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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻7号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[5] 原著

梅毒性ぶどう膜炎の臨床像11例の検討

著者: 村瀬裕香 ,   高瀬博 ,   清水玄 ,   尤俊博 ,   北口由季 ,   今井彩乃 ,   堀口乃恵 ,   井出光直 ,   鴨居功樹 ,   宮永将 ,   川口龍史 ,   大野京子

ページ範囲:P.817 - P.822

要約 目的:東京医科歯科大学病院眼科における梅毒性ぶどう膜炎の臨床像を検討する。

対象と方法:2013年1月1日〜2022年12月31日に東京医科歯科大学病院眼科を受診し,非特異的および特異的梅毒血液検査が陽性で,かつ臨床所見から梅毒性ぶどう膜炎と診断した患者を対象とした。診療録より眼所見,検査所見,治療内容,予後などの臨床経過を後方視的に解析した。

結果:11例19眼(男性9名,女性2名,平均年齢43±12歳)が対象となった。両眼性は8例,片眼性は3例であった。炎症部位の解剖学的分類では汎ぶどう膜炎(57.9%)が最多であり,眼所見では網膜血管炎(73.7%)が最多であった。梅毒性ぶどう膜炎に特異的なacute syphilitic posterior placoid chorioretinitisは1眼のみであった。治療は抗菌薬点滴静脈投与が7例,内服が1例,点滴静脈投与と内服の併用が2例,点滴静脈投与と筋肉注射の併用が1例であった。平均矯正視力は初診時0.44から最終0.89に有意に向上した。最終矯正視力が1.0未満の原因は網膜外層萎縮が3例4眼,囊胞様黄斑浮腫が2例3眼,後発白内障が1例1眼,後囊下白内障が2例2眼であった。

結論:梅毒性ぶどう膜炎の多くは非特異的な臨床像を呈し,視力予後向上のためには早期の診断と治療による眼炎症の鎮静化が重要と考えられた。

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の視力の経過

著者: 山添早織 ,   中馬秀樹 ,   池田康博

ページ範囲:P.823 - P.827

要約 目的:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎(AQP4-ON)の診療過程における視力の経過を評価することで,視力予後の改善のためのヒントを得ること。

方法:2010年2月〜2023年4月に当院で経験したAQP4-ON 17例17眼を対象に,診療録を用いた後ろ向き調査を行った。検討項目は,発症から近医初診までの日数と近医初診時視力,発症から当院初診までの日数と当院初診時視力,近医初診時視力の分布と当院初診時視力の分布,および治療前視力(当院初診時視力と同じ)と治療後最高視力との相関である。

結果:近医へは,発症から平均2.24±1.64日,当院へは平均7.70±5.09日で初診していた。視力の平均は,近医初診時のほうが当院初診時より有意に良好であった。視力の分布は,近医初診時のほうが視力低下が比較的軽度の割合が多かった。治療後視力は,治療前視力より有意に良好であった。また,治療前視力と治療後視力の間には有意な相関があり,治療前視力が良好であるほど治療後視力も良好であった。

結論:視力低下が軽度である発症早期に治療を開始できれば,より良好な視力予後が得られる可能性がある。

間欠性外斜視における水平直筋付着部の形態および年齢による変化

著者: 林麗如 ,   林振民 ,   西村智治 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.829 - P.834

要約 目的:外眼筋の形態は斜視発症の一因となりうる。内直筋(MR)の筋肥大が間欠性外斜視(IXT)症例の手術中に確認されることがある。そこで今回,手術症例を対象とし,術中の水平直筋の所見を検討した。

対象と方法:手術となったIXT患者25例,および斜視のない網膜剝離(RD)患者30例において,術中にMRおよび外直筋(LR)の輪部から付着部の距離(付着部距離),付着部の幅(付着部幅)を計測し比較した。年齢による変化については,30歳(対象の年齢中央値)以下,および31歳以上の2群に分けて比較した。

