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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学10巻5号

1959年10月発行

雑誌目次

巻頭言

高分子と生命現象—生物物理学の一面

著者: 大沢文夫

ページ範囲:P.221 - P.221

 最近,生命現象の基本的メカニズムを,物理的あるいは物理化学的な考え方と方法によつて解明していこうとする学問分野として"生物物理学"とか"生物物理化学"とかいう名が人々の口にのぼるようになりました。とろこで,この"生物物現学"とよばれるものは何か,"物理的"考え方とは一体どういう意味か,などとあらたまつて追及されると,返答に困ります。それは結局,この分野が,まだ豊かな内容をもつていないからです。こういう段階では,現在この内容を作りつつある研究の例をみて,何がなされ,何が目的とされるか,を理解しようとするのが近道でしよう。
 そこで,私たちに近いところから,自他ともに生物物理学乃至生物物理化学の範疇に入ると思われる例をあげてみます。

綜説

排尿反射に就て

著者: 久留勝 ,   最上平太郎 ,   西井弘 ,   西山敬万 ,   神川喜代男 ,   小山靖夫 ,   尾崎秀雄

ページ範囲:P.222 - P.230

 Ⅰ.緒言
 排尿反射に関して,私共は多年に亙り研究を続けて来たが,今日尚多数の未解決の問題が残されている。又今日迄に発表された排尿反射に関する実験的,臨床的研究も枚挙に遑がない。
 排尿反射は生後約2年以後では,随意的に統制出来る様になる事は,良く知られた事実であり,大脳皮質が膀胱に連繋を持つている事が考えられる。事実此等の間の連絡が障碍せられる様な事態が起ると,排尿障碍が起つてくる事が,多くの臨床的観察から明らかにせられている。即ち脊髄外傷,脊髄腫瘍,脊髄癆,脳外傷,脳腫瘍殊に後頭蓋窩の腫瘍の患者に排尿障碍の起る事が報告せられている。

論述

子宮平滑筋細胞内電位よりみた妊娠経過ならびに分娩機転

著者: 後藤昌義 ,   西岡勝利 ,   四位恒男 ,   羽牟幸男

ページ範囲:P.231 - P.242

 Ⅰ.いとぐち
 子宮平滑筋の細胞膜電位に関する研究は,WoodburyとMcIntyre(1954)によつて最初に試みられ,WoodburyとMcIntyre(1956)はinsituで,またWestとLanda(1956)は摘出標本で初めて静止電位をovershootした細胞膜活動電位の記録に成功した。その後,GotoとWoodbury(1958)Daniel(1958)らのNaイオンならびに伸展の影響に関する業績があるが,未だこの分野における研究は日が浅く,ovarian steroidsの子宮平滑筋細胞内電位に及ぼす影響についてはまだ報告がない。
 周知のように子宮平滑筋の運動は動物の種類,妊娠の有無およびその時期,性周期の時期,疲労やstressの存在また栄養状態,年齢や個体差といつた多様の因子によつて左右される。しかし妊娠中の子宮平滑筋は各種ovarian steroidsの強い支配下にあり,ことに妊娠末期あるいは分娩時においては脳下垂体ホルモンoxytocinが重大な役割を果していることは多くの学者の一般に認める事実といえよう。しかしながら,何故また一体どのようなメカニズムで子宮筋の収縮性が変化するのか,またoxytocinに対する感受性が変化し分娩時の強い収縮,陣痛が招来されるかについては未だ一向に解明されていない。

大脳皮質の誘発電位

著者: 中浜博

ページ範囲:P.243 - P.254

 末梢,体制領Ⅰ並びに体制領Ⅱ,視床,延髄鉢に電気刺激を加え,大脳皮質体制領より得られた誘発電位並びに経脳梁反応,デンドライト電位等について述べ,その分析方法を示した。大脳皮質誘発電位の実験条件として麻酔剤の種類とか深度,又拡延性抑制等には特に注意を払うべきである。誘発電位と機能との関連性については今後に残された重要な問題点であると思う。

