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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学13巻4号

1962年08月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学振興の一つの対策

著者: 問田直幹

ページ範囲:P.167 - P.167

 戦後の医学の発展は基礎と臨床のいずれの分野でも目ざましいものがある。そしてわが国がこの発展に部分的ながら大きな役割を果してきたことは欧米の学者も認めるところである。それにもかかわらず日本における基礎医学の危機が今日ほどやかましく叫ばれることはなかつた。この危機の対策について思いをめぐらすことは基礎医学の一分野で働らくものの義務でもあると思われるのでここに筆をとつた次第である。
 さて一体基礎医学の危機というが,それは何をさすのか。これをはつきりさせない限り対策もたてられないわけである。多くの人の考えているところは,基礎医学の研究をするものが減つてきたことではなかろうか。そのほかのこと例えば研究費の不足というようなことは基礎医学にだけ限られたことではない。それで私は重点を基礎医学者の確保ということにしぼつて考えてみたい。

綜説

自律神経節伝達における現在の問題

著者: 藤原元始

ページ範囲:P.168 - P.181

 Ⅰ.緒言
 自律神経節の生理及び薬理については優れた綜説3)4)86)134)145)150)189)が数多く,そのうち島本172)は神経節遮断剤に関連して2,3の示唆的な問題を提起している。ここではその後の神経節生理及び薬理の発展を中心として論述する。先ず自律神経節の形態的特徴を述べ,次いでその機能及び興奮伝達機構に論及し,最後に自律神経節を中心とした薬物効果に及ぶこととする。
 神経節をとり囲む組織は比較的硬固で柔軟性に乏しいことが,神経節における衝撃伝達機構の究明に特に電気生理学的方法の応用を阻んでいる。従つて神経筋接合部の研究に比して,自律神経節の生理及び薬理学的研究は不利な位置にある。しかしこの両者における伝達機構には類似点が多く143),一方における結論を他に適用するのが常である。しかし尚両者は多くの点で形態的及び機能的に異るので,薬物作用の面でも少からず相違することを銘記すべきである。

無細胞系に対するEstrogenの作用

著者: 白須敞夫

ページ範囲:P.182 - P.188

 Ⅰ.はしがき
 ホルモンの作用機構を酵素系と直接結びつけようとする試みは,近代の生化学における一つの流れであるが,この様な試みから生れた業績の多くが,後になつて,その生物学的意義を疑われるに至つたことを考えるとき,この種の業績の評価に当つては,極めて慎重でなければならない。
 しかし,Sutherland1)は,10年に亘るepinephrineの研究を通じて,ホルモンの作用を無細胞系において呈示することに初めて成功した。このことは,ホルモンの作用は酵素レベルにおいて解明し得るであろうという希望を強めるものであつた。

論述

Bionicsの紹介—副題neuronの電子的modelと頭脳の電子modelとしての学習機械を中心として

著者: 東野庄司

ページ範囲:P.189 - P.203

 第1部 Bionicsの概要
 1.序論
 工学の分野,特に電子工学は最近飛躍的な発展を遂げつつある。そして種々の電子装置を用いる情報処理の問題は増々尨大且複雑化している。この事は工場のみならず,銀行,証券会社等の社会機構全般の変革を齎らしている。この様な複雑な情報処理を能率よく行う為に生物系の現象を取入れる事が必要となつた。ここに紹介するBionicsはこの様な要求の為に米国に於て生れた新しい分野の学問であつて,これは医学者が,工学的な技術を応用して種々の診断や治療装置を考えているのと反対に,工学者が生物的性質を工学の分野に応用しようとしていることである。そして,中枢神経系を解明する為の手段として,neuronの電子モデルである“neuromime”や,頭脳の電子モデルとしての学習機械perceptronが生れた。生物のもつ刺激変換器(transducer)は人間の作つた機械に比べて驚くべき感度をもつている。夜盗虫の耳は3本のnerve fibreしかもつていないが,こうもりの超音波のsonar(航行用音波)を検知することができ,広い廻り道をして地の中へもぐると云う逃避作用を行う。こうもり自身は,周囲の雑音の中から彼の出すsonarに対する小さな物体の反射を検知することができる。

