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雑誌目次

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臨床眼科78巻8号

2024年08月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[6] 原著

梅毒性ぶどう膜炎の2例

著者: 佐野安彩寿 ,   石原麻美 ,   竹内正樹 ,   澁谷悦子 ,   蓮見由紀子 ,   鈴木美砂 ,   水木信久

ページ範囲:P.941 - P.948

要約 目的:黄斑部に脈絡膜新生血管(CNV)を生じた梅毒性ぶどう膜炎,および両眼性に前房蓄膿を生じた梅毒性ぶどう膜炎の報告。

症例:[症例1]54歳,男性。202X−1年,近医で右眼前部ぶどう膜炎の加療歴がある。202X年7月,左視力低下にて横浜市立大学附属病院(当院)を受診した。初診時視力は右(1.2),左(0.2),左眼黄斑部に斑状の白色病巣,OCTにて黄斑部の網膜下高輝度病巣(SHRM)および網膜内液がみられ,インドシアニングリーン蛍光眼底造影にて病巣部の低蛍光,ならびにフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)にて同部位のstainingが認められたことから,CNVの存在が示唆された。血清梅毒RPR定量128倍,TPAb定量40,960倍であったため活動性梅毒と診断され,駆梅療法を施行した。SHRMが拡大したため,トリアムシノロンアセトニド後部テノン囊下注射およびアフリベルセプト硝子体内注射を行った。現在まで滲出性変化はなく,CNVの再発もない。

[症例2]51歳,男性。202X年8月,両眼前部ぶどう膜炎にて加療していた。10月に左霧視が出現し当院を受診した。初診時視力は右(1.2),左(1.0),左眼に前房蓄膿を伴う前眼部炎症があり,FAにて網膜血管からの蛍光漏出がみられた。1週間後,右眼にも前房蓄膿が出現した。血清梅毒RPR定量256倍,TPAb定量81,920倍であったため駆梅療法を施行した。眼炎症はステロイド点眼にて消炎した。

結論:ぶどう膜炎患者を診察する際には梅毒の可能性を常に考える必要がある。

双頭翼状片(double-headed pterygium)7例の手術成績

著者: 新井陽介 ,   戸所大輔 ,   三村健介 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.949 - P.954

要約 目的:翼状片は鼻側に生じることが多いが,稀に両側に生じ双頭翼状片(double-headed pterygium)と呼ばれる。双頭翼状片は進行例であることが多く再発しやすいと考えられるが,手術成績に関する報告は少ない。今回筆者らは初発双頭翼状片に対する翼状片手術の成績を後ろ向きに検討した。

対象と方法:2016年4月〜2021年11月に群馬大学医学部附属病院眼科にて初発双頭翼状片に対して翼状片手術を行い,術後6か月以上経過観察できた7例7眼を対象とした。患者の年齢は14〜77歳(平均59.3歳)であった。術式は,有茎結膜弁移植と遊離結膜弁移植の組み合わせが1例,両側遊離結膜弁移植が1例,両側遊離結膜弁移植にマイトマイシンC(MMC)塗布および羊膜移植を併施した症例が5例であった。血管を伴う増殖組織が角膜輪部を越えて侵入した状態を翼状片の再発と定義し,再発の有無を調べた。

結果:有茎結膜弁移植および遊離結膜弁移植1例,両側遊離結膜弁移植1例の計2例が再発し,再発率は29%であった。再発時期はそれぞれ術後2か月と5か月であった。いずれも軽度の再発で,再手術は要しなかった。両側遊離結膜弁移植にMMC塗布および羊膜移植を併施した5例は再発しなかった。

結論:双頭翼状片は再発しやすい。手術を行う際は再発翼状片に準じて,遊離結膜弁移植にMMC塗布および羊膜移植を併施することが再発の抑制に有用である。

糖尿病網膜症に伴った血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの術後長期成績

著者: 八木梨樺 ,   平井鮎奈 ,   坂本正明 ,   西村智治 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.955 - P.961

要約 目的:増殖性糖尿病網膜症に血管新生緑内障を伴った症例に経毛様体扁平部挿入型インプラントであるバルベルト緑内障インプラント(BGI)挿入チューブシャント手術(BGI手術)を行い,その長期術後成績をレトロスペクティブに検討する。

