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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科9巻10号

1955年10月発行

雑誌目次

図譜

黄斑部疾患図譜(4)

著者: 中村康

ページ範囲:P.1185 - P.1186

解説
黄斑部の血管変状
1)黄斑部は乳頭黄斑血管だけで栄養されるのでなく,此外に上下耳側血管から分岐されて黄斑部に向う血管の吻合に依つて黄斑窩底血管蹄係を造つている。其で私共は中心窩を越えて中心窩底に向う血管を検眼鏡的に認め得るのは,光線反射輪と中心窩底反射との距離の1/4位の処までである。其から中心に向つて迄細血管が見られたら血管の怒張である。
2)健康黄斑部の血管は中心窩底に向つて放射線状に走つているので,之を横ぎつて太い血管のあることはない。然し稀に太い血管が黄斑反射輪内を水平に走りぬけているのが認められる。

連載 眼科図譜・15

進行性老人性繊維様虹彩実質萎縮症について

著者: 野寄達司 ,   神吉和男

ページ範囲:P.1187 - P.1188

左上段:右眼進行性老人性繊維様虹彩実質萎縮症(慢性緑内症)
左中段:右眼生体顕微鏡写真,低倍率

綜説

Aqueous Veinの研究—第3篇 諸種藥剤の房水静脈に及ぼす影響について

著者: 呉基福

ページ範囲:P.1189 - P.1194

緒言
 房水静脈は解剖学的に普通の静毛細血管と異なる所がない。静毛細血管は単層の内皮細胞によつて組成され平滑筋を有しない管腔であつてそれには收縮細胞(Rougetzellen)がなく其の機能的変化は大体動毛細血管によつて支配されたpassive的のものである。しかし静毛細血管はそれ自身の壁性tonusを有しており,これによつて軽度であるが收縮する。高濃度のeserine,acetylcholine,cocaineは静毛細血管壁に直接作用して收縮させ透過性を阻害し,dionine,histamineはやはり,血管壁に直接作用して此れを拡張させ,透過性を増進させるものである。此様に静毛細血管は動毛細血管の様に直接的にVasomotorenの支配を受けていない様であるが静毛細血管の壁性tonusは動毛細血管を支配している。Vasomotorenと反射的のつながりがある様である。しかし確実なる証明はない。(此等の諸問題については拙著臨眼,5巻,10号に詳論しているから参照されたい。)此の静毛細血管と同じ構造と機能を有している房水静脈は諸種藥剤の作用に対してどういう風に影響されるかが本論文の研究内容である。

臨床実験

外傷性漿液性虹彩嚢腫に就いて

著者: 陳昆曉

ページ範囲:P.1195 - P.1196

緒言
 白内障手術後に発生した漿液性虹彩嚢腫は比較的稀な疾患である。著者は検眼鏡及角膜顕微鏡所見から漿液性虹彩嚢腫と診断した一例を茲に報告する。
患者:許○55歳♀

家兎角膜上皮剥離に対するサクロフィールの効果に就いて

著者: 藤永豊

ページ範囲:P.1197 - P.1199

1.緒言
 葉緑素(クロロフイール)は最近創傷治療に新しい分野として,各方面から注目されている様である。葉緑素は植物の葉の中に含まれている緑色色素で,日光を吸收する事に依り,澱粉や糖類を合成する作用を有し,これにa,b 2型があつてa型はMgC55H72N4O5,b型はMgC55H70N4O6の分子式で,a,b両型が葉の中に存在する割合は略々一定で三対一である。葉緑素の中の油性分を鹸化して残つた水容性誘導体である水容性葉緑素をクロロフイリンMgC32H27N4Na3と云い,このものは毒性が極めて少く,抗菌作用,創傷治癒促進作用,その他に体臭,口臭を除く作用がある。しかし水容性葉緑素は日光光線に対して不安定で容易に変化し,治療効果を失うため,マグネシウムを銅で置換することによつて安定化したものをクロロフイリン・ナトリウム銅塩CuC32H27N4O5Na3と名づける。然も治療効果は全く水容性葉緑素と変りがなく,含有されている銅の量は,治療量ではその毒性は全く認められない。
 私はクロロフイリン・ナトリウム銅塩の製剤であるサクロフィール(以下「サ」と略す)の溶液及び軟膏を使用して,家兎角膜上皮剥雑の治癒に及ぼす影響を実験的に観察したので報告する。