結果:IXT群とRD群間でLR付着部距離に差はなかったが,IXT群のMRおよびLRの付着部幅はRD群に比べて大きかった(p<0.05)。年齢の影響について,MRおよびLRの付着部距離および付着部幅は,RD群では両年齢群間で差はなかった。IXT群では,MRの付着部距離が30歳以下群に比べ31歳以上群で短かった(p<0.05)。また,31歳以上群では,IXT群のMR付着部距離がRD群のそれよりも短かった(p<0.01)。IXT群のLR付着部幅は両年齢群でRD群のそれに比較して大きく,MR付着部幅は31歳以上群のみでより大きかった(p<0.05)。

結論:IXTの発症には広いLR付着部幅が関与すると思われた。眼位の外方偏位を代償するため長期に内転を活性させた結果,年齢が上がるに従ってMRの付着部が短くなり,筋幅が大きくなったと考えられた。

ロービジョン者における支援と視機能の関連

著者: 松井千瑛 ,   生杉謙吾 ,   一尾多佳子 ,   竹内真希 ,   加藤久美子 ,   近藤峰生

ページ範囲:P.835 - P.841

要約 目的:ロービジョン者への支援と視機能との関連について検討した結果を報告する。

対象と方法:対象はロービジョン者113例(女性65例/男性48例)で,平均年齢は63.1±20.1歳である。原因疾患は,緑内障35例,網膜色素変性26例,加齢黄斑変性15例,その他37例であった。良いほうの眼の平均logMAR視力は0.86±0.61(小数視力0.14),平均周辺視野角度は97.0±115.6度,平均中心視野角度は4.0±15.5度であった。支援はルーペ,遮光眼鏡,拡大読書器,スマートフォン/タブレット,歩行訓練の5つとし,それぞれ支援の適応あり,またはなしの2群で視力および視野に差があるか,統計学的検討を行った。

結果:遮光眼鏡適応あり群は,なし群に比べて有意に視力良好であった(p=0.02)。拡大読書器適応あり群は,なし群に比べて有意に視力不良であり(p<0.01),また周辺視野不良であった(p=0.046)。歩行訓練適応あり群は,なし群に比べて有意に視力不良であり(p=0.02),また周辺視野不良であった(p<0.01)。ルーペおよびスマートフォン/タブレットでは視力および視野とも両群間で有意差はみられなかった。

結論:ロービジョン者に対する各種支援のニーズは,視力や視野と関連するものがある一方,関連が明らかでないものもみられ,就業・就学や本人の関心事など,視機能以外の要素を含めて決定されている可能性がある。

乳頭小窩黄斑症候群に対してinverted ILM flap併用硝子体手術が有効であった1例

著者: 川島修 ,   中野裕貴 ,   鈴間潔

ページ範囲:P.843 - P.847

要約 目的:乳頭小窩黄斑症候群に対してILM invert flap併用硝子体手術が有効であった症例の報告。

症例:患者は40歳台の女性で,左眼の視力低下で当院を紹介され受診した。20年前から左眼のコロボーマを指摘され,当初の矯正視力は左眼0.6であった。

所見と経過:初診時の矯正視力は右1.2,左0.2で,両眼の前眼部および中間透光体に異常はなかった。左眼の眼底の乳頭耳側に乳頭小窩およびコロボーマを認めた。光干渉断層計(OCT)で視神経乳頭耳側から黄斑部にかけて漿液性網膜剝離を認めた。硝子体手術を施行し人工的に後部硝子体剝離を作成した。乳頭耳側の内境界膜を剝離し,乳頭縁で翻転して小窩を被覆し,空気タンポナーデを施行した。術後,OCTにて乳頭小窩上に内境界膜が確認された。また早期より黄斑部の漿液性網膜剝離の著明な減少を認め,視力も術後1か月で0.4まで改善を認めた。術後半年で,OCTにて乳頭小窩耳側から黄斑部にかけての漿液性網膜剝離は減少しており,視力は0.5まで改善した。

