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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学16巻2号

1965年04月発行

雑誌目次

巻頭言

研究の歴史に学ぶ

著者: 岳中典男

ページ範囲:P.53 - P.53

 基礎医学振興が叫ばれてからかなりの時が立つたが,いまだその兆がみられないばかりか,事態はいつそう悪くなり危機へ向いつつある。そういう研究環境を嘆きながら,一方,成果のあがらない実験に方法の行きずまりを感じていたとき,同僚の一人から研究史の話をきき,勧められて,課題に関係のある分野の歴史を調べ,伝記を読み,振出しに戻つて考えてみることにした。国の内外を問わずこの道に一歩を進めた研究者たちが,科学することを通じてえた体験や人生観は,その学問上の貢献とともに真に貴重な遺産であつて,研究の難所をのりきるための知恵と励ましを与えてくれる。なかでも万人に愛読されたAlexander Fleming伝を読みかえして,改めてその感を深くした。
 研究の進展を阻むものの一つに施設の不備があげられる。米国の完備した施設を見聞し,またはそこで研究に従事して帰国すると,日本の多くの研究室の機械器具は貧弱で用にたえないかに見える。それにしても,独創的な研究が完壁な研究室で生れるとはかぎらない。Flemingは米国のある研究所を訪ねたとき,「もしこんな条件のもとで仕事をしていたら,決してペニシリンを発見できなかつたろう」と述懐したという。わが国で現に活躍し一家を成している人達の多くが,戦後の窮乏に耐え,実験室の一隅に起居しつつ,研究に独自の主題を見出したことも忘れてはなるまい。

主題 Polypeptide

展望 生理活性ポリペプチドについて

著者: 守屋寛

ページ範囲:P.54 - P.65

 はじめに
 本号の主題として生体内生理活性ポリペプチドがとりあげられることになり,以後各氏の記事が連載されるにあたり,理解をよくするためのintroductionをここでのべたいと思う。
 そこで活性ポリペプチドの今日の問題点を私なりに整理してみると次のようになる。

座談会 活性ペプチドの生成

著者: 関根隆光 ,   守屋寛 ,   鈴木光雄 ,   江橋節郎

ページ範囲:P.66 - P.75

 関根(司会) 今日はその方面で活躍しておられる理大の守屋先生と群大の鈴木先生をお迎えして,活性ペプチドをめぐつていろいろお話を伺つてみたいと思います。そして薬理の江橋先生から,いろいろ質問をして頂いて内容を豊富に(笑声)して頂きたいと存じます。本誌の性質上,あまり専門的にわたらず,むしろいろいろと問題点を指摘して頂き,また自由に夢を語つて頂きたいと思います。最初に活性ペプチドと言われているのはどういうものがあつて,どんな生理作用を持つているのか,というようなことのごく概略を守屋さんからお話していただきたいと思います。

論述 核酸に関与しないPolypeptideの合成

著者: 伊藤英治

ページ範囲:P.77 - P.83

 今日,多数のポリペプチドが生物中に発見されておりそのほとんどすべてが固有の生理的役割や他の生物に対する生理作用をもつている。蛋白質の大きな分子がS-RNAやリボゾームの関与する機構により合成されることが知られ,その各段階の詳細が研究されている。一方で,最も単純なペプチド,グルタチオンが2つの特異的酵素により核酸の関与しない反応で合成されることが知られ,その反応機作がよく調べられている。そこで,中間的な大きさと複雑さをもつたポリペプチドの生合成過程が,蛋白合成のようなRNA依存の反応であるか,グルタチオンのようにアミノ酸が順次添加される反応であるかが興味ある問題となる。この問題の研究は,酵素レベルの研究が緒についた段階にあり,わからないことばかりである反面,近い将来の発展が期待されるので,ここでいくつかの問題点に触れてみたい。
 ポリペプチド合成の研究が困難な理由は,一般に,合成された少量のポリペプチドが,はるかに多量の,しかも同じアミノ酸を含んだ蛋白質により混同され,結果があいまいになることである。この困難を避けることのできるもの,たとえばペプチド抗生物質などが特に好ましい研究材料となる。抗生物質は蛋白質に含まれていない特殊なアミノ酸を含むことが多く,適当な条件でかなり多量に合成され,抗菌作用により感度よく定量される。研究を進める鍵として,各研究者はそれぞれ問題のペプチドを分離する簡便な方法を考案している。

