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臨床実驗
滿州で経験した成人角膜軟化症について
著者: 川崎輝世1
所属機関: 1倉吉厚生病院眼科
ページ範囲:P.507 - P.510
文献購入ページに移動 従来成人角膜軟化症Ceratomalacia adulto-rumは本邦では稀れであるとされ,その具体的な報告例も少い。即ち角膜軟化症は一般に乳幼児眼症として認められているが,一方成人に在つても特殊な場合,例えば衰弱した妊婦,栄養不良,肝疾患等の場合に本症を起し得ることも知られている。唯,今までに成人に於ける本症報告例の少いのは次の理由によるものと思われる。即ち発育の完了した角膜のビタミンA (以下V.Aと略記する)所要量は一般に幼弱なものに比して少い。そのためにV.A欠乏の結果が眼に現われた場合でも角膜乾燥の程度に留まるものが大部分で軟化期まで進行するものは稀れである。亦その先駆する特発夜盲のために医治を受けるものが多く,これも重篤な角膜症状の発生を予防することに役立つている。故に本邦及び比較的文化の進んだ国では,成人に本症を見ることが少いが当然であり,報告されている少数例を見ても軽症のものが多い訳である。然し非文化的な環境に置かれた国或は文化国でも戦時又は被災等の所謂非常時に左つては比較的重篤なものが見られる,ことも稀れではない。
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