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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学12巻2号

1961年04月発行

雑誌目次

巻頭言

学問の境界領域

著者: 岡小天

ページ範囲:P.53 - P.53

 学問が進むにつれますます専門化していく傾向のあることは事実である。自然科学関係をみても物理学・天文学・化学・薬学・生物学・医学・農学・工学などとわかれ,さらにその各が多くの細かい専門分野にわかれ,その各分野もまたさらに細かい専門分野にわかれるといった具合である。このようにして,専門家はますます狭い範囲で深く堀り下げていこうとする。この場合,専門分野と専門分野との間にはいつの間にか自然に障壁ができ,これは学門の専門化とともにますます高く,ついには乗り越え難いものとなる。
 さて専門分野がその狭い範囲内に止まってしかもどこまでも深く堀り下げていくことができるならば,学門の専門化,分化の現象は誠に喜ぶべきものといわなければならないが,実はここに大変奇妙な現象が現われてくる。それは一つの狭い専門分野の中にだけ立てこもっていたのでは,堀り下げていく速さがしだいににぶり,その専門分野の進歩に限度があるという一事である。このことはいろいろな専門分野についてしだいに明らかになってきた。ある専門分野ではかなり以前から,またある専門分野ではようやく近頃になって,このような状態に達した。逆にいえば,このような飽和状態に早く達した分野ほど,進歩が早かったものといえよう。しかしこれは学問の進歩の一里塚にしかすぎないのであって,実はこれから先の道が問題なのである。

綜説

Oxidative Phosphorylation

著者: 萩原文二

ページ範囲:P.54 - P.61

 Ⅰ.まえがき
 oxidative phosphorylationとは広義には酸化還元反応と共軛して燐酸化反応が起り,前者によつて遊離されたエネルギーを高エネルギーの燐酸化合物の形に変換する現象である。しかし現在,この言葉は末端呼吸系(ピリジン助酵素やフラビン酵素を含めたサイトクローム系)と共軛した燐酸化,即ちrespiratory-chain phosphorylationの意味につかわれている。
 生体内に於ける各種の生理反応をエネルギーの立場から見ると,すべての反応はエネルギー要求反応(endergonic functions)とエネルギー遊離反応(exergonic functions)とにわけることができる。例えばアミノ酸から蛋白質,脂肪酸から高分子の脂質,グリコースからグリコーゲンや澱粉などがつくられるときのように,簡単な物質から高分子の物質が合成される反応は殆んど例外なく外からエネルギーを与えないと起らない。更に筋収縮のような機械的な仕事をするためにも,また濃度勾配に反して特定物質を必要な場所にとり入れる所謂active transportを行うためにもエネルギーが要求される。

蛔虫の代謝系—糖質代謝を中心として

著者: 大家裕

ページ範囲:P.62 - P.70

 形態学的,生態学的あるいは疫学的な研究が主流をなしてきた寄生虫学の分野にも,生化学的な視野からの考察が進められねばならぬという気運が近年とみにさかんとなってきたが,その嚆失をなすものとして,1949年ニューヨークにおいて開かれたアメリカの主要な寄生虫学者たちによる"Symposium on the Physiology of Parasite" J. Parasit.,36,175-226)をあげることができよう。これより以前においても,Weinland,Tischer,Adam,Harnish,von Brandをはじめとする多くの先駆的業積がなかったわけではない。しかしup to dateな意味での生化学的業積は1950年を境として質,量ともに急速に増加した。なかでも人間,豚の腸内寄生虫であるAscaris lumbricoides(以下蛔虫と記す)は,入手の容易さからも,また大いさが研究に適するところからも線虫研究の最もよい材料として用いられ,これについての多くの業積が集積されてきた。許された紙数内において,これらのすべてを網羅しつくすことは到底不可能であるのみならず,非力なる筆者の果し得るところでもない。

論述

電気的シナプスの微細構造

著者: 浜清

ページ範囲:P.72 - P.84

 Ⅰ.緒言
 シナプスは其の興奮伝達機構の様式により化学的シナプスと電気的シナプスの2種類に大別され,更に後者には一方向性の伝達を行うものと両方向性の伝達を行うものが区別される(Furshpan and Potter 1957,59, Katz 1959)。脊椎動物の中枢及び末梢に見られる各種のシナプスの多くは従来化学的シナプスと考えられており電気的シナプスの例は比較的に稀である。
(注)「シナプスとは此処では2個のノイロン,ノイロンと効果細胞あるいは受容細胞とノイロンが相接する部で,其の部を通して何等かの機構により一方向性あるいは両方向性に興奮の伝達が行われる場所の総称である。」

電気的シナップスと,ニューロン間の電気的連絡

著者: 渡辺昭

ページ範囲:P.85 - P.101

 Ⅰ.緒論
 ニューロン間の相互作用,ことにシナップス伝達の機構について,最近数年の間に解明された知見は決して少くないが,その中の一つの重要な分野として,ニューロン間の電気的相互作用の概念の復活を挙げることができよう。このことは,かなり古くから想像され,理論化され,論争のまととなり,近来の実験によつて一応否定されていたが,最近改めて実験的に発見されるに至つた。注意すべきことは,例えば電気的シナップスの発見という様な言葉が,シナップスの化学伝達学説の否定を意味するものでは全くないということである。シナップス伝達の電気説と化学説とが対立して論争を交した1930年代と現在との差は,前者が一般的な学説の間の論争であつたのに対して,後者は事実の発見を取扱つているという点に存在する。筋終板(muscle end-plate)に於ける運動神経線維→筋線維の興奮伝達が化学的であることについては,多くの優れた証左があり,これに電気説が適用される余地は,現在に於ても殆んどない(Castillo & Katz,1956参照10))。一方,別のある種のシナップスに於て,電気的伝達が行われることも事実である。しかもその伝達の方法は,以前に理論的に予想されていたものとは全く異る様式を持つことが見出されている。我々が今までシナップスと呼んでいたものの中には,多くの異つた型が存在し,あるものは電気的,あるものは化学的な機構を持つ。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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