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雑誌目次

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臨床眼科78巻5号

2024年05月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[3] 原著

3D heads-up surgeryによる眼瞼下垂手術の経験

著者: 鄭暁東 ,   五藤智子

ページ範囲:P.569 - P.576

要約 目的:近年,硝子体手術をはじめ3D heads-up surgery(HUS)による内眼手術の報告は増えているが,眼形成手術についての報告は少ない。今回筆者らは,眼瞼下垂手術においてHUSと通常の顕微鏡鏡筒(MS)使用手術を比較検討したので報告する。

対象と方法:退行性眼瞼下垂20例ずつをHUS群とMS群に分け,同一術者による挙筋短縮術を施行,HUS群はNGENUITY®3Dビジュアルシステムを使用した。両群間に手術時間(総時間T1,皮膚切開T2,挙筋前転T3および皮膚縫合T4),術中体験として痛みと眩しさについて自覚スコア(VAS)と術後成績の眼瞼浮腫および1か月のMRD1改善量について比較検討した。また,HUS群においては,デジタルカラーフィルター使用の有無によって,前期10例(filter offモード)と後期10例(green filterモード)に分け,群内比較検討を行った。

結果:HUS群のT1,T2,T3およびT4は,それぞれ21.5±4.2分,6.7±3.9分,3.61±2.62分および9.4±5.7分で,MS群のそれぞれは13.8±2.6分,3.2±0.88分,3.15±1.7分および5.35±2.61分で,HUS群のT1,T2およびT4はMS群より有意に長かった(p=0.014,p=0.002およびp=0.01,スチューデントのt検定)。HUS群の後期症例のT1およびT2はそれぞれ16.1±3.2分,4.1±2.2分で,前期より有意に短縮した(p=0.016,p=0.007)。HUS群とMS群の術中の痛み,眩しさのスコアと術後の眼瞼浮腫およびMRD1の改善量には有意差はなかった。

結論:HUSによる眼瞼下垂手術時間はMSより長いものの,安全で可能であった。Green filterモードを使用することで,術中出血時に視認性が向上し手術時間の短縮につながる可能性が示唆された。

Ellipsoid zoneの不整からacute syphilitic posterior placoid chorioretinitisの診断に至った2例

著者: 今井一貴 ,   小幡峻平 ,   西信良嗣 ,   大路正人

ページ範囲:P.577 - P.584

要約 目的:Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis(ASPPC)は梅毒性ぶどう膜炎の稀な病型で後極に特徴的な黄白色の円盤状病変を呈する。今回,ellipsoid zone(EZ)の不整からASPPCの診断に至った2例を報告する。

症例1:53歳,男性。4か月前からの右眼視力低下を主訴に当科を受診。矯正視力は右0.8,左0.9で,両眼に微塵様角膜後面沈着物,前房細胞1+,硝子体混濁を認めた。後極に黄白色の色調変化を認め,光干渉断層計(OCT)でEZは不整であった。血清学的検査と画像所見よりASPPCと診断した。アモキシシリンによる治療で4か月後の矯正視力は右1.2,左1.2に改善,後極の色調変化は消失し,OCTでEZは正常となった。

症例2:43歳,男性。1週間前からの左眼視力低下,視野異常を主訴に当科を受診。矯正視力は左1.0で,黄斑下方を中心に黄白色の色調変化を認め,OCTでEZは不整であった。血清学的検査と画像所見よりASPPCと診断した。アモキシシリンによる治療で5か月後の矯正視力は左1.5に改善,後極の色調変化は消失し,OCTでEZは正常となった。

結論:OCTでEZの不整を認め,ASPPCを疑う契機となった。ぶどう膜炎にEZの不整が合併していれば,鑑別にASPPCを加える必要があると考えられる。

ニボルマブまたはイピリムマブによる薬剤性視神経症が疑われた1例

著者: 髙木啓伍 ,   倉田健太郎 ,   野々山宏樹 ,   高山理和 ,   立花信貴 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.585 - P.591

