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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学1巻3号

1949年10月発行

雑誌目次

卷頭

生命の科學者の使命

著者: 兒玉桂三

ページ範囲:P.120 - P.120

 牝鶏が卵をたくさん産むように,乳牛がミルクをたくさん分泌するように飼料の質と量とにあらゆる科學的検討を加え,改良に改良を重ね着々と實施している人間がさて自分のあらゆる活動の基調である健康の土臺となる榮養に關しては無關心であるのは一體どうしたことであらうか。例えばビタミンB1が特に日本人の榮養には極めて重要であること,玄米の持つているB1を度外視しては容易に必要量(1日1mg)の補給が困難であることが判つていても矢張り白米黨が横行している。9月21日朝日新聞の天聲人語氏も政府が黒い米の配給をやつている非をならし,味覺の滿足のために主婦の家庭にて再度搗精の面倒を省くためによろしく白米を配給すべしと主張している。世道人心のリーダーをもつて任ずる論説氏が榮養に對してこの程度の常識を持つているのだから洵に心細い限りである。と云つて私は玄米論者ではない又彼の云う御用榮養學者でもない。然し糠の附いた黒い米(3-7分搗)は味が少しくらいまずくつても攝取すべしと主張するものである。アメリカでは精白小麥粉にB1を加え所謂enriched flo urとして使用する事に州法律できめているところさえあるがそんな贅澤な眞似は我々には出來ない,又する必要もない。有名な榮養學者McCo llumも黒パンで結構だと云つている。
 いつたい我々が毎日アクセクと働いているのは何のためか。民主主義の原則である最大多數の最大幸福を實現するためと考えるであらう。

論述

抗ヒスタミン劑に關する研究(第1報)

著者: 中村敬三 ,   木村義民 ,   根岸淸 ,   坂本行男

ページ範囲:P.121 - P.125

 緒言
 1942年フランスのHalpern1)がAnterganなる抗ヒスタミン劑を創製し,強力な抗ヒスタミン作用と同時に抗アナフィラキシー作用のあることを發表して以來,特にフランス,アメリカに於て抗ヒスタミン劑の研究2)が活溌に行われて來た。また我國に於ても種々の抗ヒスタミン劑が最近創製されるに及んで,アレルギー性疾患の豫防,治療上の問題を含めて特にこの方面の研究は醫學各分野に於て盛んになつて來たように見受けられる。そしてこれが實驗上アナフィラキシーショックに對して有効であり,臨床上ではアレルギー性諸疾患に用いて多大の効果がある旨が報告されたので,アナフィラキシー惹いてはアレルギーの本態をヒスタミンなりとする説に對して甚だ有利な一新事實であるかの感を抱かせたのである。然し乍ら今日迄の海外に於ける抗ヒスタミン劑に關する實驗成績並に研究方法を詳細に檢討してみると,2,3の大きな疑問の個所がないとは言えない。先ずそれ等の點を結論的に述べておくと,
 第一には,抗ヒスタミン劑が強力な抗ヒスタミン作用を有するにも拘らず,抗アナフィラキシー作用は決してこれに並行する程強いものではないこと。換言すれば種々の抗ヒスタミン劑の比較試驗の結果を綜合すると最新の抗ヒスタミン劑の抗ヒスタミン作用は著しく増大したにも拘らず抗アナフィラキシー性には左程の優劣はなく,また臨床試驗にも必ずしも著しい差異は認められないということである。

冷血動物心臟の新陳代謝測定装置

著者: 橋本虎之 ,   額田煜

ページ範囲:P.126 - P.129

 Ⅰ 序
 心臟の物質代謝に關する研究は1912年London大學Starlingの教室からKnolton及Starling1),Evans2)等の發表があつて以來約20年間に主に同教室及その門下の間で續けられ,此の方面の生理學生化學領域にめざましい業績を殘すに至つた。この研究過程に温血動物の心肺標本3)人工肺による心臟標本4)冷血動物心臟の代謝測定装置5)が次々と考案され──是等の業績は既に成書になつて居る6)7)──その後の研究方法も是等に大體準じて居る。その間一般新陳代謝に關する研究成果が,此の方面にも取り上げられて今日に至つた。挽近糖質,脂質,蛋白質の代謝に關する新しい知見も増加して行き,研究方法も新しくなつて來たので吾々は是等の成果を取入れながら心臟機能を機械的動作と電氣的現象と新陳代謝状況とを出來るだけ綜合的に觀察し度いと思つて研究を開始した。この様な研究は裝置そのものに依存する事が多いが色々苦心した擧句どうやら滿足の行く裝置が出來たので紹介しようと思ふ。

