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雑誌目次

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臨床眼科78巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[4] 原著

新しい度数計算式Kane formulaにおける他計算式との白内障術後屈折誤差精度の検討

著者: 都村豊弘 ,   平田万紀子 ,   曽我部由香

ページ範囲:P.693 - P.701

要約 目的:人工知能(AI)と回帰式を組み合わせた新しい眼内レンズ(IOL)度数計算式であるKane formulaが2017年9月に公開された。そこで術後屈折誤差精度について他計算式と比較した。

対象と方法:対象は2018年10月〜2022年8月に三豊総合病院で白内障手術を施行した535例535眼。IOLはNS-60YG(SZ-1)(ニデック)を使用。角膜曲率半径,眼軸長と前房深度などの生体計測はIOLMaster 500(カールツァイスメディテック)で行った。IOL定数はUser Group for Laser Interference Biometry(ULIB)値を用い,Kane formula(K群),SRK/T式(S群),Haigis式(H群)に使用した。Barrett Universal Ⅱ式(BUⅡ式)(B群)はA定数よりLens Factorを算出し使用した。同じIOL度数における予測屈折値を各式で算出した。術後1か月に他覚屈折値を基に自覚屈折値を算出し,それぞれの予測屈折値と比較した。

結果:術後1か月での屈折誤差平均値(絶対値平均値)はK群 0.014±0.46D(0.352±0.29D),S群 −0.050±0.49D(0.380±0.31D),H群 −0.007±0.43D(0.339±0.26D),B群 0.152±0.47D(0.390±0.30D)となり,平均値,絶対値平均値ともに有意差があった(平均値 p<0.001,one-way ANOVA,絶対値平均値 p=0.042,クラスカル・ウォリス検定)。また±0.25D(±0.5D)以内に入った割合は,K群 46.2%(74.8%),S群 42.6%(71.2%),H群 44.1%(79.4%),B群 40.7%(70.1%)となり,±0.25D以内でK群はB群よりも有意に高く,±0.5D以内でK群はS群とB群,H群は他の3群よりも有意に高かった(±0.25D以内p=0.006,±0.5D以内p<0.026,コクランのQ検定)。

結論:Kane formulaはSRK/T式やBUⅡ式と比べて有意に高く,Haigis式と有意差がなかったことから,度数計算式として術後屈折誤差の少ない有用な式であることが示唆された。

急性内斜視を呈した無菌性髄膜炎の1例

著者: 芹田直之 ,   譚雪 ,   鈴木崇弘 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.702 - P.708

要約 目的:急性内斜視を呈した髄膜炎の1例を経験したので報告する。

症例:14歳,女児。頭痛と嘔気にて近医脳神経外科を受診した。頭部MRIでは異常所見はなく経過観察となっていた。10日後に左眼複視が出現し,急性内斜視にて東海大学医学部付属病院眼科を紹介され受診した。初診時視力は右(0.8),左(1.2)で,左眼に内斜視と外転制限を認めた。限界フリッカ値は正常であったが両眼視神経乳頭腫脹とマリオット盲点の拡大を認め,MRI検査で視神経周囲に軽度の浮腫性変化を認めた。一方,髄液検査では髄液圧の上昇,リンパ球優位の細胞数増多,蛋白上昇を伴う髄膜炎を認めたが,細菌は検出されなかった。視神経乳頭腫脹と髄膜刺激徴候を認めたことから視神経脊髄炎の可能性も考えられたため,ステロイドパルス療法を施行,症状の継続のため計3クールおよび内服による漸減療法を行った。治療後髄液所見は正常化し,視力も両眼(1.2)と改善した。左眼外転障害および両眼視神経乳頭腫脹ともに改善がみられた。抗アクアポリン4抗体,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白抗体ともに陰性で,脊椎MRI検査でも異常所見がなかったこと,初診時の採血にてサイトメガロウイルス抗体が陽性であったことより,本症例は視神経脊髄炎の可能性が低く,無菌性髄膜炎に起因するものと考えた。

結論:急性内斜視および視神経乳頭腫脹を呈した,無菌性髄膜炎と考えられる症例を経験した。眼位異常を呈し髄膜刺激症状を伴う症例では,MRIなどの画像検査のほかに髄液検査も診断に有用である。