結論:乳頭小窩黄斑症候群に対してILM invert flap併用硝子体手術が有効であったことを本症例は示している。

下方視時複視を生じる甲状腺眼症に対してmini-tenotomyを施行した1例

著者: 平田万紀子 ,   杉田江妙子 ,   曽我部由香 ,   鈴間潔 ,   都村豊弘

ページ範囲:P.849 - P.854

要約 目的:正面視で複視や眼位異常を伴わない斜視の症例は,通常,手術適応とならない。今回,正面視で正位,下方視のみ8プリズム(以下,PD)左眼上斜視を生じる甲状腺眼症に対してmini-tenotomyを施行したので,報告する。

症例:41歳,男性。既往歴にバセドウ病があった。左眼下転障害による下方視での複視を主訴に三豊総合病院眼科を受診した。MRIで両眼上直筋,下直筋に腫大と炎症所見があり,甲状腺眼症と診断された。近見26PD左上斜視があった。ステロイドテノン囊下注射を右2回,左3回施行した。2年後,MRIの炎症所見は改善し,眼位は近見下方視8PD左上斜視で安定していたが,下方視のみ複視と頸部痛を自覚した。下方視での膜プリズム眼鏡を使用開始したが,眼痛,頸部痛,気分不良の訴えがあり,使用を中止した。手術目的にて香川県済生会病院眼科を紹介受診した。局所麻酔下で左眼上直筋mini-tenotomyを施行した。上直筋の中央1/2筋腹を切開した。近見下方視の眼位は術後11日目では8PD左上斜視で改善がなかったが,術後1年目には2PDまで改善し,下方視での複視や頸部痛の改善がみられた。また,膜プリズムの試用でさらに自覚症状の改善を認めた。

結論:下方視のみ複視のある甲状腺眼症の微小斜視の症例で,mini-tenotomyによって症状が軽減する可能性が示唆された。

続発性黄斑上膜が光凝固で消失した網膜血管増殖性腫瘍の1例

著者: 野々山宏樹 ,   立花信貴 ,   髙木啓伍 ,   高山理和 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.855 - P.860

要約 目的:網膜血管増殖性腫瘍(VPT)は比較的稀な疾患であり,無症候性のものから,続発性の黄斑上膜(ERM)や滲出性変化によって視機能が障害されるものまで多様である。今回筆者らは,VPTに合併したERMが光凝固によって消失した症例を経験したので報告する。

症例:生後2か月児に授乳中の29歳,女性。左視力低下および変視を自覚し,近医受診後に当院紹介となった。

所見:初診時視力は(0.7)であり,眼底の耳下側に1乳頭径大の腫瘤性病変を認めた。光干渉断層計ではERMを認めた。腫瘤の拡張・蛇行した流入・流出血管が目立たないことや片眼性であることからVPTが疑われた。蛍光眼底造影検査を考慮したが,授乳中であることから患者の希望もあり施行しなかった。鑑別疾患としてvon Hippel-Lindau病が挙げられ,遺伝学的検査を施行したが結果は陰性であった。以上のことからVPTと診断し,受診から1週間後に腫瘍および流入・流出血管に対して光凝固を施行した。受診から1か月後にERMは消失しており,2か月後には腫瘍の器質化を認めた。視力は(1.0)まで改善を認めたため,受診から4か月後に終診となった。

結論:VPTに対して確立された治療法がないため,個々の症例の背景と病勢に応じた選択が必要と考える。

帯状疱疹を契機に慢性移植片対宿主病による重症角結膜炎をきたした1例

著者: 清水玄 ,   五嶋摩理 ,   尾碕憲子 ,   江里口敦子 ,   杉澤啓吾 ,   三木隆之 ,   清水啓明 ,   比島恒和 ,   川口龍史

ページ範囲:P.861 - P.867

要約 目的:眼は造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)の標的器官の1つであり,視機能低下をもたらすことがある。近年,ヘルペスウイルス感染が慢性GVHDを発症,増悪させる可能性が指摘されている。今回,帯状疱疹発症後に慢性GVHDによる角結膜炎をきたした症例を経験した。