アンケート

蛋白質の構造について

著者: 赤堀四郎 ,   成田耕造 ,   野田春彦 ,   岩井浩一 ,   角戸正夫

ページ範囲:P.85 - P.87

 蛋白質の合成は,生命の創造に連なる問題として,科学者の大きな夢といえよう。その前段階としてまず「蛋白質の構造」の解明が重要と思われる。
 現在蛋白質の一次構造については,およそのみとおしもついた段階で,おいおい高次構造も解明されようとしている状況といえる。前号では,蛋白質の構造について「話し合い」を掲載したが,今回はつぎの諸点に関し,日頃,この問題に造詣の深い方々の意見をあつめた。
 1.一次構造が高次構造を決定するといいきつてよいかどうか
 2.酵素作用と蛋白質構造との関係について
 3.免疫学の領域における蛋白構造の問題について
 4.高次構造と生理学的機能との関係に関する研究はどのように発展するか
 5.生理学上重要な構造蛋白質(たとえばミトコンドリアの蛋白質)の構造について

実験講座

電子計算機(2)

著者: 清水留三郎

ページ範囲:P.88 - P.91

 電子計算機とはどんなものかを紹介しましたのを受けて,次に電子計算機を使うにはどうすればよいかを説明することにします。
 前にも述べました通り電子計算機はプログラムと呼ばれる計算手順を与えられると,はじめてその指示どおりに動作しますから,電子計算機にやらせたいことはまずプログラムに書かねばなりません。このプログラムを書く仕事をプログラミングといいます。プログラミングに用いる言語としては,現在ALGOLとFORTRANがあります。ALGOLはAlgorithmic Languageをちじめたもので,エスペラント語のように国際的に共通な言葉たらんことを目ざして国際的な協力研究のもとに開発された言語であり,たいへんすぐれた言語体系を成しています。FORTRANはFormula Translationの略称で,ALGOLよりだいぶ前にIBM社により開発された言語であり,この言語で書いたプログラムによる電子計算機の動作は能率がよいことが特徴です。ここではFORTRANによる基本的なプログラミングの話を進めることにします。

交見

共通の広場を考えよう,他

著者: 山村雄一

ページ範囲:P.92 - P.95

 学問が現在ほど分化しなかつた時代には,基礎医学と臨床医学はともに研究の発想法,方法論などほとんど変りはなかつた。医学は一つであつたといえる。つまり臨床はもちろんのこと,基礎も患者に密接した研究を行なつていた。生化学は医化学であり,細菌学は病原細菌学であつた。
 しかし今は違う。どうしてこの様に離れ離れになつてしまつたかと思うほど両者は相へだたつてしまつた。基礎医学は生物学や理学部の生化学とほとんどかわらぬ領域に行つてしまい,臨床は自我流の研究法で検査をくり返すことになつてしまつた。この様になつたことはそれなりに理由のあつたことではあろうがはたして医学の進展の為によいことであるかどうか,深刻に反省してみる必要があろう。

海外だより 印象記と研究室だより

NIH留学記

著者: 倉富一興

ページ範囲:P.97 - P.98

 すでに幾度か報ぜられたアメリカないしNIH留学記であるが,最近の知見をとのことなので,ここに拙文を記す次第である。筆者は1962年4月始めよりNIHのNational Heart lnstituteのLaboratory of BiochemistryのChief,E. R. Stadtmanのもとで,有機酸の代謝を嫌気性菌を用いて研究するため,約2年7カ月滞在し,そのめぐまれた研究環境とStadtmanの温容と有益な討論の機会に接しえたことを心から有難く思うものである。それ故まずこの研究室を中心としてNIHの研究陣のうち,生化学の面を主とし,他の知見を含めて記すことにする。
 E. R. Stadtman研究室はまず嫌気性菌を使つてのVB12の関与する代謝径路を彼夫妻が中心となつて進められており,筆者もその一員として研究の進行上の主体性を与えられたことを喜んでいる。すでにカリフォルニア大学のBarkerらのglutamate mutase,Stadtmanらのmethylmalonyl-CoA isomeraseの作用機構にVB12が重要な役割を演じているなど著名な研究がいくつかあるが,まだ比較的新しいこのビタミンは,その生理作用が完全に解明されたとはいいがたく,核酸や蛋白質生合成,また糖,脂質代謝に対する作用など研究成果が期待されている。