対象と方法:2014年12月〜2017年9月にBGI(102-350)手術を施行し,5年以上経過観察できた27例31眼(男22名,女5名)を対象とした。BGIは硝子体手術後あるいは硝子体手術と同時に挿入した。平均経過観察期間は73±11か月であった。術前後の眼圧,点眼・内服スコア,logMAR視力および合併症を評価した。

結果:眼圧コントロール不良のため,13眼(42%)で追加の緑内障手術が必要であった。18眼(58%)では追加手術は不要であり,それらの術前および術5年後の眼圧は,37.9±14.4mmHgおよび14.4±4.1mmHgであり,有意に低下した。術前および術5年後の点眼・内服スコアは,4.9±1.2および2.2±1.6であり,有意に減少していた。術前および術5年後のlogMAR矯正視力は,1.38±0.9および0.85±0.6であり,改善傾向がみられた。また,全症例を対象とした術後の合併症は,硝子体出血11眼(35%),脈絡膜剝離7眼(23%),チューブ関連合併症3眼(10%),眼内炎2眼(6%),角膜上皮障害2眼(6%)および前房出血1眼(3%)であった。

結論:BGI手術から5年後において,約6割の症例で再手術を要することなく,眼圧が良好にコントロールされ視力の維持が可能であった。

黄斑剝離を伴う裂孔原性網膜剝離の術前OCTと視力予後の相関

著者: 川崎(髙橋)桃子 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.962 - P.967

要約 目的:裂孔原性網膜剝離(RRD)が進行し黄斑剝離を生じた場合,どこまで剝離が進行すれば視機能が不良になるかは明らかでない。今回,光干渉断層計(OCT)にて黄斑剝離を認めたfoveal-splitting RRD(fsRRD)に対し中心窩からの剝離範囲と視力予後の相関について後ろ向きに検討を行った。

対象と方法:2016年3月〜2022年8月に関西医科大学附属病院を受診し,その翌日までに硝子体手術を行ったfsRRD 43例44眼。中心窩からの剝離範囲に応じて,foveal RD(f)群とperifoveal RD(p)群とmacula RD(m)群の3つに分け,術前後の視力,術前のRRD丈について評価した。

結果:症例内訳は,f群17眼,p群16眼,m群11眼。logMAR視力の推移は,f群0.097,0.046,−0.079,−0.079,p群0.523,0.126,0.000,0.000,m群0.699,0.155,0.000,0.155(術前,術後1,3,6か月の値)であり,f群はm群と比較して,すべての観察点で有意に視力良好であった(p<0.05)。術前RRDの丈(μm)はf群249,p群688.5,m群782とf群がm群と比較して有意に低かった。

fsRRDは進行する前に手術することで視力予後が改善する。術前OCT画像は術後視力評価に有用である。

両眼性複視を伴った特発性眼窩筋炎に対して下直筋後転術が奏効した1例

著者: 川久保慧 ,   忍田栄紀 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.968 - P.973

要約 目的:眼窩を中心とした原因不明の良性かつ非感染性炎症性疾患である特発性眼窩炎症のうち,外眼筋の炎症が病態と考えられるものを特発性眼窩筋炎という。今回筆者らは,慢性期の特発性眼窩筋炎に対して罹患眼の下直筋後転術が奏効した症例を経験したので報告する。

症例:75歳,男性。両眼性複視を認め,前医で頭部MRIを施行したが原因不明のため獨協医科大学埼玉医療センター眼科に初診となった。前眼部,中間透光体,眼底ともに炎症を含め特記事項はなかった。交代プリズム遮閉試験による眼位検査で左眼固視にて20△右下斜視,ヘス赤緑試験で右眼の上転障害を認めた。眼窩部MRIおよび血液検査から原因不明の特発性眼窩筋炎と診断した。治療に際して患者は副腎皮質ステロイド内服加療を希望しなかったこと,また第1眼位で上下斜視を認めたことから手術適応と判断し,右眼下直筋に対して下直筋後転術を実施した。手術直後,軽度の複視症状は残存するも眼球運動は改善しており,手術2か月後には複視症状は消失した。

結論:本症例の経過から慢性期の特発性眼窩筋炎に対して斜視手術は複視症状を改善させる可能性がある。

ASPPCや虹彩肉芽腫など多様な所見を呈した梅毒性ぶどう膜炎の3例

著者: 山田将之 ,   江川麻理子 ,   三﨑貴文 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.975 - P.982

要約 目的:Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis(ASPPC)や稀な虹彩肉芽腫を認めた梅毒性ぶどう膜炎を経験したので報告する。

