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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学15巻6号

1964年12月発行

雑誌目次

特集 生体膜その3

興奮性と膜構造

著者: 楢橋敏夫

ページ範囲:P.268 - P.275

 1本の神経線維あるいは筋肉線維に先端の直径が1μ以下のガラス微小電極を挿し込んで線維が浸されている外液との間の電位差を測定すると,電極の先端が線維の膜を突き抜けた瞬間に−50〜−100mVの電位差があらわれ,電極が細胞内にあるかぎりこの電位差は一定に保たれる。このことから,静止電位は膜を介して発生していることがわかる。神経や筋肉の電気生理学は,このような細胞内微小電極法を応用して過去約15年間に著しい進歩をとげ,静止電位や活動電位の発生機構が物理化学的基礎に立つて説明できるようになつた。Hodgkinらのイオン説4)は,細胞内外のKやNaの濃度勾配と膜のイオン透過性とによつて膜の電気現象をたくみに説明している。
 しかしそれでは膜電位生成の場所である神経膜—興奮性膜—そのものの,分子レベルでの構造が機能面にどのように反映しているか,というきわめて粗朴な,しかし重要な問題は,この数年にいたるまであまり取り上げられなかつた。もちろん一部では地道なこの方面の研究が進められていたとはいえ,電気生理学の輝かしい業績のかげにかくれていたといえなくはない。しかし一番の原因は何といつても,問題の複雑さのためにそのものずばりの研究方法が容易にみつからないことにある。

興奮収縮連関

著者: 遠藤実

ページ範囲:P.276 - P.284

 興奮収縮連関についてはすでに多くの総説があるし(たとえば14,37)),本誌においても最近この問題に関する特集号がだされている52)。したがつてここでは,なるべくこの問題のその後の発展とこれまで比較的ふれられていなかつた面とに限つて論じてみようと思う。はじめてこの問題を読まれる方は,江橋の二つの総説を参照していただきたい14,52)

平滑筋の生化学

著者: 野々村禎昭

ページ範囲:P.285 - P.293

 平滑筋の生化学的研究の歴史は1940年代の無脊椎動物に対するMehl1)の仕事,哺乳類,ことに子宮筋に対するCsapó2)の仕事からはじまつたとすれば確かに20年そこそこという短かい歴史である。しかしこの20年間に生化学の諸領域のなした進歩を思い浮べてみると,この平滑筋の生化学の領域における成果の少なさにわれわれは驚かざるを得ない。むしろ,いま出発点に立つている領域である,といつても過言ではないだろう。これまでの研究量の少なさのために子宮筋を中心としたNeedhamのもの3,4)が出るまで総説らしいものがなかつたこの領域で,私のように自分の仕事をもたぬ者が総説など書けるはずがない。ただ私自身この領域の出発点にたとうとしている時,自分自身のためにも先人達の積み重さねた努力を,特に電子顕微鏡による平滑筋の微細構造の解明と結び合わせて最近の進歩をおぼえ書的にまとめてみたい。

巻頭言

基礎医学振興策の狙いどころ

著者: 田辺恒義

ページ範囲:P.257 - P.257

 基礎と臨床とはよく対比されるが,その内容はあまり吟味されていない。医科基礎教室からでる業績はその内容の如何を問わず,基礎医学に属し,病院または臨床教室で行なわれた研究はたとえそれが試験管内実験または動物実験によるものであつても臨床医学に属するような錯誤に陥り易い。文部省科学研究費申請の時の専門分科の選び方が研究内容によらずに所属科名によつてなされているし,所属科と同名の学会へおよそ科名とはかけ離れた研究発表がなされても誰も不思議に思わない。
 一体,基礎と臨床とを学問の面から劃然と分け得るであろうか。恐らく不可能であり,また分ける事が如何に不合理であるかは誰でもよく知つている。臨床医学の進歩は基礎的研究の積みかさねによつて達成されているし,如何なる種類の基礎知識が臨床医学の発達に寄与するかの予測がまつたく立てられないことも過去の歴史の示す通りである。したがつて,臨床医学者こそ絶えず基礎的業績に眼を向けこれを育成していくべき立場にあるといえる。基礎医学振興は臨床医学にたずさわる人達の最大の関心事でなければならないはずである。

