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雑誌文献

生体の科学13巻6号

1962年12月発行

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巻頭言

研究結果の発表

著者: 田中潔

ページ範囲:P.271 - P.271

 「研究結果をまとめたり発表したりしないで,ただ研究だけしていてよいならば,どんなに幸福であろう」とは,ある著名な研究者の言葉であるが,発表しない研究は道楽というもので,他人の金でする研究には許されないことである。たとえ私費でまかなう道楽的研究であつても,社会道徳的には発表の義務があろう。
 私はここで研究発表をしない人を責めるつもりはなかつた。そういう人は現在の日本医学会にはまず見当らないくらいまれであるから問題でない。反対に必要以上に発表したがる傾向が問題なのである。

論述

主としてネコの肢蹠の電位変動を通じてみた交感神経系の中枢機構について

著者: 横田敏勝

ページ範囲:P.272 - P.283

 ネコの肢蹠の皮膚にみられる電位変動は,汗腺の活動電位によるものと考えられている(McLeary,1950,Wang,1957)。従つて汗腺の性質として知られているところから推定すると,この電位変動は交感神経の活動によつて規定されているものと思われる。
 この電位変動は,これまで主として皮膚電気反射galvanic skin reflex,GSRとしてとり上げられてきた。しかし私(横田,1962)がすでに報告したように肢蹠の皮膚の電位水準は,sudomotor neuroneのtonic dischargeと平行関係があるとみられるので,Wang,Stein,Brown(1956)の用いた末梢知覚神経刺激による脊髄反射性GSRの振幅と共に,脳刺激のsudomotor neuroneに及ぼす影響を知る上の有力な指標と考えられる。

Rabbit Ear Chamberによる微細循環動態の研究法について

著者: 浅野牧茂 ,   吉田敬一 ,   田多井吉之介

ページ範囲:P.285 - P.294

 生理学的ならびに薬理学的研究に適するようRabbit Ear Chamber(REC)の改良を行い,microcirculation動態を観察するとともに,その半定量的記録法としてmicrophotoelectric plethysmography(MPPG)を考案して次のような結果をえた。
 1.RECを本邦産家兎に適合し,かつ生理学的・薬理学的研究に便利な寸法のものとし,佳良な新生血管網をうることができた。
 2.顕微鏡で観察されるREC内microcirculationの動態を半定量的に記録する方法として,CdS photoconductive cellを顕微鏡写真撮影adaptorあるいは双眼顕微鏡の一眼に装着して血管運動に伴う光量変化を誘導記録するMPPGを開発し,RECの直視下観察と併用してよい成績をえた。
 3.正常無処置家兎のRECにおいて,同一系統のarteriole-capillary-venuleというmicrocirculation単位は独立して血管径ならびに血流量の増減による周期的変動を示した。その周期はおよそ20〜50秒で,20°〜25℃の環境温度でよく観察された。
 4.adrenaline投与によつて血管が持続的に収縮すると同時に正常周期変化が認め難くなるのが観察された。

有機燐化合物の分子藥理学的研究

著者: 木村正康

ページ範囲:P.295 - P.304

 Ⅰ.緒言
 有機燐化合物は農薬殺虫剤として発展して来たが,人畜に対する強力な毒作用があるため薬理学的領域においては,その作用機序を中心として研究されて来た。その結果,有機燐化合物はChoiesterase(ChE)に対する顕著な酵素阻害剤であることが明らかにされた。著者はこの事実から出発して,新たに有機燐化合物の抗Acetylcholine(ACh)作用を追求し,有機燐化合物の薬理作用上の排反性を確認し得た。
 このことは薬物受容体理論において,特にACh受容体とChE酵素との相関性を究明してゆく上に,一つの方法論的根拠を与えたと思われる。薬物受容体理論は薬理学的作用概念として誕生し,批判的検討と共に,多くの研究が行われ近年仮説の域を脱して来ている動向にある。薬学領域においても,この薬物受容体理論が積極的に導入され,薬物の拮抗現象1)を解明する際の基盤的役割とか,或いは新薬の設計上の方法論的役割などを演じている。

細菌における薬剤耐性の生化学的機構—特に多剤耐性腸内細菌の耐性機構を中心として

著者: 横田健

ページ範囲:P.305 - P.319

 緒言
 1959年,秋葉ら1),および落合ら2)によつて,腸内細菌の化学療法剤耐性を支配する細胞質性遺伝因子(cytoplasmic genetic element),すなわち耐性因子(resistance-factor:R-factor)が発見された。秋葉3)は疫学的研究から出発し,近年,急激に増加しつつあるsulphonamide(SA),chloramphenicol(CM),tetracycline(TC)およびstreptomycin(SM)のすべてに高度の耐性を有する,いわゆる多剤耐性赤痢菌の起源は,薬剤と赤痢菌との間の直接的な関係から生じたものではなくて,長期間にわたるこれらの薬剤の使用により,まず腸内常住細菌である大腸菌のなかに多剤耐性株が発生し,この耐性大腸菌を保有する人が赤痢菌の感染をうけた場合に,何等かの機序により,耐性大腸菌の薬剤耐性という遺伝形質が一挙に感性赤痢菌に伝達されたものであろうという仮説を提唱し,又実際に人から分離された薬剤耐性大腸菌から,in vitroにおける混合培養によつて,耐性という性質が,感性赤痢菌に伝達されることを証明した1)

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生体の科学 第13巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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