icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科78巻9号

2024年09月発行

雑誌目次

特集 第77回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

梅毒性ぶどう膜炎36症例の臨床的検討

著者: 木下悠十 ,   松島亮介 ,   若月慶 ,   野中椋太 ,   菅原莉沙 ,   朝蔭正樹 ,   前原千紘 ,   坪田欣也 ,   臼井嘉彦 ,   毛塚剛司 ,   後藤浩

ページ範囲:P.1073 - P.1081

要約 目的:当院で経験した最近の梅毒性ぶどう膜炎の臨床像と予後を検討する。

対象と方法:過去11年間に東京医科大学病院眼科で診断された梅毒性ぶどう膜炎の患者背景,臨床像,治療と予後について,診療録をもとに後ろ向きに検討した。

結果:症例は計36例,平均年齢は41.4±11.4歳,男性が30例(83%),両眼発症例は17例(47%)で,human immunodeficiency virus(HIV)陽性例は11例(31%)であった。前眼部炎症は24例(67%),硝子体混濁は21例(58%),視神経乳頭の発赤は13例(36%)にみられた。フルオレセイン蛍光眼底撮影を施行した26例中,網膜静脈炎は23例(88%),動脈炎は19例(73%)にみられ,羊歯状の蛍光漏出も6例(23%)で確認された。黄斑浮腫は5例(19%)にみられた。急性の斑状網膜病変(ASPPC)は6例(17%)に,視神経炎の合併例は3例(8%)にみられた。治療はアモキシシリン水和物内服が25例(69%),ベンジルペニシリン点滴静注が7例(19%),ミノサイクリン塩酸塩内服が2例(6%)に行われ,ステロイド内服は5例(14%)で併用されていた。最終視力はおおむね良好で,32例(89%)が0.8以上に改善した。

結論:梅毒性ぶどう膜炎は多彩な眼所見を呈するため,定型的でないぶどう膜炎症例に対しては積極的に血清梅毒検査を行うべきである。一方,ASPPCのように特徴的な眼底所見を示す場合もある。いずれの場合も可及的早期に診断と治療を行うことによって良好な視機能の維持が期待できる。また,HIV感染併発例が多いことに留意する必要がある。

運転時に特異な視線の動きを示した先天性後頭葉障害による同名半盲の1例

著者: 柴田拓也 ,   國松志保 ,   平賀拓也 ,   深野佑佳 ,   岩坂笑満菜 ,   黒田有里 ,   広田雅和 ,   溝田淳 ,   井上賢治

ページ範囲:P.1082 - P.1088

要約 目的:先天性後頭葉障害による同名半盲は,視野欠損の自覚がないため,成人して偶然に発見されることが多い稀な疾患である。今回,先天性後頭葉障害による右同名半盲に外斜視を伴い,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(DS)にて特徴的な視線の動きを示した1例を経験したので報告する。

症例:51歳,男性。2020年10月に眼精疲労を訴え近医を受診し,視野検査で右同名半盲を認めた。同年12月にA大学病院脳神経外科を紹介され,先天性後頭葉障害と診断された。運送会社での就労可否の判断のため,2023年1月に西葛西・井上眼科病院運転外来を紹介受診した。矯正視力は右1.0,左1.0であった。視野は黄斑回避を伴う右同名半盲を示した。光干渉断層計では,半盲に一致した網膜神経節細胞複合体厚の菲薄化がみられた。眼位は左眼が外下斜視,右眼が優位眼で,固視交代は可能であったが,左眼の眼球運動制限,輻湊不全,網膜対応欠如を認めた。1回目のDSでは,運転時には固視交代がみられたが,視線が全体的に中心から右側(半盲側)に偏り,非半盲側である左側から飛び出した車と2場面で衝突した。

結論:DSにより視線の動き,特徴を解析して指導することで,事故が回避できる可能性があった。

細菌性眼内炎における起因菌培養検出率

著者: 山本優一 ,   佐々木香る ,   釼祐一郎 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1089 - P.1095