スウェーデンだより

著者: 本郷利憲

ページ範囲:P.98 - P.100

 私が当地へ着きました8月末は東京とはうつて変つた涼しい夏でしたが,あれよあれよと思う間に木の葉が散り,雨の秋を通り過ごして,いま音に聞く北欧の冬を迎えています。日の出が9時,日没が3時過ぎ,太陽は驚くほど低く,日光がほとんど水平に部屋の奥までさしこんできます。先日おもわずその気になつて測つてみましたら,正午に9.5゜という低さでした。しかしここGöteborg(イエテボリ)は古来不凍港として知られている所だけに北緯58゜という緯度からは想像できないほど暖かく,雪も2〜3回降つただけで,湿度の低いせいもあつてか,寒さはむしろ東京よりしのぎやすいのではないかと思えるくらいです。したがつて夜が長いことを除けば冬ごもりという感じはさらになく,研究室の生活も日常の生活もごく普通に営なまれています。
 Göteborgは起伏の多い市で,基礎医学の教室もまた小高い岩山の上にあります。建物はいずれも新らしく,私のいる生理学教室はその一番端の一ブロックをなし,地上4階地下2階の建物(写真)の中に,Neurophysiology,circulatin,Endocrinologyの研究室が集まつています。研究室は設備その他けつして豪華なものではありませんが,研究者の仕事がやり易いよう実に細かい配慮がなされているのには感心させられます。

アメリカだより

著者: 石井敬成

ページ範囲:P.100 - P.100

 こちらに来て2カ月過ぎました。紅葉の終りに来て,1週間ほど前には初雪が降りました。
 Albert Einstein College of MedicineはYeshivaUniversityの医学部として,マンハッタンから少しはなれたBronx区にあります。病院が三つ,この中の二つはJacobiおよびVan Etten HosPitalで市でたてて,この学校が運営しております。もう一つの大学の病院はほとんど完成に近く,このアパート(Faculty)から50mほどのところに10階だてで建つております。医学部は新しく,まだ10年というところで,新興の意気にもえている感じです。Research Buildingは7階だてですが,今度できた新しいReseach Buil.は12階で,多角円形の非常に特長のあるたてものです。私は内科に属し,旧4階から,この新しい建物に11月に移りました。このBuil.は寄附でできたものです。

文献案内

平滑筋の研究をするにあたつてどんな本を読んだらよいか

著者: 後藤昌義

ページ範囲:P.102 - P.104

 平滑筋の研究といつてもその研究分野は細胞,組織のレベルから臓器に至るまで非常に広くかつ多岐にわたる。電子顕微鏡による微細構造の追求,ことに自律神経支配や筋々接合部の問題,また細胞膜,顆粒や収縮物質の問題にはじまり,これら平滑筋の構成要素の化学,収縮に際しての化学変化など,さらに各種臓器の特性に至るまで広範囲の研究領野があろう。他方,平滑筋の電気現象に関しても,超微小電極による細胞内電位の基礎的研究から細胞外誘導による「平滑筋筋電図」,ひいては臨床的研究に至るまでの広い研究分野があり,興奮発生から伝播,興奮・収縮伝関あるいは神経支配の影響,また各種臓器の特徴などが追求されつつある。これらに関連してさらに自律神経支配の様式や伝達物質transmitterの問題,また広く内分泌ホルモンや諸種薬物,温度,pH電気刺激など物理的諸因子の作用面も指摘できよう。
 このように羅列してくると,参考にすべき文献もそれぞれの領野で誠に多様であり,研究者の関心の方向によつて非常に異なつてくることが考えられる。しかし全領野の文献を網羅することはほとんど不可能に近くまた無意味であるから,文末には生理学を主とした常識的かつ代表的著書ないし綜説を御紹介してお許しをこうことにしたい。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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