展望

尿濃縮機構に関するCounter current模型と実際の腎髄質内物質の分布

著者: 星猛

ページ範囲:P.258 - P.267

 はじめに
 高張尿の産生に腎臓の髄質部分が特に重要な役割を演じているであろうということは,今日問題となつているcounter current学説がでるかなり前から幾つかの事実によつて知られていた。例えばHirokawa(1908)は腎皮質の組織液の浸透圧が尿の濃さに無関係に比較的一定であるのに対し,髄質の組織の浸透圧は尿の濃さに応じて変動し,常に皮質よりも高いことをすでに観察していた。またPeter(1909)は比較生理学的に髄質の比較的良く発達している動物と発達の悪いものとの間には明らかに尿の濃縮能に差がある事を記載している。しかし実際に尿の濃縮が髄質の機能として説明される様になつたのはごく近年であり,その端緒をつくつたのはHargitay and Kuhn(1951)のcounter current multiplier模型による溶液濃縮機構の説明の発表や,これまで尿の濃縮の機序として一般に考えられていた水の能動的輸送がエネルギー論的に不可能なことであることを論じたBrodsky(1955)の論文の出現などであろう。爾来腎生理学者の多くの目はいわゆるcounter current説と髄質の機能との関連に集中されてきたが,当初報告されたHargitay andKuhn(1951)の模型はあくまでも濃縮過程を説明する一つの模型であり,実際の腎の機能を説明するには多くの困難な仮定をする必要があつた。

論述

S電位—そのoriginと色光感曲線

著者: 御手洗玄洋

ページ範囲:P.294 - P.302

 S電位は1953年Svaetichin14)によつてはじめて発見された特殊な網膜内の電位である。即ち,魚の遊離網膜の視細胞側から微小電極を入れていくと,ある深さで30〜40mVの急激な電位降下がおこり,その時,光刺激に応じて出る大きな負の電位変化として記録された。この反応は−60mVにも達し,光刺激をつづける間,ほぼ一定の振幅を保つDC-potentialで,また刺激強度に応じて増減するいわゆるgraded potentialであつた。急激な電位降下は細胞膜電位と考えられるのに,刺激に対して過分極を示しかつgradedな電位変化は神経細胞のものとは考えられず,むしろ視細胞の光化学変化に対応すると想像されたのでSvaetichinは,この電位を,1コの錐状体から誘導したものと信じcone potentialとして報告した。ついで御手洗,矢ケ崎9)により追試され,暗順応を示す事から,錐状体のみでなく桿状体の性質もある事が指摘された。しかし,後に富田18)が電極の刺入距離を測つて,反応は視細胞層よりもつと中枢側から誘導されている事を明らかにして以来,その正確な所在の決定が望まれる様になつた。

綜合医学賞応募論文

白血球,骨髄組織の脂質の消長に関する研究—脂肪髄成立機序に関する一考察

著者: 中尾恿 ,   長尾重治

ページ範囲:P.303 - P.310

 緒言
 再生不良性貧血,抗癌剤による癌の化学療法,あるいは電離放射線曝射などによつて,骨髄は実質細胞をうしない,脂肪化して低形成ないし無形成骨髄を呈するにいたる。ことに再生不良性貧血の大部分は骨髄がまつたく脂肪化するが,なお根治の方法は確立されていない。従来,脂肪髄に関してはもつぱら病理組織学的な分類や検討がなされており,反面,生化学的手法によつた業績に乏しい。したがつて骨髄脂肪化の機序を動的に把握すべき未開発の分野が現状ではなお残されている。
 かかる観点から私どもは,まず実験的に脂肪髄を作製して脂質の消長を追つてみた。この成績では中性脂肪と燐脂質の特異な変動が観察された。一方,無形成骨髄における脂質の蓄積は,脂質利用の低下が一因とも考えられるので,白血球の脂肪酸酸化能や白血球への脂肪酸の取り入れを検討し,脂肪酸をめぐつて脂肪髄成立機序を模式的に考察してみた。さらに白血球,骨髄組織の燐脂質代謝とそれに及ぼす体液性因子についても検討を加え,脂肪髄成立機序の上からphosphatidin酸とP-inositideとの関連性に重要な意義を付するにいたつた。

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生体の科学 第15巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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