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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学16巻1号

1965年02月発行

雑誌目次

巻頭言

研究と知識

著者: 萩原文二

ページ範囲:P.1 - P.1

 研究者のなかには実験の上手な人と知識の豊富な人との二つの型がある。研究者一人々々が研究または勉強にあて得る時間には限界があるのであるから,ここでは,直接の研究実験と,知識の整理や獲得に,どのように時間を割りあてたらよいかという問題を考えたい。
 私が阪大理学部で生化学の研究を開始した十数年前には,研究室内のセミナーはもちろんあったが,部外者の一般的なセミナーまたは特別講義のようなものは極めて少なく,また,今日多数に発行されている,例えば本誌のような,研究者のための解説的な雑誌や綜説的な年刊誌などはごく僅かであつた。研究者は当面の研究に関連のある実験技術書とアブストラクトをたよりに関連のある原報の目ぼしいものに目を通す以外は,ほとんど全部の時間を実験と計算とその考察に費やしていた。研究室内のセミナーでさえも,あまり研究の参考になりそうにないものが紹介されるときや実験の忙しいときには出席しないことが多かった。

綜説

Adrenergic Mechanism

著者: 佐久間昭

ページ範囲:P.2 - P.13

 歴史的背景
 自律神経系・体性神経系の化学的分類,つまり伝達物質を基準にした末梢神経系の分類はDale(1935)に負うところが大きい。
 伝達物質として神経末端からACh(acetylcholine)を遊離するcholine作動線維とsympathinを遊離するadrenaline作動線維とが区別されているが,sympathinの化学的同定やadrenaline作動線維の働きに関しては,とくに紆余曲折の多い道がたどられ,今日に至つている。

話し合い

蛋白質の構造

著者: 安藤鋭郎 ,   吉川春寿 ,   江橋節郎 ,   関根隆光

ページ範囲:P.14 - P.24

 蛋白質の合成は,生命の創造に連なる問題として科学者の年来の夢の一つとしえよう。その前段階として蛋白質の構造の解明が重要となつてくる,'65年度第1号では蛋白質の構造について,安藤鋭郎氏を中心に現状および展望について伺つてみた。

論述

大脳のinhibitory transmitterとしてのhomocarnosineについて

著者: 森昭胤 ,   川西正謹

ページ範囲:P.25 - P.32

 Homocarnosine(γ-aminobutyryl-L-histidine)は1960年アメリカNational Institute ofHealthのUdenfriendの研究室でPisanoら1)により牛脳中に発見されたdipeptideであり,牛脳中には0.5〜1mg/100gというかなりの量が存在する。その化学構造は第1図に示すごとくγ-aminobutyric acid(GABA)とL-histidineを含んでいる。われわれは,マウスの脳,筋,および肝をもちいてin vitroでhomocarnosineの合成および分解過程を検索した結果,次のごとき過程を明らかにしている2,3)
 γ-aminobutyric acid+L-histidine brain,liver→←brain,muscle γ-aminobutyryl-L-histidine(homocarnosine)すなわち,homocarnosineはその化学構造から推定されるごとく,直接,GABAとhistidineから生成され,また,その逆反応によつて再び分解されるのである。

アンケート

ホジキン・ハックスレー学説について

著者: 品川嘉也 ,   楢橋敏夫 ,   竹内昭 ,   山本啓太 ,   渡辺昭 ,   大山浩 ,   栗山煕 ,   中島重広

ページ範囲:P.33 - P.37

 興奮の発生や伝導に関する問題は,生理学上もっとも基本的で重要な問題となっています。1963年度のホジキン・ハックスレーへのノーベル賞授賞という形で,一応社会的評価は与えられたように思われるが,問題はこれで解決し得られたとは考えられず,むしろここで一応のピリオドをうち,真の解決はさらにすすんだ次の段階へ送りこまれたと見るべきかと考えられる。今回神経の興奮に関するイオン学説について次の諸点に関し,日頃,この問題に造詣の深い方々の意見を集めた。
 1.いかなる点がすぐれ
 1.いかなる点に欠点があるか
 1.将来いかなる形で研究が進められると考えられるか
 1.何がキーポイントであるか
 1.いかなる形で最終的な解決点に到達したと判定すべきか

海外だより 印象記と研究室だより

第6回国際生化学会議

著者: 三浦義彰

ページ範囲:P.38 - P.39

 国際生化学会議は3年に一度開かれる生化学の国際会議で,前回はモスクワ,前々回はウィーンで開かれた。今回はニューヨークで昨年の7月27日から8月1日まで第6回目が開かれた。
 もともとこの会議は国際生化学連合InternationalUnion of Biochemistryの催しで,この連合が生理,薬理の同種の連合からわかれ独立したものである。したがつて今年東京で開かれる国際生理学会議にも栄養,筋肉生化学など生理学に関連深い領域はそのまま残つている。

