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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学10巻1号

1959年02月発行

雑誌目次

巻頭言

無題

著者: 松田勝一

ページ範囲:P.1 - P.1

 私は戦争には出なかつたのであるから,大学を出て今日で30年あまりの研究生活を送つたことになる。ときに自らを省て忸怩たるものがあるのであるが,しかしこの間につねに努めてきたことは,ものを正しくみる見方の修業であつたといえる。修得の成果に至つては性のよきかあしきかの問題であるが,これらはすべて私のすぐれた師匠たちの衣鉢であると思つている。
 私どもが教育している医学部学生のなかには基礎医学の勉強は卒業までの方便で,あたかも実地医業には何らの関係もないごとく考えている者が少なからずある。教科の糞暗記などはもちろん強ゆべきすじではあるまいが,少くとも実習は熱心にやつてほしいものである。はたしていかなる興味にひかれてかこの実習を休む学生は殆んどいないのである。それゆえ私は学生にいうのである。

綜説

放射線と酵素

著者: 田中正三 ,   波多野博行

ページ範囲:P.2 - P.9

 放射線にはX線やγ線のような非常に波長の短い電磁波とα線(ヘリウムの原子核),β線(電子),陽子,中性子などの粒子線とがあり,いずれも非常に高いエネルギーをもつている。たとえばX線やγ線の量子エネルギーは紫外線のそれの数万倍にも達するといわれている1)。このような高いエネルギーの放射線が物質に照射されるときにはそのエネルギーは照射される物質分子に吸収され,その結果イオン化を起したり励起した状態になつたりするために物理的および化学的変化をひき起すことになる。X線やγ線では照射された物質に比較的均一な電離が起り不安定なラジカルができるが,α線のような粒子線ではその飛跡に沿つてとくに密な電離が起るのが特徴で,できたラジカルは再結合して分子状生成物となることが多い。たとえば水の分子はX線やγ線によつて(Ⅰ)のように分解し,α線の場合にはおもに(Ⅱ)のような反応が起るといわれている2)。また同じ量のエネルギーが吸収されても照射された物質が受ける作用は放射線の種類によつて著しく異り,また同じ放射線でも照射線量が違えば影響が異ることは当然であり,ある場合には全く異つた変化が起つたとみられるような結果が現れることがある。さらに水溶液が照射される場合には照射される物質に対するX線やγ線の作用がとくに大きく現れるのが普通である。

細胞の起源をめぐる諸問題—Oparinのcoacervation説批判

著者: 田代裕

ページ範囲:P.10 - P.20

I.はじめに
 "生命の起源"の問題は,これと幾つかの段階に分けて取扱うことが出来る。例えばOparin1)はOrigin of Lifeの中で問題を
 1)炭素及び窒素化合物の原始形態
 2)有機物及び蛋白質の起源
 3)原始膠質系の起源
 4)原生物の起源
 5)原生物の進化
 の5段階に分けて考えている。ここで著者が取扱うのは3)及び4)つまり細胞の起源の問題である。
 細胞の起源を科学的に問題にする場合,2つの相反する立場が存在することに気付く2)3)

——

1958年度のノーベル医学及び生理学賞

著者: 井関尚栄

ページ範囲:P.18 - P.19

 1958年度のノーベル医学及び生理学賞は「微生物による遣伝生化学的研究」により,米国のビードル(Beadle,George W.),テイタム(Tatum Edward L.)及びレーターバーグ(Lederberg,Joshua)等の三博士に対して与えられることが決定されたと報じられている。ビードルは1903年生れの55歳で,カルフオルニア工科大学(Califonia Institute of Technology)の生物学教授であり,テイタムは1909年生れの48歳でスタンフオード大学(Stanford University)の生物学教授であり,レーターバーグは1925年生れの33歳でウイスコンシン大学(Wisconsin University)の遺伝学教授である。
 ノーベル賞受賞の対象になつた三博士の主な業績は次のようなものであつたと思われる。

1958年度ノーベル化学賞受賞者 Dr. Frederic Sangerの業績

著者: 成田耕造

ページ範囲:P.51 - P.51

 1958年度ノーベル化学賞はCambridge大学Medical Research Councilのタンパク質化学者Dr. F. Sangerに贈られた。彼はスイ臓ホルモンの一つであり,51個のアミノ酸からなるインスリンの化学構造を鮮かな手段で決定し,タンパク質の化学構造研究の前面に立ちはだかつていた大きな障壁を打ち壊わし,タンパク質の物理的特性,生理作用を解明する道をひらいた。先ず彼の決定したウシのインスリンの構造を示そう。タンパク質の化学構造,すなわちアミノ酸の配列順序を決定することは甚だ煩雑な仕事であり,十数年前までは殆んど不可能とされていた。Sangerの研究を成功に導いた一つの鍵はDinitrophenyl(DNH)法の考案といえよう。
 1-Fluoro-2,4-dinitrobenzeneを微アルカリ性でタンパク質に室温で作用させると,DNP基が遊離のアミノ基に導入される。DNP墓は酸加水分解では切断されないので,タンパク質のアミノ末端のアミノ酸はDNP誘導体として分離確認しうる。Sangerはインスリンのアミノ末端はそれぞれ1モルのグリンとフエニルフラニンであることを示した。従つてインスリン分子中には2本のポリペプチド鎖が存在し,互にシスチンのS-S結合で結合していることが推定される。Sangerはこの結合を過ぎ酸で酸化切断して2本のペプチド,A鎖およびB鎖を分別単離することに成功した。