緑内障手術の遠隔成績—(2)術後長年月に亘りて使用に耐える視力を保持し得たる症例及びその小統計

著者: 藤野貞 ,   山口哲二

ページ範囲:P.1200 - P.1209

 緑内障の予後は一般に甚だ悪いと言われている。事実あらゆる努力も空しく次第に視力を喪失することは我々のしばしば経験するところであり,文献を通覧してみても楽観論は到つて少なく,寧ろ予後は不良であると厳しく烙印を押しているものが少くない。
 悲観論として卑近な例を挙げれば,昨年本誌に発表された魵沢氏の論文がある。氏は単性緑内障は手術の施否に拘らず4年以後には殆ど失明すると述べている。これと類似の報告が内外に幾つか数えられるが,その二,三を挙げれば,Wygo-dskiは同じく単性緑内障104例に虹彩切除を行い,悪化又は失明88%,不変10%で,良好は僅か1%以下といい,Schurhoffは各種緑内障に虹彩切除を行い,Dauernd gute Wirkungは111例中2例,Mellerは毛様体剥離を行つてDauernd gutは42例中1例,と言うが如くである。以上は予後特に不良とされている単性型が主であり,鬱血型では左程でもないのであるが,斯様な記録を見ていると緑内障の予後は殆ど絶望の如くにも感じられる。

金属鉱山に於ける眼炎害統計

著者: 川井健二

ページ範囲:P.1209 - P.1216

序論
 本邦の産業部門に於ける眼災害の統計は,既に多数の報告がある。即ち従来より,各種工場,炭坑,運輸関係,農業等各方面の文献が見られてきた。而し之等の統計も戦後に於ては甚だ少い様である。最近,属氏は,この点に着目されて,製鉄工場の眼公傷について精細な統計観察を報告された。氏の言及された如く,1947年労働基準法に伴う労働安全衛生規則の施行以来,労働災害は著るしく減少を来しつつある様である。
 私は最近,一金属鉱山従業員の眼災害を診療する機会を得たので,その統計的観察を試み度いと思うが,由来,金属鉱山に関する災害統計は,極めて少く,戦前に僅か田村氏の報告(昭8)がある他は,戦後に於ても見当らない。従つて,この機会に最近の金属鉱山眼災害の実態を観察し,同時に,戦前のものとして先述の田村氏の報告と,更に坑内作業として略々同様の労働条件下にある炭坑の場合の,杉本氏の報告(昭11)と共に,比較検討し度いと思う次第である。

眼科的諸種疼痛に対するアミノプロピロン製剤の鎭痛作用

著者: 伊佐敷康政 ,   井後吉久

ページ範囲:P.1216 - P.1218

 種々の眼疾によつて起る疼痛は視力障碍と共に眼科に於て大きな主訴の一つであり夫々その疾病の種類程度或は個人差等によつてその現われ方は色々である。且つそれによつてその病気の診断治療予後等が考慮されるので一藥剤の鎮痛作用等に就て一概には論じ難い。然し出来る丈速かに患者の苦痛を和らげるために古くから種々の方法が試みられている。
 偶々私共は本年3月7日32歳の男子の左眼に著明な眼窩神経痛(三叉神経第一,第二枝共)を認めイルガピリン5c.c.を臀筋内に注射した処注射後数時間で全く疼痛は去り再発も認めずこれ迄の報告のように相当の効果を認めたのでこの種製剤の使用に興昧を持つていた。

進行性老人性繊維樣虹彩実質萎縮症(口絵参照)(Iridoschisisについて)

著者: 野寄達司 ,   神吉和男

ページ範囲:P.1219 - P.1221

緒言
 進行性老人性繊維様虹彩実質萎縮症は特異で,しかも極めて稀な疾患である。1922年に初めてSchmittが特殊な病変として報告して以来,現在に至る迄欧米でも僅かに13例の報告を数えるに過ぎない。我国においては未だ本症の報告例が1例もなく,従つて紹介されていない。
 本症は老年期に好発し,両眼虹彩の下方1/4に特異な虹彩実質の萎縮性変化をおこすものであつて,その状態はあたかも虹彩実質層が鼠にかまれた後の様に分裂し,繊維様の萎縮を生じている様にみえる。