眼科受診を契機に発見され腫瘍摘出術で寛解した重篤な視野障害を伴う巨大髄膜腫の1例

著者: 山本智佳 ,   安田慎吾 ,   住岡孝吉 ,   今居一輝 ,   西晃佑 ,   髙田幸尚 ,   西川瑞希 ,   高橋祐一 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.709 - P.715

要約 目的:髄膜腫の大部分は良性脳腫瘍であるが,増大した場合,各種神経の機能に障害をきたすことがある。今回,嗅覚障害を初発症状とし,重篤な視力・視野障害の併発を契機に診断され,腫瘍摘出術で視力・視野障害が寛解した前頭蓋底巨大髄膜腫の1例を経験したので報告する。

症例:47歳,女性。20XX年頃に耳鼻咽喉科で原因不明の嗅覚障害を指摘された。その後20XX+1年の夏頃から,右眼視力低下を自覚し,その後進行性の両眼視力低下を認めたため精査目的で20XX+2年の夏に和歌山県立医科大学附属病院眼科に受診となった。

所見:初診時視力は右(0.01),左(0.3)で,限界フリッカ値は右測定不能,左5Hzと低下を認めた。前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった。ゴールドマン動的視野計では右眼は中心を含む下方の視野欠損,左眼は中心暗点を認めた。頭部MRI検査で嗅窩を含む前頭蓋底に約7cmのT1低信号,T2高信号の造影効果のある腫瘍を認めた。視交叉は前方から圧排されていた。脳神経外科で開頭腫瘍摘出術が施行され,病理組織診断で髄膜腫と診断された。視力は右(1.0),左(1.2),限界フリッカ値は右23Hz,左27Hzまで改善し,ゴールドマン動的視野計も正常にまで改善した。

結論:髄膜腫による圧迫性の視神経障害は,経過が長期間であっても腫瘍摘出術で視機能が改善する可能性がある。嗅覚障害と視力・視野障害を伴う症例では前頭蓋底の腫瘍性病変を疑い,積極的に頭部画像評価を施行することが必要である。

HLA-A26陽性ベーチェット病との鑑別に苦慮した真菌性眼内炎の1例

著者: 新美渚 ,   井岡大河 ,   鈴村文那 ,   牛田宏昭 ,   西口康二

ページ範囲:P.716 - P.721

要約 目的:HLA-A26陽性ベーチェット病との鑑別に苦慮した真菌性眼内炎の1例を報告する。

症例:41歳,女性。1年前にカンジダ膣症で婦人科通院歴あり。右眼の視力低下・飛蚊症を自覚し,X−2月に近医を受診した。右矯正小数視力は0.2で,眼底後極部に滲出斑および黄斑部浮腫を認めた。ステロイド点眼・内服および抗菌薬点眼で治療を開始したが,経過中に硝子体混濁が生じ改善がみられなかったため,精査加療目的で名古屋大学医学部附属病院(当院)に紹介され受診となった。当院初診時の右矯正視力は0.02で,前眼部は微細な角膜後面沈着物および前房蓄膿を伴っており,前房フレア値は右141.7±12.6pc/msであった。硝子体混濁および白斑の散在を認め,光干渉断層計では網膜外層から硝子体側へ伸展する隆起性病変を認めた。血液検査,前房水PCRでは有意な所見はなかった。ヒト白血球抗原検査はHLA-A26が陽性で,口腔内アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍所見を認め不全型ベーチェット病の診断基準を満たしていた。ベーチェット病としてステロイド点眼・内服を主とした治療を継続したものの硝子体混濁は改善せず,硝子体切除術および生検を施行した。生検で得られた硝子体液の培養検査からはCandida albicansが検出され,ホスフルコナゾール点滴にて治療となった。

結論:ベーチェット病の診断基準を満たすぶどう膜炎でも,治療中に増悪する場合には感染性を含め他のぶどう膜炎に留意すべきであり,とりわけ光干渉断層計の所見が診断の一助になると考えられた。

裂孔原性網膜剝離と気圧下降の関連性について

著者: 河本千明 ,   長島崇充 ,   野村英一 ,   黒川友貴 ,   斎藤寛剛 ,   新藤淳 ,   石井麻衣 ,   水木信久

ページ範囲:P.723 - P.728

要約 目的:裂孔原性網膜剝離(RRD)の発症にはさまざまな要因が知られているが,RRDが台風の通過後に生じている症例の経験があることから,RRDと気圧との関連性について調査したので報告する。

