文献詳細
論述
神経のモデルについて
著者: 田村博1 福留秀雄2 菅田一博3
所属機関: 1大阪大学基礎工学部 2京都大学基礎物理研究所 3京都大学大学大学院
ページ範囲:P.15 - P.21
文献概要
生体における情報処理の機構は単に生理学や心理学などのように直接生き物に関係した分野の研究対象として興味あるだけでなく,自動制御や情報処理の方法を研究する工学者にとつても最も興味ある分野の一つとなりつつある。
工学的に開発された各種の制御装置や情報処理装置はしばしば人工頭脳なる名で呼ばれ,その典型的なものとしては高速度電子計算機が上げられる。人工頭脳は人間の手におえない複雑な計算をおどろくべき早さと正確さでもつてやりとげる能力を持つているのであるが,肉筆の読み取りや言語音声の識別を行なつたり,条件反射のような学習機能を機械にやらせようとすると,きわめて能率の悪い不充分な機能しか実現されないのが現状である。人間の子供は1+1が幾つであるか知らなくても自分の親が見分けられるのに,人工頭脳ではむずかしい計算はできても,親の顔が見分けられないのであつて,生みの親達にとつて何んともふがいない限りであるが,そこには生き物の脳と人工の頭脳の働きに原理的な差異が存在するものと考えられる。
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