症例:51歳,男性。3年前に混合型急性白血病に対し造血幹細胞移植を施行後,原疾患は寛解を維持しており,1年前に免疫抑制療法は終了されていた。初診20日前に左上半身帯状疱疹を発症し,その10日後より両眼の充血,疼痛を自覚した。初診時に両眼に著明な結膜充血,浮腫性変化,偽膜形成を認め,右眼は角膜潰瘍をきたしていた。経過から慢性眼GVHDによる角結膜炎と診断しステロイド点眼加療を開始したが軽快せず,ステロイド内服,免疫抑制薬点眼,トリアムシノロン結膜下注射を行い眼所見は改善した。結膜組織の病理像では間質の線維化を認め,慢性GVHDに伴う結膜炎として矛盾しない所見であった。

結論:帯状疱疹を契機に眼慢性GVHDの症状が増悪することがある。慢性GVHDは全身性の病態であり,その治療には血液内科医との連携が重要と考えられた。

Sweet病に合併した網膜血管炎の1例

著者: 櫻井克柾 ,   沖波聡 ,   西田明弘

ページ範囲:P.869 - P.874

要約 目的:Sweet病は感染症・自己免疫疾患・悪性腫瘍・薬剤使用など,多様な因子に伴って発症するが,後眼部合併症は稀である。Sweet病に網膜血管炎を合併した1例を報告する。

症例:27歳,女性。発熱と上半身の有痛性膿痂疹が出現し,当院皮膚科でSweet病と診断されプレドニゾロン内服を開始された。2週間後に右眼霧視を自覚し,当科を紹介受診した。

所見:初診時,両眼とも矯正視力は1.5,眼圧は6mmHgであり,両側とも前房炎症細胞はなく,周辺部網膜に滲出斑が散在していた。光干渉断層計では両眼の傍中心窩内層構造が不明瞭化していた。蛍光眼底造影では両眼の周辺部網膜静脈と傍中心窩毛細血管から蛍光色素漏出を認めた。Sweet病に伴う両眼網膜血管炎と診断し,ベタメタゾン点眼を開始した。初診1か月後に左眼に黄斑浮腫が出現し,テノン囊下トリアムシノロン注射(STTA)を実施したところ改善した。初診2か月後にプレドニゾロン内服を終了した。4か月後に左眼視力低下を自覚したため,再度STTAを実施したところ改善した。初診5か月後に両眼の眼圧上昇のためベタメタゾン点眼を終了し,初診20か月後まで所見の著明な増悪は認めない。

結論:Sweet病に伴う網膜血管炎は非常に幅広い臨床像をとり,眼所見のみではBehçet病との鑑別は困難なことがある。網膜血管炎の診療においては,Sweet病および背景因子の可能性も念頭に置き,皮疹に注意して積極的に全身検索を実施するべきである。

滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブ硝子体内注射の早期経過

著者: 木成玄 ,   山本学 ,   居明香 ,   河野剛也 ,   平山公美子 ,   三澤宣彦 ,   本田茂

ページ範囲:P.875 - P.880

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性(nAMD)に対するファリシマブ硝子体内注射(IVF)の早期の治療効果について検討する。

方法:対象は2022年6月〜2023年5月に大阪公立大学医学部附属病院眼科でIVFを開始し,3か月以上経過を追えた未治療のnAMD 26例29眼(男性22例25眼,女性4例4眼)で,平均年齢71.2歳(51〜90歳)であった。IVFは全例で1か月ごとに3回行った。治療前と治療後3か月の矯正視力(BCVA),中心窩網膜厚(CMT),中心窩脈絡膜厚(CCT),および治療後3か月までの滲出性病変の変化(ドライマクラ率)について検討した。視力は小数視力をlogMARに換算し検討した。