論述

呼吸周期の発生機序

著者: 中山昭雄

ページ範囲:P.21 - P.29

 呼吸という瞬時も欠くことの出来ない生理現象について前世紀以来なされた研究は殆ど枚挙にいとまない程であるが,その最も基本的な問題,すなわち呼吸周期の形成が如何なる機序によつてなされるのか未だに意見の一致を見ない有様である。今日に到るまで行われて来た中枢の研究法—それは呼吸中枢に限らないのであるが一を通観し,それを研究方法によつて分類してみると,先ず中枢神経をいろいろなレベルで切断しそれによつておこる機能的変化から中枢の機能局在を確立しようとする試み,第2は一歩進んで何らかの方法で局所破壊を行い,その部及び二次的変性部位の組織学的検索と機能上の変化を対応づけようとするもの,第3の方法は更に傷害の度を少くすべく,電気的或は薬物による刺激を局所に与え,よつておこる反応を観察する。第4の方法はより生理的な条件下において実験するために,微小電極を中枢神経内に挿入して極めて限局した部分から電位変動を記録しようともるものである。このような単純な方法を如何に組合せ且つ重ねてみてもそれが果してどの程度まで中枢神経系の生理的な働きを教えるものであるか否か疑問である。しかしながらそれに勝る決定的な研究方法が見出されない限り,ここ当分の間は呼吸中枢の機序についても尚論議が繰返されるものと予想される。

喉頭からの知覚衝撃とその発生機構

著者: 角忠明

ページ範囲:P.30 - P.38

緒言
 さきに11),著者は上喉頭神経単一線維における自発性知覚衝撃を記録し,とくにこれらの衝撃の放射が呼吸の律動と如何なる関係をもつているかという点について詳細に検討し各種の典型に類別した。
 それによると,ramus internusの衝撃は呼吸律動に同調してその頻数を変えるもの,およびこれと全く無関係のものに大別される。前者はさらに呼吸のphaseとの関係から多くの小典型が区別される。また,ramus externusにおいては呼息末期から呼吸間歇期にかけて頻数増加をしめす衝撃典型が証明されることから,本神経枝がM.cricothyreoideusに対する純運動神経であると見做していた従来の見解の誤りを指摘した。しかしこの論文においては上述した各衝撃群が如何なる機構によつて生起されるかについては明かにされていない。

寄書

人間の眼についての光学的考察(第3報)—水晶体の調節能力について

著者: 伊藤礼子

ページ範囲:P.39 - P.42

 さきに(註1)水晶体の調節能力は,従来考えられて来た程大きくないことを少し述べたが,実際に正視や近視の眼について測定したので,それを報告し,眼の屈折と視力等の関係について考えてみたい。

海外だより

Woods Holeだより

著者: 後藤昌義 ,   酒井敏夫

ページ範囲:P.43 - P.45

 ボストンから南へ汽車で2時間,大きな運河を越えると急に気温が下り,ここから避暑地としても有名なケープ・コードです。氷河の侵蝕に加えてメキシコ暖流,ラプラタ寒流の影響をうけ,多様な入江,岬,沼など無数にあります。美しい自然の景色とともに,海産動植物の天然の宝庫として知られています。このケープ・コードの一角にWoods HoleがありMarine Biological Laboratoryが生物学関係者のメツカになつているわけです。
 メツカというと大変固苦しい感じですが,この研究所では背広にネクタイは御法度,アロハにブルジンのパンツ,あるいは水着そのものが制服です。前も後も海,明るいサンドレスのお嬢さん達が出入している研究所は外にあまりないかも知れません。どこの船員か田舎のオジイサンとみえる人々が有名なノーベル賞候補者であつたり大学教授であつたりします。全くカミシモなし素裸の学者達が研究と避暑とを思う存分楽しんでいるといつた感じです。幸いに私達もこの夏をここで過す機会に惠まれました。つたないレポートですが,その一面でも御伝えできたらと存じます。

研究室から

千葉大学腐敗研究所食中毒研究部

著者: 小倉保己

ページ範囲:P.46 - P.47

 かつて陸軍の演習地として,多くの人々の記憶にのこる千葉県習志野の原野は,最近住宅地として急速に開発され,近代化へのたくましい歩みを運びつつあります。この一角に,その特異な存在をもつて知られた当腐敗研究所があります。ここは,もと陸軍が毒ガス研究のために使用していた建物とかで,はなはだ頑丈な作りであり,すぐに研究室として使用出来るものでありました。
 当研究所は終戦後まもなく千葉医科大学の附置研究所として発足しましたが,のちに千葉医科大学が千葉大学医学部となるにあたつて,大学附置となり,独自の運営のもとに現在に至つております。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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