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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学11巻1号

1960年02月発行

雑誌目次

巻頭言

BiophysicsとPhysical Biology

著者: 若林勳

ページ範囲:P.1 - P.1

 1922年東大生化学の柿内教授がThe Journal of Biochemistryを,1926年東大生理学の橋田教授がThe Journal of Biophysicsを発刊せられた。前者は今日隆昌の雑誌であり,後者は幾変遷を経て今日のThe Japanese Journal of Physiologyに継承せられている。このようにBiophysicsの名は新しいものではないが,新しいBiophysicsの領域が最近著しく進んで物理学者はじめ諸方面から関心を持たれるようになり,1959年7月6-9日ケンブリッジでBiophysical Sciencesのみの国際会議がかつてない規模で開かれ,最も専門的な物理の綜合雑誌たる米国物理学会のReviews of Modern Physicsが本年1月号・4月号の2つ計600頁をこの問題のために提供した。この方面の協力の必要をますます強く感じた日本国内の学者も何かの組織を作ろうではないかといい出すに至つた。
 このようにBiochemistry,Biophysicsなどの名は普通になつているのでChemical BiologyとかPhysical Biologyとかいえばつむじ曲りと人はいうかも知れない。ここに少しく私見を述べさせて貰いたい。但し話をBiophysicsに限局するが,物理学と化学との限界だつてはつきりしなくなつた現在,話は一般に通ずるのではないかと思う。

綜説

小胞体について

著者: 渡辺陽之輔

ページ範囲:P.2 - P.12

 近年,電子顕微鏡および超薄切片法の発達に伴い,細胞の形態学の分野でも種々の新しい知見がもたらされた。その内でも特に注目されるものに細胞質内に存する一種の膜構造が挙げられる。このものははじめDaltonら4),Bernhard3)らにより記載されたが,当初は切片法の発達が不充分であつたため,その微細な構造は明らかにされなかつたが,Palade11),Sjöstrand21),Weiss32)らの研究により,このものが厚さ約50Åの膜およびこれにかこまれた腔よりなる一種の嚢状の構造であることが明らかにされた。更にこのものの特徴として膜の表面に径約200Åの細顆粒が附着していることが挙げられる。この構造が従来光学顕微鏡的にergastoplasmと云われた部分に主として発見されることからWeissはこれをergastoplasmic sacとよび,又BernhardやDaltonらは新しい意味でergastoplasmという言葉を用いている。筆者27)もこの構造が嚢状を呈するところから小胞体という名称を用いた。

平滑筋の電気生理学的研究—細胞内電位をめぐる諸問題

著者: 後藤昌義 ,   落合正直 ,   東郷実幸

ページ範囲:P.13 - P.22

 Ⅰ.いとぐち
 平滑筋の電気現象に関する研究報告は実に夥しい数にのぼる。それらは昭和医大の井上,市川両教授が編纂された平滑筋生理学文献集(1959)に明らかな通りである。限られた紙面においてこれらの全般的な綜説を試みることは,勿論不可能であるが,Evans(1926),Bozler(1936,1937,1939,1941,1948),Fisher(1944),Buchtal(1947),Rothenblueth(1950),Prosser(1950),市川(1959),丹生(1959),大谷(1951),Hoyle(1957),後藤ら(1957,1959)の綜説または著書によく論述されており,これらを御参照いただきたい。ただここには平滑筋の電気生理学における最近の進歩と2,3の問題を指摘して,同学の皆様の御参考に供することが出来たらと思う。

Alkylphosphateの中毒学的考察

著者: 酒井文徳

ページ範囲:P.23 - P.31

 戦後我国に於いて農薬が極めて盛んに用いられるようになるとともにこのものによる中毒が大きな問題となつたことはすでに我々周知の事である。それ故今回,ここに農薬,特にParathionを中心として現在迄行われてきた研究と,我々の行つたこの領域に関する実験結果をとりまぜ,主として薬理学的観点からこの毒物の作用に就いて考察を加えて見たい。
 Parathion(E 605)類の毒物を総称してAlkyl-phosphateと称するが,この化合物は化学的には既に古くから見出されていたものであり,特に新しい化合物ではない。しかし第二次大戦中から戦後にかけて,これ等が昆虫殺虫剤として極めて卓効を奏するものであることが明らかになるにつれて,次々と各種の誘導体が作られた。Schrader1)によれば,その化合物の基本型とも称すべきものは【O(S)=R1R2P-Acyl】Acyl=F oder CN oder der Rest einesPhenols oder eines Enolsで示されると云う。

