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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学10巻4号

1959年08月発行

雑誌目次

巻頭言

医化学への反省

著者: 山村雄一

ページ範囲:P.169 - P.169

 久しく結核の化学的な研究に従事していた私が,思いがけず医学部の生化学教室をひきうけることになつた。大いにとまどつたことはもちろんであるが,病院の研究所の生活をはなれて基礎医学者の仲間入りをしてみると,それはそれなりに楽しいことも多いし,また岡目八目式に文句のあることも少くない。
 さて,気になるのは医学部においては新しい大学院制度の下に生化学教室へ入るものが大変少いか,あるいはこれから少くなることが予測されることである。もつともこれは生化学教室にかぎつたことではなく,他の基礎医学の教室にも共通していることである。その原因となるものはいろいろあるであろうが気のついたものをあげると次のようなことである。

綜説

呼吸中枢の自動能

著者: 福原武

ページ範囲:P.170 - P.180

 安静時の呼吸運動は主として横隔膜,肋間筋など横紋筋の律動的収縮によつてひき起される。このような呼吸筋に運動衝撃を送り出す根源的な個所,いいかえると呼吸中枢がどこに存在するかは呼吸生理学上重要な問題である。このような中枢の所在に関しては,私どもも研究12)13)14)を行い,その結果を報告し,さらに二篇の総説15)19)において従来の研究を批判検討した。ごくかいつまんで私どもの実験結果を述べれば次のようである。
 哺乳類(イヌ,ネコ,ウサギ)においては,脳幹の横断実験12)及び局所破壊実験13)によつて私どもは正常呼吸中枢が脳幹の聴条の高さで両側の外網様体中に局在し,その遠心路が延髄の外網様体をとおり,脊髄の網様体に達することを示し,さらに自動能において前者に劣る第二中枢(gasping center)が延髄に存在することを示した。ついで単極微小電極を用いて正常呼吸中枢及びその遠心路から活動電位群を誘導描記した14)。これによると吸息及び呼息ノイロンは中枢内に混在している。

フラビンの体内代謝

著者: 八木国夫

ページ範囲:P.181 - P.187

 ここにフラビンというのは,高等動物体内に存在する3つのワラビン化合物,すなわち狭義のビタミンB2であるところのリボフラビン(FR),そのリン酸エステルであるところのflavin mononucleotide(FMN),およびflavin adenine dinucleotide(FAD)をさすことにする。
 その化学的構造はつぎのごとくである。

論述

神経線維と神経模型

著者: 松本政雄 ,   若林秀一 ,   森川襄治

ページ範囲:P.188 - P.194

 神経乃至神経線維の機能は興奮伝導であり,この機能が如何様にして行われるか,この問題の解明に対してはらわれた生理学者の努力は誠に計り知ることは出来ないであろう。併し今日に至つても充分明らかにされたとは云えない。神経模型は神経の興奮伝導に類似の現象を現すものとしてLillie15)によつて始めて作られたものであるが,その後種々の人々によつて色々の型の模型が作られるに至つた1)33)。余等は多年此の種の模型に就いて,それが現す現象の性質に就いて研究し,神経線維によつて示される殆んど総ての現象は此の模型に於ても現れることを知り,進んでこの模型に於て先ず知り得た現象が次いで神経線維に於ても発見されたものも二,三に止まらない状態となつた25)29)。此処に於て余等は,本論文に於て神経線維に関する各種の現象と模型に於けるそれに対応する現象の比較を試み,それに依つて神経線維に於ける未知の現象の発見乃至は現象のよつておこる機序の鮮明のための資料を提供せんと企てたものである。
 尚神経線維と神経模型に就いて種々の比較を行うに際しては,神経線維としてはその種類は別に問題ではないが,特にことわりない限り有髄神経線維を対象とし,神経模型としては鉄線を硝酸中に浸した山極—Lillieの神経模型を用いた(第1図)。

報告

陰極線による電位の誘導

著者: 塚原進

ページ範囲:P.195 - P.202

 I.まえがき
 この実験には2つの目的がある。その1は起電力を容量的にpickupすること。第2の目的は起電力の電位分布を連続的に直視しようとするにある。
 容量的に起電力をpickupすることは電気生理学的には殆んど考えられたことはなく,主として伝導的にpick-upしており,電極が必要となつたわけである。この場合,電極としての金属と,生体と電極の電気的接触を行わせるための電解液の存在による附随的な問題を解決せねばならない場合がある。電子工学としては起電力を静電容量的にpickupすることはしばしばあり,又生体の物理的な動きを電気的に変換するために電場の分布の変化を利用したり

神経線維の有髄無髄と興奮伝導の速度並びに安全率

著者: 山極一三

ページ範囲:P.203 - P.207

 有髄線維の髄鞘部の機能は伝導速度の増大に在ると解されている。夫れは髄鞘膜の電気的高抵抗に由て,或る絞輪に起つた活動電圧が,比較的小さい損失の下に次の絞輪に伝達されるからである。併し其の量的考察は充分でないのみならず,色々な附随的問題がある。就中重要なものは1)電圧波及に要する時間の問題,2)絞輪間距離の問題,及び3)伝導の安全率の問題であろう。電圧波及時間に就てはHodler et al.1),Tasaki2)等の研究がある。これに就ては後に触れる。絞輪間距離に関しては,先ず夫れが過大であつてはならない事に気附く。何となれば髄鞘膜は高抵抗とは云え絶縁体ではないから,距離と共に電圧低減し遂に刺激能を失うからである。又伝導の安全率は絞輪間部の存在に由て,多少とも低下するに違いない。
 筆者は先に衝撃発生に関する一理論を発表し,夫れが電気刺激並びに興奮伝導に関する一連の基本的事実をよく説明し得る事を述べた3)-6)。前者に関しては既に其の概略を本誌上5)に紹介したが,今回は伝導現象の一部としての上記諸問題に就て述べて見度い。其の他の事項に関しては文献4d)及び6)を見られ度し。

