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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学15巻5号

1964年10月発行

雑誌目次

特集 生体膜その2

蛙皮の微細構造—生体膜の構造と機能

著者: 品川嘉也 ,   入交昭彦 ,   岡本純子

ページ範囲:P.206 - P.214

 少女を右腕にとらえ,左手に微笑をつかまえて,その二つを別々に研究することはできないとA. Szent-Györgyi1)はいつている。物質とその反応,あるいは構造と機能とを研究することは生命それ自体を研究することであるともいわれる。"構造は機能の一部である"2)というのもこの思想の別の表現と考えられ,生命の本質的理解を志す研究者の念頭を離れることのない問題と思われる。しかし現実には生理学と形態学との諸概念に統一的理解の得られることはむしろ少なく,本稿でとりあげる蛙皮の構造についてもその機能を説明するに足る形態学的知識は決して十分ではない。
 これは蛙皮電位あるいは蛙皮電流の研究がイオン輸送の機構という本質的に微視的な問題にすすんで行つたのに対し,うらずけとなる形態学的観察が光学顕微鏡を主力としていたことにもよると思われる。一方,蛙皮の電子顕微鏡による観察3-7)は,従来,分化と成長の観点からあるいは比較解剖学的観点からなされることが多く,イオン輸送との関係づけは問題の困難さも手伝つて十分意識的におこなわれてこなかつたようである。最近,これまでの形態学的知見の蓄積と電子顕微鏡技術の進歩により,イオン輸送機構の解明を目標とする蛙皮微細構造の追求がすすめられるようになり2,8,9),Ottosonら15)のpioneer workに新しい光と批判が投げかけられようとしている。本稿もこの方向に沿つての一つの試みである。

Spontaneous potassium responese

著者: 大山浩

ページ範囲:P.215 - P.223

 はじめに
 1 イオン説とKコンダクタンス
 NaコンダクタンスgNaの増加が活動電位発生にとつて重要なことはよく認識されている。しかしながら多くの組織の活動電位の再分極過程において,同様に重要な役割を果しているKコンダクタンスgKの増大はともすれば軽視されがちなことは興奮の"イオン説"というよりは"Na説"の呼称が圧倒的に使われている事実にみられる。これは膜電位固定法による実験でNa電流が受動的な回路ではまつたく予想できない脱分極による内向電流という極めて印象的な観察に基いているのにK電流が脱分極により単純な受動回路に予想される外向の方向であることが一つの理由であろう。しかしながらK透過性についてはNa透過性の解析と同じ程度あるいはすくなくともまつたく同じ段階をふんだ分析が行なわれなかつたことも一つの原因と考えられる8,4,5)。Coleが"Kコンダクタンスについて,Naコンダクタンスと同様な(脱分極によつて増大する)性質があるというHodkin,Huxleyの記述について私が実際に信用したのは,Moore,Frankenbaeuser,Hagiwara et alらによる直接の証明が出てからあとのことであつた2)"と認めているのは,彼がイオン説の成立にかかわる先駆者としての多くの貢献をし,またもつとも熱烈なイオン説讃美者の1人であるだけに興味がある。

抑制性シナプス下膜のイオン透過性

著者: 伊藤正男

ページ範囲:P.224 - P.232

 生物膜を通して水やイオンが移動しその難易に種々の程度が存在する事実は,膜には何らかの形で孔と称すべきものが存在し,イオンの大きさとこの孔の大きさの相対関係がイオン透過の選択性を支配するのではないかとの考えに導く。この様な孔の大きさを測る方法として(1)直接物差で測るか,(2)いろいろな大きさのイオンを通してみるか(3)水の移動に対する摩擦抵抗を測るかの3つをあげることができる。第1の方法は電子顕微鏡によつて可能となるべきであるが,予想される孔の大きさは数オングストロームであり電子顕微鏡の解像力の限界ぎりぎりのところにあるため,まだだれも成功していない。第2の方法に対してSolomonはこまかな段階をもつイオン系列が得難いとして第3の方法を用い,赤血球の孔の測定を行なつて直径3.4〜4.2オングストロームの値を得ている1)
 しかしながら,ここにとりあげる抑制性のシナプス後膜は,特殊な陰イオン透過性を有しており,陰イオンについては段階的に大きさの異なる多数のイオン系列が得られるため第2の方法が有効に適用しうるのである。またこの透過性を検するのにイオンを神経細胞内に電気泳動的に注入し,抑制性シナプス後電位(以下IPSPと略称する)の変化をしらべるという方法が用いられる点ユニークな存在である。

巻頭言

基礎医学研究の体制について

著者: 問田直幹

ページ範囲:P.205 - P.205

 去る4月,千葉における日本生理学会の第2日,正規のプログラムが終了した夕刻5時ごろから山岸氏などの若手生理学者のきも入りで"生理学の将来計画"に関する討義が行なわれた。私も生理学会に設けられた生理学振興委員会の一員として出席する義務を感じたので参加した。この集まりでは問題が複雑なためとうてい結論をだすことはむずかしく,一応問題点を提起して参加者の断片的な意見を求める程度にとどまつた。しかしこの種の会合は有意義であるから機会あるごとに催してもらいたいと思う。ただこのような会合では時間の制限もあつて各人の意見を十分きくことが困難であり,また生理学以外の基礎医学や関連科学と共通の問題を含むことでもあるから,いろんな分野の人たちが"生体の科学"誌上などでじつくり意見の交換をはかるということが必要ではなかろうか。
 この一文もスペースに制限があるので,いくつかの問題を提起するにとどまると思う。

