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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学1巻2号

1949年08月発行

雑誌目次

巻頭

基礎と臨床との二人三脚

著者: 小林芳人

ページ範囲:P.64 - P.64

 醫學の持つ二つの分野即ち基礎と臨床とはこれを各々獨立したものと見ないことが自分の信條である。理念としては區別しない方が可いとさへ考へる。一人の人がこの兩方に通曉しその實際に練達して居たとすればこれは醫學の研究體系としては理想的のものであろう。しかしこれは申す迄も無く不可能である。今日醫學が基礎及び臨床共に幾つかの專門科目に分れて居りその中の一つに精通することさえ一生を費しても容易の事では無いからに他ならない。醫學の終局の研究對象たる疾患の診斷,治療及び豫防等に關し色々の面と角度から研究が行はれるが,基礎醫學の立場としては動物實驗がその最も主なる研究手段であって臨床醫學の樣に異常機能の發現下にある。即ち疾患を持つ或は異常の環境下にある生活體としての人體を直接に研究對象とすることは無い。基礎と臨床とはこゝに一つの線が引かれる。吾々は動物實驗を行った場合は其實驗成績即ちその形態的機能的變化に基づいて判斷した所を以てこれが人體の場合に於ける諸現象を説明する基礎的根據となるものと一應考へるのであるが,ここに問題は動物を以っての實驗觀察が人體の場合と同一條件で行はれたと見做し得るか否かにある。これには色々の場合があり得るであろう。

論述

貯藏蛋白と固定蛋白

著者: 吉村壽人

ページ範囲:P.65 - P.68

(1)緒論
 生體細胞がその生命を維持する爲には必ず原形質に一定の消耗が表れるからこの消耗を補ふ爲には原形質の主成分たる蛋白を絶えず補給してやらねばならぬ。而して成長する組織に於ては更に多くの蛋白を補給して原形質を新に作つて行かねばならぬ。これが我々が一般に持つてゐる蛋白代謝の基礎概念である。この考へ方よりすれば細胞の生理機能或は廣く一般の生體機能は蛋白代謝と密接な關係があり一方が變れば他方もそれに伴つて變る筈であるが,この結びつきはどの樣になつてゐるのであろうか。これを明かにせんとするのが我等の研究の目標である。所で生體が蛋白を攝取した場合にはこれは消化せられて,アミノ酸に分解せられ吸收せられこれを體内諸臟器の蛋白に再合成するのであつて,この間の經過は複雜であるが爲に蛋白代謝と生理機能の結びつきも一朝一夕に解決のつく問題ではない。例へば生體が一日にとらねばならぬ蛋白の最低値を蛋白必需量と稱し,從來これは攝取する蛋白の窒素量と體内より尿其他に排泄せられる窒素量の量的なバランス(窒素出納)を調べて決定せられてゐる。併しそれは單に生體と外界との窒素出納の平衡を保つに必要な蛋白量であるかも知れないが,この場合生體内でどんな變化がおこつてゐるかをよく調べそれが生體の健康保持に支障のないものであるか否かを見究めない以上直ちにそれを健康を保つに必要な蛋白量とは言ひ切れない(吉村参照)。

汗腺排泄管の細胞學的研究—1.腺管と排泄管との移行部の研究特にそのアポクリン性分泌に就て

著者: 伊東俊夫 ,   圓乘幸

ページ範囲:P.69 - P.73

 Ⅰ 緒言
 汗腺の排泄管(汗管)は極めて長く迂曲して走る。これを起始部Anfangstück,中部mittelstück及び終末部Endstückの3部に分つ。起始部は腺體内を迂曲して走り中部は腺體から出て眞皮内を迂曲しつゝ上行し終末部は表皮内と同じく迂曲しつゝ上行して皮膚面へ汗口を以つて開口する。排泄管が汗腺の機能に重要な關係を持つことは言ふまでもない。例えば腺管に於ける分泌機能が旺盛な場合でも排泄管が細ければ汗の單位時間に於ける排泄量は少ない理である。又排泄管の1部に擴大部があつて貯藏管として汗の流出を調節することもある(高木・原田)。又排泄管が分岐するや否やも重要な問題である(Horn,Aurell等),それは若し分岐して2口を以て開口する時は1方よりは常に汗の排出なき場合が想像されかくて久野,緒方,高木,堀等の所謂不能汗腺の存在を僞瞞するからである。更に1部の學者は排泄管上皮の分泌を考へて居る。HoepkeはMöllendorffs Handbuchに於いて汗腺排泄の起始部は時に分泌機能を持つと思はれる上皮細胞によつて圍まれていると記載した。又中部上皮細胞が分泌能力を有する可能性ありとするUnnaの見解を引用した。高木・堀は猫足底に於て無腺體汗腺より汗の排出を認め排泄管の分泌を想像し,更に表皮細胞間隙の組織液が終末部へ流入し液に加はることを考へた。