症例1:55歳,HIV陽性の男性。主訴は左眼の視力低下と眼痛。初診時矯正視力は右0.6,左0.3,左眼の虹彩肉芽腫,両眼の著明な網膜血管炎とASPPCを認めた。ペニシリン内服を行い,最終矯正視力は右0.9,左1.2に改善し眼炎症は鎮静化した。

症例2:41歳,男性。主訴は両眼視力低下と充血。初診時矯正視力は右1.5,左1.0,両眼の肉芽腫性虹彩炎と軽度の網膜血管炎を認めた。1週間後,左眼にacute macular neuroretinopathy様の所見が出現した。持続性ペニシリン製剤の筋肉注射を行い眼所見は改善し,最終矯正視力は左右とも1.5と良好であった。

症例3:60歳,男性。主訴は左眼霧視。左矯正視力は0.2でASPPCの所見を認めた。ペニシリン内服を行い,網膜外層障害は改善し最終矯正視力は左1.0まで回復した。

結論:梅毒性ぶどう膜炎は多様な所見を呈するが視力予後は良好であった。全身検査や患者背景からもアプローチして早期に診断し,内科と連携して治療を進める必要がある。

眼外傷に対する硝子体手術後に交感性眼炎をきたした2例

著者: 織田裕敏 ,   柿木雅志 ,   澤田修 ,   大路正人

ページ範囲:P.983 - P.990

要約 目的:眼外傷に対する硝子体手術後に交感性眼炎をきたし,早期のステロイド治療で良好な視力を得た2例を経験した。

症例1:36歳,女性。右眼を打撲して眼球破裂をきたし,同日,強膜縫合術,水晶体超音波乳化吸引術と硝子体手術を施行したところ経過良好であった。受傷後62日目に両眼の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を認めたためメチルプレドニゾロン 1,000mg/日を3日間投与後,プレドニゾロン 40mg/日の内服に切り替えて漸減した。治療後13か月目にプレドニゾロンを中止したが眼炎症を認めず,治療後15か月目で両眼とも視力(1.5)であった。HLA-DR4は陽性であった。

症例2:64歳,男性。右眼を打撲し前房出血,隅角離断,水晶体亜脱臼を認めた。前房出血は自然消退し,受傷後2か月目に虹彩整復術,水晶体超音波乳化吸引術,硝子体手術,眼内レンズ強膜内固定術を施行した。術後経過は良好であったが術後50日目に両眼に肉芽腫性汎ぶどう膜炎を認めた。HLA-DR4は陰性であった。メチルプレドニゾロン 1,000mg/日を3日間投与後,プレドニゾロン 30mg/日の内服に切り替えたが,漸減中に眼炎症の増悪と寛解を繰り返した。以後漸減し,ステロイド治療後8か月目のプレドニゾロン 10mg/日内服下で眼炎症の増悪を認めず,視力は右(1.2),左(1.5)であった。

結論:眼外傷に対する硝子体手術後に交感性眼炎をきたしたが,早期のステロイド治療により経過良好であった。

文房具による小児眼外傷の2例

著者: 髙松開 ,   澤田修 ,   大路正人

ページ範囲:P.991 - P.995

要約 目的:小児における眼外傷の原因として最も多いのはスポーツ関連,次いで洗剤などの化学物質,玩具となっている。今回,報告例が少ないシャープペンシルの芯と,報告例のない三角定規による小児の眼外傷を経験したので報告する。

症例1:7歳,女児。シャープペンシルが右眼に当たり受傷した。角膜輪部にシャープペンシルの芯が刺さっており,同日全身麻酔下で手術を行い,芯を鑷子で抜去した。最終受診時の右矯正視力は1.5であった。

症例2:15歳,男児。飛来した三角定規が右眼に当たり受傷した。右矯正視力は0.1であった。下方角膜周辺部に裂創を認め,同日に全身麻酔下に手術を行い,強角膜を縫合した。最終受診時の右矯正視力は1.5であった。

結論:シャープペンシルの芯と定規による眼外傷を経験した。いずれも創が下方で視力予後が良好であった。

多様な眼合併症を呈した再発性多発軟骨炎の1例

著者: 三﨑(田原)裕子 ,   江川麻理子 ,   佐埜弘樹 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.996 - P.1002