展望

ヴィールスと遺傳子

著者: 守山英雄

ページ範囲:P.130 - P.135

 1.
 最近生物學の問題で最も活溌な動きを見せ魅力にとんだ展開をとげつゝあるものゝ中に,少くともヴィールスと遺傳子の問題があると云つても云い過ぎではなかろう。ヴィールスは電子顯微鏡の美しい寫眞の中にそのさまざまな姿をあらわしているが,一方遺傳子もつい近頃おなじく電子顯微鏡でその正體がつかまれたという話が傳わつている。
 周知の様にヴィールスとは濾過性病原體とも云われ普通の細菌よりも小さく素焼きの濾過器を通過し得る一群の病原體のことであり,遺傅子とは細胞核中に存在してその生物の遺傳形質を決定支配する因子をいうのである。かような説明からではその間に密接な關係があるなどゝは到底考えられないが,既に今より20年以上も前にMuller,1)Bail2)などはヴィールスは遊離している遺傳子と見なすべきであるという大膽な且すばらしい意見を發表している。私3)も研究對象としてはじめてヴィールスと取り組み出した十數年前からその類似點に異常の關心をよせるようになつていた。ヴィールスをはじめて結晶として分離したことによつて有名なStanley4)も近頃その兩者の深い關連につき論じているようである。

談話

第8回生機學談話會講演

ページ範囲:P.136 - P.139

 昭和23年12月10日,東大醫學部講堂で開かれた生機學談話會は,水島三一郎博士にお願いして,氏の蛋白質研究を中心に「生物學と物理學との境界問題」と題して2時間に互り興味深いお話を拜聴することが出來た。その際の要旨を本誌に掲載したく,博士にお願いした處,研究中御多忙のためいたゞくことが出來なかつた。そこで止むなく,談話會の同人が筆記したメモを要約して,こゝにのせることにした。從つて水島博士の講演ではあるが,内容に誤りや不當な個所があつたとすればそれはすべて筆記者の責任である。水島博士の眞意を十分お傳え出來ないことを御諒承願いたい。

研究報告

腦下垂體に於ける微細血管分布

著者: 小川義雄 ,   佐藤保信

ページ範囲:P.140 - P.142

 Ⅰ.緒言
 腦下垂體の血行に關しては間腦との聯關に於てPopa and Fielding1)等の所謂腦下垂體間腦門脈系統の存在に就て,賛否兩論があつて決定的な所見は認められてこない様である2)。私達は全身の微細血管の分布構造を追求しているものであるが,たまたま腦下垂體の微細血管に就てこの問題に關連して追記すべき所見を得たので,こゝに御報告したいと思ふ。

膠原纎維と銀纎維—(附)鷄卵白による人工的纖維生成實驗

著者: 新井恒人

ページ範囲:P.143 - P.146

 Ⅰ はしがき
 一般に結合組織は,生體の組織及び器官を結合するばかりでなく,之等を支持し,且一定の形態を保たせ,若しくは榮養供給の媒介等,形態學的にも亦機能的にも,從つて或る程度生體の内的條件を左右するとも考へられる,體質乃至素質とも密接な關係があり,生體の維持に極めて重要な役割を營む。加うるに炎症或は腫瘍等,廣く疾病に於ける結合組織乃至其の纎維の關與する意義は,誠に重大と云わねばならない。斯かる見地から,纎維の中特に膠原繊維と銀纎維とに就て,其の相互關係及び生成を考察し,併せて筆者が得た研究成績を述べようと思う。
 生體の組織及び臟器は細胞と細胞間質からなり,細胞間質の中に纎維と基質とが含まれる。尚基質は不明瞭なもので,纎維を包含する無定形の均等な物質であるとか,又は層状に重り合つた透明な薄い膜樣物であるとか稱するが,單純な組織液とは異り,蛋白質を多量に含むゾルであつて,局所的特異性を有する如くである。結合組織の纎維は膠原纎維,銀纎維(細綱纎維,格子状纎維),彈性纎維等に分たれるが,此の中彈性纎維は論ぜず,前二者に就て述べる事とする。