報告

大脳皮質に於けるDendritic PotentialのSummationとRecovery Process

著者: 岩瀬善彦 ,   池田卓司 ,   内田孝 ,   溝淵孝雄 ,   漆葉昌延 ,   越智淳三

ページ範囲:P.33 - P.36

 Dendritic potential(DP)の研究は最近各方面から注目され多数の報告1)がみられるが,記録されたDPの基本的性質と本態については未だ定説がない。
 たとえばBishop等2),Grundfest等3)はDPの波形,加重現象等からDPはpostsynaptic pot.(PSP)であると考えている。これに対しChang4),Burns等5)は延髄錐体の逆行性刺激実験等によりDPはDendriteの膜の活動電位であると云つている。従つてDPの基本的性質は勿論のこと,その発生部位についても明らかにされていない。隅田6)は閾値刺激で運動領のDPについてexcitability cycleの研究を行つたが,最近池田7)は運動領以外の領野に於いてはrecovery of responsivenessが異なる結果を得た。

Amidoschwarz 10B色素による微量蛋白質比色定量法の検討

著者: 熊木敏郎

ページ範囲:P.37 - P.41

 Ⅰ.緒言
 血清蛋白質,脳脊髄蛋白質などの比色定量法としては,従来,Kjeldahl-Nessler法,Biuret法およびTyrosin法が広く用いられている。それらはいずれも特徴があり捨て難いものである。しかし極めて微量の蛋白質を含有する試料又は非常に少い試料について測定しようとした場合には時に不便を感ずることがある。更に短時間に且つ連続的に多くの試料を測定できて,その操作技術が簡便で正確な方法があれば申分ない。
 最近Fühl,Hinz1)2)らは数種の方法に就て測定限界度を比較した成績を掲げAmidoschwarz 10B(以下ASと略す)C22H14N6O9S2Na2を用いた新微量蛋白質比色定量法を報告している。その方法は蛋白試料を固定したのちAS溶液で染色し過剰附着色素を洗滌後再び溶出させてその濃度を比色測定するという操作からなり,ある範囲内で蛋白質に附着結合する色素量は正の相関関係をもつことに立脚している。他の方法に比較して微量の蛋白量を知ることが可能な点および少い試料(血清,脳脊髄液などは0.02cm3)で測定出来ることは便利な方法と思われる。

寄書

ラツトにおけるクリアランス試験について

著者: 伊藤宏 ,   天野和夫 ,   鈴木多鶴子 ,   岡本耕 ,   武山徯

ページ範囲:P.42 - P.43

 ラツトのような小動物でクリアランス試験を容易に行うことができれば,例えば薬物の腎機能に及ぼす効果を検べるのに有力な武器となるであろう。
 ここではInulinとp-Aminohippurate(PAH)を用いて,糸球体濾過値(GFR)と尿細管運搬極大量(Tm)とを同時に測定する場合について,従来報告されているいくつかの方法1-7)を実際に吟味した後に,比較的容易に,且多数の動物を処理できる方法として我々が現在採用している手順をのべて御参考に供したい。

人間の眼についての光学的考察(第5報)大島祐之氏の批判に答えて

著者: 伊藤礼子

ページ範囲:P.44 - P.46

 第4報迄に述べて来たことは,従来の考え方に対して疑問を持つたためであつたが,大島氏に実験の主要な点を理解して頂くことが出来なかつたようなので,それらを明かにして改めて御批判を頂きたく思う。
 月が多く見えるということは,非矯正眼又は病眼で見られる多視症と矇輪の組合さつたものであるとのことであるが,ピンボケの状態でなければ,私のいうパターンは見えない。しかし正視の眼は,遠方の光点が星状に見える程度のピンボケであつても,+2D位のレンズによつて軽い近視の状態にすると,遠くの光点や月の像は多数見えるのではないかと思われる。これについては数例で確めてあるが,前述のように色々のパターンが考えられるので,尚多くの例に当つてみたい。しかしここで,私が問題にしたいのは,像のズレのパターンは,はつきりしなくても中心があつて,それから放射状に像が並んでいるようで,他の例でも皆この傾向が見られたことである。

「人間の眼についての光学的考察」に関する論争(?)を読んで

著者: 中島章

ページ範囲:P.46 - P.47

 前に伊藤礼子氏より,別刷を送つて戴いたが忙しいのと,直接今やつている仕事に関係がないので申訳ない事だがちよつと眼を通しただけで放つて置いた。所が最近になつて生体の科学編輯子から,これについて所感を述べよとの御命令で,どうしても精読しなければならない破目に追い込まれた。畏友大島祐之氏がかなり厳しい批判をしていられるから,多分私の役はその仲裁をせよ(?)とでも云うのであろうか。勿論科学には政治の様な所謂妥協と云うものはあり得ない。そこで此の論争に関係した事を二,三述べて責をふさぐ事にしよう。