対象と方法:2019年4月1日〜2022年9月30日の3年6か月(1,279日)の間に横浜市立大学附属病院でRRDと診断され手術加療に至った76例76眼について,診療録をもとに患者の自覚症状から発症日を推測した。横浜地方気象台の毎正時の海面気圧(hPa)のデータを使用し,RRD推測発症日73日と推測非発症日1,206日の午前9時から48時間以内の最大気圧,最小気圧,3時間ごとの気圧変動の最大値,最小値を計算した。これらの項目がRRD発症の有無で差があるか否か検討した。

結果:4つの検討項目のうち,発症48時間前までの3時間ごとの気圧変動の最小値がRRDの発症日に有意に低値であった(発症日平均−3.11±0.20hPa/3h,非発症日平均−2.69±0.05hPa/3h,p=0.01,マン・ホイットニーのU検定)。

結論:RRDの発症の一部に気圧下降が関連している可能性が考えられた。

後囊破損例に対して眼内レンズoptic capture固定法を行った症例の術後屈折値変化について

著者: 北國陽 ,   土居範仁 ,   市来美沙紀 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.729 - P.733

要約 目的:後囊破損例に対して眼内レンズ(IOL)optic capture固定法を行った症例の術後屈折値変化について検討した。

対象と方法:対象は今村総合病院において過去55か月間に行われた白内障手術症例のうち,後囊破損によりIOL囊内固定が困難となった45眼。これらの症例で目標屈折値と術後屈折値(術後1週目,4週目,12週目,24週目,48週目)との差について検討した。なお,チン小帯脆弱症例,固定が不完全な症例,再手術症例は除外した。また,使用したレンズは全例エタニティーナチュラル® NX-60(参天製薬)(以下,NX-60)であった。

結果:目標屈折値と術後屈折値との差は,術後1週目:+0.28±1.18D,術後4週目:+0.24±0.86D,術後12週目:+0.09±0.80D,術後24週目:+0.15±0.69D,術後48週目:+0.06±0.66Dとなり,目標屈折値と術後屈折値に有意な差はなかった。

結論:NX-60を用いたoptic capture固定法では,術直後はやや遠視傾向となったが,術後48週では目標値に近づいた。

徳島大学病院における抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床像の検討

著者: 三﨑貴文 ,   江川麻理子 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.734 - P.740

要約 目的:抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(MOG)抗体陽性視神経炎(MOG-ON)の臨床像の報告。

対象と方法:2017年6月〜2023年4月に徳島大学病院でMOG-ONと診断された10例15眼について臨床的特徴を検討した。

結果:平均発症年齢は36.6±25.1歳(小児3例),男性5例,女性5例,片眼性5例,両眼性5例,発症時の自覚症状は眼痛7例,頭痛4例,発熱3例,排尿障害2例であり,視野障害は中心暗点が8眼で最多であった。MRI検査を施行した全例で視神経全長の腫脹を認めた。眼外病変として脊髄炎1例,小児群全例に急性散在性脳脊髄炎を併発した。治療は全例でステロイドパルス療法,2例で免疫グロブリン療法,1例で血液浄化療法,1例で両者が併用された。平均logMAR視力は初診時1.12±0.69から治療後−0.13±0.06と著明に改善し,視野障害は消失した。維持療法としてプレドニゾロン内服が行われ,3例が再発した。

結論:眼痛や視神経全長におよぶ病変を高率に認め,治療後の最終視力は良好であったが,小児群では頻回のパルス療法と併用療法が必要であった。再発も多く長期的な経過観察が必要である。

視力・視野回復に長期間を必要とした甲状腺視神経症の2症例

著者: 久米泰治 ,   岸下秀太 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.741 - P.748

要約 目的:甲状腺眼症は,時に甲状腺視神経症を発症し重篤な視力・視野障害を惹起する。多くの場合,ステロイドパルス療法で寛解することが多いが,治療に抵抗し眼窩減圧術や放射線治療の適応になることもある。今回,ステロイド治療抵抗性の甲状腺視神経症に眼窩減圧術と放射線治療を施行後6か月以上を経て効果を認めた2症例を経験したので報告する。

症例:症例1は68歳男性,症例2は59歳女性。2例ともバセドウ病による甲状腺眼症であり,複視や眼球運動障害の症状悪化のためステロイドパルス療法目的に順天堂大学医学部附属浦安病院眼科に紹介され受診となった。