国際会議に出席して

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.39 - P.40

 本誌に,ストックホルムで開催された第10回国際血液学会に出席した印象を書いてくれとの編集部の依頼があつたが,私は血液学の専門家でもないし,ほかの,外国語に堪能な方々とちがつて講演をきいているときにはスライドを見ながら,なるほど,と一応は理解していても,あとで思いかえして見るとさつぱり覚えていないという情ないありさまで,今ここに印象を学問的に書くことはできない。しかし,今回のヨーロッパ旅行は,ほかに東ベルリンでの赤血球シンポジウムとジュネーブでの原子力平和利用国際会議とに出席するのも目的だつたので,これらに出席して感じたことだけ書いて見よう。
 まず旅費の件について。前回も前々回も,先様で往復旅費と滞在費を負担してくれたから,私的な出費だけを心配すればよかつたが,今回は,国際血液学会からの招待講演だとはいつても,300ドル支給されるだけだつたから旅費の工面がこたえた。こういう時,つくづく日本は世界のはてだなと思う。ヨーロッパの各国からならこれで十分だろうし,アメリカからでも,これだけあればまあまあだろうが,われわれにとつては月給の何カ月分かをプラスしなければならない。学会では日本から30人くらいの主として臨床の先生方に会つたが,皆さんどうして来られたのだろうか。

実験講座

電子計算機(1)

著者: 清水留三郎

ページ範囲:P.41 - P.43

 はじめに
 じゆうらい卓上計算器で行なわれていた計算は,今や電子計算機でその大部分が行なわれるようになつている。電子計算機は単に卓上計算器に取つて代わつたのみならず,その驚異的な計算の速さで計算の質,ひいては研究の質を大幅に向上させている。すなわち今まで計算能力の制約から発展の道の閉ざされていた研究が改めて進められている。たとえば微分方程式を道具にしている分野では解析解が知られていない非線型微分方程式の性質も解析解のある場合と大差なく知ることができるようになり対象とし得る物理現象の範囲が拡大されている。このように電子計算機が計算の道具としてばかりではなく,研究の道具として用いられて来つつあるのは理学あるいは工学に限られてはいない。その他の分野の中で電子計算機の積極的利用が特に盛んなのは医学であり,アメリカの計算機の学会誌にも,"医学への応用"という常設欄が設けられている程である。ところがアメリカにくらべて日本での電子計算機の医学への応用はまだほとんど行なわれていない現状である。そこで医学者の方々に電子計算機とはいかなる装置であり,いかに動作するか,またそれを利用するにはどうすればよいかをここで説明して,電子計算機の積極的利用を勧誘したい。

交見

二つの大きな任務をせおつた基礎医学,他

著者: 沖中重雄

ページ範囲:P.44 - P.47

 編集室からの課題は「基礎医学に何をのぞむか」であるが,今までも,おりにふれ,処々で,私の考え,希望などを述べているので,今日は与えられた紙数内に,ごく端的に述べることにします。現代の基礎医学は二つの大きな任務をせおわされていると思います。一つは,臨床医学にもつと近づいてもらいたいことであり,後の一つは,もつと基礎科学とも接触していただきたいことです。このことは現在日本の基礎医学がおかれている経済的,人的に甚だ困難な環境に対し,むずかしい要求であると思われるが,やはり,目標はいつも高いところにおいて努力しなければ進歩しないので,あえて,このような要望を述べたわけです。以上の二つの一見相反するような希望をどのような形で実現していくかであるが,その方法として,私は,基礎医学の中に病態基礎医学と申しますか,もつと直接に臨床に結びつく学問をあつかう組織を作りあげることが必要と思います。病理学などは既にその形をとつているわけですが,その他の基礎医学でも,例えば病態生化学,病態生理学その他すべての基礎医学教室の中に,そのような部門を作りあげることができると思います。解剖学のような学問でも,藤田教授が率先して実行されたような生体観察を主とする解剖学もあるし,また,外科学とよく結びついた解剖学なども以上の中に入ると思う。

文献案内

グリアを研究するにあたつてどんな本をよんだらよいか

著者: 岡本道雄

ページ範囲:P.48 - P.52

 まずGliaとはどんなものであるかの一般的知識を得るためには細川教授の「グリア」(医学の進歩,6巻)を読まれるとよい。
 昔であればGliaの研究というと鍍銀法一つでよかつたかと思うが,現在では研究方法が種々発達したため,一口にGliaの研究といつても色々の方面がある。そこでGliaの研究にどのようなものがあるかということその各々がどこ迄いつているかを知つてもらうために,まず中井教授編集のMorphology of Neurogliaを見られることをお薦めしたい。これは中井教授を中心に数年間つづけていたGliaの研究班の成果をまとめて一本とし,英文で出版したものであるが,まず第1章は鍍銀法による研究……細川教授(東京大学,解剖),万年教授(東京医科歯科大,解剖) 第2章,電子顕微鏡……本陣教授(金沢大学,解剖) 第3章,組織培養……中井教授(東京大学,解剖)と岡本教授(京都大学,解剖) 第4章,組織培養法による薬理学……中沢博士(慶応大学,精神科) 第5章,細胞化学……島井教授(慶応大学,解剖)と小川教授(関西医大,解剖) 第6章,Gliomaの培養……佐野教授等(東京大学,脳外科) 第7章,肝レンズ核変性におけるGlia……猪瀬教授等(横浜大学,精神科) 第8章,辻山氏法によるGliaの病理学……辻山博士(慶応大学,精神科)

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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