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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学12巻4号

1961年08月発行

雑誌目次

巻頭言

欧文抄録について

著者: 高木貞敬

ページ範囲:P.153 - P.153

 近年日本語で書いた論文に欧文抄録(主として英文)をつけることが習慣のようになつています。しかし私はそれについて異論を持つています。
 もう大分前のことですがこの巻頭言で東大脳研の時実教授が外国の学者に逢われた時のことを書いておられます。その内容はある生理学者に逢われた折,その学者は「婦人がハイヒールをはいた時,下肢筋がどのように働くかという研究をしている」と云つてその内容を得々と話した。そこで時実教授はそんなことは日本ではすでにもつと精密な方法でやつていると云つてその紹介をされた所,彼は大あわてに色をなしてそれはどの雑誌に発表されているかと尋ね,それが日本語の何々という雑誌だと知るとそれなら安心だといつて,"日本語は国際語でない"から自分の方にPriorityがあると答えたそうです。また別の外国の学者は恰度日本から到着した論文をとり出して英文で書いたもののみを残し,和文で書かれたものは英文抄録がついていたにも拘らず,いらないといつて時実教授にくれたとのことです。これらのことを同教授は大変憤慨して書いておられます(生体の科学,第8巻第1号,1957)。

綜説

細胞内酵素系(その2)

著者: 小川和朗

ページ範囲:P.154 - P.162

 Ⅳ.核内酵素(Nuclear enzymes)
 Table 1に,一応,核内酵素群と思われる酵素の中,代表的なものを列挙しておいたが,酵素の核内所在を誤りなく決定するには,色々と難点が多い。
 先ず,分画遠沈法による場合,一番問題になるのは,酵素の転移(translocation)である。すなわち,核に吸着(adsorption)している糸粒体,あるいは核のすぐ周りの細胞質成分が,核と共に核内分画に入り,細胞質由来の酵素が核内酵素と見誤られたり,又,逆に,核内酵素,特に可溶性のもの(soluble nuclear enzymes)が,分画操作中に他の分画に移動したりして判定を困難にするのである。これらの,転移による判定の誤差を出来るだけ少なくするには,色々な分画法を併用して行ない,その結果を比較検討すると共に20),染色法による成績を参照するより他に道がないのであるが,残念ながら,核内酵素に関しては,細胞化学的染色法は,現在迄の所,余り貢献しておらない。

第38回日本生理学会シンポジウム総括報告

(1)生体膜ポンプ機構の研究展望

著者: 吉村寿人

ページ範囲:P.163 - P.168

 生体膜ポンプとはactive transportのmechanismをさしたものであるが,本symposiumの冒頭に当つて東邦大学塚田教授はこのactive transportの定義,機構等について要領のよい解説を行つた。それによると,active transportは拡散,電位差,solvent drag等の物理的な力では説明の出来ない物質の膜輸送現象であつて,生体膜には選択的に一定の物質をその濃度や電位差と無関係に一定方向に向つて輸送し得る能力があり,それにはenergy消費を伴うが,この様にして動かされる物質の移動現象をactive transportと言つている。生体膜の物質透過現象は単にactive transportのみならずpassive transportもあるわけであるが,この両者を区別する為にはUssing1)によつて誘導せられた次の式を利用し,これに一致する場合にはpassive transport,そうでない時にはactive transportをうたがい得る事を示してisotopeによるFlux測定の必要なる事を説明した。
【Mi/Mo=Ao/Ai e ZF/RT E】ここにMi,Moはinfluxとoutflux,Ao,Aiは膜の外側と内側の溶液中の物質のactivity,Eは膜両側間のpotentialである。