要約 目的:細菌性眼内炎において,原因菌を同定することは抗菌薬選択や視力予後を決定する重要な要因である。しかし,硝子体からの培養検査における細菌検出率は高くない。今回,筆者らは細菌検出率を向上させるために,培養検査における硝子体検体の処理方法について後ろ向きに検討したため報告する。

対象と方法:対象は関西医科大学附属病院を受診し,細菌性眼内炎と診断された36例(36眼)で,このうち2014年10月〜2019年12月の症例を前期群,2020年1月〜2023年1月の症例を後期群とした。硝子体手術によって採取した検体を前期群では血液寒天培地で培養し,後期群では検体を遠心分離したのち,複数の培地で培養を行った。後期群では一部の患者にPCR検査も施行した。

結果:前期群は17人17眼,後期群は19人19眼で,年齢・性別に差はなかった。硝子体培養検査の検出率は前期群で35%(6眼/17眼),後期群で68%(13眼/19眼)と,後期群で有意に上昇を認めた(p=0.047)。硝子体塗抹検査の検出率は前期群で29%(5眼/17眼),後期群で47%(9眼/19眼)と有意差を認めなかった(p=0.27)。PCR検査は4眼で施行されており,陽性例は100%(4眼/4眼)であったが,このうち1眼は偽陽性と考えられた。

結論:細菌性眼内炎における硝子体検体の処理法を工夫することで,原因菌の検出率を上昇させうる可能性を示した。PCRでは偽陽性に注意が必要であった。

交通外傷後の重症ドライアイに対して往診による血清点眼の効果が認められた1例

著者: 西村裕樹 ,   ローハンケムラニ ,   寺内稜 ,   中山慎太郎 ,   丹治信 ,   横岩良太 ,   髙橋塁 ,   依田龍之介 ,   佐藤真理 ,   清水映輔

ページ範囲:P.1096 - P.1101

要約 目的:交通外傷後に重症ドライアイを発症した日常生活動作(ADL)全介助の症例に対し,往診にて,血清点眼を使用した治療が奏効したので報告する。

症例:31歳,日本人男性。ADLは要介護5で,重度障害者グループホームに入居中であった。急性期病院より約10年間ヒアルロン酸ナトリウム点眼が処方され,以後は訪問診療の内科医によりヒアルロン酸ナトリウム点眼の処方が継続されていた。この間,眼科通院や往診での眼科医による診察はなかった。今回,右眼充血の主訴で,眼科往診の要請があり,検査と診察を実施した。

所見:右眼の角膜混濁,角膜血管新生,糸状物を認めた。また,著明な結膜充血,マイボーム腺機能不全も認められ,糸状角膜炎の診断となった。左眼は異常所見を認めず,眼底は透見困難であった。訪問診療の内科医により,ヒアルロン酸ナトリウム点眼のほかにフルオロメトロン点眼の処方があり,点眼麻酔後に糸状物を除去し,フルオロメトロン点眼をベタメタゾン点眼に変更した。さらに家族の了承のもと,血清点眼を作成・投与した。受診1か月後には,角膜混濁やマイボーム腺機能不全は残存するものの,角膜血管新生や糸状物,結膜充血の改善が認められた。

結論:血清点眼には涙液と同等以上の生理活性物質が含まれており,本症例においては所見の改善に有用であったと考えられた。一方,ステロイド力価の変更や糸状物の除去による血清点眼以外の治療効果も考えられる。