結果:BCVAは治療前0.28±0.37,3か月後0.27±0.35で有意な変化はなかった(p=0.37)。平均CMTは治療前281.1±137.0μm,3か月後170.8±74.7μm,平均CCTは治療前247.0±101.2μm,3か月後223.7±91.2μmで,それぞれ治療後有意に減少していた(p<0.001,p<0.05)。ドライマクラ率は1か月後37.9%,2か月後62.1%,3か月後82.8%で,増加傾向にあった。

結論:IVFは未治療nAMDに対し,短期的には解剖学的改善を示した。

汎網膜光凝固後で交感性眼炎の診断が困難であった1例

著者: 渕野仁志 ,   永田竜朗 ,   髙田実乃梨 ,   浅野利彰 ,   近藤寛之

ページ範囲:P.881 - P.886

要約 目的:汎網膜光凝固(PRP)後で交感性眼炎の診断が困難であった1例を経験したので報告する。

症例:患者は61歳,女性。全身既往歴として糖尿病,高血圧症があり,過去に両眼の糖尿病網膜症や白内障に対して手術を受けたことがあった。左眼の視力低下を自覚し近医を受診した。糖尿病黄斑浮腫と診断され,ステロイドテノン囊下注射を施行ののち経過観察とされていたが,左視力が(0.8)から(0.15)と低下したため当科を紹介受診した。

所見:初診時視力は右0.1(0.15),左0.2(0.2)で,左眼は前眼部に軽度の炎症細胞を認めた。眼底は,両眼全周性にPRP後の凝固斑を認めた。蛍光眼底造影検査では,両眼ともに早期相では蛍光漏出を認めず,後期相では蛍光漏出は認めたが,そのほかに有意な所見はなかった。光干渉断層計(OCT)検査では両眼に漿液性網膜剝離,網膜下フィブリン,脈絡膜肥厚を認めた。追加の問診で頭痛,耳鳴りを自覚していることがわかり,髄液検査では細胞増多を認めた。内眼手術歴があるため,交感性眼炎と診断し,ステロイドパルス療法を行った。治療開始後39日目の時点で左視力は(0.2)から(0.9)まで改善し,OCT検査では漿液性網膜剝離などの所見は認めなかった。

結論:PRP後であるため交感性眼炎の診断に苦慮した。PRPによる凝固斑が過剰凝固し,網膜光凝固による所見がマスクされていたためであると考えるが,これまでにPRP後で交感性眼炎の診断に苦慮した報告はなかった。

高含水率疎水性アクリルトーリック眼内レンズの乱視矯正効果と効果に影響する要因

著者: 金谷恵理子 ,   森洋斉 ,   尾方美由紀 ,   南慶一郎 ,   宮田和典

ページ範囲:P.887 - P.891

要約 目的:高含水率疎水性アクリル素材のトーリック眼内レンズ(IOL)の乱視矯正効果を前向きに評価した。また,IOLの軸ずれ,偏心,傾斜,角膜後面乱視の影響を検討した。

対象と方法:対象は,角膜乱視を有する白内障に対してCNW0T3〜8(アルコン社)を挿入した47例47眼(平均年齢:71.1±6.7歳)。切開は上方強角膜1面とし,術中ガイドシステムを用いて軸位置を固定した。術後3か月時の裸眼視力,自覚乱視度数に加えて,IOLの軸位置,偏心,傾斜,角膜後面乱視をCASIA2(トーメーコーポレーション社)で測定した。IOLの軸ずれ,偏心,傾斜,および角膜後面乱視が自覚乱視度数と相関するかを確認した。

結果:挿入モデルはT3:4眼,T4:16眼,T5:14眼,T6:5眼,T7:7眼,T8:1眼で,平均自覚乱視度数は0.69±0.52Dであった。術後裸眼視力は0.05±0.16 logMARで,モデル間差はなかった(p=0.09,T3〜7)。また,軸ずれ,偏心,傾斜,および角膜後面乱視による自覚乱視度数への影響はなかった(p>0.50)。