副腎皮質ホルモンの生物學的檢定其の檢定目標に就て

著者: 中尾健 ,   松葉三千夫

ページ範囲:P.73 - P.81

 副腎皮質機能が複雜名岐に亙るものである事は此のホルモンの生物學的檢定法の確立に對して大きな障害となつた。
 最近各Cortieosteroidの生物學的作用の比較によつて,副腎皮質機能を大別し糖代謝に關與する部分と腎機能主として鹽類代謝に與る部分とが區別された。故にCortinactionを有する物質の生物學的檢定に於て,兩者の機能を代表する檢定法を併せ行はねばならぬ事が主張されて居る(1)而してKendall(1942)は前者を代表する檢定法として所謂"glycogen test"を紹介し,此の檢定法の追試者達(2)(3)は此の法を更に鋭敏化して居る現状である。然し腎機能に關與する部分を代表する檢定法としては前者の場合程鋭敏且特異的な檢定法は未だ解つて居ない。

展望

Insulinの生理作用

著者: 島薗順雄

ページ範囲:P.82 - P.85

 1.糖尿病とInsulin
 糖尿病の病理に關する實驗的研究は,von Mering,Minkowski(1889)に依り犬の膵臟・剔出に依つて糖尿を起すことが發見せられて以來,多數の研究が行われたが,臟器からホルモンの濃厚なエキスを得ることに成功したのは其後32年を經たBanting,Best(1921)の業績である。Insulinの名は既に1909年J. de Meyerに依つて用いられていたが,Banting,Bestの研究以後是を純粹にとり出すため多數の研究者の努力が拂われ,1926年にはAbelが是を結晶として精製することに成功した。Insulinは膵臟のLangerhans島のβ-細胞の生産物と考えられ,その結晶はCystine,Tyrosine等10種以上のアミノ酸から成る蛋白質で,分子量35,000,S含有量3.2%である。SはS-S結合をなし,これが生理作用と密接に關係し,又含有アミノ酸中のTyrosineも生理作用に重要な關係を持つている。膵臟からとり出された結晶は0.6〜0.15%のZnを含有して居り,Scott(1939)はInsulinがZn(又はCd,Co,Ni)の鹽として結晶することを認めた。

微量蛋白質の檢出法TBP反應とPyrogen

著者: 浦口健二

ページ範囲:P.86 - P.89

 Ⅰ 所謂パイロジエン
 生體に對して發熱性を示す藥物乃至毒物を一わたり點檢してみると,1)生體内の藥理學的又は中毒學的作用機轉が比較的よく判明しているものは,2,3の例外を除けば,殆ど全部が化學構造の複雜なもので,アルカロイドでない場合でもアミノ基・ニトロ基乃至窒素を含有することが特徴である。これに較べて構造の簡單な無機系統のものになると,勿論それ自體の中に窒素を含まなくなるが,この場合發熱の作用機轉はむしろ明瞭さを缺き,多くの重金屬や硫黄など,屡々コロイド的性状をとらえて血液や組織・細胞の蛋白との關聯に於て云わば二次的に説明をつけている。更に發熱機轉の漠然としているのは,臨床的にも屡々問題になる蛋白質並にその分解産物の注射,バクテリアの生菌・ワクチン類乃至所謂菌毒素による發熱の場合である。ところで實際的に屡々問題になるのは種々の醫藥の静脈内注射に際して豫期しない副作用として發熱や悪寒戰慄が來ることである。この場合の發熱機轉は殆ど憶測の域を脱していない。注射液のpHやアンプレのガラスの成分,ゴム管の融解物,注射器の取扱い方等もよく云々されるが從來の結果は大體否定的である。

科學隨想

自發的興奮の話から—宿命について

著者: 若林生

ページ範囲:P.89 - P.90

 ○○談話會で腦波の研究家たちの"自發的興奮"の話があつた後でOさんが質問ともつかず次のように尋ねた。
 "一體われわれがものをしようとする時,何かその原因になるものがあるとお考へですか?"

