icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学14巻1号

1963年02月発行

雑誌目次

特集 第9回中枢神経系の生理学シンポジウム

脳内カテコールアミンに就いて

著者: 吉田博

ページ範囲:P.2 - P.9

 カテコールアミン(C. A. と以下略記する)は先ず副腎髄質に存在し,そこから分泌されるホルモンとして認識されたが,その後交感神経末端に於ける神経伝達物質としての役割をも担つていることが明らかになつた。更に最近になりC. A. はかなり高濃度に脳内にも存在して種々の中枢神経機能に重要な影響を与えていると考えられるようになつた。第1表に一例を示したがnoradrenaline(NA)は主としてhypothalamusに局在しdopamine(DA)は主にputamen,caudate nucleusに存在している1〜4)。DAはNAの前駆物質であるが,このように全く異つた分布を示すことはDAが単なるNAの前駆物質ではなく独立した作用物質である可能性を示唆し,例えばその分布より錐体外路系に何らかの役割を果しているのではないかと想像される。adrenaline(A)は哺乳動物の脳には殆んど存在していない4)5)
 この脳内に存在するC. A. の研究には種々の方法があるが,私は主に生化学的面からの追求について述べてゆきたいと思う。C. A. の存在が末梢臓器(脳以外の臓器を総称した)で先ず見出された後脳でも見出されたのに相呼応して,一般にC. A. の研究は末梢臓器で始められ進められそれが如何に脳に当てはめ得るか,如何にmodifyされるかといつたやり方で進められてきた。

薬物による中枢機能の解析

著者: 安原基弘

ページ範囲:P.10 - P.20

 私はかつて本紙に発表した「網様体と誘発電位」という論文1)に於いて,Barbiturateによる作用態度の相違からMagoun2〜4)のascending reticular activating systemはJasper5)のdiffuse thalamocortical projection systemとは異なる経路によつて大脳皮質に到達することを主張したが,これと同様の考え方はその後Domino6)やKing7)によつても報告され,又同時にこの頃より生理学者の間にも薬物を応用して中枢の働きを明らかにしようとする試みがなされるようになつた。時実たち8〜13)のlimbic systemに関する研究もその一つであり,彼らはAtropineとかChlorpromazineがそれに強い作用を示すところから,limbic systemをascending reticular activating systemより区分しているが,このように薬物を上手に使用することによつて純粋に生理学的な方法では知ることの出来ない或いは知ることの困難な中枢神経の機能をより簡単に知ることが出来るのではないかと思う。
 従来薬理学とはいろいろの薬物の作用機序を明らかにする学問であるが,私はむしろ前述したように薬物によつて逆に中枢の機能を究明することも薬理学の大きな使命ではないかと思う。

痙攣と抗痙攣に関する薬理学的疑義

著者: 田中潔

ページ範囲:P.21 - P.27

 痙攣は通常中枢興奮の結果と考えられているが薬理学的にみると痙攣を起すものが必ずしも中枢興奮薬でないし,脳波上の痙攣様発作波もあまりあてにならないということを,いろいろのデータを挙げて述べてみたい。要するに痙攣を中枢興奮の指標とする安易な考え方に対する警告である。
 ここに引用する実験成績はすべてわれわれの教室のもので,約30篇の業績から抜萃したので,表面的記述になることをおそれる。詳しくは文献記載の原著についてごらん願いたい。

向精神薬剤の効果を変化させる諸条件—個性的反応と情況的反応

著者: 台弘

ページ範囲:P.28 - P.35

 Ⅰ.
 私は臨床にたずさわつている者の1人として,標題の問題を現象的に整理し,質問の形で基礎の方々に提出したいと思う。本文の資料は断片的には既に臨床の会や雑誌に発表したものであるが,まとめた形で述べられたことはない1-4)
 臨床家が向精神薬剤を有効に使おうとする時には当然のことながら適応をえらぶ。その時第1の目安になるのは標的症状target symptomとよばれるもの,例えば不安,興奮があればphenothiazineを,抑うつがあればantidepressantを用いる如きである。次に現在の精神医学でおこなわれている診断,例えば同じく感情不安でも神経症の場合には,minor tranquilizer,分裂病ならphenothiazineなどのmajor tranquilizerを用いるようなことがあげられる。標的症状というと事新しく聞えるが,これは漢方でいう証と同じで,葛根湯証の代りにchlorpromazine証を用いるのと代りがない。なお精神医学の診断がどんな役割を果すかについては最後にのべるつもりである。

