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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学12巻5号

1961年10月発行

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巻頭言

独創的研究とは何か

著者: 阿南功一

ページ範囲:P.203 - P.203

 こういう題目で書くのは自分の研究実績を顧みてもおこがましいのではあるけれども,敢えて私が日頃感じて来たことを述べさせて戴きます。
 さて最近の研究発表誌と研究論文の多いこと,またその増加ぶりは大変なものです。今日の学問研究の発展進歩が無数の業績の基礎の上に積み上げられてきたことは事実であります。しかし飜つて自分の立場,換言すれば自分の利用し得る研究費,実験設備,研究協力者,また自分の心身のエネルギーを考えて見る時,少なくとも私としては特に必要のない限り「調査的実験」は避けたいものです。今日の莫大な研究論文中に多数の調査的あるいは追試的実験と思われるものが含まれています。私のオレゴン医大滞在中に聞いた話ですが,米国の某大学のさる教授は細菌中の糖成分の二三を測定しては細菌別に一論文として出したので無数の論文ができ上つたとか。この話には誇張もありましようし,勿論極端な例ですが,現状の一面を衡いている点で面白く聞きました。一昔か二昔前までは,ある蛋白性物質を抽出してそのアミノ酸組成を調べることは一応立派な研究テーマでしたが,自動アミノ酸分析器の売出され始めた今日では,もはや調査のニューアンスが濃くなつてきました。

綜説

神経細胞の興奮機構を分子レベルから

著者: 大木幸介

ページ範囲:P.204 - P.213

 I.まえがき
 神経の研究は動物,なかでも人体生理学の中心課題であつて,その集りである脳を解明することは"人間"の問題を解くカギといえよう。古く1780年のイタリアの医学者L.Galvaniによる生物電気の発見から,神経の研究は電気現象を中心に行われ,今世紀初めにはオッシログラフが使われるようになり,1940年頃には単一の神経線維をとり出して詳しい研究が行えるようになつた。この間1902年にドイツの生理学者J.Bernstein1)によつて神経の電気発生は細胞内に多いKによる電位が細胞膜を通して失われて生ずるという膜説が立てられたが,1952年に英国の生理学者A.L.HodgkinおよびA.F.Huxley2)3)4)は単一神経線維の詳しい研究から,神経の電気発生は細胞外に多いNaの急激な流入によるのであり,Naの多いことはNaをくみ出すNaポンプが働いているとしてそれまでの電気現象をたくみに説明した。
 このような電気生理学の成果の反面,神経は取りあつかいが難しく,他の細胞に比べて構造的,化学的研究が遅れていた。しかし1940年代の電子顕微鏡の発達,それにつづく組織化学の発展,これとならんで物質代謝の研究はつぎつぎに新しい面を開拓し,最近では神経の現象もやつと"分子レベル"で論じられるようになつた。しかも神経の集りである脳の働らきの一つ,記憶という現象まで論じられるようになつた。

いわゆる肝臓毒の作用機序—ストレス性脂肝及び壊死の発生機序に関する1考察

著者: 山添三郎

ページ範囲:P.214 - P.224

 従来肝臓毒の直接作用ともみられた肝変化の多くは,Selyeのいわゆるストレス学説で説明がつくように思われる。したがつて肝臓毒作用の研究に当つては,ストレッサーとしての非特異的作用と,それとは別個の特異的作用を明確に区別して検討することが必要である。CCl4中毒に関する限り,Calvert & Brodyの説は下垂体—副腎皮質系を考慮しない点にも問題があると思われるが,同時にRecknagelらのいう肝の脂肪分泌阻害作用を併せて考慮する必要がありそうに思われ,今後の発展に興味がもたれる。

座談会

脳波研究の将来—第10回脳波学会(昭和36年5月)の際に

著者: 岩瀬善彦 ,   本川弘一 ,   勝木保次 ,   岩間吉也 ,   佐藤謙助 ,   沢政一 ,   大谷卓造 ,   吉井直三郎 ,   阪本捷房 ,   佐野圭司 ,   和田豊治 ,   渡辺茂夫 ,   島薗安雄 ,   伊沢秀而

ページ範囲:P.225 - P.242

 I.基礎的方面
 岩瀬 1939年脳波がBergerによつて発見されてから約20年,本学会も10回目を迎えるに至りました。
 そこで「脳波研究の将来」について忌憚のない御意見を出していただくべく,学会出席申込をされた評議員の方々にお集りいただきましたわけであります。

報告

αまたはβ-naphthol結合体を基質とするPhosphataseとEsteraseの組織化学的証明におけるAzo色素の性状と酵素の局在性について

著者: 森昌彦 ,   中村三郎

ページ範囲:P.243 - P.249

 Ⅰ.緒言
 水解酵素(hydrolytic enzyme)の組織化学的証明法は金属塩法(Gomori,高松)とazo色素結合法との2方法に大別される。前者の金属塩法はalkaline phosphatase(ALP ase)とacid phosphatase(ACPase)に限られ,他の水解酵素,例えばesterase,β-glucuronidase等はこの方法で証明することは出来ない。これに反し後者のazo色素結合法は多数の水解酵素の組織化学的証明に応用することが可能である。即ちnaphthol又はnaphthylamineと結合させた夫々の基質成分を使用し,その芳香簇化合物が水解され遊離して生じたnaphtholとdiazonium塩を結合させ有色性のazo色素を作るものである。このazo色素結合法の基質として用いられているα-naphtholとβ-naphtholとでは同じdiazonium塩とazo色素形成を行つても反応色調が異なるのみならず,azo色素の形成速度が違いdiffusion artefaet等もみられる。今回はALP-aseとACP-ase,並びにesteraseのazo色素の結合法に使用されるα又はβ-naphthol結合体又はその他のsubstitutcd naphtholと比較した成績につき報告し,この方面の研究者の参考資料としたい。

寄書

生体の科学の実験に対する心構え—或る生物物理学者の意見

著者: 大西勁

ページ範囲:P.250 - P.254

 表題の様なテーマについて何か書け,と言われて大変困つた。その様な心構えが私にある筈はないし,第一,その心構えについて,まつ先に教わりたいのは,こちらの方だからである。どうも,昨夏志賀高原の生物物理若手夏の学校で気焔を上げたのが編集者のお耳に入つたらしく,今更後悔しても後の祭である。それで,この機会に,今迄筋肉や筋肉蛋白質の物理,化学的研究を通じて,自分なりに考え,悩み,暗中模索しつつ体得して来た,「実験」と言うものに対する私のイメージをまとめて見る事にした。高尚な御説教ではない。もつともつと泥くさい,例えば,実験装置を設計するにはどうしたらよいか,とか,実験方法に自信を失つた時には,どうしたら良かろうか等と言つた問題について考えて見たいと思う。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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