要約 目的:ニボルマブまたはイピリムマブが被疑薬と考えられた薬剤性視神経症の1例を経験したので報告する。

症例:52歳,女性。悪性胸膜中皮腫に対し,当院産婦人科でX年Y月13日よりニボルマブとイピリムマブが投与された。Y+2月1日に左眼の視野障害を訴え,同月9日に当科を受診した。

所見:初診時の視力は右(1.2),左(0.9)で,左眼に相対的瞳孔求心路障害を認めた。両眼の視神経乳頭は腫脹し,フルオレセイン蛍光眼底造影では視神経乳頭の過蛍光を認めた。視野検査では,左眼優位に周辺部の視野欠損がみられた。頭部造影MRIは特記所見なく,ニボルマブまたはイピリムマブの薬剤性視神経症が疑われた。Y+2月22日から被疑薬を中断したところ,自覚症状の改善はみられたが視野欠損がやや進行したため,Y+2月29日よりステロイドパルス療法を3日間施行した。その後,視野の悪化はなく,矯正視力は両眼とも(1.2)に向上した。産婦人科医と患者との相談で,Y+3月26日からニボルマブとイピリムマブの投与が再開されたが,発症から1年時点で視機能の悪化はみられていない。

結論:経過から,総合的に薬剤性視神経症と判断した。被疑薬の早期中断とステロイドパルス療法により,視野障害の進行を抑えられた可能性がある。被疑薬は再開されているため,今後も注意深い経過観察が必要である。

悪性緑内障に対するYAGレーザー前部硝子体膜切開後に脈絡膜出血をきたした1例

著者: 今居一輝 ,   髙田幸尚 ,   住岡孝吉 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.592 - P.597

要約 目的:悪性緑内障レーザー治療翌日に脈絡膜出血を認めた症例を経験した報告。

症例:53歳,女性。全身性エリテマトーデスによるループス腎炎で人工透析中。2021年11月X−3日に右眼のステロイド緑内障に対して近医で線維柱帯切除術を施行,X日に右眼痛と視力低下を自覚して和歌山県立医科大学附属病院を夜間に救急受診。右眼の浅前房と高眼圧(68mmHg)であり,悪性緑内障を認めた。アトロピン点眼とYAGレーザー前部硝子体膜切開施行により眼圧は下降(34mmHg)した。X+1日,前房の深化と眼圧の正常化(12mmHg)は認めたが,脈絡膜出血を認めた。X+2日以降,低眼圧(4〜7mmHg)が持続したためX+14日目に強膜弁縫合術を施行したところ,眼圧の上昇(20mmHg台)により脈絡膜出血は改善したが,硝子体出血を認めたため,X+66日に経強膜的脈絡膜出血排出と硝子体手術を施行した。術後眼圧は高眼圧(30mmHg台)が持続したため,X+85日に線維柱帯切除術を行い,以後合併症なく,矯正視力は0.4,眼圧は12〜14mmHgで経過した。

結論:夜間の時間外救急では十分に全身状態を把握できないこともあり,腎機能廃絶患者では眼圧降下薬の全身投与が行いにくい状況もある。そのため,悪性緑内障に対する外科的治療前後の圧較差が大きくなる可能性があり,治療後の脈絡膜出血に注意して慎重な経過観察を行う必要がある。