汗腺のグリコゲンに關する知見補遺

著者: 伊東俊夫 ,   大田隆子

ページ範囲:P.146 - P.148

 人汗腺のグリコゲンに關しては今日迄に既に多數の學者によつて形態學的に研究された。Bossellini(1902)によると汗腺の絲球部即ち分泌部の上皮細胞(腺細胞)にグリコゲンが存在し少數例に於ては尚ほ排泄管上皮細胞にも存在する。次いでGierke(1905),Brunner(1906)も汗腺上皮細胞にグリコゲンの存在するのを證明した。Modena(1907)は成人汗腺の分泌部上皮細胞には常にグリコゲンの存在することを證明し,汗腺が活溌に機能を營む場合には多いことを認めた。Unna und Golodeta(1911)は新生児の汗腺もグリコゲンを含むのを見た。Sasagawa(1921)によると胎兒の汗腺には存在せず,小兒と成人に於ては證明され,主として分泌部上皮に存在するが時に排泄管上皮にも證明される。Hanawa(1921)は人足底汗腺に於てグリコゲンを證明したが,Unna und Golodetzに反して新生兒では檢出し得なかつた。Pana(1934)は健常皮膚に於ては汗腺に少量のグリコゲンが存在するのを認めた。湯山(1935)は汗腺のグリコゲンは機能によつてその量を變ずるのを認め,Modenaとは反對に機能旺盛な時には少く,機能の衰えた時には増量するのを見た。又初めてアポクリン汗腺にも少量に存在すると記載した。

成人に於ける終神經の觀察

著者: 佐野豊

ページ範囲:P.149 - P.151

 序言
 終神經には始めPinkus(1894)によつて肺魚類に屬するProtopterusに於いて發見せられた。尤もこれ以前にもFritsch(1878)は鮫類で,Herrick(1893)は有尾類で,此の神經を描寫してゐるが,新しい神經としての存在を確認したのは,Pinkusである。次いでLocy(1899,1903,1905)は27種の鮫類で本神經を檢索證明し,之に現在用ひられてゐる終神經と云ふ名稱を與へた。其後Sheldon(1909)は硬骨魚類鯉で,Herrick(1909)は兩棲類Rana pipiens及びRana cat esbianaで,Johnston(1913)は爬虫類Emys lutariaで,夫々本神經を證明した。鳥類では現在尚ほ存否定説無く,哺乳類に就いては夙くDe Vries(1905)及びDölken(1909)の胎仔に於ける報告があるが,鋤鼻神經との混亂があり,明瞭に認めたのはJohnston(1913)の人,豚,羊の胎兒或ひは胎仔に於ける觀察が最初のようである。成人で始めて終神經の存在を證明したのは,Johnston(1914)及びBrookover(1914)兩氏である。斯くて終神經は鳥類を除く脊椎動物門の各綱に常存する腦神經である事が判明し,1935年制定のJ. N. A. では腦神經の初めに此の神經を加へてゐる。

人小腸液酵素作用の研究

著者: 森益太

ページ範囲:P.152 - P.155

 1.人小腸液のProtease作用
 私は昭和21年12月一患者空腸上部に曠置せられた長さ約10Cmの小腸瘻を有する15歳男子に遭遇した。この例はThiry-vella瘻に相當すべきものであつたので私は昭和22年2月初旬より同5月迄この症例の小腸液及小腸粘膜消化酵素の實驗研究に從事した。先づ新鮮なる腸液のProteolytic enzymes(Proteinase,Peptidase,Dipeptidase,Acylase)並Carbohydrose(Amylase,Meltase,Saccharase)について研究し,次で同年4月同瘻を手術的に除去(患者は全治す)せる際に同瘻の粘膜潰浸液(Mazeration)を作成し粘膜の酵素學的試驗を行つて,腸液酵素の成績とを比較致した。實驗期間中は腸瘻の周圍に化膿竈を見ることなく水樣無色透明の小腸液が毎日10-20cc採取された。その一部をデシケーター中で減壓乾燥して貯藏することが出來たので,同年5月この乾燥腸液のEsteraseに關する實驗を追加施行した。
 Cohnhein(1902)は猫腸Erepsinはその基質として各種Pepton,Trypton,Protamine,Histon,Casein,Clupein,albumose等を分解するが他の眞正蛋白を分解しないと述べている。

