善を認め,良好な経過をたどった,急性梅毒性後部脈絡網膜炎(ASPPC)の1例を報告する。

症例:55歳,男性。右眼の中心霧視のため受診した。右矯正視力は0.2,黄斑部の耳側に黄白色の病変と,視神経乳頭に軽度発赤がみられた。光干渉断層計所見は右眼の網膜外層が消失し,血清学的検査は梅毒脂質抗体定量値 62.8 R. U.,梅毒トレポネーマ抗体定量値 3,244.0 T. U. と高値を示した。梅毒感染に伴うASPPCと臨床診断した。治療開始前に自覚症状の改善がみられ,右矯正視力は0.3pに回復した。自然経過で網膜外層が光干渉断層計で観察できるようになった。ベンジルペニシリンカリウム点滴加療(2400万単位/日,14日間)を行い,右矯正視力は1.2pに回復した。点滴加療終了時には光干渉断層計で網膜外層所見は正常化した。

結論:ASPPCに駆梅療法が奏効したが,光干渉断層計で治療前に網膜外層所見の改善がみられた。網膜外層異常の鑑別診断をするうえで本症例の臨床経過は一助となると考えられた。

難治性角膜潰瘍による角膜穿孔に強膜移植術が有効であった1例

著者: 桐山雅通 ,   土至田宏 ,   小森翼 ,   朝岡聖子 ,   市川浩平 ,   杉田丈夫 ,   太田俊彦 ,   中尾新太郎

ページ範囲:P.491 - P.497

要約 目的:難治性角膜潰瘍に対して複数回の手術を含む治療に抵抗し角膜穿孔を生じるも,強膜移植後に瘢痕治癒し眼球摘出を免れた1例を経験したので報告する。

症例:症例はハードコンタクトレンズ誤装用の71歳,男性。近医で右角膜潰瘍と診断され抗菌薬を処方されるも改善なく,順天堂大学医学部附属静岡病院眼科へ紹介され初診となった。初診時視力は手動弁(矯正不能)で,結膜充血,角膜潰瘍,前房蓄膿を認めた。培養検査結果は陰性も後の塗抹検鏡で糸状菌が検出され抗真菌薬治療を開始。経過観察中に角膜菲薄化と角膜穿孔を生じたため結膜被覆術を3回,表層角膜移植術を1回施行した。縫合離開と角膜融解を繰り返したため,強膜移植術を施行したところ瘢痕治癒した。術後約2年目の視力は手動弁(矯正不能)を維持している。

結論:難治性角膜潰瘍による角膜菲薄化・角膜穿孔に対し,結膜被覆術や表層角膜移植術による治療に抵抗した場合,それらに代わる術式として強膜移植術も選択肢の1つになりうる。

副鼻腔炎を伴う眼窩炎症に対してステロイド治療を躊躇した1例

著者: 大池東 ,   後藤健介 ,   平岩二郎

ページ範囲:P.498 - P.504

要約 目的:副鼻腔炎と眼窩炎症を同時に認め,ステロイド治療を躊躇した症例を経験したので報告する。

症例:48歳,男性。2か月前からの右眼霧視にて江南厚生病院を受診した。初診時の矯正視力は右0.15で上方視での複視を認めた。CT,MRIにて右外眼筋炎とそれに伴う圧迫性視神経症を認め,同時に右副鼻腔炎を認めた。

結果:特発性眼窩炎症や自己免疫性疾患による眼窩炎症と,鼻性眼窩内合併症として鼻性視神経症が鑑別に挙がり,内視鏡下副鼻腔手術を施行した。手術所見からは副鼻腔炎からの眼窩内穿破や真菌感染は否定的であった。手術後も眼窩炎症は悪化傾向であり副鼻腔炎との関連性はないと判断し,ステロイド内服治療を開始した。ステロイド治療が奏効し外眼筋炎および外眼筋腫脹による圧迫性視神経症は改善した。矯正視力は右1.2まで改善し複視も改善した。

結論:今回,副鼻腔炎と眼窩炎症を同時に認める症例を経験した。ステロイド治療を考慮する場合は鼻性眼窩内合併症を否定したうえで治療を行うことが重要である。

病初期より視神経炎を認めた再発性多発軟骨炎の1例

著者: 牛田知子 ,   牛田宏昭 ,   夏目啓吾 ,   鈴村文那 ,   西口康二

ページ範囲:P.505 - P.510

要約 目的:再発性多発軟骨炎(RP)は,眼症状として強膜炎,上強膜炎,ぶどう膜炎などがあるが,初期に視神経炎をきたす頻度は約0.9%と稀である。病初期より視神経炎を認めた再発性多発軟骨炎の1例を経験したので報告する。

症例:71歳,男性。左視力低下を主訴に近医を受診した。右眼は視力(1.0)で特に異常はなかった。左眼は視力(0.2),限界フリッカ値16.6Hz,視神経乳頭腫脹,ゴールドマン視野検査で中心暗点があり,相対的瞳孔求心路障害陽性であった。左視神経炎と診断し,ステロイドパルス療法を3回行ったが左視力(0.8)と改善するも,その後に悪化し名古屋大学医学部附属病院(当院)へ紹介となった。

