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S電位序説—その特異性と問題点
著者: 渡辺宏助1
所属機関: 1東京女子医科大学生理学教室
ページ範囲:P.234 - P.244
文献購入ページに移動 今日S電位とよばれる,網膜における特異な電気的反応をはじめてSvaetichin24)が報告したのが1953年であるから,今から10年以上前のことである。もちろん,S電位という概念は,発見者のSvaetichin24)が当時主張した"cone action potential"(錐体活動電位)からはすつかり変貌してしまつたが,それではその正体は一体何かということになると,現在もまだよくわからない点が多い。彼は,perchあるいはbreamなどの魚類の網膜を十分明順応した状態で剥離し,桿体外節がその間にのびて入り込んだ色素上皮の突起につつまれて取り除かれた網膜標本を作つて,これに微小電極を応用したのであるが,こうした標本では,視細胞としては錐体だけしか残つていない。しかも,視細胞側から電極を進めてちようど錐体のpedicleあるいはmyoidの深さで,あたかも電極が細胞内に刺入したことを思わせるような数10mVの静止電位があつて,白色光刺激によつてさらに負の方向に振れる特徴ある矩形波様の電位変動を記録したのである。これを単一錐体細胞の活動電位であるとしたのは軽卒のそしりをまぬがれないが,今日では,魚類だけでなく,蛙32),亀11)などの冷血動物,さらには猫3,4,8)猿37),night monkey38)などでも記録されて,脊椎動物の網膜にひろく分布していると考えられるこの電位の発見者としての功績は高く評価されてよい。
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