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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学11巻2号

1960年04月発行

雑誌目次

巻頭言

生物と物理

著者: 小谷正雄

ページ範囲:P.53 - P.53

 生物学と物理学とはかつて自然科学の中で最も縁遠い──いわばその両極に位置する──部門であると考えられていました,東京大学の教養学部の類分けについても,学問系統で分けたと言われる大学院の系別にしても,医学,生物学と物理学,数学とは最も遠い所に置かれており,基礎科学としては化学ないし生物化学を通じて生物と非生物とがつながりを保つているという状態であります。もちろん,X線,電子顕微鏡その他の物理的技術は生体の研究手段として欠くことのできないものであつたし,また関節の力学にしても目や耳の光学,音響学にしても,物理学が生体の研究に役立つていたことは慥かであります,生化学が生物化学であるのに対し生理学(Physiologie)は生物物理学(Biophysik)であるとの先覚的主張がなされたのも事実であります,しかし,本当に生き物らしいこと,生物的な現象は物理学では近づき難いものとして,しばしばvitalという言葉physicalがという言葉に対立するものとして使われてきました,その意味では,物理的でないところにこそ生体の科学の本質があると見られたのではないでしようか。

綜説

動物細胞における膜構造

著者: 安澄権八郎

ページ範囲:P.54 - P.66

 Ⅰ.緒言
 電子顕微鏡が生物学的に応用されて20年にもならないが,試料作製技術の向上に伴い,急速な発展をなしつつある。細胞組織の固定,包埋,超薄切片等の方法の発見と電子顕微鏡の分解能の向上と相俟つて,すでに細胞内の10Å大の粒子が見えるようになり1),Watson & Crick2)の模型的DNA分子の存在も架空的でない時代となつた。かくして形態学と化学とは密接に結びつき,分子大から肉眼的大きさまで一連の関連が得られるようになりつつある。
 固定方法はpalade3)考案の弱アルカリ性(生体組織に近いpH値)のオスミック酸が蛋白の凝固を防ぎ最良とされていたが,最近Luft4)によるKMnO4もこれに劣らぬ効果があることが証明されている。特にKMnO4は細胞膜並びに膜性細胞小器官の固定によいようである。包埋剤としてパラフィンに代つて合成樹脂の発見5)6),ガラスナイフ7)や超薄切片ミクロトームの考案等は今日の電子顕微鏡細胞学の発展に貢献している。以上の方法によつて得られた構造は,ほとんど生体構造に近いことが,囘折等の他の物理的あるいは光学的方法によつて証明されている8)

粘菌の原形質流動—収縮性蛋白質とATPとの相互作用

著者: 中島宏通

ページ範囲:P.67 - P.73

 粘菌の一種Physarum polvcephalumの変形体は細胞膜のない裸出原形質塊で,その行動は巨大なアメーバに似ている。表層はゲル状の原形質からなり,内部の分岐した流路をゾル状の原形質が一定の周期で往復しながら極めて活溌に流れている。このような流動原形質系は,代謝によつて生産される化学エネルギーを機械的エネルギーに転換するという点に於て,筋肉の収縮や鞭毛,繊毛などの運動と同じく一つのmechanochemical系であるということができる。流動機構の解明にはこのmechanochemical系の本体を明らかにしなければならない。化学エネルギーの運動エネルギーへの転換のしくみについては筋肉なかんずく骨格筋について詳細に研究され,筋肉運動は収縮性蛋白質アクトミオシンとアデノシン三燐酸(ATP)との相互反応の結果起ることが現在ではほとんど確定的となつている。同じような生化学的基礎機構が分化の程度の低い粘菌の原形質流動の場合にもはたして存在するか否かということは,現象を共通の基盤に立つて解釈しようとする一般生理学的立場からも興味のある問題である。ここでは活溌な原形質流動をしめす粘菌Physarum polycephalumの変形体について,収縮性蛋白質とATPとの反応を中心としながら流動機構を考察したいと思う。はじめに代謝系および流動のエネルギー源についての知見をのべる。

論述

Catecholaminesの化学的定量法

著者: 島本暉朗 ,   樋口秀雄

ページ範囲:P.74 - P.81

 1895年Olivre and Schäferが副腎Extracts中に昇圧物質を見出した後,10年を経ずしてAbel,von Fürth,Takamine,StolzらによるAdrenalineの構造決定,合成成功を見るに至つた。Barger and Dale,Cannon and RosensluetdらはAdrenaline作用と交感神経刺戟効果とは多くの点で一致するが,なお若干異ることを指摘し交感神経刺戟伝導物質Sympathinに2種類以上存することを示唆したが,夙にBacqはそれがNoradrenalineであろうと主張した。しかし,確実にNoradrenalineがSympathinに含まれることを証明するには,なお適当な生物学的並に化学的定量法の出現が期待されていた。やがて,Eulerの努力が実り,交感神経の刺戟伝導物質は少量のAdrenalineを含むけれども主成分はNoradrenalineであることを生物学的並に化学的に定量証明したのである。一方,Noradrenaline及びAdrenalineの生体内合成を廻つて,更に第三のCatecholamineの存在が示されるに到つた。それはNoradrenalineの合成上の前駆物質であるDopamineである。

