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粘菌の原形質流動—収縮性蛋白質とATPとの相互作用
著者: 中島宏通1
所属機関: 1大阪大学理学部生物学教室,大阪大学蛋白質研究所
ページ範囲:P.67 - P.73
文献購入ページに移動 粘菌の一種Physarum polvcephalumの変形体は細胞膜のない裸出原形質塊で,その行動は巨大なアメーバに似ている。表層はゲル状の原形質からなり,内部の分岐した流路をゾル状の原形質が一定の周期で往復しながら極めて活溌に流れている。このような流動原形質系は,代謝によつて生産される化学エネルギーを機械的エネルギーに転換するという点に於て,筋肉の収縮や鞭毛,繊毛などの運動と同じく一つのmechanochemical系であるということができる。流動機構の解明にはこのmechanochemical系の本体を明らかにしなければならない。化学エネルギーの運動エネルギーへの転換のしくみについては筋肉なかんずく骨格筋について詳細に研究され,筋肉運動は収縮性蛋白質アクトミオシンとアデノシン三燐酸(ATP)との相互反応の結果起ることが現在ではほとんど確定的となつている。同じような生化学的基礎機構が分化の程度の低い粘菌の原形質流動の場合にもはたして存在するか否かということは,現象を共通の基盤に立つて解釈しようとする一般生理学的立場からも興味のある問題である。ここでは活溌な原形質流動をしめす粘菌Physarum polycephalumの変形体について,収縮性蛋白質とATPとの反応を中心としながら流動機構を考察したいと思う。はじめに代謝系および流動のエネルギー源についての知見をのべる。
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