白内障術後不満に対し眼内レンズ入れ替えが奏効した視覚依存性前庭障害の1例

著者: 森井香織 ,   明石梓 ,   三浦真二 ,   大塚斎史 ,   窪谷日奈子 ,   徳永敬司 ,   長谷川実茄 ,   藤原りつ子

ページ範囲:P.1103 - P.1108

要約 目的:白内障術後の不満症例とされたが,視覚依存性前庭障害であり,自覚屈折度数を術前の値に戻すことで前庭障害の軽減が得られた症例を経験したので報告する。

対象と方法:79歳,女性。202X年に他院で両眼白内障手術を施行後,両眼の浮遊感,見えにくさを訴えた。術後視力は右1.0(矯正不能),左1.2(矯正不能)と良好であり,術後不満症例とされ,あさぎり病院眼科を紹介受診した。浮遊感,めまいの訴えが強く,重心動揺検査を行ったところ,開眼時密集度49.46,面積ロンベルグ率2.52,速度ロンベルグ率(ラバー負荷)3.11と異常高値で,ニューラルネット判定は異常確率100%であり,視覚依存性の強い前庭障害であると判定された。術前の自覚屈折度数は両眼とも−2.0D程度で,通常は眼鏡装用していなかったことから,自覚屈折度数の変化に伴い視覚での補正が難しくなり,前庭障害が悪化したと考え,屈折度数を−2.0Dとして両眼内レンズの入れ替え手術を行った。

結果:術後屈折度数は右0.2(1.2×−2.0D()cyl−1.0D 96°),左0.2(1.2×−1.75D()cyl−0.75D 87°)で,自覚症状は著明に改善し,重心動揺検査でも開眼時密集度44.73,面積ロンベルグ率0.61,速度ロンベルグ率(ラバー負荷)1.65と改善を認めた。

結論:視覚依存性の高い前庭障害を有する患者の術後屈折度数の決定は,術前屈折度数と異なる状態にすると,前庭障害を悪化させる可能性がある。このような症例については,眼内レンズを入れ替え,屈折度数を術前に戻すことが有効であることを示唆している。

初発症状として両側網膜中心静脈閉塞症の所見を呈した多発性骨髄腫の1例

著者: 中村紗弓 ,   松本理子 ,   西信良嗣 ,   阿部和樹 ,   藤城綾 ,   村田誠 ,   大路正人

ページ範囲:P.1109 - P.1115

要約 目的:初発症状として両側網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の所見を示した多発性骨髄腫の1例を経験したので報告する。

症例:55歳,男性。2023年2月初旬頃からの左眼視力低下を主訴に,2月中旬に近医を受診した。両眼にCRVOを認めたため,近医受診から4日後に滋賀医科大学医学部附属病院(以下,当院)を紹介受診となった。初診時の矯正視力は右1.2,左0.6であった。眼底所見では両眼の全周に刷毛状,およびしみ状の網膜出血,血管の蛇行・拡張を認め,光干渉断層計では両眼に黄斑浮腫,左眼黄斑部に漿液性網膜剝離を認めた。原因精査のために血液検査を施行したところ,貧血,凝固能低下,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能低下,IgA高値を認め,当院血液内科にて症候性多発性骨髄腫IgAλ型と診断された。血液内科による治療が施行されると,眼底の出血所見は徐々に改善し,漿液性網膜剝離は丈の減少を認めた。治療開始5か月後,矯正視力は右1.5,左1.2まで改善した。

結論:本症例では,多発性骨髄腫による過粘稠度症候群によって両眼にCRVOの所見を認めた。両眼同時発症のCRVOを認めた場合は,血液疾患を疑って全身検査を行う必要がある。

初発の急性網膜壊死から長期経過後に僚眼に再発をきたした1例

著者: 小玉俊介 ,   小幡峻平 ,   西信良嗣 ,   西佑樹 ,   大路正人

ページ範囲:P.1116 - P.1122

要約 目的:片眼に単純ヘルペスウイルス(HSV)による急性網膜壊死(ARN)を発症し,治療により鎮静化後,9年を経て僚眼に再発したHSV-1型によるARNの1例を経験したので報告する。