ステロイドの全身投与が著効した小児の急性涙囊炎の1例

著者: 小宮山大輔 ,   小泉宇弘 ,   西塚弘一 ,   山﨑厚志 ,   小幡博人

ページ範囲:P.599 - P.602

要約 目的:小児の急性涙囊炎の原因としてアレルギー性鼻炎が考えられ,抗菌薬と副腎皮質ステロイドの全身投与が著効した症例を経験した報告。

症例:6歳,男児。左涙囊部の腫脹が出現し,翌日前医で急性涙囊炎と診断された。抗菌薬の点眼,軟膏,内服薬が処方され,同日当科へ紹介となった。初診時,左涙囊部の発赤,腫脹,熱感があり,急性涙囊炎と考え,前医の処方を継続とした。4日後,涙囊炎は増悪しており,CTで左下鼻道,骨性鼻涙管に含気がなく,耳鼻咽喉科で施行された鼻咽腔内視鏡で左下鼻道の粘膜腫脹を認めた。アレルギー性鼻炎により鼻粘膜が腫脹し鼻涙管開口部を閉鎖し急性涙囊炎が生じたと考えられた。抗菌薬と副腎皮質ステロイドの全身投与を開始したところ,2日後,所見は速やかに改善し,同治療は3日間で終了した。

結論:小児の急性涙囊炎の原因としてアレルギー性鼻炎が考えられる場合は,副腎皮質ステロイドの全身投与を考慮に入れてもよいと考えられた。

視神経炎との鑑別に苦慮したレーベル遺伝性視神経症の1例

著者: 毛利玲於奈 ,   宮田康平 ,   栗原茉杏 ,   田嶋華子 ,   右田真 ,   小早川信一郎

ページ範囲:P.603 - P.608

要約 目的:視神経炎との鑑別に苦慮したレーベル遺伝性視神経症の報告。

症例:14歳,男児。2022年12月から左眼の視力低下を自覚し,当院を紹介され受診となった。視力は右(1.0),左(0.1),眼圧は左15mmHg,前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなかった。相対的瞳孔求心路障害は陰性,平均限界フリッカ値左15Hzと低下,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では両視神経乳頭からの蛍光色素漏出を認めなかった。動的視野検査では左眼の中心暗点を認めた。頭部単純MRIでは左視神経高信号を認め,左球後視神経炎と診断した。初診から約1か月よりステロイドパルス療法を施行,その3日目より徐々に右眼視力低下も自覚し,両眼中心暗点が出現した。治療反応に乏しかったため,ステロイドパルス療法2クール目を施行。その後も改善がなかったため,血漿吸着療法を4日施行,さらに免疫グロブリン大量静注療法を5日間施行した。治療抵抗性のため遺伝子検査を施行し,ミトコンドリア遺伝子11778変異を認め,レーベル遺伝性視神経症と診断した。現在,コエンザイムQ10製剤とビタミン療法を行っており,初診から9か月経過した現在,視力は右(0.5),左(0.4p)にて両眼中心暗点は残存している。

結論:小児視神経炎とレーベル遺伝性視神経症は臨床経過が類似している。今回,眼底所見や頭部MRIが非典型的であった点で診断に苦慮し,最終的に筆者らはミトコンドリア遺伝子検査にて確定した。

内眼手術中に駆逐性出血を認めた4症例の検討

著者: 留守涼 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.609 - P.613

要約 目的:内眼手術中に駆逐性出血を認め,当院にて治療を行った4症例を検討する。

対象:2006年1月〜2023年2月の期間に,術中に発症した駆逐性出血4例4眼。調査項目は,患者の性差,年齢,発症時の術式,発症の危険因子,発症時の合併症,駆逐性出血発症から再手術を行うまでの期間および再手術時の術式,視力の変化(駆逐性出血発症直後および再手術後の最高logMAR視力),再手術後に最高視力が出るまでの期間を検討した。

結果:男性2例,女性2例,平均年齢が74.8歳であった。発症時の術式は,白内障手術が2例,硝子体手術が1例,流出路再建術が1例であった。危険因子として高血圧症,易出血性の基礎疾患,強度近視,後囊破損,無水晶体眼,無硝子体眼,術前高眼圧があり,術中危険因子として後囊破損,核落下,創部拡大,虹彩根部損傷,無水晶体眼を認めた。再手術までの期間は平均して15.3日であった。再手術は全例で経強膜排液を併用した。駆逐性出血発症直後の平均logMAR視力は1.52で,再手術後の最高logMAR視力は平均0.69と改善した。最高視力が出るまでの期間は平均4.27か月であった。