研究報告

運動による2,3血液及尿中の變化—Ⅰ.乳酸及び焦性ブドウ酸の變比

著者: 茂手木皓喜

ページ範囲:P.91 - P.93

 1.緒言
 運動時の血液及び尿所見については報告が少くないが,運動にともなう諸成分の相互關係を時間的に究してその變化の意義を把握しようとする研究は比較的少い。しかもこれ等の少數の報告の間にも一貫性がなくその結論も一致していない。これは運動の強度,種類,食餌の影響等の種々の因子の相違によるのであつて,筋勞作の實態を知るにはその時の諸條件を充分檢討しなければならない。
 余は血液及尿について種々の成分の運動時の消長を實驗したがここには記録及び焦性葡萄酸の變化を報告する。採血採尿はなるべく頻回に行い,採血は5〜20分毎,採尿は10〜20分毎に行つて,各成分の一過性の變化が明瞭にみられるやうにした。

血小板及び血液凝固機構に關する電子顯微鏡的研究

著者: 脇坂行一 ,   東昇

ページ範囲:P.93 - P.97

 Ⅰ.緒言
 近時發達した電子顯微鏡は從來の光學顯微鏡を遙に凌ぐ優れた分解能を以て細菌學,生物學,コロイド化學,金屬組織學,繊維工學等の分野に幾多の新知見を齎しつゝあるが,之が血液學方面への應用は未だ少く,僅にWolpers und Ruska1)(1939)の血小板及び繊維素に關する研究,Ruska und Wolpers2)(1940);Schmitt and Hobson3)等の腦脊髄液中の繊維に關する研究,Jung4)(1942);Wolpers5)(1942);Jung und Asen6)(1944)等の赤血球に關する研究,Hawn and Porter7)(1947)の牛の繊維素に關する研究等があるに過ぎない。茲に於て我々は電子顯微鏡による血液學的研究を企て,先づその第一歩として血液凝固に關係ある血小板及び繊維素の觀察を試みた。

ラツテの尿及び糞中のAlkyl-resorcinの定量の檢索と其實驗成績とに就いて

著者: 大橋茂 ,   伊藤隆太 ,   竹内節彌

ページ範囲:P.97 - P.101

 Alkyl-resorcin(以下A. R. と略記)の定量3)4)5)のうち現在の我國で最も簡單に應用出來るのはB. H. Robbins1)のResorcin呈色反應による方法であるが此れを其のまゝ應用しても動物の違ひ,糞尿の性状の差から正確な結果は期待できない。私等はラツテ體内に於けるA. R. の運命を檢べるに當つて改良した點,氣の付いた個所を述べてみる。

小麥藁の有効成分に就て—第1報

著者: 柴田勝博 ,   酒井一喜

ページ範囲:P.101 - P.104

 まへがき
 周知の如く數年來蛔蟲は都市農村を通じて全國的に蔓延して居るが,國民の保健上誠に寒心に耐えない次第である。之が驅除藥としては從來專らサントニン及び海人草が用ひられて居たのであるが,今日では何れも入手がなかなか困難である。終戰後我國に輸入せられ一躍斯界の寵兒となつたヘキシールレゾルシノールは頗る有効であるがかなり強い副作用があるので理想的なものとは云へない。殊に小兒にはその應用は困難である。凡そ驅蟲藥としては原料が豊富にあること及び副作用のない事が重要な條件である。今日我國に於て此の二つの條件を滿足させるものを求めるならば第一に小麥藁(以下單に麥藁と記す)を擧げる事が出來る。
 麥藁は既に漢方で用ひて居り,又我國に於ても以前から民間藥として用ひて居た地方もあつた様であるが,齋藤氏(1)の報告以來特に注目を惹き其後服部(2)小島(3)三浦(4)等の諸氏も有効である事を報告して居る。我々も約2000名の小學兒童に就て試みた結果上記諸氏と略同樣の成績を得た。申す迄もなく麥藁は全國到る處に豊富にあつて容易に入手し得ると共に,副作用の少いことは凡ての報告者の一致する所である。

