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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学15巻4号

1964年08月発行

雑誌目次

特集 生体膜その1

座談会 膜のATPaseについて

著者: 吉川春寿 ,   江橋節郎 ,   関根隆光 ,   水上茂樹 ,   大西勁 ,   中尾真 ,   大塚正徳

ページ範囲:P.154 - P.167

 細胞膜(Cell membrane)について,本誌では過去2回にわたり欧文特集を行なってきた。今回は膜のATPaseに関する各種の問題に照明を加えようと試みた。御出席の方方はいずれもこの方面に秀れた足跡を印しておられること御承知の通りである。談論風発の中にも読者を裨益する所は大きいと思う。
 司会,吉川 細胞膜にATPaseがあって,特にNa,Kの能動輸送に大きな役割をしているということがいわれだしてから,ここのところ膜ATPaseに対して新しい研究がでてきております。われわれもそれに非常に関心をもつているわけですが,この膜ATPaseが一体今までに知られているいろいろなATPaseとどういう関係にあるか。性質その他にどんな相違があるか,あるいはどういう類似点があるかということ,それともう一つ,いわゆる膜ATPaseが生理学的にどんな意味をもつているか,ということ,これを今日の主題としてお集まりくださった方々に活発に討論していただきたい。こういうのが私の狙いです。

巻頭言

研究の根拠としてのHomeostasis

著者: 高木健太郎

ページ範囲:P.153 - P.153

 これまで生体研究にあたつて多現象同時連続記録がつよく要求されてきた。とくに生体全体としての調節機構の研究に従事する人々はこの道に努力してきている。ある人は生体現象記録のためのtransducerの研究に,ある人はその増幅拡大に,または記録器にというように。そして最近ではこれは一括してpolygraphと呼ばれてmakerによる試作機もでまわるようになつてきた。
 オリンピックを目前にひかえて,体力,運動の医学生理学的研究もまた拍車がかけられてきた感がある。記録更新という目的の達成のためには運動時のあらゆる現象を正確に把握することが第一段階である。たとえ同一個人であつても同一の運動,同一の記録を出すことはほとんど不可能といつてよいから,医学研究に通常用いられる統計的処理はその方法的価値がうすれてきて,一発必中主義的なただ一回だけのchanceを正確にとらえるためにできるだけ多現象をということが絶対命令的になつてくる。しかしながら,安静時においてさえ困難な測定であるから,運動時の多現象同時記録を求めることは至難なことであろう。

綜説

摂食の中枢機構

著者: 大村裕 ,   国吉真

ページ範囲:P.168 - P.190

 いとぐち
 生体はその生命を維持するために外部からエネルギー源となるものを摂取しなければならない。動物はそれを摂食という一種の情動反応によつて行なつている。したがつて摂食の調節は他のあらゆる生物学的平衡関係の根本をなすものである。摂食反応をおこす原動力となる飢餓感の発現に関しては古くからいろいろ説明されてきたが,大約して次の三通りにわけられる。(ⅰ)まず飢餓感の発現が末梢性に起因するという古い説で,空腹時に胃が収縮し胃粘膜中の飢餓神経を刺激するという考えである。(ⅱ)他方中枢性起因,すなわち血中の飢餓状態に感受性を有する飢餓中枢の存在を信じた昔の学者もある。(ⅲ)また飢餓感の発現が循環血の状態および全身各器管からくる求心性刺激による総合的なものとする考えもある。以上の3説については次に詳述するが,近年多くの研究結果から(ⅱ)と(ⅲ)を総合した説が有力となつてきた。すなわち食物摂取は,中枢神経とくに視床下部によつて調節された視床下部は血糖濃度や血中代謝産物,および身体の特定器管(胃など)から送られる求心性のインパルスによつて反応することが明らかとなつたのである。

論述

アルコール欲求に関する研究

著者: 飯田正一

ページ範囲:P.191 - P.197

 序
 薬物嗜癖者においてみられる薬物に対する異常な欲求の原因を明らかにするためには,一方ではそのような薬物のもつ特異なる作用を追求するとともに,他方ではその背景をなす素因あるいは感受性(susceptibility)といつたものを生体の側から明確にする必要がある。ことにアルコールの場合には麻薬とはことなり,これを愛用する非常に大勢の人々のうちの限られた者のみが,それもふつう10年から15年間の飲酒歴ののちにアルコーリズムになる。そしてつよくアルコールを求め(inability to abstain),あるいはその飲み方が特有でいつたん飲みはじめると泥酔して飲めなくなるまでやめない(loss of control)のである8)
 それゆえアルコーリズムの場合は麻薬嗜癖の場合にくらべ,素因がより重要な役割を演じていると考えられている。素因は精神的因子と身体的因子の二つにわけて考えることができる。前者に関してはアルコーリズムを社会,経済,心理学的に研究した結果,アルコーリズムは精神的欠陥と関係があることがわかつた。一方後者は素因を動物実験によつてphysical basisで解明しようとするもので,いろいろと興味ある成績がえられている。

印象記

欧米薬理学めぐりある記

著者: 板東丈夫

ページ範囲:P.198 - P.204

 私は昭和38年8月3日羽田を出発し,4ヵ月余の欧米各国薬理学教室歴訪の旅をした。最初の動機はチェコで催される国際薬理学会に出席して教室の研究結果を報告することであつたが,それを機会に各国の薬理学研究の現況と医学教育の様子を見聞して来ようということになつた。旅行者の観察は皮相的で真相を誤ることもあろうがまた百聞は一見に如かずということもある。自分の眼で見自分の耳で聞いたことはそれなりにまたある程度の信頼性があるのではあるまいかとも考えたのである。
 第一の目的である第2回国際薬理学会は8月20〜23日の4日間チェコの首都Prague(Praha)でHelenaRaškovǎ教授(Charles大学,薬理学)を会長として開催された。学会の諸準備は円滑で,45ヵ国から約3,000名の参加者があつた。そのうち23名の日本人の名前が見られ,薬理関係でわが国から直接参加したのは態谷(東大医),杉原(岐阜医大),今泉(阪大医),中塚(広島大医),高木(東大薬),小沢(東北大薬)の各教授に水上(三共研)博士と私との9名であった。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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