報告

シヤジクモ節間細胞の電位特性

著者: 岸本卯一郞

ページ範囲:P.255 - P.265

 シヤジクモ(Chara corallina Willd.)**は淡水植物であり,その節間細胞は一般に長さ5〜8cm直径500μの円筒状の巨大細胞である。外側は約2μの厚さのセルローズの細胞壁で蔽われ,中心に大きい液胞があり,原形質は約5〜10μの層をなして細胞壁の内面を一定の方向に流動している(第1図)。構造がこのように比較的複雑であるにもかかわらず,この細胞の電気的諸特性は神経や筋肉と共通な点が多い。シヤジクモの静止電位は一般に大きく(200mV内側負),刺激によつて発生する働作電位の経過が非常に長い(ときには30secに達する)。また働作流の発生に伴い原形質流動が一時停止するが,これは筋肉の収縮現象と共通な点が多い(文献,Kishimoto and Akabori 1959)。これらの特徴のためシヤジクモは好実験材料として多くの研究者に賞用されている。
 刺激,記録の方法は神経,筋肉の実験に使われているものが適当であるが,この細胞の働作電位の経過が遅いためペン描きの記録装置で充分である(第2図)。微小電極はAg-AgCl型で,先端を1〜3μにひいた硬質ガラス管に入れ,3MKClを充している。これより細くすると却つてセルローズの細胞壁を通すことができなくなる。外液に接する基準電極はCalomel電極である。

高エネルギー燐酸結合の量子化学的考察

著者: 品川嘉也 ,   井上章

ページ範囲:P.265 - P.267

 いわゆる高エネルギー燐酸結合に関する量子化学的考察は種々の立場からなされている1)2)3)が定量的に満足すべき結果を与えていない様に思われる。大木4)はdπ-pπ結合の寄与を提唱したが定性的な考察にとどまつている。燐酸結合の電子状態は生理学的に重要な意義をもつものと思われるから定量的計算の行われることが望ましい。本報文はこの点についての若干の考察を試みたものである。燐酸結合を,一個の酸素原子から一対の電子対が供給されPO2Hなる仮想原子との間に作られるdπ-pπ共軛系と考え5)6),下の準位をπ電子系として扱い最高被占準位に対してdπ-pπ系の特殊性を考慮する近似を試みた。
 従来の計算では総ての準位を通常のπ電子系として扱つている3)5)が,それによつて高エネルギー性は得られないので静電エネルギーの寄与であるとしている。筆者もこの立場から種々のパラメーター値に対して検討を加えた。得られた結果は次の様になる。

寄書

Effects of Various Inorganic Cations on the Catalytic Action of Molybdate on ATP Hydrolysis

著者:

ページ範囲:P.268 - P.270

 The influence of various cations on the catalytic effect of molybdate on the ATP hydrolysis was studied.
 1.All divalent cations examined, namely calium, magnesium, cobalt, nickel, copper,cadmium and zinc ions, activated remarkably the molybdate action.Sodium and potassium ions did not show significant activation.
 2.The accelerating effect of magnesium and calcium ions on the catalytic activation of molybdate was examined at various pHs.This effect was remarkable at pH around 4 to 5 and could not be observed below 2.

研究室から

東邦大学医学部第二生理学教室

著者: 永田豊

ページ範囲:P.271 - P.272

 医学部新制大学院の設置に伴つて,東邦大学に於いても生理学に第二講座が新設された。一昨年来よりRockfeller財団のResearch Fellowとして,BostonにあるHarvard大学生化学教室でNeurochemistryを専攻中であつた塚田裕三教授は,昨年末,教授就任が決定して急遽欧洲各国をまわつて帰朝され,早速新研究室の建設にとりかかつたのである。
 人数も予算も充分でない我が国の現状としては,生理学一般に手を拡げるというよりは一つの課題に重点的に力を集中する方が有利であるので,当教室は中枢神経の生理化学を中心課題として設営が始められた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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