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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学10巻6号

1959年12月発行

雑誌目次

巻頭言

医学教育と研究

著者: 岩瀨善彦

ページ範囲:P.273 - P.273

 著者は研究所に長らく居た関係で医学教育に経験が浅いが,最近医学校に来て感ずる事は我々が戦前に受けたと同様な教育のやり方を今尚行つており,自分もそれを続けている事に驚いたり,又反省したりしている。
 ラジオはテレビに変り海外との交流も盛んになつた今日何か新しい工夫でもないかと考えている。近く旧制大学は無くなるのであるから,教育や研究の面に於てさまざまな創意と工夫が必要である筈である。講義にしても基礎医学全体にまたがる分野も多くなり,又基礎と臨床との関連に於ても新らしい総合的な講義がどんどん試みられてよいのではないかと思う。又その方法も従来のノート中心主義を改め例えば講義の概説,項目や実験の記録,図表などを要領よく書いたプリントを与え,更にスライド,映画などをより多く利用すべきだと思う。要は受講中に理解し,記憶し,質疑出来るようにし能率のよい授業が行われたらよいのである。大学の教育であるから学問の内容は勿論深くなければならないが,広範囲に全部を教える事は必要がない。各自の能力に於て勉学出来る基礎を養成させ,将来何をやらせても自力で道を拓いて行ける様な教授をすべきだと思うし,又それだけの抱負を持つて大学に入学して貰いたい。又学生以外にPostgraduateの教育にも重点を置き,学校を離れ最新の学問に接する事の少い医師の再教育も今後必要になつてくるであろう。

論述

胎盤の生化学

著者: 細谷憲政

ページ範囲:P.274 - P.283

 生化学の領域において物質代謝の過程を端的に追求する方法として細菌を用いて行う一つの方法がある。それは単細胞であり乍ら生命現象を維持するためのすべての代謝系を保持しており,世代の交替も早く,取り扱いも容易であるからであろう。
 動物においては分化が高度であり,またその代謝過程は複雑である。今ここにある物質があり,これが動物体内で代謝されうるかどうかを端的に証明しようとする場合には,山村1)が行つたように動物の全身ホモジエネートを作り,これによつて実験を試みることであろう。しかしこうした場合に胎盤を用いて実験してみることは無意味なことではないであろう。

酸溶性ヌクレオチドとその臓器分布について

著者: 堀江滋夫

ページ範囲:P.284 - P.293

 Ⅰ.ヌクレオチド(nucleotide)
 ヌクレオチドは有機塩基—五炭糖—燐酸の3者が結合した基本構造をもつ物質の総称で,生体にひろく分布している。燐酸と五炭糖との間のエステル結合によつて多分子が重合したものをポリヌクレオチドといい,これに属するものとしてリボ核酸,デオキシリボ核酸等がある。重合していない形のものをモノヌクレオチドmononucleotideといい,アデニル酸(AMP)がその一例である。モノヌクレオチドおよび重合度の低いヌクレオチドを合せてオリゴヌクレオチドということがある。

報告

適応反復刺激について

著者: 若林勲 ,   斎藤忠義

ページ範囲:P.294 - P.299

 Ⅰ.緒論
 刺激生理学は種々の電流刺激が有数なために必要なその時間経過と通電時間に関する法則性を決定した。かくして被刺激体の被刺激性の特質を示す指標としてクロナキシー其他の生理学的計数が得られた。
 刺激が長く持続する場合には被刺激体の生理学的状態が変化するが,その変化にも被刺激体に特有の一定の法則が見出され,適応(順応)と名付けられた。鈴木の"強まり要素"もその一つである。これらは単一刺激に関するものであるが,刺激が反復して加えられる場合には,交流刺激をも含めて,最大頻度,至適頻度1)があり,これも亦被刺激体の種類あるいはその生理学的状態によつて一定の値を示す。頻度が最大値を超える時は毎回の刺激に対し被刺激体の反応が毎回生起せず,甚しきに至つては,ウエデンスキーの現象を示すことも古くから知れている。それ程迄に至らなくとも,高頻度の刺激によつて反応が1回おきに脱落するとか3回に2回脱落するとか,いわゆる脱落現象を示す。この様な反復刺激の最初は毎回応答するが,まもなく脱落現象をあらわし,尚刺激が続くと脱落がその度を加えるようなことが屡々見られる。従つて例えば毎秒50回の刺激に実は25回しか応答せず,毎秒30回の刺激よりも応答頻度が低いという奇現象を起すに至る。

積分筋電図とその周波数分析(主として「筋力」の判定について)

著者: 三上智久

ページ範囲:P.300 - P.307

 Ⅰ.緒言
 いわゆる「筋力」のような総合された筋機能の現れを,筋電図から観察しようとする場合には,多数のmotor unitの活動電位の総合された複雑な筋電図波形を通じて,全体的な筋活動状態を観察する方法即ち,周波数分析法或いは積分値による分析法がよくとられる。
 ここで先ず周波数分析法については,古くはPiper18)(1919)の筋疲労と共に主周波数が減少するという報告に続いて,Cobb, Forber4)(1923),加藤13)(1931)等の同様な報告があり,最近ではWalton24)(1952),Fex, Krakau6)(1957)等によつてAudio-frequency Spectrometerによる分析が行われている。

OXIGRAPHによるO2以外の物質の定量分析について

著者: 浜本昭

ページ範囲:P.307 - P.314

 微小白金電極を用いてpolarographicにO2を定量することは,OXIGRAPH6)11)等も製作されて可成り精度よく生体のO2代謝の研究に応用される様になつている。一方O2以外の種々の物質の定量にもまた広範囲な応用が期待される。
 水銀滴下電極とは異り,白金電極では電極面が常に更新されないので,金属等の分析では電解生成物が電極面に析出したりして定量分析には適しないと思われる。従つて電解生成物が水溶性であると予想される有機物の分析に本法の応用を試みた。

Pyruvate kinaseのNucleotide特異性について

著者: 鷲尾倭文

ページ範囲:P.315 - P.318

 筋肉及び酵母より精製したpyruvate kinaseのnucleotide特異性について研究して次の結果をえた。
(1)何れの酵素もリン酸受容体としてADP,GDP,IDP,UDP,CDPが有効である。その相互活性比は本実験の条件下では筋肉の酵素ではA:G:U:I:C=100:67:18:17:10,酵母の酵素ではA:U:C:G:1=100:10:6:5:3であつた。
(2)各nucleotideの至適pHを求めた結果,筋肉の酵素では何れも7.2-7.5の間にあって著しい差が認められなかつたが酵母の酵素では5.8から70の間にあつて,かなりの差異を認めた。
 稿を終るに臨み,終始御懇切なる御指導御校閲を賜つた島薗順雄教授に厚く感謝する。又研究に際し種々御助言を頂いた真野嘉長講師に感謝する。

研究室から

小さな研究室

著者: 三浦義彰

ページ範囲:P.319 - P.320

 いままでにあまり立派な研究室の紹介があつたので,今度は目先をかえてスモールスケールの研究室の現状をという編集部の御注文で敢て筆をとつた。
 正直にいってわたくしたちには「学生実習室」はあるが,「研究室」は持つていない。5年前に東大医学部に医学科,薬学科と相並んで第三の学科,衛生看護学科が生れ,高級看護婦の養成をはじめた時にはじめてもらつた56.7平方米,(17.5坪)の地下室の部屋が「学生実習室」であつて,学生実習のある時は研究は中止するのである。もつとも衛生看護学科自体総面積790平方米,(243.7坪)しかないのだから生化学はまだよい方だろう。

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生体の科学 第10巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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