要約 目的:再発性多発軟骨炎(RPC)は比較的稀な難治性疾患である。今回多様な眼合併症を呈した1例を経験したので報告する。

症例:79歳,男性。X−20日頃から右耳痛,X−10日頃から右耳介軟骨腫脹とめまいの症状があり,X日に精査のため内科に入院となった。さらに右聴力障害,左視力低下が出現しRPCが疑われ,X+6日に前医眼科を受診した。矯正視力は右1.2,左0.4,両眼の前部強膜炎と左眼の虹彩炎を認めた。耳介軟骨の生検でRPCと確定診断され,X+12日にプレドニゾロン(PSL)20mgの内服が開始された。X+13日の診察時に両眼の後部強膜炎と,OCTで乳頭黄斑間の網膜内層に血流障害を疑う高輝度病変を認め,左視力は(0.1)に低下した。X+16日からPSL 60mgに増量され徳島大学病院(当院)に転院し,X+19日に当院眼科に初診となった。後部強膜炎は改善傾向であったが,左視力は(0.2),中心フリッカ値は15Hzと不良であった。X+1か月後のMRI STIR法で左視神経が高信号を示し,左中心暗点と乳頭蒼白化を認めたことから,急性期に左視神経炎も合併していたと考えられた。

結論:RPCは短期間に増悪し,眼球から視神経に至る広範囲に病変をきたす可能性がある。耳介軟骨腫脹を含めた全身所見を確認し,早期に診断,治療を開始する必要がある。

Alport症候群に合併した黄斑円孔の硝子体手術に難渋した1例

著者: 沼賀早紀 ,   得居俊介 ,   篠原洋一郎 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.1003 - P.1009

要約 目的:Alport症候群はⅣ型コラーゲン異常を原因とした遺伝性疾患であり,進行性遺伝性腎炎や感音性難聴に加えて,再発性角膜びらん,円錐水晶体,斑状網膜などさまざまな眼病変を伴う。筆者らはAlport症候群の網膜所見を長期間にわたり光干渉断層計(OCT)で観察,最終的に黄斑円孔を合併して硝子体手術で人工的後部硝子体剝離作成に難渋した症例を経験したので報告する。

症例:64歳,男性。Alport症候群による難聴と腎不全に対する腎移植歴あり。45歳時に右眼の見づらさが出現し,変視が増悪傾向のため48歳時に精査加療目的に群馬大学医学部附属病院へ紹介され初診となった。

所見:初診時矯正視力は左右ともに1.2であった。両眼黄斑周囲に黄白色点状病変が散在し,OCTでは病変に一致した高輝度病変が内境界膜上にあり,Alport retinopathyと診断した。その後通院中断があったが,両眼の視力低下があり再診した。再診時矯正視力は右0.6,左0.5で,両眼に全層黄斑円孔がみられた。右眼の黄斑円孔に対し硝子体手術を施行したが,人工的後部硝子体剝離の作製を試みるも周辺まで起こらず内境界膜剝離も困難であり,シリコーンオイル注入で手術終了となった。術後OCTで黄斑円孔未閉鎖であったが,円孔径は縮小した。

結論:Alport症候群に合併した黄斑円孔に対する手術適応は,後部硝子体剝離や内境界膜剝離が困難な症例も存在するため,慎重に決定する必要がある。

両眼の漿液性網膜剝離を呈した重症高血圧性網膜症の2例

著者: 石川宗元 ,   市川良和 ,   小宮有子 ,   藤本太一 ,   西尾真以 ,   高野俊一郎 ,   永本晶子 ,   今村裕

ページ範囲:P.1010 - P.1015

要約 目的:両眼に漿液性網膜剝離を呈した重症高血圧性網膜症の2例を報告する。

症例1:38歳,男性。頭痛と倦怠感,両視力低下を主訴にフォークト・小柳・原田病を疑われ当科を紹介され受診した。両眼に漿液性網膜剝離を認め,網膜所見は比較的乏しかった。髄液所見に異常はなく血圧242/127mmHgと異常高値であり,高血圧性網膜症と診断した。

症例2:25歳,女性。両眼に漿液性網膜剝離を認め,乳頭を囲んで出血と浸出斑認めた。血圧180/136mmHgであり高血圧性網膜症と診断した。

結論:両眼に発症した若年者の漿液性網膜剝離をみた場合,網膜所見が比較的乏しい場合でも高血圧性網膜症を念頭に置く必要がある。

COVID-19ワクチン接種後にMEWDS様の眼底所見を呈した2例

著者: 秋山真理 ,   權守真奈 ,   田中うみ ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1016 - P.1025