生物學的筋肉種屬鑑別の一新法

著者: 小野一男

ページ範囲:P.156 - P.157

(1)
 諸種動物の血液は外觀上その種屬鑑別がつかないが,之と同様に筋肉に於いても單にその色調等では果して何種動物の筋肉であるか判明しない事が多く,特に日數が經つて筋肉が古くなつた様な場合にはその區別は一層困難となる。從つて比較的容易且つ適確に筋肉の種屬鑑別が實施出來得る様な方法がないものであらうか。
 勿論從來としても筋肉の種屬鑑別法が全く無かつたわけではなく,Uhlenhuth(1901)が創始した血清沈降素血清を使用すると云う方法が法醫學上主として用いられて居つた様である。此の方法は筋肉浸出液を作り,之を抗原として血清沈降素血清に作用させて沈降反應を以て檢するのであつて,當時Uhlenhuth等によつて推奬された方法である。然し乍ら此の方法はWassermannが云える如く單に特異なる蛋白質鑑別法に過ぎないのであつて,之を吟味すると後述の如く幾多の缺陥が伏在して居るのを知るのである。

ツベルクリン過敏症に於ける靑山氏のヌクレイネミア學説に關係する豚のプリン體代謝樣式に就いて

著者: 大野乾

ページ範囲:P.158 - P.160

 緒論
 Landsteinerのハプテン免疫説が學界を賑はした1820年代にハイデベルヒのモロウ・クラア兩氏が,結核未感染幼兒にツベルクリンと豚血清とを協同接種した所,ツ陽性反應を得たと云ふ甚だ興味ある結果を發表した,近年靑山氏は此の報告の檢討からツ反應の本態が感染側體の病的ヌクレイネミア(核蛋白血症)にありとの見解を行ひツ過敏症をハプテン免疫説を以つて巧妙に説明したのである。氏の此の見解の基礎は豚のみは生理的にヌクレイネミアの状態即ち血清中に核蛋白を移行して居る状態にあると云ふ事實の發見でモロウ・ケラア兩氏の古い業蹟の謎を解明した所にある。從つてツ過敏症に關するヌクレイネミア學説を檢討せんとする醫學者諸兄にとつて,著者の行つた豚のプリン體代謝樣式の特異性に關する實驗が多少の參考になればと考へて以下の報告をなす次第である。哺乳類のプリン體代謝樣式については從來から面白い問題が多いのであつて,人類では尿酸がプリン體代謝の最終産物とされて居るが一般哺乳類では肝に存するウリカーゼが之をアラントインに迄分解し之が最終産物と見做されて居るのである。

神經の表面電荷に關する實驗

著者: 望月政司

ページ範囲:P.160 - P.163

 1.緒言
 Bernsteinの膜説1)に依れば,神經纎維の表面は形質膜をへだてゝ,外側に正の荷電があり,内側に負の荷電があつて,電氣的二重層をなしている,と言ふ。が,それは實驗的には證明せられてはいない。所が,杉2,3)は蛙のM. Semimembranosusの形質膜上の電位分布と抵抗値の分布を,Cu-Zuの模型のそれらと比較することに依つて,正常の形質膜の外面が逆に負に帶電してゐることを,報告している。神經に就いてはHodgkin及びHuxley4)が「ヤリイカ」の,巨大神經纖維の内部に細いカニユーレを一方の電極として挿入し,他方の電極を外部において,兩電極間の電位差を測定し,外側が正に帶電していることを,報告している。だが,この時の電位差は,負傷流を測定する場合と同一系列の電池を構成しており,正常面の荷電についての論據となすには不充分である。
 筆者は膜説を追試する意味で,電氣泳動法を應用して,生理的食鹽水中の神經の,動電的表面電荷を測定した。

親媒現象から見た動物膜の透過

著者: 山本淸

ページ範囲:P.164 - P.166

 1.
 Freundlichは,水溶液に關して,Van't Hoffの理論に從う現象を滲透壓現象osmotic phenomena,親媒順列又はHofmeister順列の關與する現象を親媒現象liotropic phenomenaと呼んで區別した1)親媒順列は,colloid系の解膠,凝固,鹽析,吸着,膨潤等諸種の物理化學的性質に關する,ionの特性の差に基く順列であつて,2)その順列は水分子,ion,colloidの相互の吸着の差から説明されるような現象である。
 とにかく,水溶液中に於て,ionは滲透壓的に作用すると同時に,親媒的効果を示すものであるから,動物膜の水透過を問題にする際にも溶液のこれら2方面の性質が考慮されねばならぬ。動物膜を構成する主體はcolloidであり,そのcolloid膜を通して水が透過する場合,水分子及びionが膜物質に吸着することによつて水の透過が影響されることは充分豫期されるのである。

