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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学10巻3号

1959年06月発行

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巻頭言

学会雑考

著者: 塚田裕三

ページ範囲:P.105 - P.105

 今年の医学会総会のプログラムを見ると,学会の運営法も随分変つてきたという感じを受ける。外人客が多数招かれる事もその一つであるが,一般にシンポジユウムの形が多く取り入れられ,専門分科が増々明瞭になつてきている。この現象は世界的な風潮であろうが,日本の学会と国際学会との交流が緊密化してきたとも云えよう。
 学会の持つ意義も学問研究の為の深い意見の交流ということの外に,社交的な面及び啓蒙的な面も見逃すことは出来ない。従つてその運営方法についても多面的なものにならざるを得ないであろう。

綜説

ステロールの生合成

著者: 上野芳夫

ページ範囲:P.106 - P.114

 生化学の分野において近年目覚しい発展をしているのに生合成機構の解析という分野がある。従来自然界に存在している多くの有機化合物は,主として生体内における複雑な反応系と結びつきながらも,多くの場合,エネルギー源として,又分解反応へのくみ入れ方の面から眺められることが多かつた。その結果,今日のKrebs-cycleを中心とする物のうごきの見方が一応まとまりのあるものとして我々の目の前に提出され,そのマツプをみて物を考えるという習慣をつけられて来た。それ故,今日生体内に存在している多くの複雑な物質も,それらが生体にとつてどのような役割を果しているかということを明かにすることとは別に,その生成由来を明かにしようとし,その結果,その源をglycolysis,TCA-cycle,又はfatty acid cycleに求めたのは当然のことといえよう。

輓近に於ける2, 4-Dinitrophenolに関する研究の動向

著者: 村野匡

ページ範囲:P.115 - P.124

 2,4-Dinitrophenol(DNP)並びにその近縁物質が甚だ特異的な薬理学的並びに生化学的能動性を有することは,1918年以降約20年の間にMagne1),Tainter & Cutting2)〜5),Heymans6),Krahl & Clowes7)〜10),Ronzoni & Ehrenfest11)等により,その概要が明らかにされた。ところが1948年Loomis & Lipmann12)によりDNPが酸化的燐酸代謝を特異的に分離阻害することが立証され,上記の諸氏により記載された本剤の作用は全てこのuncoupling Propertyを根底として惹起されるものと推量されるに至つた。更に近時急速に発展した酵素学の進歩と相俟つて,生化学的諸反応或いは生体諸機能の発現乃至維持が如何程力源授受に依存するかを闡明する好個の解析物質として本剤が盛んに応用されるに至つた。而して過去に得られたDNPの基本的性格に関しては,既にEdsall13),Simon14)及びBrody15)の綜説に記載されているので,私はこれらの綜説事項と重複する点はその概要を述べるにとどめ,むしろ過去に於て比較的等閑視された本剤の代謝状況や最近得られた生体内諸代謝への影響に関する知見等を中心として論述する。

論述

"血糖調節と低血糖"

著者: 竹内節彌

ページ範囲:P.125 - P.135

 最近,所謂経口的糖尿病治療剤と銘を打つものが二,三登場して学会や市場を賑わしている。由来糖尿病に対する治療薬研究の歴史は1922年のInsulinの発見から始まつて居り,現在持てはやされているものの発表以前にも,流星の如く現れ且忘れられていつた薬物の数も少ないものではない。勿論こう言つたからと言つて,現在採り上げられている数種の薬物が過去の事例の如く,早晩消え去る運命にあると予言したり,或いは現在までに報告された多くの物質の治療面に於ける価値を批評しようとしたりするのが筆者の意図ではない。筆者は糖尿病患者の治療と言う誠に困難な又厄介な問題に対し責任のない,一基礎医学研究者としての立場から血糖そのものの生理,並びにその薬物に対する反応に注視して見たいと思う。
 たまたま糖尿病と言う病気が人類に存在していた,と言う事実が古くから多数の研究者をして血糖に注目せしめたのであろう。その限りに於いては,長い間の糖尿病研究の間に培われた血糖調節機構に関する幾多の観察の集積に対して吾々は称賛の言を惜むべきではないかも知れない。

内臓平滑筋における興奮の筋・筋伝播とその過程を示すIntercellular Junction Potential

著者: 後藤昌義 ,   鳥越賚夫 ,   東郷実幸

ページ範囲:P.136 - P.145

 温血動物の内臓平滑筋における興奮伝播に関する最近の研究は平滑筋細胞が少なくとも機能的には1種のsyncytiumとして働いており,神経組織を介しての興奮伝播の可能性は極めて少ないことを支持している(Bozler 1938 a, b, 1941,1948;Bülbring 1955, 1956;Greven 1955;Prosser, Smith & Melton 1955;Woodbury & Goto 1959)。他方,細胞内電極による平滑筋の電気現象に関する研究は内臓平滑筋の活動電位がある特殊な局所電位と伝播性のスパイク放電との2つの要素からなることを明らかにした(Bülbring, Burnstock & Holman 1958;Goto & Woodbury 1958;Woodbury & Goto 1959)。さらにまたその局所電位はephaptic potentialあるいはsynaptic potentialと性質が酷似しており,平滑筋細胞間の興奮伝達の中間過程を示す電気現象であると推定されている(Goto & Woodbury 1958;Woodbury & Goto 1959)。