所見:症例1:初診時視力は右(1.0),左(1.2)であった。ステロイドパルス療法2クールを施行したが,施行後2か月で右(0.4),左(0.3)と視力低下を認め,甲状腺視神経症との診断で眼窩減圧術を施行した。施行後5か月経過しても視力改善がないため放射線照射を施行した。照射後8か月頃より視力回復を認めた。

 症例2:初診時視力は右(1.2),左(0.5)であった。ステロイドパルス療法2クールを施行したが施行後2か月で右(0.15),左(0.02)と急激に視力が低下し,眼窩減圧術を施行した。その後も視力・視野ともに改善が乏しく,放射線照射を施行した。治療から1年ほど経過し,視力回復は認めないが,周辺視野は回復した。

結論:ステロイド抵抗性の甲状腺視神経症に対する眼窩減圧術や放射線治療施行後の視力・視野の回復には長期間を要する症例がある。

セルペルカチニブが奏効した転移性脈絡膜腫瘍を伴うRET融合遺伝子陽性肺腺癌の1例

著者: 堀谷知里 ,   西庄龍東 ,   木村将 ,   川村知子 ,   木村洋平 ,   田邊益美

ページ範囲:P.749 - P.755

要約 目的:RET融合遺伝子変異は非小細胞肺癌の2%に発生する稀少変異であり,治療薬としてチロシンキナーゼ阻害薬の1つであるセルペルカチニブが2021年9月に承認された。今回セルペルカチニブ治療で転移性脈絡膜腫瘍が著明に縮小したRET融合遺伝子陽性肺腺癌の1例を経験したので報告する。

症例:49歳,女性。2週間前からの左歪視を自覚した。近医眼科で左脈絡膜腫瘍を指摘され,兵庫県立はりま姫路総合医療センター眼科に紹介され受診した。矯正視力は右1.5,左0.8,左眼底に黄斑下脈絡膜腫瘍を認めた。精査目的で施行した胸部単純CTにて左肺野に結節影および縦隔リンパ節腫大を認めた。呼吸器内科での精査の結果,T1bN3M1cのStage ⅣB期の肺腺癌と診断され,シスプラチン,ペメトレキセド,ペムブロリズマブの併用療法が開始された。4コース終了後,副作用のためペムブロリズマブ単剤での維持療法となったが,治療開始7か月経過後も左脈絡膜腫瘍を含む全身の腫瘍の改善は認めなかった。RET融合遺伝子変異陽性が判明し,治療開始10か月でセルペルカチニブに変更した。

結果:セルペルカチニブ治療変更後2週間で左脈絡膜腫瘍は著明に縮小し,その他の腫瘍病巣も増悪なく経過している。

結論:セルペルカチニブが奏効した転移性脈絡膜腫瘍を伴うRET融合遺伝子陽性肺腺癌の1例を経験した。脈絡膜腫瘍の経過も治療の効果判定に用いられる可能性がある。

原発性マクログロブリン血症による視力低下が内科的治療により改善した1例

著者: 三浦駿大 ,   高山理和 ,   山崎智幸 ,   倉田健太郎 ,   立花信貴 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.756 - P.762

要約 背景:ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症(WM)は,骨髄浸潤と高IgM血症を伴う悪性リンパ球形質増殖性疾患である。発症頻度は100万人に3人程度であり,血中IgMの増加により過粘稠度症候群を合併し,眼症状をはじめとして全身にさまざまな症状をきたす。

症例報告:68歳,女性。視力低下を主訴に当科を受診し,両眼底の網膜血管の拡張・蛇行,ロート斑,黄斑浮腫と漿液性網膜剝離を認めた。初診時視力は,右(0.1),左(0.4)であった。WMに対して,血漿交換,化学療法が行われ,徐々に血中IgMは減少,正常化した。治療開始後,両眼の視力は改善傾向であったが,その後右眼は再度視力低下を認め,最終の矯正視力は,右0.07,左1.0であった。

結論:WMでは過粘稠度症候群による網膜病変が疾患を発見するきっかけになる可能性がある。早期治療が視力予後にも重要と考えられるため,過粘稠度症候群を疑う眼底所見を発見したら,早期に血液/腫瘍内科と連携して原因を精査するのが望ましい。

滲出性網膜剝離を伴う汎ぶどう膜炎を呈した血管炎性肉芽腫症の1例

著者: 三井章平 ,   竹内正樹 ,   福田美紀 ,   立石守 ,   澁谷悦子 ,   蓮見由紀子 ,   安村玲子 ,   飛鳥田友里 ,   山田教弘 ,   石原麻美 ,   水木信久