結論:高含水率疎水性アクリル素材トーリックIOLの乱視矯正効果は良好で,IOLの軸ずれ,偏心,傾斜,角膜後面乱視の乱視矯正への影響はなかった。

非器質的視機能障害の診断における片眼遮蔽下と両眼開放下の視野検査同時施行の有用性

著者: 下田健文 ,   瀧原祐史 ,   浦橋佑衣 ,   高橋枝里 ,   小島祥 ,   井上俊洋

ページ範囲:P.893 - P.898

要約 目的:非器質的視機能障害は陽性所見が乏しく,診断に難渋しやすい。今回,その診断に,片眼遮蔽下と,アイモ(imo®)による両眼開放下(両眼ランダム)の視野検査の同時施行が有用であった2症例を経験したので報告する。

症例:症例1は10代男性で,主訴は左眼視野障害であった。初診時,視力検査,診察,限界フリッカ値測定,光干渉断層計(OCT)検査にて,両眼とも明らかな異常所見はなかった。ゴールドマン視野計(GP)検査で左眼マリオット盲点の拡大があった。1週間後の再診時,左矯正視力は指数弁で,GP検査にて左眼のみ求心性狭窄があった。imo®による両眼開放下視野検査にて左同名半盲様視野障害を認め,GP検査の結果と乖離していた。ハンフリー視野計(HFA)検査では左眼花環状視野障害,黒板視野計検査では筒状視野であった。経過観察のみで左矯正視力1.2に改善した。症例2は20代男性で,主訴は右眼視野障害であった。初診時,視力,限界フリッカ値測定にて両眼とも明らかな異常所見はなかった。OCT検査にて両眼の網膜神経線維層の軽度菲薄化のみがみられた。HFA検査にて右眼のみ耳側半盲があった。imo®による両眼開放下の視野検査にて右同名半盲様視野障害を認め,HFA検査結果と乖離していた。両症例にて造影MRI検査を施行したが,明らかな異常所見はなかった。

結論:片眼遮蔽下(GPやHFA検査)と,imo®による両眼開放下の視野検査結果の乖離が,非器質的視機能障害の診断に有用である可能性がある。

今月の話題

視線分析型視野計

著者: 中野絵梨

ページ範囲:P.798 - P.803

 視線分析型視野計(gaze analyzing perimeter:GAP)は従来の視野検査とは全く異なる,新しい原理に基づく自動視野計である。超軽量のヘッドマウント型ディスプレイで検査者の操作も簡易であるため,健診やベッドサイドなど,幅広い場での活躍が期待できる。本稿ではGAPの測定原理や性能について紹介する。

連載 Clinical Challenge・52

再発を繰り返す上眼瞼腫瘍

著者: 中島勇魚 ,   辻英貴

ページ範囲:P.795 - P.797

症例

患者:55歳,女性

主訴:再発を繰り返す上眼瞼腫瘍

既往歴:特記事項なし

現病歴:X年に左上眼瞼結膜腫瘍に対し,A病院にて霰粒腫として結膜側より切開搔爬を施行した。その3か月後に再発にて2度目の切開搔爬を施行した。さらに初回搔爬から7か月後に,再々発に対してB病院で搔爬を施行された。初回搔爬から11か月後にC病院にて腫瘍を認め,精査加療目的にてがん研究会有明病院(以下,当院)を紹介され受診した。「左瞼の内側に塊が出てきてゴロゴロする」とのことであり,皮下に硬結を触れ(図1a),上眼瞼結膜側には黄白色のやや表面不整凹凸のある腫瘤を認めた(図1b)。前医で処方されていた点眼と軟膏は効果が乏しいとのことで,自己休薬していた。

眼科図譜

COVID-19発症後に網膜症を生じた2例

著者: 植村太智 ,   大庭慎平 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.812 - P.815

緒言

 2019年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが発生してから数年が経過しており,合併症の報告は累積している1)。今回筆者らはCOVID-19発症に関連する網膜症を呈した症例を経験した。

臨床報告

線維柱帯切開術マイクロフック眼内法後の毛様体脈絡膜剝離例の検討

著者: 蔭山徹 ,   八塚洋之 ,   大塚貴瑛 ,   横山勝彦 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.805 - P.810

