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雑誌文献

生体の科学15巻1号

1964年02月発行

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巻頭言

「生体の科学」第15巻を迎えて

著者: 杉靖三郎

ページ範囲:P.1 - P.1

 20世紀の後半は,"科学総合の時代"といわれ,あらゆる科学の分野で,それまでは各部局に,個々に探究されたものが,相互に連関づけられ,具体的に綜合されて飛躍的な発展を見せている。交通や通信をはじめ,われわれをめぐる生活環境は,すべてに便宜を加え,原子力は解放され,生産はオートメ化し,人工衛星は飛びかい宇宙旅行も夢ではなくなった。
 医学の面でも,新しい医薬や治療法の発達によって,従来,不治とされていた病気も,かなり治せるようになってきた。

論述

筋受容器—第3編 蛙筋受容器の構造と機能

著者: 伊藤竜 ,   伊藤文雄

ページ範囲:P.2 - P.13

 第2編で著者等は筋受容器の系統発生学的観察を試みた。その結果,筋紡錘は伸展反射の形成のために特に発達した識別性の筋受容器であるが,屈曲反射の感覚器としては原始的な葉状神経終末が主役を演じていることも推論された。しかし此等両種の受容器の生理学的機能を比較した研究は全くない。この第3編では比較的単純で基本的な形態を有している蛙骨骼筋内の2種の受容器についてそれ等の機能を比較検討しょうと思う。
 これ等の試みが今までになされていなかつたのは,生理学的にも(Adrinan & Zottermon l926;Bronk 1929 a, b;Matthews 1931)又組織学的にも(Gray 1957;Katz1961;Barker & Cope l962)蛙骨骼筋内の受容器は筋紡錘唯々1種類だけであると考えられていたためである。

神経のモデルについて

著者: 田村博 ,   福留秀雄 ,   菅田一博

ページ範囲:P.15 - P.21

 Ⅰ.緒言
 生体における情報処理の機構は単に生理学や心理学などのように直接生き物に関係した分野の研究対象として興味あるだけでなく,自動制御や情報処理の方法を研究する工学者にとつても最も興味ある分野の一つとなりつつある。
 工学的に開発された各種の制御装置や情報処理装置はしばしば人工頭脳なる名で呼ばれ,その典型的なものとしては高速度電子計算機が上げられる。人工頭脳は人間の手におえない複雑な計算をおどろくべき早さと正確さでもつてやりとげる能力を持つているのであるが,肉筆の読み取りや言語音声の識別を行なつたり,条件反射のような学習機能を機械にやらせようとすると,きわめて能率の悪い不充分な機能しか実現されないのが現状である。人間の子供は1+1が幾つであるか知らなくても自分の親が見分けられるのに,人工頭脳ではむずかしい計算はできても,親の顔が見分けられないのであつて,生みの親達にとつて何んともふがいない限りであるが,そこには生き物の脳と人工の頭脳の働きに原理的な差異が存在するものと考えられる。

哺乳動物心臓の迷走神経支配

著者: 入内島十郎

ページ範囲:P.22 - P.32

 1.無麻酔及び麻酔下のイヌの電磁流量計による心臓活動の観察及び麻酔下のイヌの心臓迷走神経の遠心性活動電位の観察により,心臓の迷走神経による支配様式を調べた。
 2.Morphine, chloralose, urethaneの混合麻酔のイヌにおいては,無麻酔のときと同様,心臓に対し絶えず迷走神経のインプルスが送られており,その反射性変化は心拍数を著しく変化させる。
 3.すべての知覚神経の電気刺激により非特異的に反射性インプルスを生ずる心臓交感神経と異なり,心臓迷走神経は頸動脈洞神経の電気刺激により特異的に反射性インプルスを発射し,他の,上腕神経,伏在神経等の刺激は却つて非特異的に心臓迷走神経の自発性インプルスを抑制する。

放射能と神経系

著者: 佐藤誠

ページ範囲:P.33 - P.44

 Ⅰ.緒言
 広島や長崎における"世紀の実験"の結果,人類は放射能の生体に及ぼす予想外の影響に恐怖した。爾来,放射能生物学の研究の重要性が再認識され,国家的にその研究を推進させる様になつた。放射能生物学と言う学問は,古くより主として遺伝学や発生学の一部として,特異な研究がなされて来たが,戦後,時代の要求と,更に性能の良い高エネルギー放射能発生装置,精密測器などの発達につれて,画期的進歩を遂げつつある。その一部門として約5年前から米国で"放射能の神経系に及ぼす影響"という研究者のグループが生れた。これは組織学者,病理学者,生理学者,生化学者,実験心理学者,放射能生物学者及び放射線医学者よりなる。この新しい分野で,どの様な事が研究され,どの程度迄進んで来たかを綜括的に述べてみる。ただし,ここでは,機能的変化に重点をおき,幼若神経系の胎生学的研究1)2)3)4)5)及び放射能の臨床的応用6)7)8)9)10)は割愛する。
 放射能の質,量,及び照射勾配:我々の取扱う放射能は,α素粒子(プロトン,ニュートロン),β線(エレクトロン),γ線(電磁波,X線)等のいわゆるイオン化性放射能と呼ばれるものである。放射エネルギーが媒質に吸収される時,その吸収物質を直接間接にイオン化せしめ,不安定な諸種のfree radicalが瞬間的に起り,これ等が媒質中に共存している溶質と連鎖反応を起して行く。この性質は放射能の質によつて多少異なる。

体性と内臓性の間—Oro-Anal System神経支配の特異性

著者: 山本信二郎

ページ範囲:P.45 - P.52

 Ⅰ.緒言
 自律神経系を,交感系(sympathetic),及び副交感系(para-sympathetic)の二つに分類する方法は,この方面の研究の基礎として,現在尚最も一般に用いられている。然しながら,この分類法の元祖であり,脳及び仙髄より出る自律系(cranio-sacral outflow)を胸腰髄から出るもの(thoraco-lumbar outflow)に対比させ,前者にpara-sympathetic autonomの名称をつけたLangley14)自身,170編に余る彼の生涯の著作において,その表題の中にこの名称を用いたことが唯の一度もないのは注目に値する。この事実は,新しい命名に対するLangleyの慎重な態度を示すとともに,一方para-sympatheticの名称のみでは表現し得ないこの系統の特異性を物語るものともいえよう。
 目にゆくmidbrain outflowを一応除外すると,副交感神経系は,bulbar outflowとsacral outflowに分けられ,これらは系統発生的には,体節(metameres)の両端,すなわちoro-anal systemに関連して発達し14),交感神経系に拮抗する性質をもつ他に,自律性と体性の中間の性質を示す要素が多く,その機能の脱失は,生命或いは日常生活に直接重大な支障を来す点で,全く不随意的,自律的である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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