icon fsr

文献詳細

雑誌文献

生体の科学10巻1号

1959年02月発行

文献概要

綜説

放射線と酵素

著者: 田中正三1 波多野博行1

所属機関: 1京都大学理学部化学教室

ページ範囲:P.2 - P.9

文献購入ページに移動
 放射線にはX線やγ線のような非常に波長の短い電磁波とα線(ヘリウムの原子核),β線(電子),陽子,中性子などの粒子線とがあり,いずれも非常に高いエネルギーをもつている。たとえばX線やγ線の量子エネルギーは紫外線のそれの数万倍にも達するといわれている1)。このような高いエネルギーの放射線が物質に照射されるときにはそのエネルギーは照射される物質分子に吸収され,その結果イオン化を起したり励起した状態になつたりするために物理的および化学的変化をひき起すことになる。X線やγ線では照射された物質に比較的均一な電離が起り不安定なラジカルができるが,α線のような粒子線ではその飛跡に沿つてとくに密な電離が起るのが特徴で,できたラジカルは再結合して分子状生成物となることが多い。たとえば水の分子はX線やγ線によつて(Ⅰ)のように分解し,α線の場合にはおもに(Ⅱ)のような反応が起るといわれている2)。また同じ量のエネルギーが吸収されても照射された物質が受ける作用は放射線の種類によつて著しく異り,また同じ放射線でも照射線量が違えば影響が異ることは当然であり,ある場合には全く異つた変化が起つたとみられるような結果が現れることがある。さらに水溶液が照射される場合には照射される物質に対するX線やγ線の作用がとくに大きく現れるのが普通である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?