ページ範囲:P.763 - P.767

要約 背景:多発血管炎性肉芽腫症の稀な眼合併症である網脈絡膜病変を伴った症例を経験したので報告する。

症例:57歳,女性。慢性副鼻腔炎の既往があり,家族歴はない。初診時の視力は右(0.4),左(0.02)であった。毛様充血,両硝子体混濁,両滲出性網膜剝離,脈絡膜の肥厚を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査にて両眼底に滲出斑に一致した蛍光漏出所見を認めた。尿潜血3+,胸部CTにて両側の肺野に多発小結節影を認め,血液検査にてPR3-ANCA,MPO-ANCAの上昇を認めた。また腎生検にて糸球体の炎症性癒着所見を認めた。ステロイドパルス療法を施行後に副腎皮質ステロイド,メトトレキサートの内服加療を行った。治療に反応し,消炎が得られ,滲出性網膜剝離も徐々に消退し,滲出斑もすべて瘢痕化し,寛解に至った。

結論:多発血管炎性肉芽腫は滲出性網膜剝離の原因となりうる。

遮光眼鏡によって羞明が軽減したvisual snow syndromeの1例

著者: 阪東研太 ,   鈴木恵奈 ,   伊藤博隆 ,   中塚秀司 ,   中野裕太 ,   杢野久美子

ページ範囲:P.768 - P.774

要約 目的:Visual snow syndrome(VSS)は,頭蓋内疾患がないにもかかわらず,砂嵐や小雪,羞明などの視覚症状が3か月以上継続する症候群である。今回筆者らは,トライガードTMレンズによって羞明が軽減したVSSの1例を経験したので報告する。

症例:17歳,女性。200X年6月から視界全体に雨が降っているように見える視覚症状が生じ,200X年11月に羞明も出現したため刈谷豊田総合病院を紹介され受診となった。矯正視力は左右ともに1.2であった。眼科的所見に異常はなかった。また,光干渉断層計,視野検査,網膜電図検査においても異常はなかった。視覚症状が3か月以上継続しており,頭部MRI検査で異常がなかったことからVSSと診断した。羞明に対して短波長領域をカットする遮光眼鏡を試したところ,羞明は軽減されたが暗さを自覚した。一般的な遮光眼鏡はレンズ色が濃いため,日常装用に適さなかった。次に,420nm,460nm,585nmの3波長領域をカットするレンズ色が透明に近いトライガードTMレンズを試した。その結果,羞明は軽減し,コントラスト感度の改善を認め,レンズ色についても問題なく装用することができた。

結果:VSS患者の羞明に対して遮光眼鏡であるトライガードTMレンズが有用であった。

結論:トライガードTMレンズは,無色透明に近いレンズ色の遮光眼鏡である。そのため羞明が軽減され,暗さを自覚しにくく,外見上目立たないため,日常装用に有用であると考えられた。

今月の話題

お酒と緑内障

著者: 羽入田明子

ページ範囲:P.669 - P.675

 古来より,“酒は百薬の長”と称され,適度な飲酒による一定の健康増進効果が知られている。一方,過度な飲酒は中枢神経系に不可逆的な悪影響を及ぼす。本稿では,神経変性疾患の1つである緑内障と飲酒に関して,最新の疫学的知見をまとめる。

連載 Clinical Challenge・51

ステロイド点眼に反応しにくい周辺部角膜潰瘍

著者: 北澤耕司

ページ範囲:P.665 - P.668

症例

患者:27歳,男性

主訴:右眼の羞明

現病歴:1か月ほど前に右眼の違和感を自覚し軽度の結膜炎を認めた。その後,徐々に眼痛および羞明が増悪したため近医眼科を受診した。右眼の角膜周辺部に潰瘍形成と結膜充血を認めたため,1.5%レボフロキサシン点眼4回/日,0.1%フルオロメトロン点眼4回/日が開始された。数日後の再診を指示するも2週間受診がなく,再診時にも改善を認めなかったため,京都府立医科大学附属病院へ紹介され受診となった。