實驗室より

C-R結合増幅器による記録曲線の補正に就て

著者: 江橋節郞

ページ範囲:P.167 - P.170

 序
 波形の正確さが要求される場合には,直結増幅器を用いることが理論的にはよいのであるが,實際には使用上安定度の點に重大な困難があり,殊に生物電氣測定の樣な場合には,この困難は生體の特殊事情によつて更に増大される。從つてC-R結合増幅器で得られた曲線に適當な補正を加えて,加印原波形を想定する場合が多いこの場合,補正方法としては,例の調和分析によつていた。即ち,記録曲線に調和分析を施し,増幅器の周波數特性,位相特性に基いた補正を加え,更に之を再合成するのである。しかし,調和分析の本質を反省するならば,生物電氣の如き場合に之を應用することは,調和分析が生物の發生する過渡的電氣現象に對しては,本質的に無意味だという點は暫く無視するとしても,なお次の如き困難に當面せざるを得ない。即ち,一般に行われている周期的電氣現象に對する調和分析の應用に就てのみ考えてみても,第1圖(a)の如き周期的電氣現象に調和分析を施して,その各項の値をみると,第1圖(b)の如くになり,非常に多くの項をとらねば,その誤差が少くならないのである。生物電氣現象にはこの樣な場合が多いのであつて,如何に調和分析が煩雜,且つ誤りの導入され易いものであるかが想像される。一方周波數特性,位相特性の正確な決定は,殊に超低周波に於ては,技術的に決して容易ではないのである。

隨想

解剖學名に就て/ロシヤ科學者と醫學發見の先取権

著者: 小林司

ページ範囲:P.172 - P.173

 醫學を修める者に取つて解剖學が不可缺のものである事は論をまたないが,同様に醫學そのものにとつても廣義の解剖學が總ての基調をなしてゐる事も疑のない事實である。
 解剖學の骨子は,そして解剖學の成立する最も根元は生體各部の名稱である。而して最優秀生物を以て自ら任じて來た人類はこの醫學の基礎の基礎とも云ふべき解剖學名に就て如何なる考慮を拂ひ如何なる改良をなして來たか。我が國に於ても1774年杉田玄白等の解體新書,1805年宇田川榛齋の醫範提綱が公にせられその大體の形を整へ後に1905年に鈴木文太郎が解剖學名彙を編んで初めてその統一をみるに至つた。一方1895年Baselに開かれた獨逸解剖學會の撰定した所謂B. N. A. は,40年後の1935年(昭和10年)にJenaの總會で決められたI. N. A. に變はり,此の間我國でも昭和4年,昭和15年2回にわたり用語改訂が計られ,昭和18年3月現行の日本解剖學會撰解剖學用語即ちNomina anatomica japonicaがまとめられた。處で現在行はれてゐる日本の醫學教育を見るに主にNomina anatomica japonicaに據り,I. N. A. とB. N. A. を附加して教へて居る。

資料

A.D.Wallerの"On Animal Electricity"の訂正書入れ本について

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.174 - P.175

 Augastus Désiré Wallerは,"ウオラー氏變性"で有名なAugastus Volney Wallerの子で,電氣生理學の開拓者であり,ロンドン大學の教授であつた人,1855年に生まれ1922年に歿した。彼は,かの"生命の標識"(The Signs of Life, 1903)1)の著者として,特異な存在であり,330にも上る電氣生理學を中心とする基礎醫學の研究2)がある。中でも,"心電圖の研究"(1786)は,哺乳動物の心電圖を撮つて人體心電圖への發展への先鞭をつけたもの,クロナキシーの先驅として,"生理學的時間の特性"(Characteristics, 1898)を發表したもの,いわゆる嘘發見器の原理である。"精神電流現象"(1917)を發見したもの,その他麻醉實驗によつて人體麻醉の時間的經過の特性(1908)を明らかにしたものなどは,現在の臨床醫學によつても直接間接に重要な頁献をなしている。
 こゝに紹介する"On Animal Electricity"動物電氣について)は,A.D.Wallerの主著3)の一つで,1897年にロンドンのLongmans, Green and Co.から出版された145頁ばかりの書物である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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