眼科領域に於ける筋注用ペントバルビタール・ナトリウムの使用経験

著者: 臼井都夫 ,   米村大藏

ページ範囲:P.1223 - P.1226

 我が国に於ける眼科手術の補助麻酔,殊に前麻酔(Premedication)には,アトロピン剤,スコポラミン剤,モルフイン剤,バルビタール剤,コデイン等色々な種類の藥剤が使われて来たが,之等の藥剤の或るものは副作用が強く,術中の操作に却つて障碍を与えたり,術後不快な現象を残したりする。此の様な事実から,眼科手術に対する補助麻酔と云う事に対しては,比較的考慮が払われていないようである。
 従来から,医師は,眼科手術は簡単にするという印象の故に,局所麻酔のみに頼る習慣があり,殊に外来での手術にはその傾向が強いようであつて,眼の手術を恐しいものだと考えている多くの患者には大きな不安を与えているようである。又此の様な事は,現在までに適当な補助麻酔剤が現われなかつたせいかも知れない。何れにせよ,実際に前麻酔を行つて患者の手術に対する不安を除き,精神的安静を保持する事が出来れば,局所麻酔や全身麻酔も完全に遂行出来,患者は何の苦痛もなく手術を受けられ,術者も又,容易に手術を行う事が出来て,術中,患者が安静を欠くことによつて起る偶発事故を防止する事が出来,手術をより効果的に行う事が出来る。

皮膚疾患に関係あると思われる重篤な僞膜性結膜災に就いて

著者: 林皜

ページ範囲:P.1226 - P.1230

緒言
 偽膜性結膜炎は日常屡々見られ珍しいものでないが,私は最近病原微生物に因ると思われない一種の偽膜性結膜炎に遭遇した。その後特有な結膜所見を観察し,本例が或る種の皮膚疾患に於て結膜のみに限局して発病した病型であろうと考え,本疾患の究明を行い茲に之を報告する次第である。

二重眼瞼手術経験に就いて

著者: 坂井真一

ページ範囲:P.1232 - P.1233

 従来重瞼術,所謂二重瞼手術の術式に就ては,美甘氏並に畑氏の方法或いは更事に三井氏の方法等が挙げられて居る。
 最近私も重瞼術の手術を所望され,僅か12例ではあるが,高野安雄氏(日眼第54巻附録庄司教授還暦祝賀記念論文集)の術式を追試した。

四世代に現われたる白内障の一家系

著者: 坂井真一

ページ範囲:P.1233 - P.1234

 先天性白内障に関してはGrenouw氏を始め,国田,川上諸氏等に依つて,詳細なる報告がされて居る。私も四世代に亘つて現われた,白内障の一家系を観察したので追加報告する。

大竹市在住広島原爆被災者の検診成績

著者: 前谷満寿

ページ範囲:P.1235 - P.1239

 広島原爆被災満9ヵ年後,大竹市に於て,在住被爆者の後遺症を当大学が調査した際,その一部門として80名について眼科学的検査を行い,以下の成績を得た。

銀海餘滴

第9回臨床眼科学会

ページ範囲:P.1208 - P.1023

トラコーマシンポジウム次第
講演申込者(ABC順)
1題15分間宛
1.青木平八君(群馬)

臨床講義

トルコ鞍内腫瘍

著者: 井街讓

ページ範囲:P.1240 - P.1244

 患者:24歳 男 岡山県人
 主訴:視力障碍,特に外方が見えない。

私の経験

表層角膜炎の治療法

著者: 池田一三

ページ範囲:P.1245 - P.1248

1.表層角膜炎の定義と分類
 角膜炎にはいろいろの分類法があつて一定しないが,ここでは表層角膜炎とは,上皮層より固有層の比較的浅い層に炎症の存在するものをさすことにし,便宜上中村康教授(臨床眼科学)の分類に従い,次の各疾患について述べる。

眼科手術

著者: 佐伯靜男

ページ範囲:P.1249 - P.1251

 手術は外科の生命である。その巧拙は直ちに患者の生命に関する。而して患者は万己むを得ず異常な決心を以て自体を医師に委ね医師は一刀以て病巣を剔出し之を救わんと欲し勇断事に当る。而も病者は真劍であるから医師は一層真劍でなければならぬ。決して虚言を弄してはならない。充分勉強してあれば予後経過は考えた通りのものである。眼科の手術は内眼に於てはalles oder nichtsで失明か開眼であり失明させたならば患者は一生涯死よりも大なる苦痛を感ぜなくてはならない。失明すると云われて自殺した人もあるのは周知の通りである。依つて眼科医は慎重に「インヂカチオン」を考えて万全の準備を整え菩薩の心を保ち鬼手を以て手術し決して失敗してはならない。前回迄の手術を省み今回の手術に対して考慮工夫することである。如何に手術すべきや。次に自己の考を述べ参考に供したい。