要約 緒言:COVID-19ワクチンの副作用と考えられた多発消失性白点症候群(MEWDS)を2例経験したので報告する。

症例1:65歳,女性。3回目のCOVID-19ワクチン接種後2日目に右眼の飛蚊症を主訴に来院した。右矯正視力は0.15と低下しており,前房と硝子体内に炎症所見を認めた。右視神経乳頭から赤道部にかけて白点病変が散在し,眼底自発蛍光(FAF)では白点病変に一致して過蛍光がみられ,光干渉断層計(OCT)ではellipsoid zone(EZ)の途絶が認められた。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では早期より白点病変に一致して過蛍光を,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)の後期では低蛍光を示した。ワクチン接種から6か月で眼底病変は消失した。

症例2:33歳,女性。2回目のCOVID-19ワクチン接種後2か月目に左眼の充血を主訴に来院した。両眼の矯正視力は1.2で,右角膜後面沈着物を認めた。両眼底に白点病変を認め,FAFでは広範囲に過蛍光斑がみられた。OCTではEZの途絶を認めた。FAでは早期から斑状の過蛍光を,IAでは低蛍光を示した。ワクチン接種から4か月で白点病変は消失し,一部は萎縮を残した。

結論:COVID-19ワクチン接種によってMEWDSが誘発された可能性が考えられた。ぶどう膜炎の診察の際には,問診でCOVID-19ワクチン接種の既往を確認する必要があると思われた。

漿液性網膜剝離によって診断された再発性多発軟骨炎

著者: 尤俊博 ,   高瀬博 ,   北口由季 ,   今井彩乃 ,   堀口乃恵 ,   鴨居功樹 ,   宮永将 ,   小宮陽仁 ,   保田晋助 ,   大野京子

ページ範囲:P.1027 - P.1032

要約 背景:再発性多発軟骨炎は多臓器にわたる慢性再発性の炎症が特徴であるが,漿液性網膜剝離を合併した報告は少ない。漿液性網膜剝離による眼科受診を契機に診断に至った再発性多発軟骨炎の症例を経験したので報告する。

症例:84歳,女性。右眼の急激な視力低下を主訴に東京医科歯科大学病院に紹介され初診した。視力は右光覚なし,左矯正0.5,眼圧は右7mmHg,左16mmHgであった。右眼の強膜充血,角膜周辺部の菲薄化を認めた。前房は両眼深く,右眼には炎症細胞とフレアがそれぞれ2+あった。右水晶体は強い核硬化と後囊混濁がみられた。超音波Bモードにより,網膜剝離,脈絡膜肥厚がみられた。顔面の視診にて鞍鼻を認め,再発性多発軟骨炎を疑い全身検索を行った。胸部単純CTでは,呼気時の気管虚脱を認めた。耳鼻科領域においては鼻咽頭ファイバースコープで鼻中隔穿孔がみられた。Damianiらの診断基準のうち3項目を満たしたため再発性多発軟骨炎の診断となり,ステロイドパルス療法およびアダリムマブ投与を行った。

結論:漿液性網膜剝離を伴う強膜炎の鑑別に再発性多発軟骨炎を挙げる必要性が示唆された。また,強膜炎の診断の際には顔面・耳介の視診が重要であることが改めて示唆された。

今月の話題

角膜知覚とTRPチャネル

著者: 益岡尚由 ,   清井武志

ページ範囲:P.919 - P.925

 眼表面疾患に伴う不快感や痛みは,患者のquality of life(QOL)を著しく低下させる自覚症状の1つである。近年,角膜知覚にかかわる研究やこれら症状に対処できる点眼薬の開発が,世界中で活発に行われている。本稿では,角膜知覚において重要な分子であり,治療薬開発における標的の1つにもなっているTRPチャネルについて概説する。

連載 Clinical Challenge・53

眼底検査で指摘された網膜色素上皮異常を伴う網膜白色病変

著者: 濱田拓人 ,   寺崎寛人

ページ範囲:P.914 - P.918

症例

患者:40歳,男性

主訴:右方の視野異常

既往歴:高血圧症,脂質異常症

喫煙歴:なし

家族歴:特記なし

現病歴:X年に眼科検診にて網膜色素上皮異常を指摘され近医眼科を受診した。右眼の後極部に白色腫瘤を認め鹿児島大学病院(以下,当院)へ紹介された。当院受診時の主訴は自動車運転時の右方の見えづらさであった。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・19

