icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学15巻2号

1964年04月発行

雑誌目次

巻頭言

たつのおとしご

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.53 - P.53

 今年は辰年である。例年十二支のその年に相当する動物の絵が年賀状や広告やショウウィンドウをにぎわすのが常である。たとえば昨年は卯年であつたのでウサギの愛くるしいすがたにどこへ行つてもぶつかつたものである。ところがタツ—竜のあのおそろしい容姿はどうみても近代人の感覚にはアピールしないとみえて,新聞の広告にも,テレビにも店頭のかざりにもタツならぬタツノオトシゴのひようきんな顔がおとし親の代役をつとめている昨今である。
 そしてこの顔をみるといつもわたくしの頭の中には海馬,神話上の海馬,解剖学の海馬という一連の想念がうかんでくるのである。Hippocampusという名称はこの構造物を側脳室の下角に発見し,最初に記載したJulius Caesar Arantius(イタリア名Aranzio,1530-1589)によつてつくられたもので,かれの死の2年前の1587年に発行されたDe Humano Foetuのなかに見出されるのである。かれは──この構造物はHippocampusのすがたをおもいおこさせる。あるいはむしろ白いカイコ(bombycinus vermis)に似ているかもしれない──と記載している。実のところ,かれがHippocampusということばでタツノオトシゴを意味したのか神話の海馬を示しているのかはなはだ瞹昧なのであるが,神秘的な色彩をおびたこの名前のみがなんとなく後世にのこつてしまつたのである。

論述

酵素系のFeedbacについて

著者: 畠山一平

ページ範囲:P.54 - P.65

 Ⅰ.Feedbackとは何か
 いう迄もなく最近における酵素学の進歩にはめざましいものがあり,これを専門としている者でなければ酵素学的問題について広く論を進めることはむずかしい。しかも酵素学が最も近代的な若い学問として更に発展して行くためには,進んで他の領域の成果をとり入れこれを大いに活用しなければならない。最近酵素学においても物理学的工学的用語であるfeedbackが用いられるようになったのも当然と思われる。しかしfeedbackという言葉は彼のWienerのcybernetics以来生物学でも広く用いられるようになつたが,その意味するところは簡単でなく,素朴な理解だけでこの言葉を乱用してはならない。筆者は元来生理学を専門としており,而も主として生物物理学的な立場で研究を進めて来たので酵素学そのものについての知識は浅く酵素学の詳細にわたつて正当な批判をする力はないが,一面生理学者としての見方があり,殊に生体調節論の立場から酵素反応系の調節機構に興味を持つていた。7)今回酵素系のfeedbackについての意見を求められたのを機会に筆者の立場から平生感じているところを記述し,諸氏の批判を受けたく思う次第である。
 論を運ぶに当りまずfeedbak調節についての基本的な事項を反省しその内容をはつきりさせておきたいと思う。

電圧—電流—時間特性による生体興奮膜の解析(その1)

著者: 東野庄司

ページ範囲:P.66 - P.74

 Ⅰ.緒言
 最近電子工学の発達はめざましく,特に半導体工学に於て負性抵抗を有するものとして,Esaki's tunnel diode(1958)やpn pn diode等の種々の素子が作られている。一方電気生理学の分野でも,興奮膜において負性抵抗の存在することが,Hodgkinと Huxley(1952)のVoltage clamp法による実験から明らかにされた。又TasakiとHagiwara(1957)の見出した膜の2つの安定状態や,Hyperpolarizing response(Tasaki, I. 1959;Müller, P. 1958)等の現象と,見かけ上非常によく似た現象が,上記の半導体素子においてはすでに見出され,かつこれらの特性をもつたものが現在作られている。
 Constant fieldを仮定した膜の整流理論(Goldman,1943)は,Mott(1940)の金属整流器の理論と,同一の考え方から出発しているので,その式の形も非常によく似ている。電子伝導を主として行なう半導体素子とion伝導を主とする生体膜とは,そのbehaviorが非常によく似ているとしても,これらの間の関係を直接結びつけることはできない。しかしながら,一つの未知の現象を解析する場合に,他の既知の現象における現象論的な考え方を取り入れる事は,理解を深める上に非常に有効である。

脊髄単シナプス伝達

著者: 久野宗

ページ範囲:P.75 - P.89

 脊髄前角のα運動神経細胞は,その支配筋および協調筋の筋紡錐から求心性神経線維(Group Ia)を受けて単シナプス反射弓を形成する(122-125)。この単純な反射経路においては,求心性線維が直接運動神経細胞に結合しているから,一定強度の求心性衝撃による反射効果は,単に次の3つの部位の状態によつて規定されていると考えられる。第一にこの反射は,当然運動神経細胞自身の興奮性によつて支配され,第二に,運動神経細胞に結合する求心性線維終末端(afferent terminal knob)の状態によつて変化する。この反射効果は,さらにシナプスにおける化学伝達物質の授受の状況によつて影響され得るであろうが,この最後の因子は伝達物質の知られていない現在,綜説の対象として考察する事は適当でない。従つて,本編では主として最初の2つの原因を扱い,それを通じて最近の脊髄機能に関する研究の紹介を目的とした。しかし,この分野では最近幾つかの綜説があり(38,72,99,131,149),これ等と内容が重複する事は出来るだけ避けたが,それだけに論文の選択と考察の内容は筆者の興味によるかなりの偏向を含んでいる事を予め明記したい。内容は主として,この5年間の猫の脊髄機能に関する研究を対象とした。

キモトリプシンの抗炎症作用

著者: 八木国夫 ,   松岡芳隆

ページ範囲:P.90 - P.100

 はしがき
 酵素の生体における重要性の認識や酵素に関する知見の進歩に従つて"酵素の医薬応用"は当然注目されねばならない問題となつてきた。こうした応用で比較的早く開かれた分野は,"ジアスターゼ"や"パンクレアチン"のようないわゆる消化酵素を経口的に用いるということで,この方面も徐々にではあるが進歩して消化器系疾患ないしそれに関連したものに応用されている。
 一方,近年酵素を生体の組織に注入するという試みが行なわれるようになつた。その最初のものとしてはピアルウロニダーゼを局所に注入し,輸液の吸収促進などの目的に用いたことであろう。ごく最近にいたると本稿で問題にしようとするある種の加水分解酵素を全身的に投与するということが試みられ,主として"Anti-inflammatory effect"(抗炎症作用)を目的としてかなり広く臨床応用されるようになつて,いわば近代的な"酵素療法"とでもいうべき分野を開くに至つた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?