結論:駆逐性出血が起こった場合でも,適切な時期に再手術を行えば視機能を温存することは可能である。

急性片眼性眼瞼下垂と眼球運動制限を伴った抗SOX1抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群の1例

著者: 塩谷悠斗 ,   今井彩乃 ,   鈴木悠大 ,   井上由貴 ,   大野明子 ,   春日憲太郎 ,   北園美弥子 ,   高森幹雄

ページ範囲:P.615 - P.621

要約 目的:急性片眼性眼瞼下垂と眼球運動制限を伴った抗SRY-Related HMG-Box Gene 1(SOX1)抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群(PNS)の1例を経験したので報告する。

症例:82歳,男性。突然の眼瞼下垂,複視により,同日当科受診した。右眼瞼下垂,右眼内転,上転障害がみられたが,瞳孔不同はなく,対光反射も保たれていた。右眼は浅前房,左眼は眼内レンズ挿入眼であるほか,眼内に特記所見はなかった。右動眼神経不全麻痺を疑い,頭部単純MRI検査を施行したが異常はみられなかった。症状に日内変動はなく,神経診察にて四肢の神経学的異常あり,精査目的で入院となった。体幹部造影CTで右肺下葉の腫瘤および右肺門・縦隔リンパ節の腫脹を指摘,気管支鏡下生検で縦隔肺門部型小細胞肺癌の診断となった。この間に右眼瞼下垂と眼球運動障害の増悪がみられた。初診から39日後に化学療法(カルボプラチン,エトポシド)を開始,7日目より右眼瞼下垂が改善した。経過からPNSが疑われ,血液検査で抗SOX1抗体陽性が判明した。化学療法6コース終了時点で自覚症状は消失,ヘス赤緑試験もほぼ正常範囲内に戻り,瞼裂高の左右差もみられなかった。

結論:抗SOX1抗体は小細胞肺癌,および自己免疫性小脳変性やランバート・イートン筋無力症候群との関連が強く,抗SOX1抗体陽性のPNSでは片眼性動眼神経麻痺の報告はない。片眼性動眼神経麻痺を疑った際には,傍腫瘍性神経症候群も鑑別に挙げる必要がある。

増殖性変化のない未熟児網膜症治療眼に発症した急性緑内障発作の1例

著者: 大林亜紀子 ,   柴田有紗 ,   榮枝幸紀 ,   武内淳 ,   藤井彩加 ,   中沢陽子

ページ範囲:P.623 - P.627

要約 目的:網膜光凝固術と抗血管内皮増殖因子硝子体内注射で鎮静化し,増殖膜のない未熟児網膜症(ROP)で,急性緑内障発作が発症した症例の報告。

症例:7歳,女児。在胎週数25週2日,体重483gで出生。Aggressive ROPに対して治療を受けたのち網膜症は落ち着いていたが,全脳萎縮のため頭蓋骨・眼窩骨の発育不全があった。左眼の結膜充血と浮腫が急激に発生し,左眼圧41mmHg,両眼の前房がきわめて浅い状態であったため,急性緑内障発作と考えられた。点眼・点滴処置を施行したが眼圧は下降せず,重症の脳性麻痺により日常生活の活動性がないことから,即日両眼の経毛様体扁平部水晶体吸引術を施行した。術後眼圧は両眼10mmHg前後で安定している。

結論:ROP治療眼の浅前房と厚い水晶体という前眼部形態異常と,脳萎縮による眼窩骨の発育不全がさらに眼軸の伸長を抑制し,急性緑内障発作を発生したと推論した。

急性リンパ性白血病の眼内浸潤により前房蓄膿とともに高眼圧を呈した1例

著者: 近澤公彦 ,   廣瀬浩士 ,   服部友洋

ページ範囲:P.629 - P.633

要約 目的:急性白血病増悪期に発症した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎に対し,病理学的検索後,急性リンパ性白血病(ALL)の眼内浸潤と診断し,放射線療法によって寛解した1例を報告する。