Gliaのfunction

著者: 御手洗玄洋

ページ範囲:P.36 - P.48

 脳の一構成要素であるgliaは,その数に於て他の要素であるneuronをはるかに凌駕している。併し,Virchow52)やWeigert53)等の記載以来,neuronの支柱或は其の防御組織,即ち非活動性細胞と考へられたgliaは,脳の機能的観察上ほとんど注意を払はれなかつた。それは,neuron theoryに集中するおびただしい数の研究に較べて,gliaの研究の極めて少い事からも明かである。脳の電気生理にgliaの役割を注目した人もあつたが(Kornmüller)24),その議論は,全く無価値の雑音の如くかへりみられなかつた。とは云へ,gliaは決して非活動性の細胞ではない。何等かの積極的な機能,即ち神経活動の保持の為の機能を持つとの考へが,既にCajal4)5) Held14)等の先達によつて指適されていた。以来,neuron theoryの蔭にgliaへの静かな凝視は続けられていたのである10)。かくて,最近の組織化学や電子顕微鏡の発達に伴い,この長い間の形態学的研究は,gliaの機能的重要性をより強く主張するまでに発展を示した。その著名な例を,1958年に開かれたBiology of Neurogliaのシンポジウム3)で見る事が出来る。

巻頭言

読む人の心々にまかせおきて

著者: 細川宏

ページ範囲:P.1 - P.1

 書物や雑誌を読みながら,ふと心に感じた章句をノートに記し留めて,時折り読み返してみる。同じ章句でも,感銘の度はその折り折りで異なり,意義の了解の仕方も必ずしもいつも同じでない。言葉とは不思議なものである。
 それらの章句の中から,特に科学的な心の姿勢とでもいつたものに関係したものをいくつか挙げて,この「巻頭言」という厄介な仕事の責めを塞ぐことにする。個々の章句について私なりの注釈を加えたい気がしないでもないが,そこはやはり「読む人の心々にまかせおく」こととしよう。順序・配列は全く任意のものである。著者や出典を伏せておく方が却つて面白いかとも考えたが,やはり一応名前だけは挙げておくことにする。

印象記

第22回国際生理科学連合会(ライデン)印象記

著者: 内薗耕二

ページ範囲:P.50 - P.54

 ベルギー第20回,アルゼンチン第21回の国際学会に引きつづき,今回再びヨーロッパで3年目毎の第22回学会が開かれたわけである。今回は次回の日本での開催が殆んど確定的といわれていたせいもあつて,日本からの参加者も特に多かつたようである。閃聞する所によると国内からの参加者が約30名,その他がこれと略同数で,日本からの全参加者数は未曽有の多数であつたらしい。ここでいうその他の中には米国,ヨーロッパ各地及びその他の土地にいる留学生も多数ふくまれている。学会開催中,毎日発行されていた新聞の報道によると,今回の学会への参加者総数は4000名に達したといわれる。この中には家族会員や賛助会員もふくまれているので,実質的な参加者は3000名内外とみてよいであろう。会場が歴史的には有名でも,都市としては小都市に属するLeiden市のライデン大学医学部の建物とその施設だけをつかつて行われた為に,学会全体の運営にはかなりの難点がでて来たようであつた。日本の代表として参加され,各種の重要な事務的行事に参画された加藤博士の言によると,今回の会長をつとめたライデン大学医学部生理学教授のDr.J.W.Duyffは今度の国際学会には種々不手際があつて,学会運営としては最も悪い学会の一つとなつてしまつたことは,まことに申訳ない。次回の東京ではこのような失態のないよう,今回の悪かつた点を充分に研究し,参考に供されたい,という意味の発言をしたそうである。

第22回国際生理科学連合会の印象

著者: 小林龍男

ページ範囲:P.55 - P.57

 第22回の国際生理科学学会International Congress of Physiological Sciencesは1962年9月10日から17日までオランダの古い大学都市ライデンで開かれたが,この学会は日本では通称国際生理学会といわれているもので,国際生理科学連合International Union of Physiological Sciences(IUPS)の主宰のもとに生理学,薬理学の分野の学者たちが3年ごとに催すきわめて規模の大きい学会である。
 私はかつて1956年ベルギーのC. Heymans教授を会長としてブリュッセルで開れかた第20回のこの会にも参加したが,今回はオランダのJ. W. Duyff教授を学会長としてライデン大学医学部の基礎,臨床の大小19の講堂施設が会場にあてられて,23のシンポジウム(その題目については本誌13巻4号p.210に紹介されているので再録を避ける)15の招待講演,1258の一般講演,38の映画,25の実験示説など多彩なプログラムが用意されていた。

アメリカに於ける薬理学の最近の動向

著者: 横井泰生

ページ範囲:P.59 - P.60

 1年余りを過した西部ペンシルバニヤのピッツバーグを後にして,ケンタッキーのレキシントンに移つてから3カ月になりました。実際に住んでみるとアメリカは途方もなく広い国で,地域差も思いのほか濃厚である上にめざましい速さで変貌しつつあるのが伺われます。
 渡米直後に目についた日刊紙の論調に,現代は物理学の時代であるけれども,明日の社会の変革は生物学の進歩から来るだろう,というのがありました。当然のことながら薬理学もまた変りつつあるように思われます。この春のFederation meetingで「Goodman & Gilmanの教科書にみるような薬理学はもはや通用しなくなるのでないか」という発言がありました。教科書といえば,Andres GothのMedical Pharmacologyを使うところがふえて来たとかです。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?