症例:77歳,男性。2013年3月に左視力低下のため近医を受診し,左眼ぶどう膜炎が認められ紹介受診となった。初診時視力は右(0.9),左(0.2)であり,眼圧は右17mmHg,左11mmHgであった。左眼底に黄白色の壊死病巣を認め,前房水PCR検査にてHSV陽性と判明し,HSVによるARNと診断された。アシクロビルと副腎皮質ステロイド薬の全身投与,予防的硝子体手術を行い,眼底病変は鎮静化した。視力は右(1.0),左(0.02)であった。初発から約9年後の2021年12月に右眼の飛蚊症を自覚し,視力は右(0.9),左(10cm指数弁)で,眼圧は両眼とも14mmHgであった。右眼に虹彩毛様体炎,硝子体混濁を認め,右眼底に網膜動脈炎を認めた。前房水PCR検査にてHSV-1陽性で,僚眼におけるARNの再発と診断した。アシクロビルと副腎皮質ステロイド薬の全身投与に反応し,治療開始1か月後には硝子体混濁,網膜動脈炎は軽快した。2023年7月の段階では炎症の再燃もなく,右(1.0)と良好な視力に改善している。

結論:ARNは初発眼の発症から長期経過後に僚眼に再発することがあるため,長期間にわたり注意深く経過観察する必要がある。

線維柱帯切開術後の前房出血に合併した角膜血染症の1例

著者: 田哲 ,   竹澤隆佑 ,   盛秀嗣 ,   大庭慎平 ,   千原智之 ,   佐々木香る ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1124 - P.1130

要約 目的:線維柱帯切開術後の前房出血に合併して角膜血染症を発症した症例を報告する。

症例:85歳,男性。狭心症の既往のため抗血小板薬2剤を内服中であった。左眼の後期開放隅角緑内障,白内障に対して白内障手術併用360° suture trabeculotomy ab interno(360° S-LOT)を行った。術前の左眼矯正視力0.3,眼圧17mmHg,前眼部光干渉断層計(A-OCT)による角膜厚は569μm,角膜内皮細胞密度は2,577cells/mm2であった。手術翌日から前房出血(ニボー形成:3mm)を認め,眼圧は16mmHgであったが,術後4日目に前房出血はほぼ前房全体に充満し,眼圧は36mmHgと上昇した。術後12日目に角膜血染症を発症したため,速やかに前房洗浄を行った。前房洗浄後,周辺部を除いた角膜全層に黄褐色の混濁を認め,角膜血染症発症時の角膜厚は750μmであった。前房洗浄の3か月後,角膜厚は603μmへと改善したが,A-OCTにて角膜中央部実質内に高輝度領域を認めた。術後25か月の時点で角膜厚は555μmへと改善し,角膜高輝度領域の消失を認め,矯正視力は0.6,眼圧は12mmHgであった。角膜内皮細胞密度は770cells/mm2であった。

結論:抗血小板薬を内服中の患者の場合,線維柱帯切開術後の前房出血は遷延する可能性があり,早期の前房洗浄を考慮する必要があることが示唆された。角膜血染症発症後の角膜混濁の経過観察においてA-OCTは有用である。

尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群4症例の経験

著者: 飯田文人 ,   飯田禎人 ,   北山浩嗣

ページ範囲:P.1132 - P.1138

要約 緒言:眼科で診ることは稀な尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎(TINU)症候群を4症例経験し,尿細管間質性腎炎の診断につながった検査項目を検討した。

症例1:14歳,女児。前眼部は両眼に肉芽腫性虹彩毛様体炎,隅角結節があった。シスタチンC(CysC),クレアチニン,尿Nアセチルグルコサミニダーゼ(NAG),尿β2-マイクログロブリン(β2-m)が高値のため,総合病院小児科へ紹介した。臨床所見よりTINU症候群と診断された。