報告

神経細胞に対するVoltage Clamp法

著者: 萩原生長

ページ範囲:P.82 - P.88

 神経組織の活動を直接研究するには一般に電気的な測定方法が用いられる。それは神経細胞や神経線維に於ける興奮の発生がその電位変化つまり活動電位の発生として最も容易に且つ正確に追求する事ができるからである。従つて此の興奮発生の機構を分析しようとすると,どうしても神経線維や細胞の電気的な性質を研究する必要がある。さて次に述る英国のHodgkin, Huxley及びKatz1)等によつて考案されたvoltage clamp法一膜電圧固定法は其の研究法の一つなのである。神経線維や細胞に於ける電位は良く知られている様に其の細胞膜を横切つて発生する。従つて此の電位の直接の測定は細胞の内外に置いた一対の電極の間で測定されなければならない。実際に或る種の無脊椎動物の神経線維の様に太いものでは線維内に細い針金を又細い線維や神経細胞の様な場合には所謂ガラス毛細管電極を挿入する事に依つて実現される。もつともどんな線維や細胞でも此の種の測定が可能という訳ではなく其の大いさが或る程度以下では今のところ此の種の測定を行う手段が無い。ものに依つて多少の違いはあつても此の様にして測定すると細胞の内側は静止時に外側に比べて50〜90mv位負の電位になつており,何等かの原因で此の負の電位が組織に就いてきまつた或る大いさだけ減少すると一過性に細胞内部が逆に外部に比べて20〜30mv位正になる。つまり活動電位が発生する。

膜電位固定法の細胞膜への応用

著者: 大村裕 ,   富田忠雄 ,   丸橋寿郎

ページ範囲:P.89 - P.96

 膜電位固定法(Voltage-clamp法)を用いて興奮性膜の活動のメカニズムを探ろうとする試みはCole(1949),Marmont(1949),およびHodgkin,HuxleyとKatz(1952)らによつてイカの巨大神経線維を用いて行われ,その結果所謂Na-説の発表となつたわでけある。その後TasakiとHagiwara(1957)によつて再びイカの巨大神経線維についてClamp法による実験が行われた。Na-説そのものの解説はすでに多くの人々(例えば,佐藤,1956,Hodgkin,1957)や新しい教科書等にも記載され,またNa-説は種々の実験結果を説明するのに取り入れられているので省略し先ず始めに固定法の一般的な原理と実際の使用法の概略を述べてみよう。

末梢神経刺激誘発筋電図法による家兎の赤筋・白筋の吟味

著者: 鷲見博和

ページ範囲:P.97 - P.104

 脊椎動物の骨格筋には赤筋と白筋の別があり,前者は比較的遅い収縮をするのに対して後者がより速く収縮をすることは,既に古くRanvier(1874)以来知られているところである。これらの神経支配ないし筋の機能的組織学的相異について,近時時実等(1957)は筋のモ-s曲線の面から機能的にtonicとkineticな筋線維を識別しようとし,Eccles等(1957)は細胞内電極法で前柱細胞のafterhyperpolarizationの持続時間に,tonicとphasicの相異あることを述べ,Granjt(1956,1957)はpost-tetanic potentiation,pinner reflexおよびcrossed extensor reflex等の方法を用いて,tonicとphasicの前柱細胞が放電様式を異にし,tonicの神経線維は同じα-線維群のうちでもphasicのそれより細いといつている。なお陣内等(1958)が筋の組織学的研究において,赤筋と白筋線維の混在の模様を明らかにしたことは注目に値する。

寄書

大脳皮質に於けるdendritic potentialのspike様電位とslow potential

著者: 岩瀬善彦 ,   溝淵孝雄 ,   池田卓司

ページ範囲:P.105 - P.107

 大脳皮質のいわゆるdendritic potential(DP)はdendrite膜の電気現象1),或はシナップス電位2)とも云われ未だ定説が無い。これは複雑な皮質構造に対応する電位のためであることは云うまでもない。大脳皮質を直接刺激して得られるresponseの基本的波形としてはnitial positivity,持続10-20msの特有な陰性電位(DP),late negativity,late positivity,及びChangのⅡ componentである。我々3)はDP特有の陰性電位のみを対象にして極大刺激によつて継時刺激を行つたが2mm以内の誘導距離に於てはDPの加重現象は原則として認められない。更にrecovery processからDPの絶対不応期は2.5〜3.0msであり,又伝導実験などから膜(恐らくdendrite)の活動電位と伝える。尚極大以下の刺激実験に於てはGrundfestの不完全加重,Bishopの完全加重が認められ,実験条件特に刺激条件がDPの性質を全く変える様な知見を得た。そこで今回は刺激強度以外に誘導距離について実験を試みた。その結果DPは不応期をもつspike様電位(Spike)と加重可能なslow pot(SP)の二つのcomponentsより成ると考えざるを得ない。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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