論述

S電位序説—その特異性と問題点

著者: 渡辺宏助

ページ範囲:P.234 - P.244

 今日S電位とよばれる,網膜における特異な電気的反応をはじめてSvaetichin24)が報告したのが1953年であるから,今から10年以上前のことである。もちろん,S電位という概念は,発見者のSvaetichin24)が当時主張した"cone action potential"(錐体活動電位)からはすつかり変貌してしまつたが,それではその正体は一体何かということになると,現在もまだよくわからない点が多い。彼は,perchあるいはbreamなどの魚類の網膜を十分明順応した状態で剥離し,桿体外節がその間にのびて入り込んだ色素上皮の突起につつまれて取り除かれた網膜標本を作つて,これに微小電極を応用したのであるが,こうした標本では,視細胞としては錐体だけしか残つていない。しかも,視細胞側から電極を進めてちようど錐体のpedicleあるいはmyoidの深さで,あたかも電極が細胞内に刺入したことを思わせるような数10mVの静止電位があつて,白色光刺激によつてさらに負の方向に振れる特徴ある矩形波様の電位変動を記録したのである。これを単一錐体細胞の活動電位であるとしたのは軽卒のそしりをまぬがれないが,今日では,魚類だけでなく,蛙32),亀11)などの冷血動物,さらには猫3,4,8)37),night monkey38)などでも記録されて,脊椎動物の網膜にひろく分布していると考えられるこの電位の発見者としての功績は高く評価されてよい。

報告

Rabbit Ear Chamber法により観察した高温環境の微細循環に及ぼす影響について

著者: 浅野牧茂 ,   吉田敬一 ,   田多井吉之介

ページ範囲:P.245 - P.251

 著者らの改良したアクリル樹脂製rabbit earchamber(REC)を用い,直視的方法ならびに著者らの開発したCdS photoconductive cell利用のmicrophotoelectric plethysmography(-m;MPPG)によつて急性,亜急性および慢性の高温環境の負荷が家兎耳朶皮膚微細循環に及ぼす影響を追究して次のような結果をえた。
 1)平常環境温度(22±2.2℃)下で飼育された家兎では,REC内微細循環は20〜25℃の平常温度環境でほぼ20〜50秒の周期で血管径と血流量の増減をくり返すが,急性高温曝露時は全般的に血管径,血流量ともに増加し,周期性は不整となり,40℃に至つて血管径は極度の拡張を持続し迅速な搏動性血流が持続した。しかし,耳朶皮膚温度の上昇にもかかわらず直腸温は一定を保つた。この際,平常温度では正弦波様カーブを示したMPPGは基線レベルの上昇した周期変化の認め難い脈波の記録となつた。これは微細血管網内循環血液量の増加をよく示す所見である。
 2)亜急性高温曝露(28℃,1週間)によつてREC内微細循環網におけるvenuleとarterioleの血管床面積比(V/A)は平常環境温度下で飼育された時の値より大となる血管網構築の変容を示した。また,これを平常温度下に戻すとV/Aは同様の日時経過で高温負荷前の値に近づいた。

器官培養Organ culture装置について

著者: 佐藤温重 ,   田中邦男 ,   須田立雄 ,   小林貴子 ,   麻生田亮 ,   岡田正弘

ページ範囲:P.252 - P.256

 はじめに
 いわゆるtissue cultureの領域においては,細胞レベルでのそれが今日の主潮をなしているが器官あるいは組織としてはじめて発現される細胞の機能代謝の研究にとつて器官レベルでの培養は意義深いものがある。特に単離した細胞の培養ではそれが由来した組織の機能の特異性が欠除または潜伏するに対し—たとえばヒトの4種の株細胞は栄養要求,酵素活性,薬物に対する感受性が等質になる1)—細胞の再集合体(reaggregate)組織片の培養においては,細胞の分化,機能の発現がみられることは器官レベルでの培養法を再認識させるものがある。
 又じゅうらい器官培養では生長,機能の指標が不明確であることが指摘されているが,アイソトープの利用,微量分析法の進歩はこの点に解決を与えている。
 最近骨,皮膚,内分泌腺,肝,腎,脾などの器官培養がおこなわれるのは器官固有の代謝あるいはこれと深い関係を有する現象の研究にとり機能代謝の発現維持の良好である器官培養が有利であるという考えに立脚している。こうした器官培養法の応用性の拡大はChen2),Trowell3)らによつてなされた方法上の進歩に負うといえる。筆者らはTrowell型の器官培養装置を改変し,これにより二,三組織の培養を試み良好な結果をえたのでその装置の大要,使用手順,および問題点を指摘してみたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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