icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学14巻3号

1963年06月発行

雑誌目次

巻頭言

基礎医学の振興をいかにして達成するか

著者: 内薗耕二

ページ範囲:P.109 - P.109

 日本の医学の分野の中で,国際的レベルに達しているものは二,三に止まらないと云われる。事実,最近は名実共に国際的な学者として活躍している人も少くないようである。基礎医学の分野でもそのような国際的声価をかち得ているものが少くなかろう。産業の分野でも同じことが云われそうである。未曾有の戦禍で完膚なきまでにたたきのめされた日本とドイツが,戦後20年足らずのうちに再び起ち上つたのは外国からは驚異の眼で見られてもいよう。しかしそのような国際的声価をかちえている学問や,産業,あるいは学者の内情はどうであろうか。日本の産業は欧米先進国の模倣が極めて多い。文学や芸術にしても事情は全く同じであろう。学問の世界においても事情は何等これと異ならない。
 東京は国際的な都市として一応外国からも認められ,近くはオリンピックなどもここで行われようとしているが,東京の内情はどうであろうか。住宅,水道,下水のことは云うに及ばず,この頃の交通難や空中降下物などの公害はどうであろうか。欧米の一流都市に比べて我々は唯々赤面するばかりである。東京に愛想をつかして八丈島に逃避した音楽家があると聞いた。ただ無計画に家を建て道を造り,局面を糊塗して来た積年の報いがここにふき出して来ている訳であろう。政治家だけに責任をおわしてはなるまい。

論述

Mauthner細胞に於けるシナップス抑制の解析

著者: 古河太郎 ,   深見安 ,   朝田芳男

ページ範囲:P.110 - P.128

 Ⅰ.緒言
 Mauthner細胞は硬骨魚類の延髄の深部に左右1対だけ存している大型の神経細胞であつてその特異な形態のため組織学者の興味を引き,神経の線維連絡ないしシナップスの微細構造等に関してすぐれた研究が古くからなされて来ている1)2)3)一方神経生理学的の方面よりの研究は田崎等4)によつて先鞭がつけられその後もRetzlaff等により続けられて来たが5)6),この細胞の電気活動の種々の様相を明らかにしたのはFurshpan及び古河による研究が最初7)8)であるといつて過言でない。
 さてこの細胞の活動には特異な点が多いが,その一として軸索側枝性抑制が極めてよく発達している事を挙げる事が出来る。大体シナップスに於ける抑制を研究するに当つてその抑制作用が強力であると同時にそれが興奮性作用と混合せずに選択的におこされうるという事が大切であるが,この細胞はその点極めて適当した材料であつて現在迄にその軸索側枝性抑制に作用機序の上から3種類のものが存在する事が判明している。その内一つはいわゆるpresynaptic inhibitionに属するもの9)であるが,紙面の都合で今回はそれについては言及せずpostsynapticに働くと考えられる抑制機序2種類について説明したい。

活動電位の持続と筋張力との関係

著者: 入沢宏

ページ範囲:P.129 - P.138

 筋組織において,細胞膜の興奮がいかに収縮と関連しているかという問題は,興奮性組織の諸問題を理解する為に最も本質的な問題である。しかしこの問題を一歩深く考察すると未解決の多くの謎があつて,将来の研究が俟たれている分野であることに気付く。
 筋の興奮と収縮との関係については既にEngelmann,Rezius等によつて1800年代から考察されたが,Kuffler23)は痙縮に関連している電気現象を研究し,活動電位なしでも収縮は起りうるが,細胞膜の脱分極が筋収縮現象には不可欠の要素であることを見た。渡辺44)はこの問題を直接法で検討し,細胞内を流れる電流では筋の収縮を起しえないで,膜が脱分極した時のみ収縮が起ることを明らかにした。この事実はさらに,Stenknudsen39)やOrkand29)らによつて確められた。Orkandは甲殻類の筋で単一細胞を刺激して脱分極させると,刺激した細胞のみに張力が発生し,隣接する細胞では膜電位の変化も収縮も起らない事を利用し,膜電位が静止時より約25mV低下すると張力が発生する事をみた。この様に膜電位の減少が筋収縮を起す第一歩となることは疑いない所であるが,膜の現象は細胞膜の表面より数ミリミクロンの所迄しか影響しないと考えられるので,膜よりさらに数10ミリミクロン以上も下層に存在する筋原繊維に興奮を伝えるには何らかの機構を必要とする。

アルドステロン分泌の調節

著者: 曾我部博文

ページ範囲:P.139 - P.143

 Davisの報告にそつて,renin-angiotensin systemがaldosterone-stimulating hormoneそのものであることを明らかにされた経過を紹介した。そして,renin,angiotensin及びaldosteroneと高血圧症の関係を論じ,それらが高血圧症の第一義的原因でないことを明らかにした。従つて,renin-angiotensin systemは,その生理的作用として,昇圧作用よりもaldosterone分泌促進作用を第一義的に考えるべきである。

Catecholamine増強物質とその作用態度

著者: 粕谷豊

ページ範囲:P.144 - P.156

 adrenaline,noradrenalineの作用を増強する物質の数は非常に多く,その研究の歴史も古いにかかわらず,作用機序の明確にされている物は少い。然しこれ等の作用機序解明は常に大きな課題として,新知見が得られる度に再検討され,また研究の手がかりとなつてadrenergic mechanism追究の上に大きな貢献をなしてきた。
 著者はたまたま鎮痙剤を目的とした合成物中にadrenaline増強作用を有する化合物を見出し,その薬理作用を既知の増強物質と比較する必要上若干の調査を行なつたので,以下にcocaineを中心として作用機序研究の経過を眺めてみたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?