グルタミン酸脱水素酵素の生物理化学的研究

著者: 久保秀雄 ,   岩坪源洋 ,   亘弘

ページ範囲:P.146 - P.158

まえおき
 ピリジン酵素はDPN或はTPNを作用簇とする酵素群であり,生体内酸化還元系における第1の段階,すなわち基質と電子運搬系との間の水素運搬の第1段階に関与する酵素である。これらの酵素のうちアルコール脱水素酵素を始めとして多くのものが結晶化され,その反応機構についても多くの業績があげられている。
 われわれは十数年来これらの酵素のうちとくにグルタミン酸脱水素酵素について物理化学的な研究を進めて来た。この間痛切に感じたことは,酵素の作用機構をはつきりつかむにはどうしても酵素を純枠にそして大量に入手できるようにせねばならぬことであつた。この酵素は古くEuler等によつて研究が進められ,1951年Olsonが牛肝より始めて結晶化に成功するに至つて,酵素蛋白の物理化学的性質が著しく明確にされた。当時,殆ど時を同じくしてStreckerがOlsonとは全く独立にこの酵素を結晶化した。ところが両者の得た酵素蛋白にはいくつかの相異が認められた。而もこの相異については両者の間で何等解決はついていない。最も顕著な相異点は結晶酵素の比活性度である。比酵素活性を我々の単位であらわすとOlsonの得た酵素は6000単位の活性を示し,Streckerの得た最高純度の酵素は12000単位の活性を示す。又Streckerの方法によれば酵素結晶化の途中,アルコール濃度の高低によつて2種類の酵素を得ている。

——

ドイツの生理学界について

著者: 市岡正道

ページ範囲:P.159 - P.163

 私は昭和32年(1957)11月から翌33年10月末まで,その前半6カ月はErlangen大学生理学教室(主任Prof. O. F. Ranke)に,後半6ヵ月はKiel大学生理学教室(主任,Prof. H. Lullies)にいましたので,その間に体験したことや見聞したことをかいてなにかの御参考に供してみようと思います。ドイツにおける学制や医学教育については別の雑誌に書きましたので,ここではおもに研究方面について書いてみます。
 ErlangenというところはNürnbergの北方約15kmのろころにある,Bayern州の小都市(人口約8万)で,たいていの地図にはのつていない位の小都市ですが,戦前には大学の存在により,戦後はSiemens-Schuckertの本社(全世界にいる社員17万人を管理する職員7千人が働いているとのこと-富士電機,繩野課長による)が移転してきたことにより一部の人にはよく知られております。Erlangenに人間が住み始めたのは8世紀頃といわれていますが,都会としては1686年Markgraf Christian Ernst von Brandenburg-BayreuthがHugenottenを集めたのが最初ということになつております。

Göttingen大学薬理学教室の思い出

著者: 酒井文徳

ページ範囲:P.164 - P.166

 1956年の秋から始つた約2年間にわたるGöttingen大学薬理学教室での思い出とともに,ドイツの薬理学界について少し書いてみたい。幸に動乱の起る直前にスエズをぬけ,イタリーのジエノアからスイスを越えてGöttingenに到着した日は,既に秋も深く,菩提樹の葉も大半落ちた10月の半ばであり,駅に迎えてくれた助教授のMercker氏と共に直ちにLendle教授を教室に訪ねた時がGöttengenの生活の第一歩であつた。第二次大戦の戦災も受けなかつた,今は残り少くなつているドイツの典型的なこの大学町の一角に,古色蒼然とした薬理学教室が立つていた。後にドイツ各地の薬理学教室を訪ねたが,これらと比較してGöttingenの教室は大きな教室ではない。Lendle教授を主任として,以下助教授,講師各1名,助手2名,Pflicht Assistent 5〜6名,Doktorand 5〜6名,実験助手(女子)8〜10名,その他に小使2名,掃除婦2名,動物小舎係3名,工作室員2名,以上がその全員である。ドイツに於けるDoktorarbeitは在学中に行い,臨床の講義をききながら,午後研究室に来て仕事をしたり,又,学期休み(2学期制であり,休みが比較的長い)に仕事を進めている。したがつてArbeitの質は左程高いものではなく,平均して1年以内に終了するのが普通である。

研究室から

慶応大学心肺研究室

著者: 沖野遙

ページ範囲:P.167 - P.168

 私共の研究室は石田二郎教授と笹本浩助教授を指導者として約30名の内科助手が各項目を分担して心臓と肺を中心として全身をみるという立場で研究している。簡単に心肺病態生理の研究といつても方法論的に最近甚だ多岐に及び,又,精密化を要求される。これに加えて単に疾患をそのあるがままの姿としてのみ把握するだけでなくその生体の外的条件の変化に対する反応能力を動的(dx/dt)に観察するための努力がなされている。このために項目を大別すると,肺機能(肺の気相中心),心臓カテーテル(肺循環,冠循環,先天性と後天性心疾患),換気メカニクス,電解質・糖・脂質代謝,心及び血管系の流体力学等に分けられる。まず肺機能関係は本邦で指導的立場にあつて,気道・肺・胸廓との関係をスパイログラフ,N2・CO2・CO連続分析装置等を用いて独自の研究手段を確立し,莫大な検査例数に基いて,肺機能諸因子から臨床例の分類に成功している。心臓カテーテルは内圧測定,血液・呼気ガス分析に加えて物質代謝,心室残留血量,気管支血流量の測定等を各種濃度のO2・CO2吸入,運動負荷等の操作を負荷してその経過を追つて反復するために,多人数の緊密な協力作業が行われる。この方面で最近注目している課題は肺高血圧症の成因であつて,この状態が持続すると所謂肺性心(Cor pulmonale)に至つて生命が危機に瀕する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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