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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学12巻1号

1961年02月発行

雑誌目次

巻頭言

日本生物物理学会の発足に寄せて

著者: 熊谷洋

ページ範囲:P.1 - P.1

 物理,化学,生化学,医学,農学,工学及びその他の部分の広い範囲に互る会員の支持と要望と,準備委員の献身的努力とによつて去る12月10日に日本生物物理学会が創立された。準備委員の構成も広い部門に亘り,所謂異質的な事が特徴的であつて,生物物理学の目的や定義についてはガクガクの論義がくりかえしくりかえし行われて,その結果本号52頁に見られる通りの設立趣意の名文となつてあらわれた次第である。端的に云うと,在来の化学並び生物学に並立するものではなくて,これらすべてをintegrateする高い次元に立つているものを考えている訳である。
 分化し細分して,いろんな学会が次々と誕生していく事に対して,かなりの批判のあることも事実であるが,他面又既存の学会をintegrateする高い次元の学会が生まれてもよいであろう。この学会はまさに今後の発展に期待をもたれる学会であつて,殊に現在学生ないし少壮研究者の中に,次代の生物物理学的推進の主動力を求めようと希願するものである。

綜説

嗅神経系の電気生理学—その1 嗅粘膜の電気的活動

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.2 - P.18

 嗅神経系の電気生理学的研究は非常に少く,他の感覚神経系に比して断片的である。嗅粘膜の電気的活動を最初に研究したのは細谷及び吉田(1937a,b)であつて,犬の嗅粘膜を剔除し,ガラス管の切口に固定し,粘膜の内外に電極を置いてその電位差を記録した。その結果嗅粘膜は外面を負内面を正とする1乃至6mVの電位差を有すること,匂を与えるとこの電位差がゆるやかに変化すること,またその大きさは匂の種類により異なることなどを明らかにした。その後は電気生理学的器械の著しい進歩にも拘らず嗅粘膜は長らく顧みられなかつたが,1954年に至りスエーデンの生理学者Ottosonが兎の嗅球の脳波を記録した際遅電位Slow Potentialが嗅粘膜より出ることを再発見し,ブラウン管上に記録した(Fig 1(Ottoson,1954,1959)。その後(1956)は蛙の嗅粘膜について研究し,匂を吹きかけるとき比較的急峻な上昇部とゆるやかな下降部とをもつ遅電位の発生するものを見出した。これと類似の遅電位はラッテにおいても(Takagi,Unpublished)認められた。
 筆者達(Takagi et al,'59,'60a,b,c,d,Shibuya,'60)は主として蛙と蟇また魚を用いこの遅電位について研究し,これが嗅神経,嗅球の活動といかなる関係を有するかを明らかにせんと試み,多少の知見を得たのでここに現在までの嗅粘膜の研究を綜説する。

シヤジク藻類の電気生理

著者: 岸本卯一郎

ページ範囲:P.19 - P.28

 シャジク藻類(Characeae)はスギナ状の形態をもつ通常淡水産(汽水産のものもある)の緑色藻類である。円柱状の主軸は多くの節にわかれ,各節に数個の小さい節細胞と輪生葉がある。ところどころ節より分枝しているものもある。代表的な種はNitella(フラスモ),Chara(シャジクモ)で,節間は多核の円筒状の巨大単一細胞(成熟したもので長さ5〜8cm,直径約500μ)である。ある種のCharaではこの節間細胞が多くの小さな細胞によつてすのこ状に蔽われているものがある(corticated internodes)。節間細胞は約2μの厚さのセルローズ性のcell wallで蔽われ,cytoplasmは約5〜10μの層をなしてcell wallの内面に沿つて一定方向に流動している(このcyclosisの状態によつて細胞の良否を判断できる)。Cytoplasmの内部はvacuoleで細胞の大部分の体積を占めている。その形体の大きなため節間細胞は古くから生理学的研究の好材料として用いられている(Hörmann,898:Ewart,1902)。また1930年頃からOsterhout,Blinks,Umrathらによつてその電気生理学が開拓された。
 この細胞の静止電位(R.P)は一般に大きく(Charaで約200mV,内部が負),働作電位(A. P.)の経過が長い(通常5〜10秒)のが特徴である。

論述

ChlorpromazineのCytochrome oxidase阻害について

著者: 山本巌 ,   辻本明

ページ範囲:P.29 - P.34

 まえがき
 Phenothiazine系Alkylamine誘導体は主として抗ヒスタミン薬として研究されてきたが,Phenothiazine核にChlorを導入したChlorpromazineが精神神経疾患に効果1)のあることが認められて以来,向精神(Psychotropic)薬として脚光を浴び,更にReserpine LSD-25,Serotonine等とともに,薬理学はもとよりその関連領域における基礎的研究とあいまつて臨床的にも精神病治療,病因解析に向つての有力な手段となつた。
 さて,Chlorpromazineの薬理作用については数多くの研究がなされており,その作用は極めて多岐に亙つている。例えばCouvosier2)等は抗アドレナリン,神経節遮断,体温下降,抗ショック,抗痙攣,制吐,鎮痛,中枢抑制等の作用のあることを報告している。