症例2:10歳,男児。前眼部は右眼に肉芽腫性虹彩毛様体炎,隅角結節があった。左眼に炎症所見はなかった。1か月後に左眼の虹彩毛様体炎を発症した。CRP,CysC,尿NAG,尿β2-mが高値のため,静岡県立こども病院(以下,こども病院)腎臓内科へ紹介した。腎生検にてTINU症候群が確定した。

症例3:15歳,男児。前眼部は両眼に肉芽腫性虹彩毛様体炎,隅角結節と視神経乳頭腫脹があった。CRP,CysC,尿β2-mが高値のため,こども病院腎臓内科へ紹介した。腎生検にてTINU症候群が確定した。

症例4:8歳,女児。前眼部は右眼に肉芽腫性虹彩毛様体炎,虹彩結節があった。硝子体前部に炎症細胞があった。左眼に炎症所見はなかった。2か月後に左眼の虹彩毛様体炎を発症した。CRP,CysC,尿β2-mが高値のため,こども病院腎臓内科へ紹介した。腎生検にてTINU症候群が確定した。

結果:血液検査では1症例でクレアチニン,4症例でCysC,尿検査では2症例でNAG,4症例でβ2-mが異常値を示し,尿細管間質性腎炎の診断に寄与した。

結論:小児の虹彩毛様体炎では片眼,両眼にかかわらずTINU症候群を疑い,通常の腎機能検査だけでなく,CysCを含む血液検査に加え,β2-mとNAGを含む尿検査が必要である。

当院における外傷性黄斑円孔の治療成績

著者: 北村昂司 ,   恩田秀寿 ,   遠藤貴美

ページ範囲:P.1139 - P.1145

要約 目的:眼球打撲傷による外傷性黄斑円孔の治療成績を報告する。

対象と方法:対象は,2013年4月〜2023年3月に昭和大学病院附属東病院(以下,当院)を眼球打撲傷のため受診し,外傷性黄斑円孔と診断された6例6眼である。性別,年齢,受傷機転,黄斑部合併症の有無,後部硝子体剝離の有無,光干渉断層計(OCT)所見,治療方法,視力について,診療録よりレトロスペクティブに抽出した。なお,外傷性黄斑円孔の治療方針は,経過観察ののちに,OCT所見上,円孔径の拡大やfluid cuffの立ち上がりを認め,円孔の自然閉鎖が期待されない症例に対して硝子体手術を施行した。

結果:6例全例が男性であった。内訳は,10歳台が4例,20歳台が1例,30歳台が1例であった。受傷機転は全例がボールの直撃であった。自然閉鎖を認めた症例は4例で,受傷より1か月以内で閉鎖した症例が3例,受傷後16週で閉鎖した症例が1例であった。4例中1例にのみfluid cuffを認めたが,架橋構造がみられたため経過観察とし,その後自然閉鎖した。硝子体手術例は2例であり,術前OCT所見にてfluid cuffを認めたが,最終的な黄斑円孔閉鎖率は100%であった。最終logMAR視力の平均は,自然閉鎖群で0.011±0.113,手術群で−0.08±0であった。

結論:外傷性黄斑円孔は,球技を行う若年者で発症する傾向にあった。OCT所見に着目した治療方針で,良好な視力予後が得られた。

涙腺炎を初発とした特発性外眼筋炎の1例

著者: 末野玲雄 ,   毛利玲於奈 ,   中村千晶 ,   前田奈津子 ,   岡本史樹 ,   小早川信一郎

ページ範囲:P.1146 - P.1150

要約 目的:特発性眼窩炎症のなかでも特発性外眼筋炎に涙腺炎を合併することは稀である。涙腺炎を初発とした特発性外眼筋炎の1例を経験したので報告する。

症例:76歳,男性。右眼の疼痛,充血,眼瞼腫脹,視力低下のため,日本医科大学武蔵小杉病院へ紹介受診した。涙腺生検にて涙腺炎と診断した。ステロイド治療により他覚的所見と自覚症状の改善がみられたが,6か月後に複視を訴えて再来した。画像検査にて外眼筋炎が認められた。再度,ステロイド治療により自覚症状の改善を得た。