症例:ALLに対する造血幹細胞移植後,中枢神経(CNS)浸潤再発により抗体療法,抗がん剤の髄液注射が行われていた57歳の女性。左眼は視神経炎により1年前に失明状態であり,当科で経過観察を行っていた。CNS浸潤再発に対して加療期間中に右視力低下を自覚し,当科受診となった。

所見:受診時視力は右(0.9),左手動弁(矯正不能)であった。眼圧は右30mmHg,左9mmHgであった。軽度の前房蓄膿を認めたが,眼底はほぼ正常であった。右高眼圧に対し緑内障点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬の内服でも眼圧は下降せず,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼も無効で前房蓄膿は増強した。右前房穿刺にて採取した検体の病理学的検査および細胞表面抗原検査により,ALLの眼内浸潤と診断された。診断後すぐに放射線療法を開始したところ,数日後には浸潤細胞は消退し,眼圧も正常化した。

結論:ALLの眼内浸潤により前房蓄膿とともに高眼圧を呈したぶどう膜炎の症例を経験し,診断に至る過程で病理学的検査および細胞表面抗原検査が有用であった。放射線照射により速やかに症状は改善した。

網膜静脈分枝閉塞症に対してラニビズマブ硝子体注射後の黄斑円孔が自然閉鎖した1例

著者: 大岩寛人 ,   井岡大河 ,   兼子裕規

ページ範囲:P.635 - P.640

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体注射後に黄斑円孔をきたし,経過観察によって自然閉鎖した1例を経験したので報告する。

症例:62歳,女性。1か月以上前からの右歪視を主訴に近医受診。右網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対しラニビズマブ(ルセンティス®)硝子体注射を34G針にて施行。投与後1か月の網膜光干渉断層計(OCT)で全層黄斑円孔が確認され当院紹介となった。当院初診時の右眼矯正小数視力は(0.3)であった。黄斑円孔確認後2週間で黄斑円孔の一部に架橋構造を伴った自然閉鎖傾向を認め,右眼矯正視力は(0.4)と改善傾向であったため経過観察とした。さらに2週間後には右眼矯正視力が(0.8)と改善し,初診8か月後時点でもOCTでは黄斑円孔の自然閉鎖は維持されていた。

結論:網膜静脈分枝閉塞症に対するラニビズマブ硝子体注射治療は症例数が多く本邦において広く行われているものの,稀ではあるが経過中に全層黄斑円孔が起こりうる点,さらには経過観察により自然閉鎖しうる点には留意が必要である。

リドカインゼリーを用いた涙点膨隆法

著者: 岩崎明美 ,   眞鍋洋一

ページ範囲:P.641 - P.646

要約 目的:涙点閉塞を開放する際には,涙点のリングの形跡や血管の走行,眼瞼の形状,左右の形状の比較などから元の涙点を推測する必要がある。今回,上下いずれか片側の涙点閉塞症例に対し,リドカインゼリー(以下,ゼリー)を使用して,閉塞している涙点を膨隆させ,正確に切開する方法を考案した。

症例と方法:72歳女性(症例1),両側上涙点膜様閉塞(開口度分類Grade 1)および73歳女性(症例2),左下の膜様涙点閉塞(開口度分類Grade 1)に対し,涙点膨隆法を用いた涙点切開を施行した。開放している側の涙点を拡張し,拡張した涙点からゼリーを23G血管留置針の外筒を使い0.5mL程度注入する。閉塞している涙点がゼリーで隆起してきた部分を27Gの鋭針で切開する。涙点の膨隆が少ないときは内眼角部を指で圧迫しながらゼリーを注入した。