臨床報告

大腸癌術後にみられた皮質盲の1例

著者: 冨士本成美 ,   尾崎弘明 ,   木場亜紀子 ,   副島園子 ,   内尾英一

ページ範囲:P.677 - P.682

要約 目的:大腸癌術後患者において発症した明らかな高次脳機能障害を有さない皮質盲の1例を経験したので報告する。

症例:67歳,男性。横行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸切除術を施行された。1か月後に視力障害を家族に指摘され,福岡大学病院眼科を紹介され受診となった。初診時視力は右(0.08),左(0.1),眼圧は右19mmHg,左16mmHgであった。前眼部および眼底には明らかな異常はなく,両眼ともに下方の非特異的な視野欠損を認めた。失語や失認,失行などの高次脳機能障害は認められなかった。頭部単純CT検査で後頭葉に低吸収域を認めたために頭部MRI検査(拡散強調画像)を施行したところ,両側後頭葉に急性期脳梗塞を認めて皮質盲と診断された。視力障害の自覚に乏しいことからアントン徴候は陽性であった。原因としてアテローム血栓性脳梗塞を認め,アスピリン内服とヘパリン持続点滴で加療された。治療後に右眼の視野欠損は軽度改善したが,視力改善はみられなかった。

結論:失語や失認などの高次機能障害を認めない稀な皮質盲を経験した。非特異的な視野異常や視力障害がみられる場合には,積極的に頭部MRI検査(拡散強調画像)を行うべきである。

心因性視覚障害における視覚関連基礎スキルアセスメント(WAVES)の応用:続報

著者: 唐下千寿 ,   松浦一貴 ,   今岡慎也 ,   井上幸次

ページ範囲:P.683 - P.691

要約 目的:心因性視覚障害(PVD)では高次中枢における視覚認知の低下が疑われるが,一般眼科での評価は難しい。学習障害や自閉スペクトラム症では視覚の問題の頻度が高い。筆者らは,視知覚や視覚認知の評価のために開発されたWide-range Assessment of Vision-related Essential Skills(WAVES)をPVDに応用し,検討を行った。

対象と方法:WAVESは複数の図形の相互関係,位置や角度などの認知,複合的な図形の識別能力などを判定する9つの基本検査と4つの補助検査からなる。野島病院,鳥取大学医学部附属病院でPVDが疑われた15例(女13例,男2例:7〜12歳)を対象としてこのWAVESを行った。

結果:初診時には15例すべてで視知覚が低下していた。長期経過を追えた11例では,視力,視野の回復後に視知覚が改善した者が4名,視知覚の改善が不完全な者が6名であった。後に自閉スペクトラム症と診断された1例では,求心性視野狭窄およびWAVESは回復したが,経過を通じて視力が不安定であった。

結論:PVDには,①ストレスによる一過性の視知覚障害を呈した症例と,②生来よりの学習障害や視知覚障害を併せもっており中〜高学年になって問題が表面化した症例とが混在する。WAVESは,PVDなど眼科検査で評価の難しい高次視機能障害の診断の一助になりうると期待される。

今月の表紙

虹彩囊腫

著者: 卯木伸介 ,   髙橋次郎 ,   堀裕一

ページ範囲:P.664 - P.664

 症例は15歳,男性。近医にて左眼の虹彩の腫瘤を指摘され,精査目的で獨協医科大学埼玉医療センターに紹介され受診となった。初診時視力は左右とも1.2(矯正不能),眼圧は左右とも18mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査で左眼の4〜6時部の瞳孔縁に,茶褐色で表面が平滑な囊腫状病変を認め,虹彩囊腫と臨床診断した。腫瘤は角膜内皮,水晶体に接触していなかったが,今後腫瘤の増大に伴い眼圧上昇などの可能性もあるため,定期的に経過観察中である。

 今回の写真撮影には,TOPCON社製スリットランプSL-D7にNikon社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。撮影条件は,倍率10倍,スリット幅10mm,長さ14mm,背景照明なしとした。撮影は,病変を立体的に描写できるようにスリット光を鼻側方向から当て,耳側方向から間接照明法で行った。

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目次

ページ範囲:P.660 - P.661

欧文目次

ページ範囲:P.662 - P.663

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.676 - P.676

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.775 - P.779

アンケート用紙

ページ範囲:P.784 - P.784

次号予告

ページ範囲:P.785 - P.785

あとがき

著者: 蕪城俊克

ページ範囲:P.786 - P.786

 今回から臨床眼科の編集委員に加えていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

 臨床眼科2024年6月号は,先月号に続いて「第77回日本臨床眼科学会講演集」が掲載されます。また「今月の話題」は羽入田明子先生の「お酒と緑内障」についてです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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