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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学14巻4号

1963年08月発行

雑誌目次

巻頭言

学問の新らしい分野

著者: 大島正光

ページ範囲:P.159 - P.159

 学問の各分野においてどんどん新しい領域がひらけてゆくのが現状である。研究方法,方法論,概念,分野,そして知見の各部における進歩発展は目ざましいものがある。これを別の断面からみるならば,基礎と応用の各部門ということも出来よう。また医学の面では基礎と臨床という断面のとり方もあろうと思う。
 これらの進歩発展の中で,ある部門において極わめて深く堀りさげてゆくゆき方と,各部門の総合化という方面を進めてゆく行き方とがある。学問も縦横のあみ目のつながりのようなものであつて,ある一つの点における進歩は,他の隣接領域の進歩発展をうながし,それがまた他の分野の進歩発展の刺激となるというやり方で,それぞれが何らかの有形無形のつながりをもちながら進んでゆくものであろう。

論述

不連続制御としての呼吸運動調節

著者: 畠山一平

ページ範囲:P.160 - P.171

 I.はじめに
 生体諸機能の調節には閉回路としての反射機構が最も重要な役目を演じていることはいうまでもない。HolstおよびMittelsteadt14)はこの点に注目し閉回路を構成する求心性神経をReafferenzと呼びReafferenzprinzipなる学説を展開した。周知のようにこの十年間における自動制御理論およびその応用の発展にはめざましいものがある。Mittelsteadtのこの学説も自動制御理論を範としたものであつた。自動制御理論と生体調節論は彼のCyberneticsにおいて共通の理念の下に取り扱われるものであるが,残念ながら生体は誠に巧妙な調節機構を持つているにもかかわらず,その構成はいたつて複雑であつて理論的解決のためには尚多くの知見を加えねばならない。
 工学上においてもその取扱う現実の対象は初期の自動制御理論におけるように線型の性質を持つているとみなすことのできぬものが少くない。これを解決するために多くの研究者が努力した結果非線型制御理論が相当の高さにまで磨き上げられ高度の制御技術として広く応用されつつある。一方制御量その他を連続量としてではなく非連続量たとえば一定時間間隔毎に得たサンプル値として取扱う非連続制御の技術も高度に発展するに至つた。

筋受容器—第1編 哺乳動物の筋紡錘

著者: 伊藤竜 ,   伊藤文雄

ページ範囲:P.172 - P.184

 Ⅰ.緒言
 従来哺乳動物の骨骼筋内受容器には多数の種類が見出されており,中でも筋紡錘は特殊な構造に分化したものとして注目され,組織学的・生理学的な数多くの研究がなされている。特に1960年以後筋紡錘の構造上の新知見がいくつか見出されると共に,それに関連した機能も詳細に分析された。然し魚類以下の下等動物には筋紡錘は見られず(Baum 1900;Hinsey l934),所謂leaf-like ending(葉状神経終末)又はfree-nerve ending(遊離神経終末)がその骨骼筋受容器の主役を演じている(Wunderer 1908;Fessard & Sand 1937)。更に哺乳動物でも内臓諸臓器の平滑筋に分布する受容器は全てこれ等未分化の型の受容器であり(Nicolesco 1959)又骨骼筋内にも多数認められている。(Barker 1962)。従つて種々の筋活動(反射を含めて)に於けるこの種の受容器の役割は非常に大きいものと考えられる。それにも拘らずこの受容器の機能に関する研究は少なく,哺乳動物でわずかにPaintal(1960,1961)及びBessou & Laporte(1961)の研究があるに過ぎない。

ウニ卵の収縮性蛋白について

著者: 酒井彦一

ページ範囲:P.185 - P.194

 ウニ卵の収縮性蛋白についての仕事は,主としてそれの細胞分裂における役割を通して進められている。すでに細胞分裂と-SH基についての総説1)は不充分ながらなされているので,ここではその仕事の発展として,ウニ卵の収縮性蛋白の収縮機構に関与する問題を中心にして述べたい。