結論:涙腺炎に引き続き外眼筋炎を発症した症例を経験した。特発性眼窩炎症では炎症部位が移動する場合があり,長期の経過観察を要する。

Knapp変法を行った先天monocular elevation deficiencyの1例

著者: 坂本正明 ,   林麗如 ,   三須恵太 ,   大澤柊太 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1151 - P.1157

要約 目的:先天monocular elevation deficiency(MED)は,片眼の上転障害をきたす疾患である。筆者らはKnapp変法が奏効したMEDの1例を経験したので報告する。

症例:0歳6か月,女児。生後まもなく家族が左眼上斜視に気づき受診した。初診時,眼位はHirschberg法において左眼固視時で右下斜視15度,右眼固視で左上斜視30度であった。また,右偽眼瞼下垂を認めた。右眼の上転不全があり,Bell現象が消失していた。なお,左眼の眼球運動とBell現象は正常だった。1歳6か月時に右眼MEDに対してKnapp変法を施行した。内・外直筋を2分割して上直筋付着部の両側へ移動し,内・外直筋の上半分を上直筋付着部から後方6.0mmの筋腹縁に縫着した。術後の眼位は交代プリズム遮閉試験で右下斜視12Δとなり,残余斜視角に対してプリズム眼鏡を処方した。術後1年経過した現在も良好な眼位を維持している。

考按:Knapp変法は水平直筋全筋上方移動術(Knapp法)に比べて,外眼筋の半分を切断・移動するため前房虚血のリスクが低くなる。さらに,移動した内・外直筋を上直筋の筋腹縁に縫着したことで矯正効果を増大できた。本症例は早期手術を施行し,残余斜視角をプリズム眼鏡で矯正しており,両眼視の獲得も期待できる。先天MEDに対してKnapp変法は有効な術式と思われた。

涙管通水検査と涙道内視鏡検査の一致率:上下交通の意義について

著者: 頓宮真紀 ,   加治優一 ,   松本浩一 ,   松本雄二郎

ページ範囲:P.1159 - P.1164

要約 目的:流涙を主訴とし涙管通水検査(LST)を行うことになった症例で,同一術者によるLSTと涙道内視鏡検査(DE)所見の一致率,および上下交通の意義について検討した。

対象と方法:症例は当院で2022年10月〜2023年3月にDEを予定した患者142名178眼で,術前にLSTを,その後にDEを行い,必要なら涙管チューブ挿入を行った。涙道閉塞・狭窄部位をLSTで予測し,DEで結果を確認した。

結果:LSTで予測した閉塞・狭窄部位と,DEで確認した閉塞・狭窄部位との一致率は76.6%で,既報とほぼ同様の結果であった。閉塞・狭窄部位は涙小管・総涙小管・鼻涙管上部・鼻涙管下部に分類し,それぞれの一致率は涙小管75.9%,総涙小管87.5%,鼻涙管上部78.9%,鼻涙管下部52.4%であった。また閉塞部位の推定に有用であると予測した上下交通については,閉塞部位ごとに大きな違いを認めた。上下交通を総涙小管閉塞では100%,鼻涙管上部閉塞では97%認めた。一方,鼻涙管下部閉塞では47%,涙小管閉塞では20%に認めた。各群を比較すると,総涙小管と鼻涙管上部の比較以外は,すべての群間で有意差を認めた。

結論:LSTは,流涙の術前検査としてある程度有用である(正確性76.6%)。上下交通の有無で比較すると,総涙小管と鼻涙管下部,鼻涙管上部と下部では有意差があった。上下交通の程度を示すGradeだけでは,総涙小管閉塞と鼻涙管上部閉塞の鑑別はできないが,LSTの際,上下交通の有無と割合の両者に注目することで,より病変部位の予測の精度が上がる可能性がある。

