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巻頭言
文献概要
生物学と物理学とはかつて自然科学の中で最も縁遠い──いわばその両極に位置する──部門であると考えられていました,東京大学の教養学部の類分けについても,学問系統で分けたと言われる大学院の系別にしても,医学,生物学と物理学,数学とは最も遠い所に置かれており,基礎科学としては化学ないし生物化学を通じて生物と非生物とがつながりを保つているという状態であります。もちろん,X線,電子顕微鏡その他の物理的技術は生体の研究手段として欠くことのできないものであつたし,また関節の力学にしても目や耳の光学,音響学にしても,物理学が生体の研究に役立つていたことは慥かであります,生化学が生物化学であるのに対し生理学(Physiologie)は生物物理学(Biophysik)であるとの先覚的主張がなされたのも事実であります,しかし,本当に生き物らしいこと,生物的な現象は物理学では近づき難いものとして,しばしばvitalという言葉physicalがという言葉に対立するものとして使われてきました,その意味では,物理的でないところにこそ生体の科学の本質があると見られたのではないでしようか。
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