寄書

キヤンベラの研究者たち

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.204 - P.207

 著者は1959年2月から1962年の5月までオーストラリアのCanberra市に滞在し,The Australian National UniversityにおいてEccles教授のもとに集る1群の生理学者達の間に生活する機会を得た。周知のようにEccles教授は微小電極による脊髄運動神経細胞の研究を創始した人でその研究室は現在甚だ活発な活動を行つている。温血動物用の実験室5つ,化学室1つ,組織標本室1つ,工作室1つをもちEccles教授,その長女のRose,Curtis(現在の地位はリーダー)を始め10人から15人の研究者がそれと略同数の技術員達と共に働いて居り,人々の間には恐るべき活気がある。又街は美しく生活は豊かで筆者にとつてはまことに楽しい年3有余の歳月であつた。
 滞在期間中,1961年の6月,微小電極が始めて運動神経細胞に刺入された実験の10周年記念として,一夜盛大なパーテイが開かれ,Eccles教授とCoombs氏が主催者となつて教室員とその家族が招待された。招待状は1951年Proceedings of the University of Otago Medical School(Vol. 29,No. 2,pp. 14 and 15)に始めて運動神経細胞からの細胞内誘導電位を発表した別刷の余白に印刷されてあつた(写真参照)。

学会記

Conference on the Biochemistry of Muscle Contraction

著者: 江橋節郎

ページ範囲:P.208 - P.209

 この会は,去る5月23〜26日,ボストンの郊外,DedhamのEndicott Houseで開かれました。参加者は約70名,そのうち16名は海外(英6,独3,日2,白2,加1,瑞典1,伊1)からです。日本からは,大沢文夫さんと私が出席しました(殿村さんが都合で,来られなかつたのは残念です)。
 会を主宰したJohn Gergelyは,今まで,Massuchusetts General Hospitalにいたのですが,今度,Retina Foundation(ボストンにある,本来はretinaのためのFoundation)が建てた研究所の筋部門の部長になりました。それを記念してというわけでもないでしようが,その社会的立場が固まつた機会に,この様な大規模なシンポジウムを計画したというわけです。彼はSzent-Györgyi門下の一人ですが,その才人ぶりからして,この様な企画には,もつとも適しているというのが,大方の評判でした。この下馬評はみごとに当り,この会は,Gergelyのする事に批判的な人々の間でも,非常に好評でした。もつともその背後には,強大な米国の資本力があることは否めません。余談になりますが,今度の旅行で特に感じたことは,米国政府の基礎科学への熱のいれ様です。数字の面だけでいつても,NIHの出す研究費は,3年前の約倍になつています。いつたん縮つたかに見えた日米研究費の比は,ここで,またグンと離されてしまいました。

第22回 国際生理科学会議のProceedingsから

著者:

ページ範囲:P.210 - P.214

 第22回国際生理科学会議は,この9月10日から,オランダの古都Leidenで開かれることとなつている。次回1955年,同会議を東京で開こうという日本にとつては,この学会の運営方法や成果は,他国の行事として無関心ではいられない。
 この会の運営で,一寸奇妙に感ぜられたことは,会期の半年以上も前に,抄録の提出と共に講演原稿を要求して来たことである。その真意がどこにあるか掴み難いが未完の業績又はこれから手を下そうというような業績の演題だけを登録しようという一部の不心得な学者を締め出すという意図であるかも知れない。それにしても,半年以上も前に業績の全容が解る様な原稿を提出する事は学会で講演するまで,その内容を他の雑誌などに発表することが許されていない以上,大きな問題を含むものであろう。殊にpriorityを争つてしのぎを削つている米国の研究者の間では評判がよくなかつた様である(皮肉なことに演題だけで抄録未提出の講演がかなりの数に上つている。こういう悪例には,もつと断乎たる態度をとつて欲しかつた)。

第1回国際薬理学会印象記

著者: 田辺恒義

ページ範囲:P.215 - P.218

 1950年に国際生理科学連合(IUPS)が出来,1959年にはIUPSの中に薬理部門(Section of Pharmacology,SEPHARと略記)が誕生,爾来SEPHARはIUPSの一部門として国際生理学会に参加して来た。しかし近年薬理学者の数が著しく増し,学問の内容も膨大になつたので,国際生理学会の外にSEPHAR主催の国際薬理学会を持つて見ようという事になり,まづ組織委員会が出来た。委員長Schmidt教授(米),副委員長Uvnäs教授(スェーデン),事務局長Wretlind博士及び同補佐Berglund博士(スェーデン),委員21名からなつた。日本からは東大熊谷洋教授が委員となつた。かくして1961年8月22〜25日第一回国際薬理学会がStock holmで開かれるに至つた。同年8月中旬にMoscowで開かれた第5回国際生化学会に出席した人達の参加し易い時期を選んだ事はいうまでもない。
 学会準備を担当したのはKarolinska Institutの薬理学教室(教授1,副教授2,助教授2,講師及び助手14名外に研究員従業員等を合せて総勢約70名の陣容と聞く)であり,之にスカンジナビア4カ国の薬理学者の応援があつた様である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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