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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学14巻2号

1963年02月発行

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巻頭言

微生物と高等生物

著者: 丸尾文治

ページ範囲:P.61 - P.61

 複雑なものにおける諸問題をなるべく簡単な系におきかえて研究を進め,簡単な系で得られた成果を複雑なものに応用して更に有意義なものに実らせる。科学の研究は常にこの複雑な系と単純な系との間の成果の交流によつて著るしい進歩を遂げて来た。
 微生物とか細菌とか云うと医学関係の方々は伝染病の病原菌を連想されるであろうし,農学関係の方々はこうじかびや納豆菌を思い出されるかもしれない。たしかに微生物は色々の方面でわれわれと深い関係をもつている。従つて医,理,農,薬,各方面で極めて広範な微生物研究が行われていて,その成果は病気の治療や生産物の応用に広く利用されて人類の役に立つている。しかしここに強調したいのは微生物は高等動植物の単純化された系としての役割をもまた持つているということである。微生物と云えども1個の独立した生物であるから生物に必要な機能は総て具えているであろう。従つてうまく利用出来れば,研究材料として大いに役立つに違いないと考えられる。しかし,不思議なことに今までの経験によると微生物をこのように利用することが出来るということに気がつくまでに大変時間がかかつている。植物の生長のために必要な肥料の研究が19世紀に大いに行われ,これが動物に拡大されて,1900年代における「ビタミンの発見」に結びついた。

第16回日本医学会総会シンポジウム〔主題41〕

Presynaptic and Postsynaptic Inhibition in the Central Nervous System

著者:

ページ範囲:P.62 - P.76

 Frank & Fuortes(1957)and Frank(1959)first clearly showed that there were two distinct types of inhibition. Subsequent investigation by our research groups at Canberra has revealed that in the spinal cord a large proportion of the inhibitions is effected by the presynaptic type of inhibition, in which depolarization of excitatory presynatic fibres depresses their synaptic action. In fact it has now been shown that virtually all medullated primary afferent fibres in the spinal cord are depolarized by conditioning volleys with a consequent depression of their synaptic efficacy.

綜説

神経細胞のNa-pump—神経細胞が電気的活動を維持する条件

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.77 - P.87

 神経細胞の電気的活動と細胞内外のイオン分布
 中枢神経系が極めて多数のニューロンによつて構成されるもので,その機能がニューロンに於ける電気的な活動を主体として行われる事は今日疑いのない所である。この電気的活動は神経細胞の膜にシナップスを介して起こる電位変化と,それによつて更にひきおこされる活動電位に要約される。前者は一つのニューロンが他のニューロンより信号を受けてこれを統合する過程であり,後者はその効果を発現して他のニューロンに伝送する過程である。例えば猫の脊髄前角にある運動神経細胞の場合,細胞内に刺入された微小電極を通して第1図に示す様な5種の電位が記録される。第一に細胞内部は外部に対して70から80mV負に滞電している(静止電位,Resting Potential)。第二にある種のシナップスが活動した時細胞の膜電気は一過性の減少,即ち脱分極をおこす(EPSP)。第三に他の種のシナップスの活動によつて一過性の膜電圧増加,即ち過分極がおこる(IPSP)。第四にこれらEPSP,IPSPの相反する効果の加重した結果,EPSPがまさつて,膜電位がある値以上の脱分極をうけた場合,膜電位は自ら急激な脱分極をおこして,その頂点に於ては細胞内は外に対して20〜30mV正位をもつ(活動電位,Spike Potential)。この活動電位は軸索突起を伝導して行き筋へ伝えられる。

論述

ミオシンA-ATPaseの活性中心について

著者: 東尚巳

ページ範囲:P.89 - P.99

 筋肉の構造蛋白質であるミオシンがATPの加水分解を触媒する酵素そのものであるというEngelhardtとLjubimova1)の発見以来,この酵素について多くの人達の研究2)3)が行なわれ,それが筋収縮に欠くことのできない本質的な役割りを果していることが疑いのないところとなった。筋収縮の現象を分子論的立場に立つて理解するためには,ミオシンAのATPaseとしての性質,特にその活性中心の性質,およびその近傍の1次および2次構造を知ることがもつとも必要なことである。我々は既にミオシンAによるATPの加水分解がミオシンのリン酸化を伴う反応と伴わない反応の2経路によることを推定し4),ミオシンのリン酸化にもとづく筋収縮の分子論的考察を既にまとめている5)。ここでは主にATPによるミオシンのリン酸化を伴わない反応の活性中心の性質に焦点をしぼつて述べたい。

寄書

聴覚生理学への電子計算機の応用

著者: 渡辺武

ページ範囲:P.101 - P.105

 筆者は昭和35年9月より2年間M.I.T.(マサチューセッツ工科大学)電子工学科へ留学の機会を得,聴覚電気生理学,特に猫単一第一次聴ニューロンの音刺激応答様式について研究した。実験方法としては従来の超微小電極法を用い,そのデーター処理に電子計算機を用いたのであるが,短時間に定量的かつ正確な解析が行なえるのに驚嘆した。本文では筆者自身が経験した聴覚系の解析法について簡単に記すに過ぎないが,その応用は電気生理学一般に適応され得るであろう。

局所加温冷却時の視束前野ユニット放電

著者: 中山昭雄

ページ範囲:P.106 - P.108

 環境温の変化にさいし,生体は温度上昇に対しては皮膚血流の増加発汗等の放熱反応をもつて応じ,温度下降には皮膚血管の収縮ふるえ等の産熱機構によって体温の恒常を計る。これらの反応を発動させる因子の一つとして末梢には皮膚の温度受容器があり,その求心性インパルスの温度による変化から3種の異なる受容器の存在が明らかにされている1)。一方暑熱寒冷環境では血液温が上昇あるいは下降することが予想されるが,視床下部の特定部位を破壊すると放熱あるいは産熱機構が不完全となることから,その部に血液温の変動に敏感な受容器が想定され,事実この部の局所加温あるいは冷却によつてパンティング,ふるえ等の反応をおこすことができる。しかしながら組織学的な知見の欠如からなおその存在を疑問視する傾向もあつた。
 最近筆者は局所温の変化によつて著明に増減するユニット放電を視束前野で記録することに成功した2)。第1図は局所温を39.8℃まで加温したさいの放電と呼吸数の増加を示す。記録される部位は前交連下部でJasperの脳定位図によるとFr.14〜17mm,側方には正中線から2.5mmまでひろがつているが,50%は0.5mm以内であつた。局所温の1℃以内の上昇ですでに放電頻度の増加がおこり,多少とも適応の傾向が見られたが,定常状態における温度特性として最高Q10=10という値が得られた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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