談話室

日本初代眼科教授梅錦之亟先生(肖像写真三葉)

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.1255 - P.1258

 来る昭和31年4月1日には日本眼科学会60週年記念式典が開催されて数々の催がある。
 その内筆者は日本眼科の古書の展示即日本眼科の進歩の足跡を展示する係を命ぜられているので従つて出来る限り数々の事項の取調を行つて居る。その中不思議の事に梅先生の事は今迄あまり充分に調査されていない。かかる我国眼科にとつて大切な人の事蹟が充分開明されていないのは残念であり又我等梅先生の後輩として同学のものの責任としても梅先生の事を出来るだけ開明したいと願つて取調を行つた。

第17回国際眼科学会見聞記〔Ⅰ〕—ワシントンにて

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.1259 - P.1262

 日本から多くの演題が提出されて,多くの方々が参会されたので,それぞれの観点から見たこと感じたことを報告されることだろうから,私は学会の大体について簡単に述べてみよう。
 9月7日ニユーヨークのペンシルヴアニア駅を夜11時に出発して,翌朝々霧が立ちこんだモントリオール中央驛に到着した。セントローレンス河を一千哩さかのぼつた地にある島の上に建設されたモントリオール市は,カナダ第一の大都市で,人口百十五万を擁している。住民の多くはフランス人で,フランス語を日用語とし,小パリーの異名があり,黒人が非常に少い。ワシントンはまだ残暑が烈しかつたのに,当地は秋も酣て肌寒きを覚える。福岡に居たことのあるLebeque神父に迎えられて市内見物をなす。新市街の一部に日本の文化住宅を思わせるような,日本趣昧をとり入れた。広い硝子戸の家が立ち並んでいるのを見て,久方振りに日本に帰つたような錯覚を感じた。

日本トラホーム予防協会会誌

W.H.O国際トラコーマ專門委員会報告

著者: 中村康

ページ範囲:P.1265 - P.1270

1)私の国際トラコーマ專門委員会に出席する経緯
 私が此会に出席する事になつた事情を簡単に述べて置く。此の国際トラコーマ委員会がW.H.Oの中に設立された経緯について私は明らかでないが,戦後日本から其委員を一人選出することになつて当時フアイザー会杜の依頼でテラマイシンの日本のトラコーマに対する治療効果を報告し,且つ石原教授の下でトラコーマの研究をした事のある三井幸彦博士が田宮,庄司教授等の推薦で前回のトラコーマ專門委員会に出席したのであつた。今回は日本からの推薦がなく,先方から直接に私を名指し参り,一方は直接に他方は厚生省を通し,專門委員に推薦任命して来たのであつた。
 惟ふに昨年Nataf博士が日本を訪問した折に私のトラコーマ病理写真2000枚以上のものを熱海で見せ又第17回国際眼科学会の折は田中千枝博士に急性トラコーマと診断する患者を見せてもらい,其の実際を胸に入れ,次で世界一週の途次サンフランシスコでThygeson博士と,伊太利でBietti教授と,更にW.H.Oのトラコーマ関係者と私が持参したトラコーマ写真を中心に,私のトラコーマ研究の成果を数時間かゝつて話しあつた結果,此等の人々が推薦したものであろう。

トラコーマの診療に関する二三の問題—東京眼科講習会講演内容(昭30.6.5)

著者: 青木平八

ページ範囲:P.1271 - P.1279

〔Ⅰ〕まえがき
 トラコーマ(以下トと略す)問題は,眼科学の中で最も旧い問題であると同時に,また最も新しい問題であるということができよう。最近における抗生物質の驚異的な発展普及に伴い,トの治療には一大革命がもたらされたが,病原問題をはじめ病理発生,診断,分類などの点では,諸家の研究によりかなりの線は出ていると思われるにも拘らず,未だに何人をも首肯せしめるに足る最後的の解決に到達していない。近年トそれ自身が次第に軽症化する傾向がある上に,抗生物質の普及によつて定型的なトの臨牀像が著しく曲げられ,非定型的な症状を呈するものがますます増加しつつある。これがために日常診療に当つて私共はトの診断に一層困惑させられる結果となり,恐らく数十年の後には我国のトはほとんど消滅するであろうと推測される今日においても,ト診断基準の確立或はト分類の統一などが新しい問題として各方面から要望されている。
 以上の如くト問題は,多くの然も極めて難しい問題を妊んでいるが,その二三の点について少しく卑見を申述べたいと思う。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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