所見:当院初診時,右眼は視力(1.0)で異常はなかったが,左眼は視力(0.2)で結膜浮腫と強結膜充血,黄斑浮腫を認め,視神経乳頭は発赤腫脹していた。強膜炎と視神経炎の合併と診断し,左強膜炎にステロイド結膜下注射を行い,さらにトリアムシノロンテノン囊下注射を追加したところ視神経乳頭炎は改善傾向となった。胸部CTにて軟骨部主体に炎症があり,耳介軟骨生検も行った。眼炎症,両側耳介軟骨炎,気道軟骨炎からRPと診断,プレドニゾロン60mg/日の内服を開始したところ左視力(0.3),限界フリッカ値20Hzと改善し漸減となった。

結論:再燃を繰り返す視神経炎の場合,RPの可能性も視野に入れて精査・加療を進めていくことが必要である。

導入10年目のロービジョン検査判断料に関する眼科医の意識

著者: 清水朋美 ,   堀寛爾 ,   鶴岡三惠子 ,   仲泊聡 ,   川瀬和秀 ,   石子智士 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.511 - P.518

要約 目的:導入10年目におけるロービジョン検査判断料(以下,ロー検)に対する眼科医の意識調査報告。

対象と方法:視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を受講修了した眼科医有志のメーリングリスト(822名)加入者に対して,Googleフォームを用いた無記名形式アンケートを実施した。

結果:計138名の回答を得た(回答率16.8%)。94.9%は常勤で勤務をしており,眼科クリニックでの勤務が41.3%,20〜30年未満の眼科経験年数が42.0%でそれぞれ最多であった。ロービジョンケア(以下,LVC)に対するイメージは,「時間がかかる」が80.4%で最多であり,自身でLVCを行っているかについては,「ロー検の診療報酬化以前から行っている」が34.8%,「ロー検の診療報酬化をきっかけに行うようになった」が32.6%であった。94.9%は「ロー検ができてよかった」と考え,ロー検がLVCへの関心を高めるきっかけになったか否かという質問に対しては81.2%が「なった」と回答した。ロー検ができてよかったことについては「LVC実施のための経済的保証ができた」が73.9%と最多であり,運用上困ることについては「自分の知識に不安がある」が50.0%で最多であった。意見では,施設基準,コストの低さ,自身の知識への不安などに関する内容が多かった。

結論:ロー検については肯定的な意見が多く,LVCを始めるきっかけにもなっていた。今後,LVCに関する学習環境の整備,継続的な課題整理が必要であると考えられた。

連載 Clinical Challenge・49

急激な両眼性高眼圧

著者: 三木篤也

ページ範囲:P.404 - P.406

症例

患者:50歳台,女性

主訴:両眼のかすみ

現病歴:X年4月,2〜3週前からかすみを自覚し近医眼科を受診した。両眼の著明な高眼圧を認めたため,アセタゾラミド内服処方のうえ,翌日に愛知医科大学病院眼科を紹介され受診した。

既往歴:花粉症

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・17

涙囊移動術—結膜涙囊吻合術(conjunctivo-dacryocystotomy)

著者: 嘉鳥信忠

ページ範囲:P.417 - P.421

●涙小管完全閉塞に対して結膜と涙囊を直接吻合する術式である。

●ガラス管などのデバイスを永久留置しない。

●Jones法(ガラス製のJones tubeをデバイスとする結膜涙囊鼻腔吻合)に比べると導涙効果は劣るが,術後管理は基本的に不要で,合併症がほぼないため患者満足度が高い。

臨床報告

うっ血乳頭はなく片眼性の視神経乳頭変形,後天性遠視,網脈絡膜皺襞,視神経周囲くも膜下腔拡大を呈した特発性頭蓋内圧亢進症の1例

著者: 川上秀昭 ,   犬塚将之 ,   望月清文 ,   香村彰宏 ,   谷川原徹哉 ,   四戸由歌

ページ範囲:P.423 - P.429

要約 背景:頭蓋内圧亢進症の眼合併症は両眼性に発生し,多くはうっ血乳頭がみられやすい。

目的:うっ血乳頭のない片眼性の視神経乳頭変形,後天性遠視,網脈絡膜皺襞,視神経周囲くも膜下腔拡大を呈した特発性頭蓋内圧亢進症の1例を報告する。

症例:36歳,男性。頭痛と左眼痛のため岐阜市民病院(当院)脳神経外科と眼科で精査を受けるも原因となる異常所見は指摘されなかった。2年後,他院と健診で左眼の裸眼視力低下と黄斑前膜を指摘され当院眼科を受診した際,左眼の視神経乳頭変形,後天性遠視,網脈絡膜皺襞,視神経周囲くも膜下腔拡大を認め,頭蓋内異常のない脳脊髄圧上昇を指摘された。特発性頭蓋内圧亢進症の診断にてアセタゾラミドと五苓散を処方された。治療を開始してから1.5年の経過中に新たな病態発生はないが,左眼にみられる異常所見の改善はない。