今月の話題

小児におけるデジタルデバイスの影響

著者: 吉田朋世

ページ範囲:P.1051 - P.1056

 GIGAスクール構想,および新型コロナウイルスの蔓延により,教育機関においてデジタルデバイスの導入が加速化されたことで,小児はよりデジタルデバイスを用いる機会が増えている。本稿では,デジタルデバイスが小児に対し及ぼす影響について述べる。

連載 Clinical Challenge・54

円錐角膜の進行による視力障害

著者: 原雄将

ページ範囲:P.1046 - P.1048

症例

患者:20歳,男性

主訴:左眼の視力低下

現病歴:近医で円錐角膜の診断のもと,経過観察中であった。最近半年の間に明らかな左視力低下の自覚があり,精査加療を目的に日本大学医学部附属病院眼科に紹介され受診となった。紹介元の経過観察では,6か月で角膜の最大屈折力が1.0D以上増加しているとのことであった。普段はハードコンタクトレンズを使用していた。

既往歴:アレルギー性結膜炎

臨床報告

若年者に脈絡膜新生血管を発症したクリスタリン網膜症の例

著者: 林淳子 ,   岡野内俊雄 ,   戸島慎二 ,   野田雄己 ,   永岡卓 ,   越智正登 ,   小野恭子 ,   細川満人

ページ範囲:P.1057 - P.1065

要約 目的:クリスタリン網膜症と考えられた若年者が脈絡膜新生血管(CNV)を発症した報告。

症例:患者は35歳,女性。左眼の視力低下で前医を受診し,左眼の黄斑部網膜下出血に対する精査加療目的で当院を紹介受診となった。視力は右(1.5),左(0.2)で,両眼底ともに黄白色点状沈着物を認め,左眼は黄斑部に網膜下出血を生じていた。光干渉断層計では,両眼の網膜色素上皮上に高反射な沈着物と,脈絡膜中大血管拡張による脈絡膜肥厚を認めた。左眼は,黄斑部の網膜色素上皮上にCNVを疑う高反射所見や漿液性網膜剝離を認めた。眼底自発蛍光では,眼底の黄白色点状沈着物に一致して過蛍光を認め,網膜色素上皮の萎縮部位には低蛍光を認めた。赤外線画像でも同様に両眼に黄白色点状沈着物に相応した高輝度所見を認めた。インドシアニングリーン蛍光造影と光干渉断層血管撮影では,左眼黄斑部にCNVを認めた。家族歴や内服歴はなかった。左眼にCNVを生じたクリスタリン網膜症と診断した。ベバシズマブ硝子体注射を3回行い,左眼視力は(0.2)から(1.2)に改善した。

結論:クリスタリン網膜症にCNVを併発した報告は少なく,その発症機序は解明されていない。本症例では,クリスタリン網膜症による網膜色素上皮の脆弱さに,脈絡膜肥厚に伴う脈絡膜毛細血管板の機能不全による虚血が加わることで,クリスタリン網膜症の発症早期である若年者にCNVが併発した可能性が考えられた。

水晶体再建術併用眼内ドレーン手術(iStent inject® W手術)の術後1年成績

著者: 田中禎規 ,   木住野源一郎 ,   田中裕一朗 ,   小沢忠彦

ページ範囲:P.1067 - P.1071

要約 目的:iStent inject® Wを使用した水晶体再建術併用眼内ドレーン手術(以下,iStent inject W手術)の術後1年成績を報告すること。

対象と方法:広義開放隅角緑内障に対し,iStent inject W手術を施行した34例55眼(75.3±10.2歳,女性30眼)を対象とした。術前,術後1,3,6,9,12か月において,それぞれ眼圧と緑内障点眼スコアを比較した。