(2)赤血球の構造と機能

著者: 簑島高

ページ範囲:P.169 - P.172

 私はシンポジウムBの座長を致しましたので,その報告を致します。これは七つの演題と舟木助教授の解説口演から成つて居りますが,以上をまとめて報告申上げます。
 解説口演者舟木助教授は皆様ご存知のように,多年赤血球の形と機能と構造に関して詳細に研究されているのでございます。赤血球は酸素を内に取り入れて,他の組織にこれを供給するもので,その形と酸素の赤血球内部への拡散との間に一定の関係のあることを既にE. Ponder(1925)が試みて居りますが,舟木助教授は更にPonderの式を拡張し一般化して脊椎動物の赤血球の形態は直角座標で次の様に表わされることを証明したのであります。即ち(x2+y2+a22-4a2x2=c4,(aは二つの固定点の距離の2倍,cはパラメーターを表わす)。これはCassiniのovalといわれ,脊椎動物の赤血球の形態はこのa/cの小さい方から大きい方へ系統発生的に変化して行くのでありまして,円口類ではa/cが小さく,円に近く,鳥類ではこれが大きく,楕円となつています。また,哺乳動物の赤血球は大部分双凹円板状でa/cは最大を示すものであります。更に各脊椎動物の発生後の存続年限とa/cとの関係は大体直線的であると述べて居ります。

(3)心筋の興奮性

著者: 内山孝一

ページ範囲:P.173 - P.176

 解説口演"心筋の興奮性"松田幸次郎教授 心筋の興奮性に関しては,固有心筋と特殊筋系および両者の移行部について,活動の各時相を明かにする必要がある。また外部からの刺激によつておこるinduced action potentialsのみならずautomatic action potentialsについての知見が必要であるが,これらの事項には未知のものが多いことを指摘した。
 従つてこの解説では,この秋来朝予定のBrooks教授に敬意を表して,哺乳動物心室についての同教授および門下の業績紹介を中心として述べた。

(4)副腎皮質電解質ホルモンの生理

著者: 中尾健

ページ範囲:P.177 - P.182

 副腎皮質電解質ホルモンの研究は,Cortisol系の所謂Glucocorticoidsの素晴らしい臨床効果とそれに伴つた輝しい研究進展のため,その陰にかくされ,甚だ低調の感があつたが,1952年Simpson & TaitによるEl ectrocortin(Aldo-sterone)の発見と,これが浮腫性疾患等との間にある密接な関係のあることが次第に判明するに及び副腎皮質電解質ホルモンに対する関心は俄かに高まつて来た。しかしながらこの方面の研究は基礎的研究よりむしろ臨床方面に於いて盛んであり,基礎方面の一層の発展が期待されていた折から第38回日本生理学会総会に於いて吉村会長が本課題をとりあげられたことは真に意義深く,敬意を表するものである。
 シンポジウムは先ず千大生理福田篤郎教授の副腎電解質ホルモンの生理に関する解説口演で開始され,まず副腎皮質電解質ホルモン研究の歴史的進展について教授の見解と紹介があり,結論として福田教授は多年の教授自身の業績を基礎として今後の研究者は次の4点について注意すべきことを強調された。(1)Aldosterone分泌量は皮質糖質ステロイドに比し極めて僅少であり,その尿中排泄量は分泌量の極く一部に過ぎず,又肝に於ける代謝に支配されるため,尿中排泄量よりしてAldosterone分泌情況を伺うことには問題がある。

(5)神経系における抑制と促進の機構

著者: 大谷卓造

ページ範囲:P.183 - P.186

 本シンポジウムは神経系に於ける抑制と促進の機構の第1部をなすものである。第2部,第3部と比較してその特徴と考えられる点は,抑制・促進の機構を単一ニウロンのレベルで考えるという点にあるかと思われる。時間の制限のため,この日の論題は中枢神経系,それも脊椎動物の中枢神経系に限られた。話の順序として従来から知られている事実を簡単に紹介すると,先ず第1に脊椎動物の中枢神経では現在確認されているシナプス伝達はすべて化学的伝達であるということ,即ちシナプス前の神経衝撃によつて遊離された伝達物質の作用で興奮性のシナプス電位(EPSP)或は抑制性のシナプス電位(IPSP)が細胞体に発生することによつて,細胞体の活動の促進なり抑制なりが起るということである。このようなシナプス電位の発生機構は,細胞内電極の適用によつて脊髄の運動ニウロンへの伝達について詳しく研究されている。また脊髄ではIPSPを伴わない抑制機構の存在することもremote inhibitionという名で知られている。一般に膜の脱分極は促進的にはたらき,過分極は抑制的にはたらくという点は,末梢神経で古くから知られている電気緊張と同じ原理である。また過度の持続的な脱分極は細胞の不活性化を招くことが末梢神経では古くから陰極抑圧作用として知られているが,同じ作用による抑制が小脳のプルキニエ細胞で起ることも見出された。