結果:症例1の右上涙点が膨隆した。症例1の左上涙点は涙点部分が一部薄くなり膨隆し,ゼリーが漏出してきた。症例2は涙点の隆起が少なく,内眼角部を指で圧迫しながらゼリーを入れると涙点が膨隆した。全例とも,膨隆した部分,または薄くなりゼリーが漏出してきた部分を27Gの鋭針で切開した。涙点を切開すると涙小管内腔からゼリーがあふれ出てきて,涙点を開放できたことが確認できた。

結論:片側涙点閉塞症例において,涙点膨隆法を行うことで正確に涙点を開放できると考えられた。

今月の話題

眼科イメージング領域のAI研究最前線

著者: 船津諒

ページ範囲:P.544 - P.550

 Artificial Intelligence(AI)の活用は多くの分野で急速に拡大しており,自動運転,生成系AIなど生活の一部になりつつある。しかし医療の現場で,AIを用いた技術が広く普及しているとはいいがたい。本稿では,医療分野においてAIの普及を妨げる背景と,AIと医療者が協力することで診療の質を上げる「wayfinding AI」の可能性について述べる。

連載 Clinical Challenge・50

担癌患者にみられた両眼性ぶどう膜炎の症例

著者: 竹内正樹

ページ範囲:P.540 - P.543

症例

患者:71歳,女性

主訴:数日前からの両眼の霧視,視力低下

現病歴:数日前より両眼の霧視,視力低下を自覚した。眼症状が出現する前に,感冒様症状やその他の眼外症状はみられなかった。近医眼科で両眼性汎ぶどう膜炎と診断され,横浜市立大学附属病院(以下,当院)に精査加療目的で紹介され受診となった。

既往歴:38歳時に子宮筋腫,43歳時に卵巣囊腫。70歳時に反復する鼻出血より,鼻腔悪性黒色腫の診断となり,重粒子線治療や4か月前よりペムブロリズマブの投与が開始された。経過中に甲状腺機能亢進症がみられている。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・18

涙点形成術

著者: 廣瀬浩士

ページ範囲:P.551 - P.555

●涙点と涙小管の解剖学的特徴を理解する。

●原因疾患に基づいた涙点形成術の方法を考える。

●涙点形成術後の管理と方針を考える。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年5月)。

臨床報告

転倒による眼球離脱

著者: 尾崎弘明 ,   伊崎亮介 ,   原田一宏 ,   内尾英一

ページ範囲:P.558 - P.561

要約 目的:転倒により眼球離脱を生じた症例報告。

症例:48歳,男性。飲酒後に泥酔状態となり自室で転倒し,家族が倒れているのを発見して救急搬送された。当院受診時の視力は右光覚なし,左1.5(矯正不能)。右眼は眼球が眼窩から遊離した眼球離脱の状態で,外直筋と下斜筋以外は視神経を含めて断裂していた。左眼には異常は認められなかった。当院入院後に全身麻酔下で,右眼の眼球摘出術を施行した。術後は義眼装用となった。眼球離脱の発生機序は転倒時に眼球と眼窩壁の間に入った鈍体の後方からの槓杆作用が働いたためと考えられた。

結論:転倒により,片眼の完全な眼球離脱を生じた1例を経験した。眼球の受傷機転によっては転倒による眼球離脱も稀に生じる。

続発性網膜剝離のため眼局所治療が困難であったchronic necrotizing retinitisの1例

著者: 今野恵一郎 ,   杦本昌彦 ,   乙田泰志 ,   田中康平 ,   佐々木拓 ,   中条慎一郎 ,   松井良諭 ,   加藤久美子 ,   松原央 ,   佐宗幹夫 ,   近藤峰生

ページ範囲:P.562 - P.568

要約 目的:慢性網膜壊死(CRN)は軽度免疫不全患者に発症し,網膜周辺部の壊死性網膜炎および閉塞性網膜血管炎が緩徐に進行する病態である。ウイルス感染などが関与するとされており,眼局所への抗ウイルス薬の投与が行われる。今回,併発した網膜剝離のため薬剤を全身投与せざるをえなかったCRNを経験したので報告する。