附記

著者: 真島英信

ページ範囲:P.47 - P.47

 人間の眼についての光学的考察という伊藤礼子氏の論文(第1報本誌:9巻43頁,第2報9巻291頁:第3報10巻39頁,第4報10巻94頁)に対して大島祐之氏が種々批判され(10巻96頁),それに対して再び伊藤氏が答えるというような形で誌上討論が行われたのであるが,中島章君の第三者的立場からの助言などもあつて編集者としては一応有意義な討論を交わすことが出来たと思つている。何よりも伊藤氏の,簡単な実験から鋭い洞察を進め,更にそれを確かめる実験を繰返していく態度に敬意を表したい。
 一般的に云つて,中島君も指摘されているように,大抵の現象は昔の人が観察してしまつていて,なかなか新発見はないということは事実である。新らしい方法でみるなら兎も角,簡単に出来るような方法では無理であるということは私も認めざるを得ない。しかし同時に学問は進歩しており,人々の考え方は昔と変つてきているから,同じ方法を使つても観察のポイントが違つているため新らしい解釈や学説の基礎となるような興味のある発見をすることがある。私自身こういう経験はかなりある。簡単な装置による大まかな観察というものは特に生物現象の場合,その背後に測り知れぬ程の複雑なメカニズムを秘めているために,解釈には幾つも可能性がある。

学会記

国際生理科学連合学会記

著者: 冨田恒男

ページ範囲:P.48 - P.50

 今夏南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれた第21回国際生理科学連合学会につきその学会記を書けとのことであるが,何しろ2000名を越える参加者による1000に近い報告の個々の内容に触れることは至難である。はつきり云つて私自身総ての口演に耳を傾ける程勤勉でもなかつたし,又事実それらの報告が多くの分科会に分れて行われた関係上,いくら勤勉な人でも聴くことの出来たのは自分に興味のある少数の報告に限られざるを得なかつたわけである。そんなわけで茲では寧ろ後に述べる如く6年後(1965年)に本学会の日本での開催が殆んど確実とみられるに至つた事実と関連して,主として学会運営上の印象を述べて将来への参考に資したいと考える。
 本学会は従来国際(又は万国)生理学会と呼ばれていたもので,3年毎に世界のどこかで開かれ,今回が21回目というわけであるが,1953年カナダのモントリオールでの第19回学会の時に国際生理科学連合学会と改称され,その主体をなす生理学及び薬理学の名をその下に附記することになつたものである(写真1)。今回の会長は先年糖尿病の研究でノーベル賞を受けたBernardo A.Houssay教授(写真2)で,会場にはブエノスアイレス大学の医学,薬学及び歯学の各部を容れる十数階建の豪壮な建物が当てられた。

研究室から

研究者に夢を

著者: 本川弘一

ページ範囲:P.51 - P.51

 私の研究室には数は少ないが夢を追う若い研究者達が多少集まつている。しかし彼等がその夢に本当に陶酔出来ているのかどうか,現実は余りに厳し過ぎるのではないかと思われる。研究者は夢をもたなければならない。夢をもたない研究者はもう研究者でなくなつていると私は常々思つている。研究者に夢が必要であるばかりでなく,教育者にも必要である。先生の夢が弟子達にはもはや夢ではなくなることが多いからである。私の先生の橋田教授は現実には生物電気殊に皮膚と筋神経の静止電位や活動電位の研究者であられるが,感覚の研究ということを常に夢みていられたように思う。先生の座談や随筆の中に感覚に関するものが可なり多いことを見ても,それがわれわれ弟子達に見えない影響を与えるに十分であつたことがわかる。私の場合は私の前任者の藤田東北大名誉教授が感覚生理学の権威者であられ,その遺産が可なりあつたので自然と研究が感覚生理学に向つたと考えてもよいのであるが,ただそれだけではないと私には思われる。橋田先生の夢が私の研究方向を決定したのだと人が云つたら私は決してそれを否定しないだろう。勝木教授など聴覚の研究に向われたことにも先生の夢が相当の影響をもつたのだろうと私は想像している。
 ところが現実が余りに世智辛くなるとしばしば研究者の夢が妨げられる。始めから夢など結ぶいとまを与えないこともある。そして現実がまさにそうした時代である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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