血壓調節神經に於ける活動電流

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.104 - P.107

 Ⅰ
 1866年Ludwig u.Cyonは兎の心臟及び大動脉からの求心性繊維が迷走神經の枝に含まれ,この中樞端を刺激すると心臟搏動數の減少及び血壓降下を起すことを發見した。此れが減壓神經(大動脉神經)である。此の神經は大動脉弓より發して兎では頸部の迷走神經と交感神經の間を走つて,上喉頭神經と迷走神經の分岐部に入り,延髓に至る。他の哺乳動物では迷走神經中に含まれて獨立した神經を成してゐない。一方,内頸動脉の起始部に頸動脉洞といふ擴りがおこることは解剖學者により古くから記載されてゐたが,此の機能に就いてはE.H.Heringが1924年,減壓神經と同じく血壓反射をなす頸洞脉洞神經の起始部であることを報告するまでは全く不明であつた。
 此等の神經の中樞端を刺激すると,(ⅰ)心臟搏動數の減少及び血壓降下,(ⅱ)血管收縮中樞の制止及び同時に内臓血管の擴張,(ⅲ)血管擴張,中樞の活動の促進,從つて皮膚,唾液腺,骨骼筋の血管擴張を來す。即ち此等の神經は大動脉弓及び頸動脉洞の血壓上昇により刺激せられて,血壓の降下を來す如き反射の求心性經路をなすので,血壓調節神經(Blutdruckzügler)又は血壓受容神經(pressoreceptor nerve)と總稱せられてゐる。

電氣刺激によるバビンスキー反射に就いて

著者: 山本宗三 ,   眞島英信 ,   藤崎喬久

ページ範囲:P.107 - P.110

 バビンスキー反射(以下バ反射と略記)は1896年Babinskiが初めて記載したもので,足蹠刺激の際栂趾の背面伸展及趾全部の開扇現象(外偏向)等が病的に現はれる反射であることはよく知られてゐるが,此反射が錐體路障碍に伴ふことが指摘されて以來神經病學上最も重要な反射の一つとして現今尚臨床家に依つて日常診斷に用ひられてゐる反射である。從つてこの反射に對しては驚く程多數の精細な觀察が行はれた(1)のであるが既に50年を經過したにも拘らず實驗的研究は殆ど見るべきものがない。(2)それは刺激として擦過といふ樣な機械刺戟を用ひてゐるために反射諸量の測定は勿論の事刺激の調節も困難であつたといふ理由によるものであらう。我々はこの困難を電氣刺激を用ひることによつて克服し,この反射に關する實驗的研究を行つた結果,從來の觀察によつて豫想されてゐた諸事實を證明し定量化することに成功した。更にバ反射の中樞及本態に關する實驗を行ふことが出來た。
 電氣刺激の方法は電源に電燈線をそのまゝ用ひスライダツクによつて適當な電壓として刺激部位に導いた。刺激部位は通常臨床で擦過する部分であるがこれを挿む樣に2極共に足蹠に置かねばならない。電極は2cm×0.8cmの銀板又は直經1cmの銀板をガーゼで包み飽和食鹽水に浸して用ひた。前處置として足を温湯でよく洗ひ足蹠は沃丁かキシロール等を塗布して皮膚の抵抗を成るべく小さくしておく。

談話

ウィールス學の現況

著者: 川喜田愛郞

ページ範囲:P.111 - P.115

 病原細菌學の中心問題が感染の病理學にあることを人が認めるならば,その姉妹科學としてはじまつたウィールス學が,同じく感染現象をその研究の出發點としてもつたことによつて強く病理學的な色彩を帯びていた理由はこれを理解するに難くないはずである。だがウィールスの科學は今日では病理學の領域から大きくはみ出して,生物學の根本問題と絡み合うかずかずの問題を提起しつつあるようにみえる。その發展のすじみちを辿り,今日におけるウィールス學の主要な問題の所在を指摘し,できるならば若干の天氣豫報を試みたい,というのが本講演の主旨である。
 新らしいウィールス學がタバコのモザイク病のウィールスに關するStanley(1935)の業績にはじまることは概ね誰も異存のないところである。

實驗室より

オツシログラフの觀察裝置

著者: 若林勳

ページ範囲:P.116 - P.116

 シーメンスのオツシログラフでは廻轉鏡が多角形になつてゐて,過渡的な現象でも洩れなくよく見えるが,私の使用してゐる本邦製のオツシログラフでは四角鏡である故,刺激を與へて活動電流を見るやうな時,都合よく鏡で反射して見える確率は可成小さい。何度も刺激をやり直して,その内一回位現象が見えるといふ始末なので,私は圖の樣な廻轉面を作つて多年便益を得てゐる。
 曲面は,厚い木を糸鋸で,二重にしたアルキメデスの螺旋形にくりぬき,曲面を平滑にしてから之を鋸で二枚に割り,二枚の螺旋板の間に適當な柱を入れて固定し,螺旋面にはオツシログラフ用のブロマイドの白い紙面を外にして巻きつけ糊で木にはりつける。この中心に金屬の軸を入れ,圖の樣な木箱に挿入する。軸の外に出た部はオツシログラフのドラムに於けると同樣にして廻せばよい。振動子から反射した光は圓柱レンズで集められこの白い廻轉面上にあたるから,その上に現象の曲線が描かれる。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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