涙管チューブ挿入術

著者: 星崇仁

ページ範囲:P.926 - P.930

●適切な症例選択と患者説明で,無理なくステップアップ。

●涙道内視鏡を導入し,「見える」涙管チューブ挿入術をマスターする。

●術後診察が上達のチャンス。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2027年8月)。

眼科図譜

鉛筆による角膜穿孔と虹彩損傷を認めた1例—長期経過

著者: 岡本紀夫

ページ範囲:P.938 - P.939

症例

患者:6歳,男性

主訴:鉛筆が右眼に刺さった

臨床報告

重篤な角膜潰瘍を伴ったビタミンA欠乏性眼球乾燥症の1例

著者: 宇辰賢祐 ,   寺﨑寛人 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.931 - P.936

要約 目的:発症から時間が経過し,重篤な角膜潰瘍を伴ったビタミンA欠乏性眼球乾燥症の1例を経験したので報告する。

症例:症例は6歳,男児。母親が右眼の角膜混濁に気づき前医を受診し,眼内炎の診断で精査加療目的に鹿児島大学病院に紹介され受診となった。細隙灯顕微鏡にて,両眼角結膜の著明な乾燥および右角膜潰瘍と前房蓄膿を認めた。問診にて自閉スペクトラム症を伴う発達障害があることがわかり,極端な偏食および夜盲の症状があったため,ビタミンA欠乏性眼球乾燥症と診断しレチノールパルミチン酸エステル(チョコラ® A筋注5万単位)筋肉注射5万単位/日を5日間投与したところ,角膜混濁を残して角膜潰瘍は消失し,結膜も湿潤・光沢を認め乾燥所見も改善した。また加療前は血清ビタミンA低値(≦3.0μg/dL)であったが,加療後は31.6μg/dLまで上昇した。

結論:ビタミンA欠乏性眼球乾燥症は,本症例のように重篤な炎症を伴うと感染性の眼病変と鑑別が困難となり加療の遅れにつながるため,詳細な問診と当疾患を念頭に置いた眼科的診察がより重要となると考えられる。

今月の表紙

虹彩ルベオーシス

著者: 岡﨑真由 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.937 - P.937

 症例は83歳,女性。近医内科にて心筋梗塞に対しカテーテル治療を受け,退院2日後に左眼痛と側頭部痛を主訴に前医を受診した。左血管新生緑内障が疑われたため,当院を紹介され翌日に受診となった。初診時の矯正視力は右1.0p,左0.5,眼圧は右11mmHg,左24mmHgであった。前眼部所見として左眼の前房出血,虹彩ルベオーシスを認め,眼底は両眼ともに網膜出血を散在性に認めた。当日ハイデルベルグ社のSPECTRALIS HRAを用いてフルオレセインナトリウム(FA)とインドシアニングリーン(ICG)蛍光眼底造影検査を施行した。左眼では腕-網膜循環時間の延長を認めた。

 写真は,眼底撮影終了後,静注から13分ほど経過したICGによる前眼部の蛍光造影画像である。ICGの特性として分子量が大きく,新生血管からの漏出が少ないため,造影後期でも色素漏出に影響されることなく新生血管の形態を明瞭に描写することができた。

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目次

ページ範囲:P.910 - P.911

欧文目次

ページ範囲:P.912 - P.913

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.940 - P.940

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1033 - P.1035

アンケート用紙

ページ範囲:P.1038 - P.1038

次号予告

ページ範囲:P.1039 - P.1039

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1040 - P.1040

 現在は6月半ば,梅雨空を見上げながらこの文章を書いています。

 私は眼科医として40年のキャリアを迎えようとしており,退官も間近に迫っています。その間,社会の変化は驚くべきものでしたが,眼科医療の進歩もまた著しいものでした。私が入局した頃,白内障手術の主流は囊内法でしたが,その後,水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズの導入により,眼科医療は一変しました。網膜治療においても,硝子体手術の隆盛が網膜剝離手術を大きく変革し,さらに抗VEGF薬の登場が網膜学の進歩に寄与しました。90年代には遺伝子研究が医療を変えると言われていましたが,それ以上に検査機器の進歩が眼科の世界を変えたと感じます。当然ながら,対象となる疾患も大きく変わりました。私の専門である網膜分野において,90年代までは糖尿病網膜症の克服が大きな目標でしたが,2000年代になると滲出型加齢黄斑変性の克服が目標となり,最近では地図状網脈絡膜萎縮の治療が現実的な目標になりつつあります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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