報告

脊髄活動性の一分析法

著者: 久野宗 ,   宗岡玲文

ページ範囲:P.35 - P.38

 脊髄の活動性の分析は,細胞内電極法の導入により更に詳細に行う事が可能になつた2)3)。然しながら,脊髄機能の活動性を考察する際,個々の神経細胞の状態よりは寧ろ全体の統合機能の変化が興味の対象となる場合が多い。脊髄統合機能の典型的な一例は,屈筋と伸筋支配に関するfunctional reciprocityに於て示された12)。この事実に基き,屈筋と伸筋を支配する前角運動ニューロンの活動性を同時に同種のparameterを以て比較分析する事を,本実験に於て試みた。この分析法は,また脊髄介在ニューロンの活動性の変化の推測にも適用出来る。脊髄の活動性を薬理的に変化させた場合,その薬物の作用場が,運動ニューロンであるか或は介在ニューロンにあるかを検討する事が,この分析法の第二の目的である。

端板伝達の促進,抑制についての実験

著者: 竹内虎士

ページ範囲:P.39 - P.49

 厳密な条件の下に神経から端板を介して筋に反復刺激を加え,いわゆる疲労曲線を描せて,疲労ならびに回復過程を追求し,これは端板伝達における促進あるいは抑制によるものであることを確めた。実験成績は次のごとく要約される。
 ① 反復刺激の頻度ならびに休息の挿入を変えることによつて,それぞれ一定の型の疲労回復の曲線がえられる。
 ② この疲労と回復の過程は主として端板部における代謝産物の集積と離散とのバランスによるものと推定される。
 ③ そこで端板物質であるAchならびに筋収縮により生産される乳酸を端板に作用させてみたところAchでは10−8%(10−10)乳酸では0.006%(6×10−5)のところに臨界濃度があり,これより高濃度では抑制され,低濃度では促進される。
 ④ したがつてこの疲労と回復の効果は端板におよぼすAch,乳酸などの代謝産物の活用が重要な役割をもつと考えられる。
 ⑤ 端板毒Curareも,Ach,乳酸と同様の効果があり,10−6%以下の低濃度では促進的に作用するものでいわゆるCurareの端板抑制効果は10−6%濃度以上でのみ,みられる。
 ⑥ 同様なことはEthylalcohol及びAcetaldehydeによつて見られ,臨界濃度はEthyl-alcoholでは大体0.15% Acetaldehydeでは0.008%であつた。
 ⑦ 神経遮断剤Banthineはもつぱら抑制的(遮断的)作用のみで,促進作用は認められなかつた。Curareの如き端板毒とは作用機構が異るものである。
 以上の成績から,いわゆる筋の疲労曲線は主として端板部における伝達の疲労と回復に由来するもので,端板伝達の促進抑制がその重要な役割を果たすものであり,またこの端板効果は神経筋の代謝産物の濃度によつて大きく影響されると云うことが出来る。

研究室から

DNA研究の中心,金沢大学医学部医化学教室

著者: 高木康敬

ページ範囲:P.49 - P.49

 金沢医科大学医化学教室は今なお多くの人々に須藤憲三先生の名をなつかしく思い出させることであろう。来年は先生が教室を開講されてよりちようど50年目にあたるが,この間先生が非常な熱意をもつて工夫された研究室また実験法は,名著を通じて長く人々に感銘を与え,その後この伝統を継がれた岩崎憲名誉教授の独創的なアゾトメトリーの定成と相俟つて,当教室を日本の医化学界における異彩ある存在としてきたのであつた。しかしながら一昨年岩崎名誉教授の退官されるとともに,教室は古典生化学のこの輝かしい歴史をとじ,ここにあらたに近代生化学への途を出発した。
 高木教授は大阪大学医学部を卒業し,最初はアミノ酸の中間代謝の研究を手がけた。しかし程なく,その頃生物学的機能のようやく明らかにされ始めた核酸に深く魅せられ,1953年渡米,ウイスコンシン大学医学部マッカードル癌研究所のポッター教授の指導をうけ,この研究を開始した。さらにNational Institutes of Health(ベセスダ)のホレカー博士から最近の酵素化学を学んで帰国したが,この留学期間に当時はなやかに展開されたOchoa, Kornbeng教授のRNAおよびDNA合成酵素の研究に非常な感銘をうけた。そして昨年当地に赴任して以来教室の近代化に努力し,今年5月を期して本格的に核酸の研究に入つたのである。

学会記

学界の周辺—アメリカ電子顕微鏡学会傍聴記

著者: 内薗耕二

ページ範囲:P.50 - P.52

 生理学会と電子顕微鏡学会が殆んど時を同じくして開かれましたので,今回は生理学会を割愛して電子顕微鏡学会の方に出席して見ました。この春のFederationで生理学会に就てはおよその見当がつきましたし,それに1回行つたことのあるSan Franciscoでは多少興味もうすらぎますので,未知の地Wisconsin州のMilwankeeで行われた第18回米国電子顕微鏡学会の方に素人としてただ傍聴するだけの目的で出かけました。もう一つの目的は私も多少個人的に興味を持つている筋・神経の微細構造に関する研究がどの程度進んでいるか,又それがどのように生理学的研究に役立ち得るかを知りたくも思つたからです。御承知のようにnerve,muscle等のexcitable membraneに就ては形態学者,生化学者生理学者がひとしく注目している所です。古くはRockfeller研究所のGasser,最近ではLondonのKatz等がこの方面に研究の手をひろげていることは御承知の通りです。ScattleのUniv. of WashingtonのDept,of Anatomyは米国は勿論今世界的に見ても電子顕微鏡研究の一大中心をなしております。
 ここのHead,Dr. Bennettは薬理学出身といわれるだけあつて只の形態学的研究のみに満足せずdynamicなphaseで形態をとらえようとしている点で私達にも大いに共鳴する所があります。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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