結論:片眼性であっても網脈絡膜皺襞,乳頭形態異常,後天性遠視などを診たときには頭蓋内圧亢進症も考慮すべきである。

若年で発症したintrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhage(IHAPSH)の1例

著者: 町田碧 ,   寺崎寛人 ,   三原直久 ,   山下高明 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.431 - P.436

要約 目的:IHAPSHは,視神経乳頭部の出血と乳頭周囲の網膜下出血を生じる症候群で,近視の女性に多いとされているが1),10代前半でIHAPSHを生じた報告は少ない。今回筆者らは,若年女児に発症した典型的なIHAPSHの1例を経験したので報告する。

症例:12歳,女児。主訴は右眼の飛蚊症。

所見:初診時の矯正視力は右0.9,左1.2,右眼の視神経乳頭部の出血と乳頭鼻側に網膜下出血,硝子体出血を認めた。視神経乳頭は楕円形で耳側コーヌスがあり近視性の変化を認めた。OCT angiographyやフルオレセイン蛍光眼底造影では,脈絡膜新生血管や視神経乳頭上の新生血管は認めなかった。IHAPSHの診断で経過観察とし,初診から6週間後に視神経乳頭部の出血と乳頭周囲の網膜下出血および硝子体出血はほぼ消失し右矯正視力は1.0に改善した。

結論:本症例は,①視神経乳頭部からの出血,②近視眼,③視神経乳頭の鼻側に網膜下出血,④出血は自然消退する,⑤視力予後は良好,⑥女性,⑦再発がみられない,とIHAPSHに特徴的な所見が揃っており典型的なIHAPSHの症例と考えられた。IHAPSHの報告例はいまだ少ないが,若年の乳頭出血を生じた際の鑑別疾患として念頭に置く必要がある。

今月の表紙

水晶体脱臼

著者: 田中孟 ,   黒坂大次郎

ページ範囲:P.422 - P.422

 患者は84歳,男性。両眼が見えにくくなってきたため眼鏡店を訪れたが,眼科受診を勧められ当院を受診した。初診時の視力は右0.05(0.06p×−3.00D),左0.01(0.6×+11.00D()cyl−1.00D 90°)であった。右白内障,左硝子体内への水晶体脱臼,ドルーゼンを認めた。後日,右超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,左経毛様体扁平部硝子体手術+眼内レンズ強膜内固定術を施行し,右(1.2×+1.00D()cyl−2.50D 90°),左(1.0×+0.50D()cyl−2.50D 85°)となった。

 撮影には,ZEISS社製走査型超広角眼底撮影装置CLARUS 500を使用した。撮影は正面視と下方視で行いパノラマ合成した。下方視時は水晶体にフォーカスを合わせた撮影を行った。本装置はカメラを左右に振ることはできるが,上下にカメラを振ることはできない。そのため,下方視時に少しでも落下した水晶体を捉えるため,患者には下方視したうえで,通常より顎を少し引いた姿勢を指示し撮影した。

追悼

中澤 満先生を偲んで

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.520 - P.521

 2023年9月に,本誌編集委員を務められていた中澤 満先生の訃報に接しました。本誌の編集委員会活動を通じて,中澤先生の何事にも真摯に対応される姿勢を間近に拝見して,強い尊敬の念を抱いておりました。愛別離苦は世の習いといいますが,寂しさとともに深い悲しみを感じております。

 中澤先生と私が知り合ったのは,今から30年前になります。その当時,分子生物学をはじめとした基礎研究がわが国の眼科でブームになり,その気鋭の学者として先生はスターのような存在でした。ただし,スター学者にありがちな尊大なところはなく,私のような初学者にも,本当に親身になって研究の相談に乗ってくださいました。

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目次

ページ範囲:P.400 - P.401

欧文目次

ページ範囲:P.402 - P.403

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.522 - P.527

アンケート用紙

ページ範囲:P.532 - P.532

次号予告

ページ範囲:P.533 - P.533

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.534 - P.534

 2024年3月16日から福井県にも新幹線が開通しました。これまで「あとがき」にも書かせていただいたとおり,大雪や大雨で特急列車が遅延してしまい,予定に間に合わなくなりそうでヒヤヒヤする場面も多々ありましたが,これで,西は鹿児島,東は函館まで新幹線で移動できるようになりました。

 福井には空港がなく,全国どこでも電車で移動する「乗り鉄」のような私なので,7年前に青森県での講演にお招きいただいたときも,特急と新幹線を乗り継いで伺いました。その講演会の慰労会で,当時本誌の編集委員であった中澤 満先生と同席させていただきました。いつも物静かな先生が,福井から電車でやって来たという私に大変驚かれていたのが印象に残っています。ご体調のこともあり,遠距離の福井県までご講演にお越しいただくことがなかっただけに,今年度再び青森での講演会に全線新幹線で伺う予定を楽しみにしておりました。ご冥福をお祈りいたします。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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