松果体の機能に関する最近の研究

著者: 羽野寿 ,   小井田雅夫

ページ範囲:P.195 - P.206

 松果体の生理的意義は,内分泌学の領域では比較的不明なままで取り残されていたが,1954年Kitay & Altschule5)によつて松果体に関する従来の研究が集大成されて以来,急速に新しい事実が発見され,古くから行われた研究の再検討と新しい方向への発展がみられるに至つた。私らが1940年から性腺との関係を検討した成績1〜4)も,その一部が発展したままで今日に至つている。そこで"The Pineal Gland"の綜説以後に現われた研究の主なものをとりあげ,松果体が実際に生体の中で,生理的に意義をもつかどうかということに重点を置いて綜説する。
 A)松果体の生化学:従来行われた松果体に関する研究は,松果体から得た抽出物の生物学的活性を検討することによつて,松果体の生理的意義を見い出そうとしたものが多く,抽出物の中に化学的にどのような物質が含まれているか,また松果体自身がどのような生化学的特徴をもつかに関する研究は非常に少なかつた。

印象記

医学会総会の恩恵

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.207 - P.208

 どんな小さい学会であれ,これを引受けた当時者の苦労は大きい。まして数万という人の集る大会を開くとなると,その心身両面にわたる努力はなみ大抵ではないと思う。今回の大阪の総会では3万2千の人達が集り,外人の特別講演22題,総会演説は58題,シンポジウムは71題,その上に展示,映画,テレビ,観光とまさに一大祭典であつて開催者の御尽力に深甚の謝意を表したい。
 準備にたずさわつた方々は,当初から,従来の学会を検討もし,大会の意義,あり方を論議し,多くの人の意見を採択参考とし,何等かの特異性を持たせるとか,新奇の企画を組みこもうとか,随分と苦心されたことと思う。結果的には思わぬ障害が入つたり,自然の勢で思わぬ方向に流れたり,却つて予想以上の成果があつたりで不満も多かつたかも知れぬが,やはりあげた満足感も味われたにちがいない。局外者からみると,外人学者が多く,国際的の色彩が強かつたこと,分科会と総会を適当に織りまぜて一体とし,各その特徴を発揮するようにしたこと,実地医家に対してはcontinuing medical educationとして意義を持たせようとしたこと,また医学と医療の実際とを医師会と共に討議して浮き上り勝ちな医学を医療社会に直結したものとして把握させようとしたこと,一般国民にも映画,展示で医学への認識,関心を深め,宣伝的効果をもねらつたことなどが感じられる。

ロンドンだより

著者: 遠藤実

ページ範囲:P.209 - P.210

 Robert Browningの詩に,外国にいて故国イギリスの春を想い,その美しさを讃美したものがありますが,たしかに英国の春はすばらしいものです。それまでの冬が余りにも暗く,うつとうしかつただけに対照の妙が発揮されるということもあるのでしよう。とにかく4月になると,冬中はほとんど顔を見せなかつた太陽が惜しげもなく光を降り注ぐ下で,丸ぼうずだつた木々はすつかり新緑でおおわれ,家々の窓や前庭には色とりどりの花が咲いて,一時に目もさめるばかりの状態になります。自分の住んでいる見慣れた平凡な街がこんなにも色彩に富んで美しいものだつたか,とあらためて感心したりしたものでした。それにしても,あの冬の陰鬱さは,寒いとは言え毎日日本晴れのすがすがしい冬しか知らない私には驚きでした。彼らの粘り強さも,こんな冬を毎年辛抱強く過ごして来たところから培われてきたのかも知れません。
 ロンドンに来ての第一印象は,東京よりもむしろ田舎だという感じさえするということでした。タクシーの型の古いのは有名ですが,街を歩いていると,ときどき博物館から出て来たかと思われるような車が堂々と走つているのも見かけます。地下鉄網がよく発達しているのには感心しますが,車体は外見も内部も日本のものの方がずつとスマートですし,こちらのは横揺れがひどく,時には乗つていて気分が悪くなることもあります。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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