要約 目的:線維柱帯切開術マイクロフック眼内法(μLOT)術後に発症した毛様体脈絡膜剝離(CCD)について調査を行う。

対象および方法:2022年7月〜2023年3月の間に大分大学医学部附属病院眼科にて,白内障手術と併用もしくは単独で,谷戸氏ab internoトラベクロトミーマイクロフック直を用いてμLOTを施行した43例50眼を対象とした。術前と術後に前眼部光干渉断層計(AS-OCT)を使用し,術後に発症したCCDを検討した。CCDはGrade分類(Grade 1〜3)を行い,さらに対象をCCD群,非CCD群に分類して比較・検討を行った。

結果:術後1日目にCCDが11眼(22%)で観察された。年齢,性別,病型,眼圧,術前眼圧下降薬の使用において,CCD群と非CCD群の間に有意差はみられなかった。Grade 3群と非CCD群とを比較すると,術後1日目と3日目においてGrade 3群の眼圧が有意に低かった。

結論:μLOT術後にCCDが一定の確率で発症するので,術後早期の眼圧変動には注意を要する。

今月の表紙

増殖硝子体網膜症

著者: 山﨑伸吾 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.794 - P.794

 症例は14歳,男性。右眼網膜剝離で竹内眼科クリニックを紹介され受診した。5か月ほど前は眼鏡店で矯正が可能であったそうである。初診時の右視力は(0.15)で,眼底はほぼ全剝離の状態であり,下耳側8時方向の変性巣内に小さな円孔があり,それが原因裂孔であった。視神経乳頭近傍の網膜下輪状索状物,それに連なる放射状の索状物の強い収縮により,網膜には段差が生じていた。増殖硝子体網膜症Grade CP網膜下タイプであった。若年者でまだ硝子体の液化が少なく,裂孔も小さいため,網膜剝離の進行は緩やかで,そのため網膜下での強い増殖性変化が形成・進行したと考えられる。増殖硝子体網膜症は網膜剝離患者の5〜10%に発症するといわれ,その原因となる因子はいくつか存在し,網膜色素上皮細胞,線維芽細胞,グリア細胞,マクロファージと,炎症関連性サイトカインが挙げられる。

 撮影機器にはZEISS社製CLARUS 700を使用し,後極を中心にモンタージュ画像を作成した。8時方向の小さな円孔と網膜下索状物による強い収縮を中央に配置した。

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目次

ページ範囲:P.788 - P.789

欧文目次

ページ範囲:P.790 - P.791

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.804 - P.804

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.899 - P.902

アンケート用紙

ページ範囲:P.906 - P.906

次号予告

ページ範囲:P.907 - P.907

あとがき

著者: 黒坂大次郎

ページ範囲:P.908 - P.908

 今月号は第77回日本臨床眼科学会の学会原著特集号(5)になる。テーマは網膜・ぶどう膜・水晶体・斜視など多岐にわたる。基本的に学会原著は,学会発表のものを基調とはするが,そのときのディスカッションや他の発表などを受けて微妙に変わっている。また,査読もあるので,さらに整理整頓されて理解しやすくなっているはずである。基本的に期限内に投稿されたものは,なんとか受理させて頂きたいという思いで審査を行っているが,査読者とのやり取りも数回に及ぶものもあって,内容は吟味されていると思う。

 また,「今月の話題」は,毎回新しい情報が入手できる。今回の視線分析型視野計も興味深い。この検査に限らず,検査が楽にでき,信頼性がある程度担保されれば,患者にとっても医療者にとってもメリットが大きい。今後ますます高齢化が進み,認知症患者も増えてくるといわれる。時に,両眼に高度の白内障がある認知症患者に対し,片眼だけでも手術をすると,笑うようになったなど,患者家族から喜ばれることがある。これらの効果を評価するのはなかなか難しいが,今後は必要になってくるであろう。ますますの検査機器の発展を望みたい。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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