症例:78歳,男性。半年前から左視力低下を自覚,サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎を疑われ精査目的に当院紹介となる。既往として2型糖尿病と,前立腺癌に対する化学療法歴があった。左眼は初診時視力0.2(矯正不能),角膜後面沈着物を伴う前眼部炎症,硝子体混濁と耳上側の網膜静脈血管炎を認めた。HIV感染は陰性であったが軽微な汎血球減少を認め,血中CMV-IgGが陽性であった。診断確定目的で行った硝子体生検ではCMVが検出され,軽度低免疫に伴うCRNと診断した。術後4日で周辺部裂孔を原因とする網膜剝離を生じたため再手術を実施,シリコーンオイルを充塡して終了した。このため,第一選択治療であるガンシクロビルの硝子体内投与が困難となり,200mg/日から同薬の全身投与を行った。加療に伴い網膜所見は鎮静化したが,汎血球減少の増悪など全身合併症に苦慮した。

結論:ガンシクロビル全身投与による全身合併症に難渋することがあるため,CRNを疑った場合には過剰な侵襲は避け,眼局所投与が可能な状況で治療計画する必要がある。

今月の表紙

非ウィルソン病銅排泄障害に伴う角膜混濁

著者: 難波広幸 ,   永沢倫 ,   稲谷大

ページ範囲:P.557 - P.557

 症例は64歳,男性。2日前からの左眼視力障害で前医を受診したところ,網膜剝離を指摘されて山形大学医学部附属病院を紹介された。初診時の視力は右0.4(0.6),左30cm手動弁,眼圧は右15mmHg,左8mmHg。角膜中央部,デスメ膜の深度に黄褐色の一様な混濁を認めた。眼底は混濁部を通して透見可能で,網膜剝離部に裂孔を確認できた。局所麻酔下で左経毛様体扁平部硝子体手術+白内障手術を施行した。

 角膜沈着物の深度・色調から銅の沈着を疑ったが,初診時の右眼(非網膜剝離眼)視力が比較的良好であったため角膜移植の適応とならず,病理組織からの診断には至っていない。白内障手術時に前房水,水晶体の一部を外注検査に提出して銅濃度を測定したが,測定感度以下であった。内科へ紹介したところ,高銅血症と単クローン性免疫グロブリン血症が認められた。セルロプラスミン値は正常であり,また沈着が角膜中央部にみられることから,ウィルソン病とは異なる機序での銅排泄障害と考えられた。

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目次

ページ範囲:P.536 - P.537

欧文目次

ページ範囲:P.538 - P.539

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.556 - P.556

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.648 - P.651

アンケート用紙

ページ範囲:P.656 - P.656

次号予告

ページ範囲:P.657 - P.657

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.658 - P.658

 臨床眼科2024年5月号(78巻5月号)をお届けいたします。本号も,第77回日本臨床眼科学会(臨眼)での学会原著12本を中心に,たくさんの素晴らしい論文,総説を皆様に読んでいただけると思います。ご存知のように第77回の臨眼では,数多くの方々が現地参加され,COVID-19のパンデミック前の活気が完全に戻り,過去最大規模の学会になりました。また,紙媒体の抄録集がなくなったり,セッションの間に流れる幕間スライドも工夫されたりして,新しい学会形態が始まったワクワク感がありました。今月号に掲載されている臨眼の学会原著も大変興味深いご発表ばかりです。

 「今月の話題」では,鹿児島大学の船津諒先生に「眼科イメージング領域のAI研究最前線」についてご執筆をいただきました。AI領域での新しい概念である「Wayfinding AI」について勉強することができました。我々の能力を最大限引き出せるようにサポートしてくれるAIの出現で,医療の質が格段に向上することが期待できます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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