大脳皮質の反復刺激によるDendritic potentialとDC shiftの研究

著者: 岩瀬善彦 ,   塚越芳美

ページ範囲:P.208 - P.211

 Chang1)が大脳皮質を直接刺激してその近傍から得たdendritic potential(DP)は微小電極による皮質内neuroneのspike pot.と共に脳の電気現象を理解するのに重要視されるに至つている。
 併しDPが果してapical dendritsの活動性を忠実に表現しているか否かについては何とも云えない段階にある。茲に於て著者等はDP以外にDC pot.の変化を記録してDPの性格特にその興奮部位を明確にせんと試みた。

Zotterman教授

著者: 萩原生長

ページ範囲:P.213 - P.214

 本年4月の日本医学会総会に招待講演者としてスウエーデンからY.Zotterman教授が来日した。教授は1898年生れで現在61歳,カロライン医科大学(Karolinska Institutet)を卒業して以来生理学特に神経生理学の分野にパイオニヤーとして多くの業績を残している。現在迄に彼に依つて発表された此の方面の論文の数は120を越えているが,その多くは既に我国に於ても広く人の知るところである。そうした彼の仕事の方向を決定的にしたものは若い時代の英国Cambridge大学への留学であつた様に思われる。そこで彼はAdrian教授と共に皮膚神経た就いて始めて所謂単一神経線維インパルスの分離記録に成功し感覚の末梢神経機構研究の端緒を開いたのである。Adrian教授は其の後此の種一連の仕事に依つてNobel賞を与えられた事は人の良く知るところである。一方Zotterman教授は其の後やはり此の種の仕事を発展させ触覚や圧覚並びに痛覚等主として皮膚感覚の神経機構を更に詳細に研究した。本年3月末に開かれた日本生理学会に於ける教授の特別講演は其の内痛覚に感する教授の一連の研究を歴史的にふりかえつたものであつた。更に教授は十数年前より舌の温度感覚並びに味覚の研究を始め従来不明であった此の分野の解明に成功した。

スエーデンにおける2〜3の生理学者

著者: 本間三郎

ページ範囲:P.215 - P.217

 Stockholm市にあるカロリン(スカア)研究所の神経生理学ノーベル研究所に一ヵ年留学して来ましたが,Stockholmにいる生理学者達について,少々お伝えしたいと思います。ノーベル研究所の構成等につきましては,本誌(9巻6号,1958)に勝沼信彦さんがノーベル研究所便りとして紹介しておられますので省き,専ら私の関係した生理学会特に研究方面についてお伝えします。
 神経生理学研究所の教授はRagnar Granitで,She rringtonの高弟で,現代の生理学発展の一翼を荷つている方と申せましょう。丁度私のおりました昨年の9月にEcclesもStockholmにやつてまいりました。数日間の滞在中,Granit教授のお宅に泊り,親しい兄弟弟子といつた感じでした。しかし,Ecclesが学会で口演した後,その討論にはお互に一歩もゆずることなく,特に相手を褒めちぎつたかと思うと,直ちにそれ以上の知見を持ち合せているということを誇らしくも主張しておりました。Ecces滞在中の日曜日Frankenhaeuser夫妻とボートで遊ばれたようで,Frankenhaeuserの撮影した写真を一枚貰つて来ましたので掲げました。左がGranit,右がEcclesです。海上は9月初旬とは申せ寒いのでしょう,日本での防寒服を着用しております。

研究室から

ガラス

著者: 組織培養研究室

ページ範囲:P.218 - P.219

 赤や青に,更に白い反射光とにキラキラと輝く細かで精巧で複雑に刻まれたカツトグラス,或いは無色で透明な白いガラスだけのカツトの容,サンドブラストで曇らされて模様が描かれているもの等,ガラス工芸品の美しさには何時まで眺めていても飽きない美しさがある。光の透過と屈折と反射との応用だけだとはとても信じられない美しさがある。華やかな宴席に飾られ美しい花が添えられる。或いは御馳走が盛られ世界の美酒が注がれる。何と云つても派手な存在だ。
 ひるがえつて我々が日常,実験に使用しているガラスは本質的には同じものなのに何と云う地味な目立たない存在だろう。この無色で透明で内部がよく見えて,熱にも強く化学薬品にも強いガラスと云うものがなかつたら,光学器械や化学実験のことには触れないで組織培養にだけに限つてしまつてもその不便さは想像に余るものがある。回転培養試験管,カレル瓶,ポーター瓶,カヴアーグラス,マキシモフ用窪みガラス,ペトリーシヤーレ,時計皿,ピペット,遠心沈澱管等々算えあげればきりがないほどのものがこの性質の恩恵を受けている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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