結果:眼圧(mmHg)は術前15.9±2.9,術後1か月13.5±2.2,術後3か月13.4±2.3,術後6か月13.6±2.6,術後9か月13.5±2.7,術後12か月13.5±2.7で,術前に比べて全期間で有意に減少した(p<0.05,Dunnettの検定)。緑内障点眼スコアは術前2.2±1.0,術後1か月0.8±1.0,術後3か月0.7±0.8,術後6か月0.7±0.7,術後9か月0.8±0.7,術後12か月0.9±0.8であり,術前に比べて緑内障点眼スコアは有意に減少した(p<0.05,Dunnettの検定)。

結論:iStent inject W手術は,緑内障患者において術後12か月まで眼圧下降が持続し,点眼スコアを減少させた。

今月の表紙

角膜神経腫

著者: 菅野杏 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1049 - P.1049

 症例は20代,女性。主訴は両眼の強い乾燥感と羞明であった。初診時の視力は左右ともに(1.0),眼圧は右9.5mmHg,左9.3mmHgであった。前眼部所見は両眼の点状表層角膜症が認められ,涙液層破壊時間は両眼ともに5秒と短縮していた。他覚所見と比較して自覚症状の訴えが強く,ドライアイ治療用点眼,涙点プラグなど,さまざまな処置を試みたが改善はなく,さらなる原因究明のため生体共焦点顕微鏡検査(コンフォーカル)を施行した。

 撮影にはHeidelberg Retina Tomograph(HRT)Ⅲ(Heidelberg Engineering社)を用いた。ドライアイでは角膜上皮下神経の数や密度が減少したり,ビーズ状形成物が認められたりすることがあると報告されている。今回の症例では,角膜上皮細胞の直下に上皮下神経が写り,その神経から発芽したようにみえるおびただしい数の角膜微小神経腫を認め,珍しい所見が撮影できた。撮影する際,正面視以外ではさまざまな層の細胞が写り込んでしまうため,正面視を維持させながら行った。また,角膜を圧迫してアーチファクトが入らないように,機械との接着面積が最小限となるよう配慮した。

Book Review

臨床経過で診る ぶどう膜炎・網膜炎・強膜炎アトラス

著者: 佐々木香る

ページ範囲:P.1131 - P.1131

 「これほど重症なぶどう膜炎が,こんなにも奇麗に治るのか!」

 まずは,このアトラスから感じた強い感想である。

--------------------

目次

ページ範囲:P.1042 - P.1043

欧文目次

ページ範囲:P.1044 - P.1045

第42回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1050 - P.1050

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1166 - P.1170

アンケート用紙

ページ範囲:P.1174 - P.1174

次号予告

ページ範囲:P.1175 - P.1175

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.1176 - P.1176

 「臨床眼科」9月号の表紙は角膜神経腫の生体共焦点顕微鏡写真です。この写真には生きた細胞の微小な構造がはっきりと写っており,門外漢ではありますが,先端的な撮影機器と,投稿者である北大の菅野杏先生の匠の技術が組み合わさった力作であることは十分に伝わってきます。また,角膜神経腫自体なじみのない病名ですが,写真からは腫瘍組織がかなり分化しているのが見てとれ,そのおかげで一度見たら二度と忘れない特徴的な病理像を呈しています。

 「今月の話題」では,国立成育医療研究センターの吉田朋世先生による「小児におけるデジタルデバイスの影響」を掲載しています。この分野は,特に子供を持つ親の関心が強く,外来中に患者からアドバイスを求められることも多いのではないでしょうか。そのうえにネット上でさまざまな情報が錯綜しているので,専門家が簡潔にレビューしてくれるのはとてもありがたいことです。内容的には,デジタルデバイス使用により生じうる小児特有の問題点や患者の生活に関するアドバイスなどを,挿絵や表を使ってすっきりとまとめてあります。この分野が不得意な先生方でもストレスなく読めるので,一読をお勧めします。「Clinical Challenge」では,日大の原雄将先生が「円錐角膜の進行による視力障害」を寄稿されており,読み応えがあります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?