(6)神経系における抑制と促進の機構—生化学との関聯に於いて

著者: 林髞

ページ範囲:P.187 - P.189

 京都生理学会(昭和36年4月,会長吉村寿人,岩瀬善彦)は表記のようなシンポジウムをいくつかに分けて行つた。或るものは電気生理学的に,又或るものは脳波学的に,この問題を取り扱い,各々異る座長のもとに解説講演と総括講演とをなしたが,私が座長となつて行つたのは,この同じ問題についての専ら化学的方面よりの研究についてである。
 この一文は概括的にその当日の模様を述べようとしたものである。

(7)神経系における抑制と促進の機構

著者: 吉井直三郎

ページ範囲:P.190 - P.193

 表題のシンポジウム第3部で報告された論文は「脳波」に関するものであります。現在の段階では脳波はまだニウロン準位で理解するに到つておりませんから,「神経系における抑制と促進の機構」の解明を期待された方にはこの第3部はお役に立たなかつたかと思います。しかしながら神経系の「抑制と促進の機構」を内蔵している脳波の研究が,現在どのように進められているか,将来どの方向に進められるべきかを知ろうとする人には,多くの収穫があつたと思います。
(1)ニウロンの集団反応としての脳波は,一方の極は行動と,他方の極はニウロン活動とつながり,両者をむすび付ける仲介者として,またかつては末梢反応を通じて想像していた中枢活動を直接観察する手段として,役立つております。現在では私達は皮質皮質下脳波を,同時に多数の領域から,記録出来ますので,私達は脳波記録を見れば,個体が睡眠状態にあるか,覚醒状態にあるか,或はまた注意集中状態にあるかを判断出来るようになりました。また発作波を見ると,どういう種類の発作か,それは何処に焦点があるのかということも判るのであります。しかし最もむつかしいのは,脳波を見て,どういう種類の感覚刺激が与えられたのか,どういう末梢反応がおこつたのか,判断することであります。

(8)感覚受容機構の電気生理

著者: 本川弘一

ページ範囲:P.194 - P.198

 神経経維の生理学は可なり明らかになつているが,それに比して受容器の機構の解明は立遅れている。現在,最もよく知られているのは,mechanoreceptorsの機構である。Katzが筋の受容器なる筋紡錘ではじめて明らかにしたように,この受容器に刺激(伸長)が加わると,受容器電位(receptor potential)という比較的ゆるやかに経過する電位が発生して,それがある程度に達すると知覚神経に伝導性のインパルスを生ずるのである。受容器電位が(Granitのいわゆるgenerator potentialとしての役目を果すものと考えられる。圧覚の受容器と考えられているPacini小体でも同様の関係になつていることは佐藤,Grayの研究で明らかにされた。Pacini小体の構造は複雑であるが,原理的には簡単であつて,知覚神経の無髄の部分が機械的に刺激されて受容器電位を発生し,それに基づく電流によつて有髄部のランビエー絞輪が発火させられるものである(第1図参照)。この小体の層状構造物は組織学的には甚だ特異なものであるが,興奮のメカニズムと直接の関係をもたないものらしく,層状物を除去しても尚機械的刺激に応じてインパルスを発生するのである(Loewenstein)。
 ザリガニのmechanoreceptorではこの関係が一層はつきりしている。

寄書

Ca, Mg分離定量へのGEDTA応用の1例

著者: 山内郁子

ページ範囲:P.199 - P.200

 GEDTA(glycoletherdiaminetetraacetic acid)はCaとMgに対するキレート生成定数に106の開きがあり1),2)CaとMgの共存下では,実際上,Caのみをキレートする特異なキレート剤である。この性質は既に,CaとMgの分析に応用されているが3),著者も次の様な場合GEDTAを応用し,好結果を得ているので簡単に紹介する。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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