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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学13巻3号

1962年06月発行

雑誌目次

巻頭言

"基礎振興"に一言

著者: 関根隆光

ページ範囲:P.109 - P.109

 近頃,基礎医学へ残る人がいなくて困るという話を随分聞く。勿論大学によつてもその程度は大分違うらしいし,また教室によつても差があるようである。このことは先日の医学部長会議でもとり上げられた由であるが,今や基礎医学振興という問題は,医学の進歩あるいは,医学教育制度における重要課題となりつつあるように思われる。
 しかし,果して基礎医学は本当に衰微しつつあるのだろうか。

綜説

血液型物質の生化学—特にその型特異性の発現に関する最近の知見を中心として

著者: 吉沢善作

ページ範囲:P.110 - P.119

 まえがき
 ヒトの血液型にはABO式,Lewis式,MN式その他多数のものが知られているが,そのうち生化学的研究の対象にされてきたものは主としてABO式やLewis式血液型物質である。これらの物質は化学的にムコ多糖体性のもの,ムコ蛋白(正宗のグルシダミン)性のもの及びムコリピド(複合脂質)性のものであることが指摘されておる。従来のおびただしい研究成果の紹介はいくつかの綜説1-15)や著書16)17)などにゆずり,本稿では特にムコ多糖体性血液型物質の型特異性の発現に関する最近の知見や問題点についてのみふれるにとどめたい。

ポルフィリン環の生合成

著者: 佐野晴洋

ページ範囲:P.120 - P.130

 Ⅰ.緒言
 ポルィリンは広く動物界,植物界を通じ分布している一群の色素群を云い,この中でも遊離のポルフィリンとして存在する量は正常時に比較的少く,大部分はポルフィリンの鉄化合物であるヘム(全ヘムの70〜80%は血色素,10%はミオグロビン)又はヘム蛋白(全ヘムの1%,cytochrome a,b,c型,catalase,peroxidase等)と植物界のMg化合物であるクロロフィルの形で存在している。
 1880年以来,Hoppe-Seyler,Nencki,Küster,Willstäter等のポルフィリンに関する化学的研究があつたが,それらの業蹟の最も完成された形として現れたのはHans Fischer一派の仕事であり,就中ヘム全合成の偉業に対しては1930年度のノーベル賞が受与されている。ポルフィリン及びピロールの有機化学を専攻する者にとつては彼の著した"Die Chemie des Pyrrols"3巻を熟読する必要がある。

運動系の生理学の2,3の問題

著者: 島津浩

ページ範囲:P.131 - P.144

 Ⅰ.緒論
 運動系の生理学の歴史をふりかえつてみると,そこにはいくつかの研究のピークがあつたように思われる。中枢神経系の生理学的研究の端緒となつたFritsch & Hitzigの大脳皮質刺激実験はしばらくおき,系としての運動の機構を体系化した第1のピークはいうまでもなくSherrington及びMagnusによつて代表される脊髄反射及び姿勢反射の研究であろう(Creed,Denny-Brown Eccles,Liddell & Sherrington,1932;Magnus,1924)。彼等およびその協同研究者達によつて,運動系についてわれわれが今日もちいている多くの生理学的概念はほとんど余すところなく提起されたといつても過言ではない。
 Sherrington学派の多くの研究のなかでその後の研究に大きな影響をあたえた偉大な足跡は,第1に反射性緊張reflex tonusの概念を提唱して姿勢postureの維持を運動movementから区別したこと,第2に姿勢反応sustained postural reactionと相動性運動quick phasic movementを運動系の異なる機能的単位に求めたこと,第3に中枢神経系における相反性神経支配reciprocal innervationの原理を確立したことの3つが数えられるであろう。

報告

刺激に対する神経の時間的特性(補遺)

著者: 若林勲 ,   佐藤侑子

ページ範囲:P.145 - P.151

 反復刺激に於ける毎回の刺激効果を同じようにするA. R. S. の時間的布置の法則はトノサマガエル・ウシガエル・ヒキガエルのように近縁な動物の坐骨神経の間でも同じでない。
 反復刺激の頻度が高くなるとスパイクの漸減のみならず交代・頻度半減からさらに刺激が弱い時には屡々周期の形成がおこる。著者はさらに落伍現象とおくれの現象に注意した。これらは互に独立ではなく交代しつつあるいは周期をつくりつつ漸減することは普通に見られる。Vedensky現象は神経幹でも神経線維でも見られ刺激が弱いほどあらわれ易い。ある条件では漸増が見られた。
 各種神経の特性として蛙類の坐骨神経のほか腹神経・迷走神経・交感神経・迷走交感神経・皮膚神経・腎神経等で反復刺激によるスパイク漸減の有無・不応期の長短・閾・伝導速度・クロナキシー等を単一刺激による波形を参照しつつ求めた。時間特性の短かいのは勿論運動神経で,長いものは心臓迷走・交感神経の遅波であつて,その絶対不応期7〜8msec,伝導速度0.3〜0.6m/sec,腎神経でも同様の速度(0.5〜0.6m/sec)であつた。

論述

終板の電気現象

著者: 竹内昭

ページ範囲:P.152 - P.162

 原形質による連絡のない細胞間に興奮の伝達が起る場合,第二の細胞を興奮させる中介者が,第一の細胞の活動電流か又はそれから遊離された化学物質によるかで,電気的シナプスと化学的シナプスとに大別される。従来見出されているものは多く化学的シナプスであり,神経筋接合部はこの一つの代表とみなされる。
 神経筋伝達についても,古くは電気説と化学説との間で論争が行われたが,現在では化学的伝達説が確立されている。この説の基礎となつた事実としては,終板が種々の薬物に敏感であること。(例えばニコチン43)44)やアセチルコリン(Ach)2)。特に後者は神経を刺激しながら筋を灌流した灌流液の中に認められることから12),神経筋伝達の伝達物質として重要な意義を持つている。)クラレの様な薬物が選択的に神経筋伝達を遮断すること。コリンエステラーゼが終織化学的に高濃度に端板に認められ39),又抗コリンエステラーゼ剤によつて神経筋伝達の効果が増し,その持続時間が延長すること17),神経組織でAchが合成され,又これからAchが抽出されること22)46)47)等であろう。

寄書

金属微小電極の電気分極性

著者: 村田計一 ,   亀田和夫

ページ範囲:P.163 - P.165

 タングステン微小電極(1)が創案されて,無麻酔動物の中枢神経系の単一ニューロンからのインパルスの誘導が可能となり,以来相ついで多くの業績が報ぜられている。この電極の電極抵抗は第1表第4列に見られる様に同程度の先端口径を持つガラス毛細管微小電極のそれに比して桁外れに大きい値を示す。これらの値は在来の毛細管微小電極抵抗測定器により測定されたもので23サイクルにおけるインピーダンスである。この過大な抵抗は金属表面に於ける電気分極によると考えタングステン始め二三の金属の分極容量等の電気的な性質を比較して見た。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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